宗教教育衝突問題とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > ウィキペディア小見出し辞書 > 宗教教育衝突問題の意味・解説 

宗教教育衝突問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 14:34 UTC 版)

国体」の記事における「宗教教育衝突問題」の解説

教育勅語渙発と同じ月、加藤弘之国家学会雑誌論文国家宗教の関係」を発表する。同論文に以下のようにいう(大意)。 神道仏教耶蘇キリスト教)に比べて宗教として最も劣るから、仏教耶蘇圧倒されるのは当然である。神道このように圧せられるは日本国体大いに関係がある。神道天皇祖先人民功労者を祭るものだからである。将来神道宗教として耶蘇圧倒されると、皇室権威関係するので事態容易でないこのためどこまでも従来のどおり神道宗旨の外に置く必要ある。耶蘇教であっても天皇先祖である神に拝礼することは耶蘇主義に背くことにならないだろう。 以上のように論じ加藤弘之は、その3年前に「徳育方法案」と題して演説し神仏儒に耶蘇併せて小学校徳育科に施すべしと主張していた。加藤弘之所論豹変させることはいつものことであるが、これも時勢変遷反映したものと見ることができる。後年いわゆる加藤耶蘇いじめ」はここに発端する。 教育勅語全国学校遵奉させることになると、唯一神信仰するキリスト教徒天父以外に頭を下げないためこれを喜ばず、キリスト教系学校において教育勅語尊重天皇御真影への拝礼拒む者があった。またそれと直接関係なくても、明治国家教育反抗し国体観念相容れない思想をもつキリスト教徒もいた。1892年明治25年10月井上哲次郎は、キリスト教教育勅語国体背戻するとという意見語り翌月その意見を『教育時論』に載せる。これがいわゆる宗教教育衝突問題の発端である。 そしてキリスト教徒騒ぎ始めると、井上哲次郎は「教育と宗教衝突」という一文書いて二十数種の雑誌発表し、さらに増補し単行本とし翌年4月公刊する。同書で以下のように述べる。 教育勅語は全く国家主義立脚する。しかし我が国耶蘇キリスト教徒教育勅語奉戴反対御真影拝礼反対する。耶蘇教徹底して国家的であるから、これも当然の帰結である。 耶蘇教博愛主旨として家族他人区別しない現世捨て来世自己幸福を願う利己的精神であるので父母を重んぜず先祖崇拝斥ける。神の外は一切平等なので忠君観念がなく、国家興亡にも関心がない。このため欧州においても早くもその実力を失ったのである。しかし我が国キリスト教徒その事情に無知である。いたずらに我が国体に反することを文明とし、これを信じない者を野蛮ととする。 教育勅語国家主義標榜し国体尊厳保護しよう欲する。これに耶蘇教一致することはないだろう仏教我が国精神同化たように耶蘇教同化するならば、あながち排斥すべきではない。すでに耶蘇教我が国体に矛盾せず、また忠君教えを含むと弁護する者がいるが、牽強附会こじつけ)でしかない。以上。 これに対してキリスト教徒全力争い仏教家も参戦し学者教育家文筆家も皆この問題口を挟み単行本だけでもキリスト教排斥する側が二十数種、これを弁護する側が十数種、その他に新聞・雑誌講演にこれを論ずるものは数百種にのぼり、喧々諤々として議論が続く。この議論総じて見ると、排斥側は井上哲次郎所論祖述するものであり、弁護側はこれに答えて聖書にも忠孝標榜する語が一つ二つあるとか、宗教分野政治教育類いと全く別分野であり両者衝突することはないとか、キリスト教は非国家主義であるが反国家主義でないとかと弁じる排斥側がキリスト教社会政治上に害を及ぼした例を挙げると、弁護側は西洋文化輸入女子教育の向上、学校外道徳心涵養などは主にキリスト教おかげであると応じる。弁護側が非キリスト教徒旧弊頑迷退歩であると蔑むと、排斥側は、理学進歩し進化論発達した今日において迷信にすぎないキリスト教今さら思想であるともてはやす信徒こそ最も頑迷であると罵る最後論敵人格攻撃に及び、互いに犬糞応酬をするに至る。 (排斥側)磯部武者五郎政教時論」に曰くキリスト教我が国体、すなわち我が国家の特性適合しない我が国体は万世一系天皇奉戴するを唯一の元素とする。キリスト教唯一ゴッド奉仕し未だに天皇奉ずることを宣明しない。我が皇国国体では民の守るべき徳義敬神尊王愛国三つである。キリスト教はこれと両立しない博愛主義とし敵を愛すべし主張するキリスト教日本魂と合わない。当然排斥すべきである、と。 (排斥側)中西午郎「宗教教育衝突断案」に曰く耶蘇教は、全く非国家主義であるとはいえないものの、我が国体と全く並立できない我が皇統天孫であり日本国民は同祖であるという天啓歴史国民脳裡支配し忠君愛国感情万古経て不滅である。教育勅語はこの国体基づいて国民教育方針示したものなので耶蘇教義合わない耶蘇教は、君父他人差別せず自国他国差別しないので、我が国体と相容れない儒教・仏教憲法制度外国由来であり我が国体と多少衝突した結局同化した。耶蘇教同化すれば不可でない、と。 (排斥側)杉浦重剛教育弁惑」に曰く欧州諸国東洋諸国キリスト教扶植しようするのは、名を博愛借りて実は欲のためである。世界同胞主義博愛実行不可能である。日本人一部がこれを迷信するのは心外である。空想生まれたゴッド理学発達両立しない我が国体は皇室を最貴最尊と仰ぐ。キリスト教徒がその教義忠義の旨もあると弁解するのは牽強こじつけ)である。そうであるなら何故に御真影教育勅語礼拝奉信を拒む信徒除去しないのか。今後キリスト教我が邦で隆盛するには、勅語違背する所を除き理学疑われる所を掃わらなければならない、と。 (弁護側)小崎弘道基督教国家」に曰く、汝の隣人を愛せよというのがキリスト教綱領である。人を愛す教えなので国を愛するのはもちろん、国君対し忠節を尽くす事あるのをその教え主旨とする。 (弁護側)植村正久今日宗教徳育論」に曰く人類を囚えて自国観念禁錮するのは陋俗な国家主義国粋論者迷夢しかないキリスト教は神を愛す主義第一に置き、その制限の下に自己愛し他人愛する。愛国も同じである。正義の愛をもって国を愛す君主対するときもこれと大同小異である。君主重んずべきは新約聖書明文載せている。キリスト教決し不忠の道を主張するものではない。 仏教徒キリスト教排斥加担したことも見過ごせない。キリスト教日本国体相容れないのはそれが世界的であって国家的でないからだとすれば仏教根本義世界的である点でキリスト教と同じであるが、仏教徒キリスト教排斥加担したキリスト教徒はこの点を指摘し、たとえば大西祝は、世界的であるために我が国体を破壊すると言うならば仏教はもちろん儒教哲学理学詩歌も同じであるのに何故にキリスト教のみを論難するのか、と高調した。仏教徒聞こえないふりをしてキリスト教攻撃続け、さらに進んで仏教国体と深い関係があると論じるに至った。その代表は井上円了である。 井上円了仏教哲学者であり哲学館(後の東洋大学)を設立した。宗教教育衝突問題以前1889年明治22年9月に『日本政教論』を著して皇室仏教不可分であることを論じた同書曰く仏教古来皇室と関係深く、また国家鎮護一助であった。すなわち名実ともに仏教をもって国教組織したのである。もしこの縁故廃すれば歴史上の事実廃することになり「皇室国体永続期すること難しかるべし」。歴史上縁起深い寺院保存し、その宗教特待なければならない、と論じた。そこにたまたま宗教教育衝突問題が起こり井上円了キリスト教排斥加担しつつ国体仏教の関係を説いたものが『日本倫理学案』と『忠孝活論』である。1893年明治26年1月著『日本倫理学案』に云う。 国が異なれば国体異なる。その国の独立継続する限り特有の国体維持しなければならない教育道徳国体を基に組織しなければならない上古から中世まで、我邦教育宗教等は、大抵シナ三韓インドから徐々に入って来たが、自然に国風一変し国体維持することを目的するようになった今後の方針も、あくまで国体基礎としなければならない。 我邦の国体万国卓絶するわけは皇統一系天壌無窮宝祚戴くことにある。その原因次の三か条である。(1)皇室あって後に人民あること、(2)君臣一つであること。(3)忠孝一致人倫大本とすること。 人民はみな皇室臣下であり同時にその末裔でもある。したがって君臣一家忠孝一致を知るべし。この美風は単に倫理上の一国精華であるだけでなく、国家団結鞏固にして国務強大化するのに大いに有利である。以上。 同年7月著『忠孝活論』は次のように云う我が国体を論じるには客観主観両面から観察しなければならない客観上、物界にあって我が国気候温和・地味豊沃風景秀美であることは世界比類ない。また人界にあっては上に一系連綿一種無類皇室がある。厳然と永存するものであり、禅譲放伐革命)により立つものと異なる。 主観上、心界にあっては古来一種の霊が大和魂を成す。精誠忠孝発育し、これにより一種神聖な国風形成した。実に我が国神国というべきである。 皇室太古純然の気が今日永続したものであり、すなわち神聖皇室である。臣民皇室分派であって神子皇孫末裔であり、すなわち神聖臣民である。そして我が国忠孝は、臣民精神界固有する霊気発動であり、神聖な皇室から分賦された徳性であるので、この忠孝もまた神聖忠孝である。以上。 井上円了はここで敢えて仏教言及しないが、その附録に「仏門忠孝一班論」を添え仏教にも忠孝原理があると論じ仏教国家主義に結びつけている。

※この「宗教教育衝突問題」の解説は、「国体」の解説の一部です。
「宗教教育衝突問題」を含む「国体」の記事については、「国体」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「宗教教育衝突問題」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「宗教教育衝突問題」の関連用語

1
2% |||||

宗教教育衝突問題のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



宗教教育衝突問題のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの国体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS