人権・多様性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 02:20 UTC 版)
積極・賛成論消極・反対論個人の尊重・人格権・自己決定権・アイデンティティー 日本学術会議は、夫婦同氏の強制は人格権の侵害であり、個人の尊厳の尊重と婚姻関係における男女平等を実現するために選択的夫婦別氏制度を導入すべき、としている。日本学術会議や水野紀子(法学者)は、同氏強要は個人の尊厳・両性の平等を定める憲法第14条、憲法第24条に抵触する、と主張。日本弁護士連合会は、一方の氏の変更を強要する夫婦同氏制は、憲法第13条で保証された人格権を尊重していないと主張。2011年訴訟の原告団も、婚姻に当たりの氏変更を強制する民法750条は、憲法13条が保障する人格権のうちの氏名権を侵害する、と主張した。日本学術会議や二宮周平(法学者)は、民法2条の解釈基準と矛盾をきたす、としている。佐々木くみ(東北学院大学・法学者)は、民法750条における婚姻時の氏の変更という要件は、憲法第13条の人格権としての「氏の変更を強制されない自由」と憲法第24条で保障される「婚姻の自由」の双方の自由を同時に満たすことができず、十分な合理性も認められず憲法第24条に違反する、としている。 宮内義彦(オリックス元会長・社長・グループCEO)らは、現制度のように法律婚が強制力を持つ社会は窮屈で非寛容である、と主張している。 吉田晋(朝日新聞記者)は、利便性や不利益のみにではなく、姓を人格の象徴と考える人たちの「個人の尊厳」が問われている、としている。 山田昌弘(社会学者)は選択肢が広がることはよいと主張。また、反対論は感情論に過ぎないと批判した。 福岡県弁護士会は、「選択制」であるから、別氏にすると家庭が崩壊すると思う人は同氏を選択すればよいとしている。 朝日新聞は社説で、選択的夫婦別姓反対を叫ぶ人たちには、他人への寛容さが欠けている。それは、自分なりの生き方を選ぶ少数者に対する差別や偏見にさえつながりかねない、と主張している。 林美子(ジャーナリスト)は、選択的夫婦別姓を認めない同一化圧力が気持ち悪い、とする。個人の尊厳やアイデンティティーは大切であり、違う立場や考え方や感じ方の人を認めようとしないのは全体主義への下り坂だ、と反対論者を批判している。 青野慶久(ソフトウエア開発会社サイボウズ社長)は、現状の通称使用では氏の併用を余儀なくされることで、人格が分離したような感覚を受け、精神的苦痛が大きいとしている。 松浦千誉(拓殖大学教授)は、1976年に、「夫婦は一体ではなく、夫や妻という個人が全面に出てきた時、(選択的)夫婦別姓は当然のこととして受けれられるだろう」「現在を女にとって独立の人格の権利・義務の過渡期としてとらえる時、別姓でも同姓でも選べる道を開いておく制度が望ましい」と述べている。 山田卓生(法学者)は、1984年に、「氏不変の原則と自己決定権から『別姓を原則として改姓したいものは改姓してもよい』とする方がよりスッキリする」と述べている。 立石直子(法学者)は、1960年代、1970年代の民法改正を通じて導入された婚氏続称制度、縁氏続称制度と比較したとき、婚氏ならば制限なく、離婚や離縁において縁氏ならば7年以上の実績によりその続称が保障されるのに対し、婚姻前の氏については、少なくとも16年以上の使用実績があるにもかかわらず制度保障がないことは整合性を欠く、としている。 稲田朋美(政治家)は、2010年の時点では、選択的夫婦別氏運動は一部の革新的左翼運動等に利用されていると主張。一部の法案にあるような、婚姻届の提出時に生まれてくる子の姓を決めて提出することを年齢や健康上の事情により子が授からない場合に選択させることは人権侵害、と主張。また、改氏する者の不利益は改善されず、別氏の間接強制になりえる、とも主張していた。ただし、2018年に「通称使用で2つも姓を用いるのは混乱を招く」「高齢者同士の結婚も多い」としている。宮崎哲弥(評論家)は、1996年の著書において、夫婦同姓の強制は人格権侵害というが、親の姓の使用強制(例えば親の離婚や再婚によって親権が変わることで子供の姓が変わることなど)や親による子の命名も同様に人格権の侵害に当たるはず、と主張し、人格権を根拠にするならば姓氏全廃を主張しないとおかしい、と主張している。 多様性・多様な価値観 日本学術会議は日本社会は1980年代後半以降、国際的な男女平等の潮流と女性の経済的自立の傾向から、家族観、婚姻観、男女の生き方や役割観に変化があり、社会における男女の働き方、家族形態は多様化し、夫婦同氏制を支える立法事実は変化している、としている。 出口治明(ライフネット生命保険会長兼CEO)らは、多様な価値観を認めることが現代の日本では求められている、としている。 宮崎裕子(最高裁判所判事)は、最高裁判所判事として初めて結婚前の旧姓を使い始めたことについて「選択的夫婦別姓なら全く問題ない。価値観が多様化する中、可能な限り選択肢を用意することが非常に重要」としている。 佐藤莉乃(公益財団法人せんだい男女共同参画財団)は多様な家族の形を尊重すべきと主張。 日本経済新聞は、別姓強制ではなく希望する人には認めようとするもので、多様性を認める発想こそ社会に必要と主張。 青野慶久は、氏名制度はもっと多様化していくべき、としている。 プライバシー論 井戸田博史は、婚姻により強制的に氏を変更させられ新たな氏を世間に公表させられることはプライバシー侵害と主張。 ジョン・C.マーハ(地域研究学者)は、「夫婦同姓は人権問題にもなるだろう。強制的に世間に対して自分は既婚である、離婚した、再婚したということを公表させられることで、女性のプライバシー権が侵害されるからである。」としている。 西日本新聞は、「姓がころころ変わるのは、親しくない人にまで離婚や再婚を宣言しているようで、変えたくない」ために事実婚を選択した例を紹介。 2018年1月に選択的夫婦別姓を認めない戸籍法を国に訴えた裁判で原告は、夫婦別氏の選択を認めない現行法はプライバシー権を侵害している、と主張。 平等・差別論 民法の規定は、夫又は妻の氏のいずれを称するかを夫婦の選択にゆだねているものの、実際には妻の側が改氏する割合が2014年の厚生労働省の調査で全体の96.1%といわれており、日本学術会議などは、女性の間接差別に当たり男女平等に反すると主張している。林陽子(国連女子差別撤廃委員会委員長)も、夫婦の98%(2015年の報道では96%)において女性が改姓することは、女性の間接差別にあたる、と主張している。 選択的夫婦別姓を求める2018年5月訴訟において原告は、夫婦同姓を望むか、別姓を望むかは、個人の生き方に関するものであり、「信条」によって差別的取り扱いをすることは、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する、と主張している。さらに、2016年には約96%の夫婦において、妻が改姓しており、夫婦間の「実質的な平等」は保たれていない。これは、憲法24条に定めた「婚姻の自由」に違反する、とも主張している。 村上春樹(作家)は、「結婚したからどちらかが姓を変えなくちゃならないというのは、憲法に保障された男女同権とあきらかに矛盾することです。そんなの不公平」と述べている。 二宮周平(法学者)は、国際結婚では現在の制度でも夫婦別姓が可能であるが、日本国民同士の婚姻で夫婦別姓が認められないのは不公平と主張。 日本学術会議は、国民の意識が変化しつつあり、別氏が選択でないため事実婚で我慢せざるを得ず婚姻の自由が侵害されている人たちにも平等に婚姻の権利を与える必要がある、と主張している。 大塚玲子(ジャーナリスト)は、離婚時に離婚前の姓と旧姓を選べるのに、結婚時に旧姓を選べないのはおかしい、とする。 土堤内昭雄(日本フィランソロピー協会シニアフェロー)は、結婚観が多様な現代において同姓規定が問われるようになっているとし、氏にアイデンティティを感じている人同士で一方が改姓しなければならない場合は、人権侵害にあたる可能性があるとしている。 國重徹(政治家・弁護士)は、男女で同じ名前をつけることも増えており、現制度では同姓同名を避けられない場合がありうるため不合理としている。 久保利英明(弁護士)は「(選択的夫婦)別姓がだめなら、仮に亀井静香という人がいて、荒川静香という人と結婚したらどうする」と述べている。 秦郁彦(現代史家)は、夫婦の96.1%が夫の姓を選んでいることについて、この数字には養子による改姓が除外されており、もし改姓したくない女性が相手に改姓をお願いすれば受け入れる男性も多いのではないか、と主張している。佐々木俊尚(ジャーナリスト)は、反対派は、選択的夫婦別姓が導入されると同姓を選択した夫婦への批判の危惧や、「リベラル」への嫌悪から反対しているのではないか、と推測している。
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