一妻多夫
『第四の夫から』(芥川龍之介) 日本人の「僕」は支那人になりすましてチベットに住み、他の3人の男と、1人の妻ダアワを共有している。2年前、妻が商人の手代と過ちを犯した時、「僕」たち4人の夫は協議して、手代の鼻を削ぎ落とし、妻には処罰を加えなかった。以来、妻は貞淑に4人の夫を愛している。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 ドラウパディーの婿選びの競技に、パーンドゥ王の5人兄弟(ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ)の三男アルジュナが勝つ。5人兄弟はドラウパディーを伴い帰宅して、「素晴らしい土産がある」と母クンティーに報告する。クンティーは、それを品物と誤解して「皆で分けなさい」と言う。そのためドラウパディーは5人兄弟共通の妻となる→〔処女〕6b。
★1c.前世の五人の夫が、現世では五人の子供に生まれ変わる。
『沙石集』巻9-10 山寺の犬が、5匹の子犬を産んだ。彼らは前世では、遊女とその5人の夫だった。5人の夫のうち1人はわがまま勝手で、遊女を苦しめた。そのため、遊女の生まれ変わりである母犬は、5匹の子犬(=前世の夫たち)のうち1匹には乳を飲ませず、牙をむいて噛みついた。
『ちょうと三つの石』(小川未明) 心優しい女が、3度結婚して3度とも夫に先立たれる。やがて女も老いて死に、極楽への山道を登ると、峠に3人の夫が待っている。仏さまが女に「なぜ何度も結婚したのか。3人の夫の誰をいちばん愛しているか」と問うが、女は答えられない。仏さまは「下界へ戻ってよく考えよ」と言い、女を蝶に変える。3人の夫は、峠で幾百年も女を待つうちに、石になる。
『マタイによる福音書』第22章 サドカイ人が問うた。「7人兄弟の長男が妻をめとったが、子を残さずに彼は死んだ。律法にしたがい、次男、三男と、つぎつぎにその女を妻にしたが、7人とも子がないまま死に、最後に女も死んだ。復活の時には、その女は7人の夫のうち、誰の妻になるのか?」。イエスは答えた。「復活の時には、めとることも嫁ぐこともない。天使のようになるのだ」〔*『マルコ』第12章・『ルカ』第20章に同記事〕。
*サラは7人の夫と結婚式をあげたが、夫たちは皆、新婚の夜に悪魔に殺された→〔心臓〕2の『トビト書』(旧約聖書外典)。
★3.幽霊の一妻多夫。
『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」56「父親の幽霊」 ならず者の王禿子(とくし)が、夜の墓場で大勢の幽霊に出会う。禿子が幽霊の1人と格闘すると、幽霊は「不孝者め。おれはお前の父親だ。父を殴っていいのか」と言う。他の幽霊たちも口々に「おれはお前の父親だ」と言い、そのわけを禿子に教える。「お前が、死んだ母親の供養をしないので、母親の霊は飢えて流れ者になり、おれたちの妻になった。だから、おれたちは皆お前の父親なのだ」。
★4.何人もの男と関係を持ったので、生まれた子供の父親がわからない。
『神の骨』(川端康成) 4人の男が、喫茶店の女給弓子から同文の手紙を受け取る。「生後すぐ死んだ赤ん坊の骨を送ります。赤ん坊はどなたにも似ていませんでした」と書かれてあり、紙包みが同封されていた。1ヵ月後、4人のうちの1人が弓子に「君は御骨をどうしているんだ」と問うと、弓子は「皆さんに分けたから私は持っていない」と答えた。
『ナナ』(ゾラ)12 女優ナナが、妊娠3ヵ月で流産した。そのニュースを聞いてナナの大邸宅へやって来た12人ほどの紳士たちは皆、「誰が父親なのだろう」と考えつつ、ぼそぼそと話をしていた。互いに弁解しあっているようだった。
『氏子中(うじこじゅう)』(落語) 夫が商用で遠方へ出かけ、1年半ぶりに帰って来ると、妻が妊娠している。妻は「氏神様の神田明神にお参りして授かった」と言って、ごまかそうとする。町内の若い衆が5~6人、妻の所に入りびたっていたから、そのうちの誰かの子に違いない。生まれた子の胞衣(えな)を御神酒で洗えば誰の子かわかるというので、洗ってみる。すると、妻の言ったとおり「神田明神」の文字が浮かび上がる。しかし続いて出てきた文字が「氏子中」。
『町内の若い衆』(落語) 熊さんの家に赤ん坊が生まれたので、弟分がお祝いに行く。弟分は「この景気の悪いのに子供をこしらえるとは、兄貴はさすがに働き者だね。イヤ恐れ入った。偉いよ」と、盛んに誉める。熊さんの女房は謙虚に受け答えしようと思い、「いいえ、ウチの人の働きじゃないわ。町内の若い衆の皆さんのおかげよ」。
一妻多夫制
![]() | この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2014年5月) |

一妻多夫制(いっさいたふせい)は、1人の女性が複数の男性との結婚が可能、または奨励されている結婚制度。
雌が複数の雄と交尾する配偶システム。雄に育児を任せることも多い。ポリアンドリー。一夫多妻制(ポリジニー)と合わせ、複婚(ポリガミー)の一部である。
人間のみならず鳥類・哺乳類全体を見ても、基本的には比較的少ない配偶システムである。
主に2つの形態がある。
- 父性一妻多夫制 (fraternal polyandry) - 兄弟が1人の女性と結婚する。
- 非父性一妻多夫制 (non-fraternal polyandry) - 夫に親族関係はない。
概要
この制度が見られる条件としては、
- 間引きにより男性の人口が女性に比して過度に多い場合。
- 経済的に貧しい地域である。すなわち1人の女性とその子供を1人の男性の経済力によって養うことが非常に難しく、複数の男性で支えることにより女性の生活と子供の成長を保証できる。
という条件が必要な場合が多い。また、制度として一妻多夫が存在する社会においても、夫に親族関係のない非父性一妻多夫に比べると、兄弟や血縁のある男性が、1人の妻と結婚する父性一妻多夫制という形態の方が、比較的多い。
このような婚姻形態が、過去の人類においてどの程度一般的であったのかは、人類学者の中でも議論が分かれている。
実際に一妻多夫制が観察されることはまれであるが、それは世界各国の大部分の伝統社会が帝国主義の影響により徹底的に変更もしくは破壊されたためであるという指摘がある。かつての人類社会における一妻多夫制の頻度については正確に推測することである。
多くの国で非合法化されているが、伝統的であった地域では社会的に受け入れられる場合が多い。
男性は得た配偶者の数が繁殖の成功度、すなわち子供の数に直結するが、女性は配偶相手の数を増やしたとしても直接に繁殖成功度に結びつくわけではないので、女性が多くの配偶者を求める進化的な淘汰圧は働かなかったと考えられている。しかし、一妻多夫制をとったとき、生まれる子供の生存率が高いことが、野外観察や実験データから示されている。
オーストラリア国立大学のフィッシャー博士らは、一妻多夫制(多夫多妻制)が種の繁栄に有効であるという根拠を得るため、オーストラリアに暮らす有袋類「チャアンテキヌス」を実験的に交配させた。この動物は生涯一度しか繁殖期をもたない。
従来の結果通り、一妻多夫制(多夫多妻制)をとって生まれた子供の生存率は、一夫一妻制にくらべ約3倍も高かった。そしてDNA解析を行ったところ、精子競争に高率で勝つ雄の子供は、より高い生命力をもつことが判明したのである。一妻多夫制(多夫多妻制)が種の繁栄に有効なのは、精子の高受精率を誇る雄ほど生命力の強い子供を残すためであると博士らは述べている。
カトリック教会はこの制度が見られた世界では女性による幼児殺害が多く見られたとしている[1][要ページ番号]。
事例
人間
一妻多夫は減少傾向にあるが、ヒマラヤ近辺では通常の結婚制度である。
チベット、インドの南の一部の地方、ナイジェリア、ネパール、ブータン、スリランカ、北極圏の一部、モンゴル地方、アフリカとアメリカ州の先住民、ポリネシアの複数の共同体で、伝統的な制度として現在でも存続している。実態は一妻多夫というよりは多夫多妻、いわゆる乱婚と称したほうが正確な地域もある。
江戸時代の江戸においては人口比が圧倒的に男性が多く、町人においては結婚できる者が限られていた。そのため、長屋の住人は1人の女性が長屋の他の男性とも関係しており、実質的な一妻多夫制によって町内の連帯が保たれていたという説がある。
1970年代の米国において見られたヒッピー文化であるコミューンにおいては、伝統的に男性中心の社会の多くで見られる、1人の男性が1人の女性だけに縛られないことをある程度許容する制度と同じように、1人の女性が1人の男性だけに縛られないための試みが見られた。
ポリアモリー運動の一部は、この伝統からの流れを汲んでいる。
動物
動物の配偶システムの中で、1頭の雌に複数の雄が集まって配偶行動を行う場合もこう呼ぶ場合がある。モリアオガエルなどに見られる。ミツバチも配偶者の雄を次々変えるので一妻多夫と言われることもある。
脊椎動物ではタマシギやアカエリヒレアシシギが一妻多夫型の繁殖パターンを持っており、鳥類全体の約0.4パーセントは一妻多夫型である。
完全な一妻多夫制を持つ生物としてはチョウチンアンコウが挙げられ、1匹の雌が多数の雄を養うという意味でも完全である。
脚注
- ^ エンデルレ書店『現代カトリック事典』
関連項目
一妻多夫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/01 21:15 UTC 版)
詳細は一妻多夫を参照。 雌が雄を巡って競争し、競争に勝った雌は雄と交尾する。子供が出来ると、雌は雄に子育てを任せ、次の雄を探すために立ち去るというものである。 この配偶システムを持つものは、一般的な動物に比べて、同種の集団における雄雌の立場が逆転しているという場合が多い。つまり、一般的には雌の役割である育児を、雄が行なうという場合が多い。この場合、雌同士が、相対的に少ない雄の育児能力という資源を巡って競争するというわけである。この配偶システムを持つ生物は少ないため、調査はほとんど進んでいないが、一夫多妻と似たような区別があると考えられている。 この配偶システムを持つ生物の具体例としては、アカエリヒレアシシギなどが挙げられる。
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「一妻多夫」の例文・使い方・用例・文例
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