車両用信号機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 00:59 UTC 版)
日本では一般的に横型であるが、降雪が多い地方や狭隘な場所では縦型の信号機が設置されることがある。 車両用信号機(車両用信号灯器)のレンズ面は丸型が採用され、表示面の直径は一般道路用の250 mmと300 mm、高速道路用の450 mmが使用されている。かつては視認性確保のため一般道路でも450 mmのものが取り付けられていたが、LED化に伴う信号機そのものの視認性向上によって小型の信号機に戻している例が多い。 取り付ける際は地盤面から灯器底部まで5,100 mm以上とし、交差点進入方向から見やすい位置に設置しなければならない。このとき、建築限界を侵して設置してはならない。また、歩行者用信号機が設置されていない交差点では、車両用信号機が歩行者から見える位置に設置しなければならない。配置する際は、接近する車両が停止線手前で停止・通過の判断を適切に行えること、停止位置から信号機が確認できること、見るべき信号機が明確でほかの交通に対する信号機と誤認することがないことが求められる。流入車線が複数ある場合はそれぞれの車線から信号機を視認できるよう配置する必要があり、必要に応じては補助的な信号機を設置する必要もある。 黄色、赤色といった特定の灯火しか使用しない場合でも、青・黄・赤の三色の車両用信号機を用いることが望ましいとされている。矢印灯器を配置する場合、横型灯器の場合は三色灯器の下に、縦型灯器の場合は三色灯器の右に配置する。いずれの場合も、青の隣に左折矢印、黄の隣に直進矢印、赤の隣に右折矢印を配置する。 車両用信号機の取り付けられるアームの長さは2.0 mを標準とし、最長は3.5 mとしなければならない。アームの形状は梁が2本の「平行アーム」、1本の「直線アーム」更に比較的古い世代のものに多いが「円弧アーム」などがある。アーム長や矢印灯が設置されている数などによって支持棒や補強金具の取付方法が異なってくる。信号交差点が連続する場合は誤認を防ぐため、手前の信号灯器のアームを短くして遠近法による錯覚を防ぐなど、設置上の配慮が必要とされる。 短いアームの信号機 アーム部がなく、信号柱に直接取り付けた信号機 長いアームの信号機 車両用信号機は左右に45度の光の発散角度を必要としており、それゆえに変形交差点などでは他の流入路などから誤認されるおそれがある。こうした誤認を防ぐためには「視角制限式信号灯器」が用いられる。この視角制限式信号灯器は、灯火表面のレンズやなどで光の発散角度を狭めるようにこしらえたものや、横向きや筒形などのフードを取り付けた信号機、一般的なフードの代わりにルーバーなどの遮光板を付加した特殊なフードを取り付けた信号機などが存在する。そのほか、停止線の位置を見直す、側柱式の縦型灯器の設置なども検討する必要がある。 信号が設置された交差点が隣接する場合は可能な限り近接交差点相互の灯器の設置間隔を開ける必要がある。そして、下流側の交差点の灯器の取付角度を下向きに調整したり、距離視角制限用のルーバー付きフードを付けた信号機を設置したりしなければならない。 誤認防止に筒型フードを長く伸ばした信号機 誤認防止にルーバーを取り付けた信号機1 誤認防止にルーバーを取り付けた信号機2:角度を変えると灯火が見えなくなる 誤認防止のためレンズの発散角度を制限させたLED信号機1(2枚合成、上:赤、下:青)、角度を変えると正対する信号以外は灯火が見えなくなる 誤認防止のためレンズの発散角度を制限させたLED信号機2(2枚合成、上:赤、下:青)、角度を変えると正対する信号以外は灯火が見えなくなる 信号機を目立たせて視認性を向上する目的、隣接する信号機の誤認や西日で見えなくなることを防ぐために背面板が設けられることがある。日本では通常、幅が10 - 15 cmの黒または緑と白の斜めの縞が設けられる。信号機自体の視認性が確保された現在では風害や景観破壊の可能性があるため、使用が限定的となっている。 信号灯背面板付き信号機 信号灯の緑と白の六角背面版付き信号機 交通信号機に3色のフィルターを設けて1灯のみとすることは可能であるが、色覚障害者に考慮した場合は好ましいものではなく、また故障のおそれもあり日本では採用されていない。 LED信号機では色覚障害に配慮して黄色は青色・赤色と比べ明るく点灯する。また、信号機の表示を分かりやすくするために赤表示の部分に「×」印を付けた信号機が考案され、2012年(平成24年)に福岡市で試験設置された。この「×」印は色覚障害者のみ見えるものである。この信号機は「色覚異常者に優しいユニバーサルデザインLED信号灯」として2011年度(平成23年度)にグッドデザイン賞を受賞している。なお、2001年(平成13年)には青を「〇」、黄を「△」、赤を「×」とした「〇×△灯器」の実験が行われたが、視認実験に明確な効果が現れなかった。 色覚異常の人が赤と黄信号を見分けやすくするため、赤信号に×印を表示した信号機。東京都・芝郵便局前交差点に試験設置(2012年2月) 交差点の手前がカーブや坂になっているなどして交差点を見通す視距が十分に取れない場合に「予告信号機」(予告信号灯)が設置される。しかし、日本では予告信号機に関して明確な規定が無く、多種類の表示方法が混在しているためドライバーの混乱を招くと指摘されている。その中で、交差点で青現示の時は青を表示し、それ以外の現示では黄点滅を表示する方式が視認性の上で効果があるとしている。道路利用者が予告信号機に使われる灯器の意味を理解するために「予告信号灯」などの標示板が取り付けられる。予告信号機から信号交差点までの距離が長い場合、車両が到達するまでに時間がかかって予告信号機としての表示機能を十分に生かせないことがあるため警戒標識の「信号機あり」で対応するのが望ましい。 予告信号の例 信号機ありの警戒標識の例 1本の柱からアームを延ばし、アームの先で交差点の全方向の信号灯器をまとめたものは「懸垂型交通信号機」と呼ばれ、その形状から「UFO信号機」「UFO型信号機」の通称もある。最初に製造した名古屋電機工業によるとヨーロッパを視察した社員がワイヤーで吊された信号機を見て思いついたという。 特殊な設置方式のため設置数が少なく、26基以上が設置された宮城県以外では群馬県と名古屋電機工業の地元である愛知県に数基設置されたのみという珍しいタイプの灯器である。第一号は1975年(昭和50年)に名古屋市立新栄小学校の前にテストケースとして設置されたものである。 幅が狭いが交通量の多い道に適しているとされ、歩行者用と一体化、道路に合わせ灯火に角度を付けたもの、LED式なども登場したが、現在は警察庁が定めた仕様に対応していないため補助金が受けられず財政的に不利となっている。1979年(昭和54年)から1986年(昭和61年)にかけて多数採用され、2019年(平成31年)時点で22基が残されている宮城県でもLED化に合わせ通常の設置方法への変更が進んでおり、2023年(令和5年)頃までに全廃される予定。 名古屋電機工業では撤去の話題がメディアに取り上げられると取材が入るようになったため、報道や社史の一部を掲載した特設ページを開設している。 電球式の懸垂式信号機(宮城県仙台、2010年) LED式の懸垂式信号機(愛知県大須、2013年) 仙台市太白区中田(県道273号=旧国道4号) 一灯点滅式信号機は福岡県警察と信号機メーカーが協力して開発したもので、1984年(昭和59年)に福岡市南区で初めて導入された。通常の信号機が設置できない細街路の交差点で、優先・非優先を明確にし出会い頭事故を防止するために一灯点滅信号機が設置される。赤・黄が相互に点滅し、点滅周期は0.4 - 0.6 秒である。 全国的には2012年(平成24年)度には6,224基、2014年(平成26年)度末には6,076基、2020年(令和2年)3月末には4,653基が設置されていた。ただし、地域的な偏在が大きく、2016年(平成28年)3月末時点で、福岡県には全国最多の1,608基あるのに対し、東京など10都県で1桁、千葉県では全く設置されていない。 一灯点滅式信号機については地域によって偏在があるため設置されている意味が分からない人もいるとされドライバーの混乱を促すおそれが指摘されている。設置から数年で効果が薄れるなどの声もあり、この信号機の効果は疑問視されている。また、一時停止規制の方がかえって分かりやすいとの声があり、一時停止規制へ変更した場合はかえって人身事故が減少した事例が多く、更に一時停止の標識の視認性も向上し、維持管理コストも減少したため一灯点滅式信号機でなくとも標識で代替できるようになった。そのうえ、色覚障害者には表示の判別が困難である。そのため、一灯点滅式信号機は撤去が進んでおり、警察庁も一時停止の交通規制等への代替により、撤去を促進している。 写真は赤点滅であり、一時停止を指示している。 メディアを再生する 一灯点滅式信号機(黄・赤)の点滅状況 LEDのものは旧来の物に比べ発熱が少ない事から雪が解けずに付着し見づらい・見えないという問題も起こっている。この場合、警察官や工事業者が除雪作業を行わなければならない。たとえば、北海道警察では特製の「交通信号機用雪落とし棒」を道内各警察に配布し、雪を払うようにしている。 対策として、お椀型の透明な着雪防止フードを灯器に取り付けて視認性を確保する場所や、約6 cm(センチメートル)の薄い板状にした「フラット型信号灯器」を斜め下に向けて設置して対策を行う場所が見られる。また、ロータス効果による撥水効果がある灯器の開発が進められている。 信号機の本体レンズ部分に着雪防止フードが取り付けられたタイプのLED信号機 LED信号レンズに取り付けられた着雪防止フードによる雪の付着の抑制状況。 フラット型信号灯器を斜め下に向けて設置し、雪の付着を抑制している状況(2018年2月9日撮影) 自動運転を行う車両はカメラなどで信号機の表示を認識しているが、逆光時などで正確に判断できないことがある。そのため、信号機に取り付けた通信機や交通管制センターからの情報によって信号機の表示を識別することが検討されている。
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