二つの宝
★1.二ふりの剣。
『捜神記』巻11-4(通巻266話) 干将莫邪(かんしょうばくや)が楚王のために、3年がかりで剣を鍛えた。剣の出来上がりが遅いので、楚王は怒った。干将莫邪は殺されることを覚悟して、雌雄の一対になっている剣のうち、雄剣を隠し、雌剣だけを献上した。楚王は干将莫邪を殺した〔*『太平記』巻13「干将莫耶が事」では、干将莫邪は1人の人物ではなく、夫婦2人の名前(干将=夫、莫邪=妻)となっている。干将は楚王に殺され、その後、莫邪は男児(=眉間尺)を産む〕。
『丹下左膳』(林不忘) 「乾雲(けんうん)」・「坤龍(こんりゅう)」は一対の剣で、離れ離れになると夜泣きをして呼び合う。2剣は、神変夢想流の小野塚鉄斎のもとにあったが、隻眼隻手の丹下左膳が「乾雲」を奪い去った。鉄斎の高弟・諏訪栄三郎は、「坤龍」を持って丹下左膳を追う。栄三郎と左膳は、剣に引かれて何度も出会い、互いに相手の剣を得ようと斬り合う。最後は船上での戦いとなり、かなわぬと見た左膳は2剣を海に投ずる。栄三郎が水にもぐって2剣を手にし、左膳は船板筏に乗って沖へ流れて行く。
『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』 福岡貢(みつぎ)は旧主・今田万次郎のために、盗まれた名刀「青江下坂(あおえしもさか)」の行方を捜し、取り戻す。しかし折紙がなければ、本物の「青江下坂」と認められない。折紙を持つのは、悪人・徳島岩次である。そこで貢の恋人・油屋の遊女お紺が、岩次になびくふりをして折紙を手に入れる。貢とお紺の働きによって、今田万次郎は名刀と折紙を得ることができた。
『新可笑記』(井原西鶴)巻1-2「ひとつの巻物両家有」 「楠正成の後裔」と称する侍2人が、ともに正成所有の剣と正成筆の連歌懐紙を提示して、仕官を望む。鑑定家が調べると、1人は懐紙が本物で剣が模造、もう1人は剣が本物で懐紙は写しだった。これは悪商人が、本物の剣と懐紙をそれぞれ贋物とセットにして、売ったのだった。
『宿無団七時雨傘(やどなしだんしちしぐれのからかさ)』 団七茂兵衛は湊川家旧臣で、紛失した「二字吉光」の九寸五分を捜している。茂兵衛に味方する治助が「二字吉光」を入手するが、折紙は悪侍・高市数右衛門が所持しており、この2品が揃わねば茂兵衛の帰参は叶わない。茂兵衛の愛人お富が茂兵衛に愛想づかしをし、数右衛門になびくふりをして折紙をだまし取る。しかし茂兵衛はお富の本心を知らず、怒って大勢を斬り殺す。
★3.槍と杯。
『パルジファル』(ワーグナー) ある夜、天国の使者が現れ、イエス=キリストの処刑に用いられた聖槍と、流れ出る血を受けた聖杯を、2つの宝としてティトゥレル王に与えた。後、妖術師クリングゾルが聖槍を奪って、ティトゥレル王の息子アンフォルタス王の脇腹に深手を負わせる。アンフォルタス王は傷に苦しみつつ、聖杯を拝むことによって生きながらえる。若者パルジファルがクリングゾルから聖槍を取り戻し、アンフォルタス王の傷を治す→〔接吻〕1。
『愛の指輪』(星新一『おせっかいな神々』) 古道具屋が、恋に悩む青年に、小箱に入った2つの指輪を勧める。指輪には魔力があり、1つを男の指にはめ、もう1つを女の指にはめると、2人は引き合い、結婚する。古道具屋も、その指輪を用いて美貌の妻を得たのだった→〔指輪〕1e。
★5.二つの宝を手放すと死ぬ。
『新浦島』(幸田露伴) 浦島太郎の弟・次郎の家では、「玉手箱」と「譲り状」の2品を、代々持ち伝えていた。この2品を子供に譲り渡すと、親はすぐに死ぬ定めだった。99代目の浦島次郎夫妻は、爺(=夫)が71歳、婆(=妻)が64歳の時、「もう十分に生きた」と言って、「玉手箱」と「譲り状」を、25歳になる百代目の次郎に与える。祝いの宴果てて後、爺婆が寄り添って眠るうちに、彼らの魂は天へ昇って行った。
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