不法市民ラジオ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 16:55 UTC 版)
不法無線局も参照 経緯 1974年にアメリカでは連邦通信委員会が規格を改正し、23チャンネルを40チャンネルに増波するとした。当時、日本で製造されていたアメリカ向けの旧規格の無線機が販売先を失い国内に流通するようになる。アマチュア無線家の中には周波数を28MHz帯に改造して使用する人もいた。これは合法であるが、日本の市民ラジオの周波数に改造しても検定機器とすることはできず免許申請もできない。そのままの周波数ではアメリカと日本では周波数割当ては異なり、国内用として使用できる業務は無い。いずれもそれらの無線機を使用することは不法無線局を開設することである。もともと車載用に設計されており、主にトラック・ダンプカーなどの職業運転手の間に急速に広がり、仲間同士や業務用の通信として利用されるようになる。さらに通信距離を伸ばすため増幅器((パワー)ブースター、(リニア)アンプなどと呼ぶ。)を接続する者も現れた(出力が1kWを超える摘発例もあり)。いわゆる不法トラック無線の始まりで、映画『トラック野郎』シリーズ(1975年〜1979年)でも小道具に使われた。 最盛期 1980年代前半頃だったといわれる。一部の雑誌には広告が掲載され不法無線の専門販売店まで登場し、ある種アングラ産業化しており、実数は不明だが#摘発局数・措置局数で摘発局数が増加した時期が傍証になる。 アンテナにも、21世紀初頭まで「26〜29MHz用」と称し、アマチュア無線の28MHz帯用を装いながら27MHz帯でも使えるアンテナがあった。「移動するアマチュア局」の上限の50Wをはるかに越える出力に対応しており、いかにも不自然な製品であった。 27MHzの伝搬特性上、平時の電波伝搬状況下では大出力でもさほど遠距離の交信は出来ない。スポラディックE層など異常伝搬が発生すれば遠距離通信ができる場合もあるが、AM特有の混信が発生する。また自動車に搭載するために、使用できるアンテナの大きさには自ずと限界があり(道路運送車両法に基づく最大全高は3.8メートル)、延長コイルを使用した効率が低く、打ち上げ角が高く水平方向への輻射効率が低い、すなわち遠方への電波が飛ばない。多くの局が過変調により非常に帯域の広がった電波を出していたため、独特なノイズが高いレベルで発生し、さらに通信距離を縮める。さらに出力を上げるという悪循環に陥っていた。それでも大半の不法CB無線運用者は「CBはアマチュア無線よりよく飛ぶ、27MHzはもっとも長距離に飛ぶ周波数」と信じていた。 一部の運転手はアマチュア無線技士を取得してアマチュア局を開局した(CB上がりとも呼ばれた)が、大多数は無免許のまま無線機を大型トラック(ほとんどが産廃や砂利・土砂処分のダンプトラックで過積載や不法投棄取締りの情報交換、または単に仲間との会話を楽しむため)に搭載し、コールサインを持たない彼らは、自らニックネームをつくり交信中に名乗っていた。中には自宅にアンテナを設置し固定局として運用する者や、団体(クラブと呼ぶ)を結成し定期的に会合を開き構成員の親睦を図る者もいた。クラブは特定の周波数(チャンネル)を占有することも多く、チャンネル争いで他のクラブと抗争事件を起こしたり、チャンネル使用料と称し金銭などを請求したりする者(暴力団などの反社会的勢力の資金源ともなっていた。全英会を参照)もいた。こうした通信環境の悪化やチャンネル争いといったトラブルを逃れる目的で、一部のクラブとメーカーが「NASAパーソナル無線」と称した37MHz帯の無線機を開発し使用していた。これは900MHz帯の簡易無線であるパーソナル無線はもちろん、その他の国内の無線システムの規格とも関係なく、使用することは不法無線局の開設になる。 増幅器 不法な増幅器はインターネットオークションに出品されることがあり、当時の技術を知ることが出来る。製造時期により構成が異なるが、比較的古いものは12.5V仕様のトランジスタを使ったり、テレビ用の真空管を1〜8本程度使用して、出力は50〜1000W程度である。テレビのトランジスタ化以後はアメリカ製の傍熱管(通称セラミック)を使ったものもあった。28Vで動作するトランジスタが開発されてからは、これを2〜20個程度使用して出力は400〜2000W。公称5kWのものもある。電源は28Vで100A以上にもなるため、これに対応するために車の電装も強化する必要があった。 社会問題化 大出力の不法市民ラジオの電波は周辺のテレビ・ラジオに受信障害を与えたり、有線放送やカラオケ等の音響機器に混入しスピーカーから音声や雑音を発生させる。また、ブレーカー、自動ドア、洗浄式トイレ、パソコン等の誤動作も報告されている。 更に、ラジコンや石油ストーブ火災のように大きな影響を与えた事例もある。 ラジコン 微弱無線の一種(微弱無線局#第2号)として27.12MHzに割当てがあったが、特に模型飛行機用に対する混信は墜落の危険もあり、1984年(昭和59年)に40MHz帯が拡大、1992年(平成4年)に72MHz帯が新設された。 ラジコン用周波数は、後に72MHz帯の増波を繰り返し、模型飛行機用とそれ以外・産業用とホビー用の分離などの安全対策が進んでいる。 石油ストーブ火災 1996年(平成8年)7月調布市の甲州街道沿いで起きた建物火災である。オフシーズンでしまわれずに荷物置きになっていた石油ストーブの自動点火装置の電子回路が誤動作しタンクに残っていた灯油に点火し周囲に引火したもので従前には無い事例であり、メーカーは事故防止のチラシを300万枚作成して全国に広報し、テレビニュースにも取り上げられ、郵政省(現・総務省)は警察庁に不法無線局の取締りを要望した。 規制・取締り 電波法の制定当初の不法無線局に対する罰則の対象は「免許を受けないで無線局を運用した者」であり、「運用」とは「無線機から電波を発射する」ことを意味し事実上現行犯でなければ逮捕できなかった。また、地方電波監理局、後に地方電気通信監理局、現在の総合通信局に至るまで特別司法警察職員がおらず、取締りは違反を確認後に刑事告発するという形であった。通信白書(郵政省刊行、現在は情報通信白書として総務省刊行)で電波監視の結果と#摘発局数・措置局数が記事になったのは、昭和50年版の「不法市民ラジオが多数を占めている」からで、昭和52年版では「我が国では市民ラジオとして使用することを認められていないハイパワー機器を使用したもの」とあり、この頃には大出力の無線機による弊害を認識していたことがわかる。 1983年(昭和58年)に 罰則の対象が免許を受けないで無線局を「運用した者」から「開設した者」と改正された。電波が発射されなくとも「発射できることが可能な(アンテナと電源が接続された)無線機」があれば逮捕できることとなった。しかし、自動車に搭載された無線機が不法なものか否かを確認するのは容易ではなく、効果的な取締りにつながらなかった。同時に制度化されたのがパーソナル無線で、車載可能な無線機による近距離の音声通信システムを目指したものであったが、数年の内に周波数帯の逸脱や増幅器の接続など不法市民ラジオと同様な状況に陥り、不法アマチュア無線とあわせて「不法三悪」と呼ばれるようになった。 「不法三悪」の語がインターネットアーカイブで確認できる最古のものは、1997年(平成9年)の北海道電気通信監理局の広報資料にある。 1994年(平成6年)に不法無線局の内、不法開設の多い周波数帯のものを特定不法開設局と、これに用いられる無線機は指定無線設備と規定され、これらの無線機の小売業者は指定無線設備小売業者として「免許を申請する必要があり、免許が無いのに使用した場合は刑事罰に処せられる。」ことを呈示しなければならないことが義務付けられた。この規定に違反した業者に対し必要な措置を講ずべきことを指示することができる、つまり行政指導の対象となるとされた。 不法市民ラジオ用と不法パーソナル無線用の無線機が指定無線設備とされた。 この頃になると自動車電話、後に携帯電話が廉価になって移動体通信が普及してことや、警察・海上保安庁との合同取締りの実施により減少しだした。 2001年(平成13年)には、不法市民ラジオの無線局へ警告する特別業務の局の一種である規正用無線局が免許された。 2013年(平成25年)の平成25年版情報通信白書に「不法三悪」の語が登場したが「かつての「不法三悪」による混信・妨害が減少している一方、輸入無線機による混信が増えている」と分析している。アメリカ向けの無線機が国内で生産されなくなるに伴い流通する台数も減少して淘汰されたということである。不法パーソナル無線も制度廃止により生産されなくなり、同様に減少している。
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