OJT
「OJT」とは・「OJT」の意味
OJTとは、業務に携わりながら新人を育成する研修方法のことだ。職業訓練という意味がある「on the job training」の頭文字から付けられた略称で、新人教育に直属の先輩や上司が携わる研修方法をいう。OJTは研修時に実務レベルの仕事内容を習得させ、即戦力となる人材育成を行うことが目的だ。一般的な新人研修や業務マニュアルだけでは実践的スキルを習得するのに時間を要するため、OJT導入は各業界から注目を集めている。看護や介護、福祉の現場では新人育成期間にOJTが導入されているケースがほとんどだ。養成学校で学んだ専門知識や技術はあくまで業務の基礎的な部分であり、現場では実務を行うことで身に付く応用力や対応力が重要となってくる。看護や介護、福祉の現場でのOJTは、まず先輩指導者が模範を示してから新人に対応させることが望ましい。これらの現場は主に体が不自由な人をケアする仕事なので、いきなり未経験の新人職員に実務を行わせるのはリスクが非常に大きいからだ。
介護の現場で行われる食事介助で起きた具体例を挙げよう。ある施設の食堂内で突然歩き出した入所者がいた。そのとき、先輩職員は食事介助中であったため、新人に対して「歩かないようにして」と口頭で指導したのだ。しかし新人職員は具体的な歩行静止方法が分からず戸惑っていたら、後に先輩から大きな叱責を受けた。食堂内での歩行は危険であるため、一刻も早く止める必要があったからだ。OJTの必要性が高い看護や福祉の現場では、まず先輩が行動を示して指導することが基本である。そのためこの事例では叱責した先輩職員に非があることは否めないが、人手不足の現場では現実的に難しいことも多い。つまりOJTは人手が足りている現場が適しているのだ。OJTを実施するときは、現場の実情を事前に把握しておくべきである。
OJTは学校などの教育現場においても重要性が高い。教育現場は看護や福祉の現場と同様に、マニュアルや事前研修だけでは習得できない実践的な指導力が必要になるためだ。OJTのデメリットは、新人育成に携わる先輩や上司しだいで教育の質が異なることだ。指導者の能力によってスキルや成長に違いがでてくるので、適した人材をOJT指導員にすることも大切である。例えば、国立教育政策研究所による「教員の質の向上に関する調査研究」の報告書では、校内で優れた教員に指導を受けた新人教員は、教育に対する向き合い方に良い影響を与えたという結果が出ている。
OJTに携わる先輩社員は、通常の業務以外の仕事が生じるというデメリットもある。具体的には事前に教育指導書を作成し、スケジュールを合わせながらカリキュラムを組んで進めていくので、残業しなければ対応できない可能性もあるのだ。残業することにより会社側も賃金負担が発生するという点もデメリットの一つである。
OJTをスムーズに進めるために、事前にOFF-JT研修を導入することが推奨されている。ちなみにOFF-JT研修とは、社外教育という意味がある「off the job training」の略称で、その言葉の通り社外で行う研修を指す。主に企業の人事担当者、もしくは外注サービスによる研修プログラムを受講し、座学スタイルで集団学習を行う。新入社員以外にも、OJT指導員に対するoff-jt研修が行われることも多い。
OFF-JT研修を導入すると新入社員の戸惑いが少なくなる。社会経験の少ない新入社員は、ロジカルシンキングやビジネスマナーなどが不足していることが多いので、まずOFF-JT研修を行った上でOJTをはじめると先輩や上司との交流や意思疎通にも効果的なのだ。
ちなみに、中途採用などで社会経験がある新入社員の場合は、それぞれのスキルに合わせたOJTを行うと良い。具体的には、OJTを実施する前に面談を行い、今までどのような業務に携わってきたのか、どのようなスキルを習得しているのかを知っておくことが大切である。同時に重点的に指導していく部分を検討しておくと、より新人育成に効果的だ。
「OJT」の熟語・言い回し
OJTの熟語は「OJT期間」「OJT研修」「現場OJT」「OJT指導員」などがある。OJTの言い回しには、「来月からはスーパーバイザーによるOJT研修がスタートする」「OJT指導員は色々な場面で対応できるように、事前にフォローマニュアルを作成しておくことを推奨する」「即戦力となる人材育成を目指すならOJT研修を導入しよう」などだ。その他には、「OJT期間は最低でも1年間は必要だと思う」「現場OJTを強化して、新人社員の離職率低下を目指したい」「今度入社する新人職員のOJTを依頼したい」「指導者の力量によってOJTで習得できる能力に差が出てしまう」などがある。ちなみにOJTの間違った言い回しには、「現場指導が一番良いのでOJT研修を行う必要がない」「集団座学研修にOJTを導入する」「今月から働きはじめた社員はOJT指導員だ」などがある。
OJT期間とは
OJT期間とは、OJT研修を行う期間のことである。OJT期間は業種や企業、新人社員に対する期待度などによって異なるため、状況や現場に合わせて定めるのが一般的だ。OJT研修を長めに設定すると計画的に研修を進められるので、新入社員が着実に成長するというメリットがある。例えば、スタートから2ヶ月間は業務全般の流れを把握し、次の2ヶ月間は一つひとつの業務に深く携わり、最後の2ヶ月で独り立ちという半年を要するカリキュラムも組める。結果的に新入社員が自信を持って仕事に取り組めるため、離職率低下につながることもメリットといえるだろう。
しかし、OJT期間が長いと新入社員のモチベーションが下がるというデメリットもある。OJT研修に携わる先輩社員からは、「新入社員がいつまでも学生気分でいる」という意見が聞かれる。会社に出勤しても学校と同様に指導や指示を受けながら業務に携わるので、自分自身で考えて行動する機会が少ないためだ。当然自己責任が発生することも少ないので、緊張感が薄れると同時に業務に対するモチベーションが下がってしまうのだ。
OJT研修とは
OJT研修とは、一般的な研修のように座学で集団学習するのではなく、実務に取り組みながら仕事を覚える研修のことだ。具体例としては、営業職のOJT研修は営業に同行しながら先輩社員の営業スキルを学んでいき、エンジニアのOJT研修では先輩社員と共に実際にコードを書きながら実務を覚える。OJT研修は、コーチング、ティーチング、メンタルケアの3つの側面から進めていくことが多い。コーチングは解答を教えずに指導することで、ティーチングは解答を教えて指導することである。コーチングやティーチングの比率や重要度は業種や企業によって異なるが、一般的にはティーチングからスタートしてコーチングを重要視しているOJT研修が多い。
メンタルケアもOJT研修には欠かせない。新人育成で最も課題となるのが新人の離職である。新入社員の離職率を低下させることは企業にとって大変有益なので、OJT指導に携わる先輩社員はメンタルケアを充実させる必要があるのだ。例えば、新入社員が自分自身で解決できない仕事に直面した場合、先輩社員がすぐ対応できるように配慮しなければいけない。また、新入社員に悩みがないかを定期的に尋ねる、いつでも相談しやすい関係性を構築することも大切である。
現場OJTとは
現場OJTとは、先輩や上司の仕事を主体として新人研修を行うことである。より現場の雰囲気を実感できるため、実践的な能力育成が促進される点がメリットだ。具体的には先輩社員の仕事に同行し、直接作業や仕事を学んでいく。ただし、段階を踏まずに高度な仕事に携わる機会もあるので、新入社員が戸惑わないようにフォロー体制を整えておくことが大切だ。
オー‐ジェー‐ティー【OJT】
読み方:おーじぇーてぃー
《on-the-job training》職場での実務を通じて行う従業員の教育訓練。オン‐ザ‐ジョブ‐トレーニング。⇔オフジェーティー。
OJT
OJT
O.J.T. on the job training
オン・ザ・ジョブ・トレーニング
オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On-the-Job Training、OJT)、現任訓練(げんにんくんれん)とは、職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のこと。企業内で行われるトレーニング手法、企業内教育手法の一種である。職場の上司や先輩が、部下や後輩に対し具体的な仕事を与えて、その仕事を通して、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを意図的・計画的・継続的に指導し、修得させることによって全体的な業務処理能力や力量を育成する活動である。
これに対し、職場を離れての訓練はOff-JT(Off the Job Training オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)と呼ばれる[1]。
OJTという言葉は1935 - 1940年頃の辞書(Webster等)に採録されたが、アメリカで第一次世界大戦中にできた手法とされる。
概史
第一次世界大戦勃発によって、当時5,000人の作業者が勤務していた米国の61の造船所にその10倍の造船所作業員の補充が必要となった。補充要員がいなかったため新人を訓練することになったが、その時代の米国内の職業訓練施設の能力では間に合わなかった。
緊急要員訓練プログラム作成の責任者に任命されたチャールズ・R・アレン(Charles Ricketson "Skipper" Allen)は、造船所の現場監督を指導者として造船所内の現場ですべての訓練をすることを決めた。そして1917年、教育学者ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルト(Johann Friedrich Herbart)の5段階教授法(予備、提示、比較、総括、応用)をもとにアレンが開発した具体的な職業指導法が、4段階職業指導法(the "Show, Tell, Do, and Check" method of job instruction、やって見せる→説明する→やらせてみる→補修指導)であった。アレンの4段階職業指導法とは、おおむね下記のようなステップで実施する。
- 新人を配置 - 安心して行うこと。彼らが仕事に関し、事前に何かを知っているかどうかを調べること。彼らに学習に対する興味を持たせること。適切な持ち場を与えること。
- 作業をして見せる - 注意深く、根気よく、説明し、見せ、図示し、そして質問する。キーポイントを強調すること。一度に1点ずつ、はっきりと完全に教えること、しかし彼らがマスターできる限度を超えてはいけない。
- 効果を確認する - 彼ら自身に仕事をやらせてみる。彼らに説明させながらやらせること、彼らにキーポイントを説明させて示させてみること。質問し、正解をたずねること。彼らが理解したと判断できるまで、続けること。
- フォローする - 彼らに、彼ら自身が必要なときにだれに質問したらよいかの相手を判断させる。頻繁にチェックすること。積極的に質問するよう促すこと。彼ら自身に、その進歩に応じたキーポイントを見つけさせること。特別指導や直接のフォローアップを段々減らしていくこと。
これが中世以来の徒弟制度(弟子は最初仕事と無関係の雑務から始めその後師匠の補助をするようになり、数年から数十年をかけて仕込んでいく手法。現在も多く存在する)ではない職場指導、すなわちOJTの始まりと考えられる。
さらにアレン式4段階法は20数年後、第二次世界大戦中の米国戦時人事委員会(War Manpower Commission)によって企業内訓練(TWI:Training Within Industry)の次の4つのプログラムに発展した。
- JIT(Job Instructor Training、仕事の教え方、1942年4月) - できるだけ早く作業者を教える技能を身につけるように訓練するために開発され、ロールプレイングの手法を取り入れOJTを行う監督者の技能を向上させることを基本的な目的とした。
- JRT(Job Relations Training、人の扱い方、1943年2月)
- JMT(Job Methods Training、改善の仕方、1943年9月) - 後にJST(Job Safety Training)になる
- PDT(Program Development Training、訓練計画の進め方、1944年9月)
このTWIプログラムが戦後の日本に導入され、現在の企業研修のもとになっている。
OJTの成果と課題
日本の大企業における特に新入社員教育では、一定期間の集合研修を経てOJTへ導入する形式を採ることが多い。また専門的な職務能力を要する職種の場合は、企業規模を問わず一人の新入社員に一人の先輩が指導者として割り当てられ実務を進めながら指導する。指導者の指名については該当者の業務実績以上に指導力を考慮する必要があり、特に指導力は新入社員のその後の運命すら左右する可能性がある。
厚生労働省の「平成29年度能力開発基本調査」では、正社員に対する重視する教育訓練については、OJTを重視する又はそれに近いとする企業は71.2%(前回の同調査では74.6%)、off-JTを重視する又はそれに近いとする企業は27.5%(同24.1%)であり、日本においては若干減少傾向にあるもののいまだOJTが重視されていることが見て取れる。また正社員に対して、平成28年度に計画的なOJTを実施した事業所は63.3%(同59.6%)、正社員以外に対して、平成28年度に計画的なOJTを実施した事業所は30.1%(同30.3%)であり、正社員に比べると半分以下の水準にとどまっている[2]。
OJTの成果は「実務の中で仕事を覚える」ことにより「OJTの成果が仕事の成果になる」など、研修の成果が業績に反映される。いわば「新入社員の成長」と「企業の業績向上」という、一石二鳥が期待できる。ただし指導者となった先輩に指導力が伴わない場合、新入社員の能力向上どころかその可能性の芽を摘んでしまう。そのため指導者への課題として「どの分野は誰が詳しい」といった情報を新入社員に伝えるなど、職場内でのコミュニケーションの指導にも配慮が求められる。また企業によってはいきなり業務を行わせ、いざという時のフォローだけ行うことをOJTと称することがある。指導する側の指導やチェックが確実に行われ指導される側が報告義務を欠かさなければ成果を出せるが、指導する側・される側のどちらかに問題があれば成果は期待できない。
「平成29年度能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの「問題がある」とする事業所は75.4%(同72.9%)、能力開発や人材育成に関して何らかの「問題がある」とする事業所のうち、問題点の内訳は、「指導する人材が不足している」(54.2%)が最も高く、「人材育成を行う時間がない」(49.5%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(47.8%)と続いている。
結局、OJTの要諦は意図的・計画的・継続的の3つであり、これを欠くものは本来のOJTではない。
注・出典
- ^ 「off the job training」は日本人も多く編纂スタッフとして参加している国際労働機関(ILO)のILO Thesaurusなどには収録されているが、現代英語としての普及度の尺度とされているRandom House Webster's Unabridged Dictionaryにはこの語は収録されていない。
- ^ 平成29年度「能力開発基本調査」の結果を公表します厚生労働省
参考文献
- Allen, Charles R (1919). The instructor, the man and the job. Philadelphia London, J. B. Lippincott company
- Allen, Charles R (1922). The foreman and his job. Philadelphia London, J. B. Lippincott company
- 澤田淳「できる・使える・OJT入門」『実務入門シリーズ』日本能率協会マネジメントセンター、1998年
- 小山俊『新版 OJTで部下が面白いほど育つ本』中経出版、2006年
- 寺田盛紀『日本の職業教育』晃洋書房、2009年
関連項目
OJT
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/28 04:23 UTC 版)
OJT (on the job training) とは、職場内研修とも訳され、職場の先輩・上司から後輩・部下に対し、業務を通じて教育を施す制度である。ただし、指導者を誰にするか、達成目標をどのレベルに設定するかを明確にしないと、OJTという名のもとに放置させてしまう危険性がある。
※この「OJT」の解説は、「人事」の解説の一部です。
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