三者択一
『太平広記』巻64所収『逸史』 盧シは天人と結婚できることになり、仙界へ連れて来られた。天人は彼に、「仙界の水晶宮に住み、天と等しい寿命を保つ」「地上の仙人となり、時々仙界へやって来る」「俗界の宰相となる」の3つから1つを選べ、と命ずる。盧シは、いったんは水晶宮に住むことを望んだが、すぐに心変わりして、「宰相になりたい」と言う。彼はたちまち地上へ戻された〔*史実では、盧シは宰相となり、晩年に失脚して、配所で死んだ〕。
『行人』(夏目漱石)「塵労」39 大学教授の長野一郎は、父・母・妻直(なお)・一人娘芳江・弟二郎〔=この作品の語り手〕・妹重(しげ)たちと大家族で暮らしているが、彼は常に孤独だった。妻の貞操さえ信じられなかった(*→〔妻〕6a)。同僚のHさんが一郎を、伊豆・箱根方面への旅行に連れ出す。小田原の宿で、一郎は「死ぬか、気が違うか、宗教に入るか、僕の前途にはこの3つしかない」と言う。そして「宗教に入ることも、死ぬこともできないだろうから、なるとすれば気違いだろう。しかし現在の僕は正気なんだろうか?」と、Hさんに問いかける。
★1c.三つの世界から一つを選ぶのではなく、三つとも自分のものにする。
『三四郎』(夏目漱石) 東京の大学へ入った三四郎には、3つの世界ができた。第1は母のいる故郷熊本である。第2は深遠な学問の世界である。第3は燦として輝く世界で、そこには美しい女性がいる。三四郎は3つの世界をかきまぜて、1つの結果を得た。要するに、国から母を呼び寄せて、美しい細君を迎えて、そうして身を学問にゆだねるに越したことはない。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章 争いの女神エリスが、ヘラ・アテナ・アフロディーテの3女神の中に、美の賞としてりんごを投じ、3女神の誰がもっとも美しいかを、パリスが審判することになる。アフロディーテが、ヘレネとの結婚をパリスに約束したので、彼はアフロディーテを選ぶ。
*千人の美女の中から、もっとも美しい1人を選ぶ→〔千〕1の『平治物語』下「常葉六波羅に参る事」。
『ヴェニスの商人』(シェイクスピア)第2~3幕 金・銀・鉛の3つの箱のうちの1つにポーシャの肖像画が入っており、それを選び当てた者が、彼女の夫となる。モロッコ王が金の箱を開けると、しゃれこうべが中にある。アラゴン王が銀の箱を開けると、阿呆の絵が入っている。バッサーニオが鉛の箱を開けると、ポーシャの肖像画があり、彼がポーシャの愛を勝ち得る。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 王女スカニヤーが、年老いたチャヴァナ聖仙の妻になる。アシュヴィン双神がスカニヤーの美貌に目をとめ、「あんな老人でなく、若い私たちのうちのどちらかと結婚せよ」と誘う。スカニヤーが断ると、アシュヴィン双神は「チャヴァナ聖仙を私たち同様に若返らせてやるから、その上で1人を選べ」と告げる(*→〔若返り〕1c)。3人の美青年がスカニヤーの前に並ぶが、彼女は誤ることなくチャヴァナ仙を見分けた。
*5人の男の中から、本物を1人見分ける→〔婿選び〕1の『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」。
『源平盛衰記』巻16「あやめの前の事」 源三位頼政が、鳥羽院に仕える美女あやめの前に思いをよせる。鳥羽院は、あやめの前と彼女によく似た女2人に同じ衣装を着せ、3人を頼政の前に並ばせる。頼政は「五月雨に沼の石垣水こえていづれかあやめ引きぞわづらふ」と詠み、あやめの前を賜る〔*『あやめのまへ』(御伽草子)では、2人の美女の中から選ぶ。『沙石集』巻5末-2の類話では、梶原三郎兵衛が10人の美女の中からあやめを見つけ出す〕。
『好色一代男』巻5「当流の男を見しらぬ」 大名が、供の2人にも自分と同じ装束を着せて、吉原の太夫に逢う。太夫は3人の足袋を見て、鼻緒ずれの跡のない1人を、本物の大名と見破る。
『聊斎志異』巻9-370「チョウ姓」 大勢の女が、狡知にたけたチョウを試そうと「私たちの中に身分高い奥様が1人いるが、見分けられるか?」と問う。チョウは「身分ある人の頭上には雲気がとりまいているから、わかる」と答え、女たちが思わず中の1人に目を注いだので、チョウは「その人だ」と指摘する。
『賢人ナータン』(レッシング)第3幕 家宝の指輪を3人の息子の誰に譲るかに悩んだ父親が、本物そっくりのにせ指輪を2つ作り、息子たち皆に指輪を与える。父親の死後、3人のうちの誰が本物の指輪の所有者であるかについて、争いが起こる。裁判官が「真の指輪の持ち主としてふさわしい徳を身につけるべく、1人1人が努力せよ」と裁く。
『デカメロン』第1日第3話 父親が3人の子を等しく愛し、相続者のしるしの指輪を誰に与えるか迷う。父親は職人に本物そっくりの指輪を2つ作らせ、父親自身にさえ真偽の区別のつかなくなった合計3つの指輪を、1つずつ3人の子に渡す。
『あゝ結婚』(デ・シーカ) ドメニコは愛人フィルメーナと結婚するが、彼女は娼婦時代に、客の男たちとの間に3人の男児を産んでいた。「そのうちの1人はドメニコの子だ」というので、ドメニコは3人の中の誰が自分の子か知ろうとする。フィルメーナは「貴方は自分の子だけを大事にして、他の2人をかえりみないでしょう」と言い、誰がドメニコの子か教えない。ドメニコは自分の子を見分けることを諦め、3人の子の父親になる。
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