秋田弁 秋田弁の概要

秋田弁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2013/06/26 05:51 UTC 版)

秋田県の位置。
平成の大合併後の秋田県の市町村。橙色は市、緑色は町、紫色は村。薄い線は市町村境界。濃い線は郡境界または旧郡境界。1:秋田市 2:能代市 3:横手市 4:大館市 5:男鹿市 6:湯沢市 7:鹿角市 8:由利本荘市 9:潟上市 10:大仙市 11:北秋田市 12:にかほ市 13:仙北市
平成の大合併前の秋田県の市町村。1:秋田市 2:能代市 3:横手市 4:大館市 5:本荘市 6:男鹿市 7:湯沢市 8:大曲市 9:鹿角市

目次

区画

日本語方言内での位置付け

日本語の方言区分の一例。

日本語方言の区画は方言区画論と呼ばれ、多くの方言学者により区画が発表されているが、大半の区画は東条操の案に近く、一般にも東条案に近いものが広く用いられている。日本語の方言の中では秋田方言は本土方言の中の東日本方言に、さらに東日本方言の中の東北方言に含まれる。東北方言は北奥羽方言(北奥方言)と南奥羽方言(南奥方言)に分けられる。秋田方言は青森県岩手県中北部(旧南部藩地域)、山形県沿岸部(庄内地方)、新潟県阿賀北地域阿賀野川以北)の方言とともに北奥羽方言に含められる。金田一春彦による案は、他の案と大きく異なり、近畿地方を中心として同心円状に内輪方言、中輪方言、外輪方言、南島方言と区画したものである。この区画は、近畿や四国などが音韻やアクセントの面で保守的であり、そこから離れるほど新しい変化が多いとしたものであるが、この区画では秋田方言は外輪方言に含められている[1]

秋田方言の下位区分。
由利・庄内・北越方言圏。

秋田方言内の区画

秋田方言(秋田弁)は近隣の他県(青森県、山形県、岩手県など)の方言に比べると県内共通の特徴を持っていると認められるが[2]、それでも例えば秋田県の北東端の鹿角地方と南西端の由利地方とでは明らかな地域差が認められる。

秋田方言の内部の区画としては、まず秋田県を南北に三分割して、「北部方言」「中央方言」「南部方言」を立てるものがある。このうち北部方言は鹿角地方、北秋田地方、山本地方の領域であり、中央方言は南秋田地方、河辺地方、南部方言は仙北地方、平鹿地方、雄勝地方、由利地方を含む範囲である。

鹿角地方と由利地方を独立させ、北部方言を鹿角方言と県北方言に、南部方言を県南方言と由利方言に分ける区画もある。鹿角地域は江戸時代には南部藩(盛岡藩)に属し、現在も語彙や文法などに旧南部藩領特有の表現が存在している。由利地方も亀田藩本荘藩矢島藩といった小藩が分立していた地域で、南に隣接する庄内方言との関係が深い。このように歴史を反映した言語の違いが見られる地域であり、方言の話し手の帰属意識などから見ても、これらの地域を独立させて扱うことができる。

由利方言の南に隣接する山形県沿岸部の庄内方言は、山形県内陸部の方言と様々な面でかなり異なって北奥羽方言的な色合いが濃く、秋田県の方言に連なる特徴が多い。この庄内方言と、さらに新潟県阿賀北地域の北越方言とを合わせて、「由利・庄内・北越方言圏」と呼ぶことがある。これは、東北方言的な発音が強く見られるにも関わらず、他地域の東北方言で極めて使用頻度が高い推量・意思の「-ベ」が全く現れず、推量と意思で別の表現(「-デロ」[3])を用いることや、秋田県や山形県の他地域で広く発達している聞き手尊敬の「-シ」(「-ス」)がほとんど用いられないことなどの特異性があるためである[4]

河川の流域から、鹿角方言と県北方言の地域を米代川流域方言、中央方言と県南方言を雄物川流域方言、由利方言を子吉川流域方言とする区分もある。また少数ながら、一部の語彙や語法に関して、海岸地帯と内陸地帯で違いが見られる場合もある。

以上の区画と、平成の大合併前後の自治体との対応関係を整理して示すと以下のようになる[5][6]

秋田方言の区画
三区画 五区画 河川区画 二区分 地方 自治体(平成の大合併後) 自治体(大合併前)
北部方言 鹿角方言 米代川流域方言 内陸地帯 鹿角地方 鹿角市鹿角郡 鹿角市・鹿角郡
県北方言 北秋田地方 大館市北秋田市北秋田郡 大館市・北秋田郡
海岸地帯 山本地方 能代市山本郡 能代市・山本郡
中央方言 中央方言 雄物川流域方言 南秋田地方 男鹿市南秋田郡 男鹿市・南秋田郡
河辺地方 秋田市 秋田市・河辺郡
南部方言 県南方言 内陸地帯 仙北地方 仙北市大仙市仙北郡 大曲市・仙北郡
平鹿地方 横手市 横手市・平鹿郡
雄勝地方 湯沢市雄勝郡 湯沢市・雄勝郡
由利方言 子吉川流域方言 海岸地帯 由利地方 由利本荘市にかほ市 本荘市由利郡

語彙

秋田方言の語彙の中で、共通語と異なるものには、かつて中央語で使われていたものが古語として残存したものと、中央以外で独自の発展をしたものがある。周辺の県と連続する分布のものも多い。現在では共通語と異なる語彙は衰退が激しく、急激に共通語に置き換えられつつある。

代表的な語彙

秋田方言の語彙の中で、特徴的なものや、若年層においても認知度が高いものの例を挙げる。

  • 標準語と語形が違っていても、規則的な音韻対応が成り立ち意味も同じもの(例えばタダミ(畳)、ナメァ(名前)など)は省く。
  • ガ行の音の発音は、備考欄で特に鼻濁音に指定しているもの以外は、すべて濁音である。
  • アクセントの番号は、それぞれ、下記のアクセントを表す(後に続く助詞までをも含む)。
番号 アクセント 番号 アクセント
0 低高高高高高高高・・・ 3 低高高低低低低低・・・
1 高低低低低低低低・・・ 4 低高高高低低低低・・・
2 低高低低低低低低・・・ 5 低高高高高低低低・・・

名詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
アサマ 0, 2 「朝間」(あさま)から[7]
1  
オヅゲッコ 0 味噌汁  
オド 2 オヤズ(親父)とも言う。
オドデナ、オドトイ 0 一昨日  
ガッコ 1 漬け物、香の物 「香々」(かうこ)からか[8]
ガモ 2 男児の陰部  
クヅ 2  
ゴンボ 0 ゴボウ  
サトッコ 2 砂糖  
ダマッコ 2 球体  
ダミ 2 駄目  
ブグ 0 ちゃんちゃんこ、綿入れ、袢纏  
ナヅギ、ナジギ 0 おでこ 「脳」を意味する古語「なづき」から[9]
バガケ 0 馬鹿 「馬鹿」に接尾辞の「け」が付いたもの[10]
バシ 0  
バシコギ 0 嘘つき  
バッチャ 1, 3 祖母、伯叔母、妹  
ベゴ 2 牛の鳴き声を表す「メー」「ベー」に指小辞「-コ」が付いて一語化したもの[11]
ブリコ、ブリッコ 0 ハタハタの卵  
ヘナガ 2 背中  
ボダ、ボダッコ 0 塩ジャケ。  
マナグ 2 目、眼 「眼」(まなこ)の母音転化[9]
ヤナサッテ 3 明々後日、三日後 東北地方で広く用いられる。
標準語の「やのあさって」は、四日後のことであることに注意。
ワラシ、ワラシッコ 0 子供  

動詞

活用の種類を示す。サ行五段とタ行五段の語は基本形語尾がシ、チと発音されることがあるが、動詞であることを明示するためここでは語尾にス、ツを用いて表記する。ワ行五段の語は鹿角地方や北秋田地方で使用される場合はラ行五段として用いられることがある。

語彙 アクセント 活用 意味 語源・備考
アラゲル 0 下一段 乱暴する。暴れる。  
ウルダグ 3 ガ行五段 慌てて急ぐ。  
ウルガス 3 サ行五段 液体に浸して柔らかくする。 「潤わせる」からか。
ウルゲル 3 下一段 液体に浸って柔らかくなる。  
オカ゜ル 2 ラ行五段 成長する。伸びる。育つ。 「ガ」は鼻濁音であることに注意。
カダル 1 ラ行五段 仲間に入る。参加する。  
カッチャグ 3 カ行五段 引っ掻く。 「掻き裂く」の音変化[12]
カマドケェス 4 サ行五段 破産する。 「竈を返す」からか。
ガメル 2 下一段 くすねる。盗む。取って独り占めにする。  
ゴシャグ 2 カ行五段 怒る。叱る。  
ゴッキリやる 3 ラ行五段 (指導として頭を)拳骨で叩く。  
タガグ 2 ガ行五段 持つ。 「ガ」は鼻濁音であることに注意。
チョス 1 サ行五段 弄る。触る。弄ぶ。 「嘲す」から[13]
デハル 2 ラ行五段 外に出る。 「出張る」から[14]
トショル 2 ラ行五段 年をとる。老いる。 「年寄る」から[15]
ドデする 2 サ行変格 びっくりする。 「動転する」からか。
ナカ゜マル 3 ラ行五段 横になる。 「長める」からか。
ナケ゜ル 2 下一段 捨てる。 「ゲ」は鼻濁音。「投げる」から。
(東北地方および北海道で広く用いられる。)
ヌグダマル 4 ラ行五段 暖まる。  
ヌグダメル 4 下一段 暖める。  
ネマル 2 ラ行五段 座る。  
ノッカガル 4 ラ行五段 寄り掛かる。  
ハヤス 2 サ行五段 野菜などを切る。  
ボウ 0 ワ行五段 追う。  
ボッコエル 4 下一段 壊れる。 「ぶっ壊れる」からか。
ボッコス 3 サ行五段 壊す。 「ぶっ壊す」からか。
マガス 2 サ行五段 (器の中の液体を誤って)こぼす。
マガエル 3 下一段 (器の中の液体が)こぼれる。  
マガル 2 ラ行五段
ヤガナル 2 ラ行五段 世話になる。 「厄介になる」からか。
ヨバル、ヨバル 0 ラ行五段 呼ぶ。招待する。  

形容詞

形容詞のイ語尾が融合している形と融合していない形がある場合、非融合形は内陸部で、融合形は海岸部で用いられる傾向がある[16]

語彙 アクセント 意味 語源・備考
1 良い、美しい。 「良し」(えし)から[17]
エダマシ、イダワシ 4 惜しい、勿体無い。 「痛ましい」、「いたわしい」から。
オモシェ 3 楽しい。 「面白い」から。
キカネ 0 粗暴だ。 主に子供の粗暴な様子を表す。
ケァ、ケェ、ケ 1 かゆい。  
カイ 2
コエァ、コエ 2 疲れている。疲れた。 「強い」(こわい)からか。
コチョケ 3 くすぐったい。  
サガシ 3 賢い。 「賢しい」(さかしい)から。
シネェ、シネェ 3 (食べ物が)硬い。 「しなう」の形容詞化からか。
サビ、サビィ 2 寒い。  
ジョサネ 3 簡単だ。 「造作無い」からか。
ショシ 1 恥ずかしい。 「笑止」の形容詞化[18]
トギ 0 遠い。 「遠い」の連体形「遠き」を「遠きい」として終止形に用いたもの[19]
トジェネ、トジェネァ、トゼネァ 0 淋しい。退屈だ。 「徒然ない」(とぜんない)から[20]
ナモカモネ 1 大変だ。冷静でいられない。 単独では用いず、前に接続する節を強調するときに用いる。
「何もかにもない」からか。
ネフテ 0 眠い。  
ノギ、ヌグエ、ヌギ 2 暖かい。暑い。 「温い」(ぬくい)から。
ハラワリ 2 腹立たしい。胸糞が悪い。 「腹悪い」から。
ヒズネ 3 辛い。苦しい。 「せつなし」から。
フルシ 3 古い。 「古い」のシク活用形「古しい」から[21]
メコ゜エ、メケ゜
メンコエ、メンケ
3 可愛らしい。 「愛し」(めぐし)、「めぐい」の母音交替形[22]
ヤッコエ、ヤッケェ 4 柔らかい。 「やわっこい」の音変化形[23]
ヨイデネ、ヨエデネァ 4 しんどい。大変だ。辛い。
容易では無い。手強い。
「容易で無い」から。
ンメァ 0 甘い。おいしい。 「うまい」から。

形容動詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
ンタ、ンカ 1 いやだ。 <例> 「ソエダバ、ンタ。」(それはいやだ。それではいやだ。) 「ンタグナル。」(いやになる。)

副詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
オガ 1 あんまり。とても。 後ろに「だ」をつけて「オガだ」(あんまりだ)、
「でね」をつけて「オガでね」(あんまりではないか)とも言う。
ガリット 3 ぴったりと。しっかりと。  
サット、サットガ 0 少し。ちょっと。  
スッタゲ、シンタゲ 0 すごく。とても。とても一所懸命に。 「死ぬほど」の意。
デラット 3 全て。すっかり。  
チャッチャド 0 さっさと。てきぱきと。すぐに。  
ナシテ 1 なぜ。  
マズ、
マンチ、マンツ、
マンジ、マンズ
1 とても。
(前に「セバ」や「ヘバ」を伴って)「さようなら」
「あらまあ」の意味の感動詞としても用いられる。
「先ず」の音変化。
ヤットガ 0 なんとか。辛うじて。やっと。  
コンタニ 0 こんなに。  
ソンタニ 0 そんなに。  
アンタニ 0 あんなに。  

助詞

種類 語彙 意味 語源・備考
格助詞 に。へ。 (室町時代の東国方言の残存)
ドゴ を。  
副助詞
(係助詞)
ダバ 〜の場合は。〜であれば。〜ならば。
(〜は。〜なら。〜では。)
<例>
「ソイダバ駄目ダ。」「ソイダバ駄目ダ。」(それでは駄目だ。)
副助詞 バリ ばかり。だけ。  
終助詞 ス、ッス (丁寧語) 「です」、「ます」に相当。用言の終止形の後ろに付く。
<例>
「ンダス。」(そうです。)
ッケ ようだよ。 用言の終止形の後ろに付く。
デ、デェ、ベェ しよう。 動詞の終止形の後ろに付く。
だろう。 用言の終止形の後ろに付く。

代名詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
オイ、オエ 0 私、俺  
オメ(ンガとも言う) 0 君、お前  
コイ、コエ 0 これ。こいつ(この人)。  
ソイ、ソエ 0 それ。そいつ(その人)。  
アイ、ソエ 0 あれ。あいつ(あの人)。  
ドイ、ドエ 0 どれ。  
コゴ 0 ここ。  
ソゴ 0 そこ。  
アソゴ 0 あそこ。  
アッコ 2  
ドゴ 0 どこ。  
代名詞に助詞「サ」が付くと縮約が生じるもの
語彙 アクセント 意味 語源・備考
コサ (「コゴサ」とも言う) 0, 1 ここに。こちらに。 「コゴ」+「サ」
コッチャ (「こっちサ」とも言う) 0, 2 こちらに。 「こっち」+「サ」
ソサ (「ソゴサ」とも言う) 0, 1 そこに。そちらに。 「ソゴ」+「サ」
ソッチャ (「そっちサ」とも言う) 0, 2 そちらに。 「そっち」+「サ」
アッチャ (「あっちサ」とも言う) 0, 2 あそこに。あちらに。 「あっち」+「サ」
(「アサ」という表現は使われず、「アッコサ」と言う。)
ドサ (「ドゴサ」とも言う) 0, 1 どこに。 「ドゴ」+「サ」
ドッチャ (「どっちサ」とも言う) 0, 2 どこに。どちらに。 「どっち」+「サ」

連体詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
0 こんな。このような。  
0 そんな。そのような。  
0 あんな。あのような。  
タ、ド 0 どんな。どのような。  
タラ 0 こんな。 「コンタ」のぞんざいな表現。
タラ、ンタラ、ンタ 0 そんな。 「ソンタ」のぞんざいな表現。

接続詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
セバ、ヘバ
バ、ヘ
1 では。じゃあ。 「さようなら」の意味の感動詞としても用いられる。
ンダガラ 3 だから。  
ンダドモ 3 でも。しかし。  

感動詞

語彙 アクセント 意味 語源・備考
アイー 0 あらー!  
サエ、サイ、
サーイ、サイー
1 しまった!  
ンタ、ンカ 1 いやだ。  
ンダ 0, 2 そうだよ。はい。  
ンダガラ 3 そうだな。そうだね。 「ンダクアルハ」の縮約[24][25]

古語の残存

かつて中央語(奈良時代までの奈良、平安時代から江戸時代中期までの京都、江戸時代中期以降の江戸・東京)で使われ、現在は中央語で廃れて古語となっている語彙の中で、中央以外の地域に方言として残っている例がある。秋田方言にもそのような例を見ることができる。また、特に日本では京都の言葉が中央語だった時期が8世紀末から18世紀中頃までの1000年近くに及び、その間は京都の語彙が京都から土地伝いに同心円状に広がっていくことを繰り返したため、京都からの距離が同程度で地理的に隔絶した東北地方と九州地方にかつての中央語から変化した同じような語彙が見られることもある。これは柳田國男の『蝸牛考』で指摘されたことで、「方言周圏論」として知られている。

秋田方言に見られる古語の残存として代表的なものには、アクド(踵、「踵(あくと)」から)、アゲジ(蜻蛉、「蜻蛉(あきづ)」から)、ウダテ(嫌だ、「転て(うたて)」(ひどく)から)、シャブギ(咳、「咳(しはぶき)」から)、タロンペ・タロッペ(氷柱、「垂氷(たるひ)」から)、トジェネァ・トゼネァ・トダ(淋しい、退屈だ、「徒然無い(とぜんない)」「徒然だ(とぜんだ)」から)、ナジギ(額、「脳(なづき)」から)、ネマル(くつろいで座る、「ねまる」(座る)から)、ハシェル(走る、「馳せる(はせる)」から)、マナグ(目、「眼(まなこ)」から)、メコ゜エ・メンコエ・メンケ(可愛い、「愛し(めぐし)」から)などがある。

語彙の分布

秋田県内で語彙の対立が見られる場合、県北と県南で対立する場合が多い。しかし青森県の津軽方言と南部方言のようにある線に等語線が集中するようなものではなく、境界の位置は語彙によって異なる。また県北と県南の対立がある場合、中央部で錯綜した複雑な分布が見られることがある。[26]。県北と県南の対立の典型は「走る」を意味する語に見られ、県北部で「ハシェル」、県南部で「サラウ」が用いられる[27]。また「下駄に付いた雪の塊」を表す語は、県北部では「コブ」が、県南部では「ボッコ」が広く用いられるが、山本地方から中央部にかけては「ゴッパ」「ゴッポ」「ゴップ」「ゴップリ」「ゴッコ」「ガッパ」「ガッポ」「ガッカモカ」「ガッカマッカ」「ダッポ」「コゴリ」「ユキコゴリ」など多様な語形が見られる[28]。「蛙」を意味する語は、県北部で「ゲァロ」「モッケ」が、県南部で「ビッキ」が主に用いられるが、中央部には「ゲァロゴ」「ゲァルグ」「ゲァロビッキ」などの語形が見られる[29]。「冷たい」を意味する語は、県北部では「シャッコエ」「シャッケ」「サッコエ」「サッケ」が、県南部では「ハッコエ」「ハッケ」が用いられる[30]

海岸部と内陸部で対立する分布を示す語もある。例えば「氷柱」を表す語は、内陸部では水溜りに張る薄氷と同じ語形の「シカ゜」「シカ゜マ」などで表現するが、海岸部ででは「タロンペ」「タロッペ」「タロゴ」などと呼んで薄氷と区別する[31]。さらにかつての藩の違いを反映して、鹿角地方や由利地方に秋田県の他の地域と異なる語彙が分布していることもあり、鹿角地方では青森県や岩手県、由利地方では山形県の庄内地方と連続する語彙も見られる。例えば秋田県内で鹿角地方のみに見られる語彙である「シカ゜ワリ」(エンドウ)、「ジゴクソバ」(ドクダミ)などは、青森県や岩手県にも見られる語彙である[32]

しかしながら、これらのパターンだけで説明できる語彙の分布はむしろ少なく、語彙ごとに境界線が異なり、また様々な語形が錯綜して分布していたり並存していたりすることも多い。

他地方との語彙の共有率を見ると、南秋田地方がどの地方に対しても高く、鹿角地方はどの地方に対しても格段に低い。一地方にのみ分布する語彙の数は南秋田地方が最も多く、河辺地方が最も少ない。一方、他地域には分布するのに一地方にのみ分布しない語彙の数は鹿角地方が突出して多い。これは、鹿角地方では隣接する青森県や岩手県の旧南部藩領で用いられる語彙が分布し、秋田県の他地域で用いられる語彙が用いられないという状況があることを示している[33]


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  1. ^ 柴田武ほか編 『岩波講座 日本語11 方言』 岩波書店、1977年、57-73頁。
  2. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、276頁。
  3. ^ 日高水穂「本荘・由利の方言/日本海沿岸地域と共通点」『秋田県民は本当に〈ええふりこぎ〉か?』無明舎出版 、2011年、ISBN 978-4895445375
  4. ^ 大石・上村編 (1975)、166-168頁。
  5. ^ 秋田県教委編 (2000)、12-14頁。
  6. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、276-277頁。
  7. ^ 秋田県教委編 (2000)、412頁。
  8. ^ 秋田県教委編 (2000)、324頁。
  9. ^ a b 秋田県教委編 (2000)、297頁。
  10. ^ 秋田県教委編 (2000)、271頁。
  11. ^ 秋田県教委編 (2000)、207頁。
  12. ^ 秋田県教委編 (2000)、449頁。
  13. ^ 秋田県教委編 (2000)、506頁。
  14. ^ 秋田県教委編 (2000)、428頁。
  15. ^ 秋田県教委編 (2000)、491頁。
  16. ^ 秋田県教委編 (2000)、909頁。
  17. ^ 秋田県教委編 (2000)、558頁。
  18. ^ 秋田県教委編 (2000)、567頁。
  19. ^ 秋田県教委編 (2000)、546-547頁。
  20. ^ 秋田県教委編 (2000)、566頁。
  21. ^ 秋田県教委編 (2000)、547頁。
  22. ^ 秋田県教委編 (2000)、590頁。
  23. ^ 秋田県教委編 (2000)、550頁。
  24. ^ a b c 秋田県教委編 (2000)、81-82頁。
  25. ^ a b 大石・上村編 (1975)、185-188頁。
  26. ^ 秋田県教委編 (2000)、908頁。
  27. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第29図、834頁。
  28. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第21図、826頁。
  29. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第10図、815頁。
  30. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第33図、838頁。
  31. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第22図、827頁。
  32. ^ 秋田県教委編 (2000)、秋田県言語地図第33図、907頁。
  33. ^ 秋田県教委編 (2000)、186-187、199-202頁。
  34. ^ 秋田県教委編 (2000)、77-80頁。
  35. ^ 大石・上村編 (1975)、181-184頁。
  36. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、290-291頁。
  37. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、291-292頁。
  38. ^ 大石・上村編 (1975)、195-197頁。
  39. ^ 秋田県教委編 (2000)、82-83頁。
  40. ^ 秋田県教委編 (2000)、87-89頁。
  41. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、289-290頁。
  42. ^ 秋田県教委編 (2000)、87-88頁。
  43. ^ a b 秋田県教委編 (2000)、128-132頁。
  44. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、288頁。
  45. ^ 小林編著 (2006)、203-216頁。
  46. ^ 秋田県教委編 (2000)、97-98頁。
  47. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、289頁。
  48. ^ 大石・上村編 (1975)、188-189頁。
  49. ^ 秋田県教委編 (2000)、117-119頁。
  50. ^ 秋田県教委編 (2000)、101頁。
  51. ^ 秋田県教委編 (2000)、108-109頁。
  52. ^ a b 秋田県教委編 (2000)、111-113頁。
  53. ^ 国立国語研究所 『方言文法全国地図』 第5集-表現法編2- 2002年、第208図 (PDF)凡例 (PDF)
  54. ^ 秋田県教委編 (2000)、116-117頁。
  55. ^ a b 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、277-278頁。
  56. ^ 秋田県教委編 (2000)、37-38頁。
  57. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、282-283頁。
  58. ^ 佐藤喜代治 「秋田県米代川流域の言語調査報告」 1963年、『東北方言考③』所収、16頁。
  59. ^ 秋田県教委編 (2000)、43-44頁。
  60. ^ 佐藤喜代治 「秋田県米代川流域の言語調査報告」 1963年、『東北方言考③』所収、22-25頁。
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  70. ^ a b 秋田県教委編 (2000)、69-70頁。
  71. ^ a b 秋田県教委編 (2000)、70-71頁。
  72. ^ NHK放送文化研究所編 『NHK 日本語発音アクセント辞典 新版』 日本放送出版協会、1998年、166頁。
  73. ^ 秋田県教委編 (2000)、72頁。
  74. ^ 秋田県教委編 (2000)、72-73頁。
  75. ^ 飯豊・日野・佐藤編 (1982)、153頁。
  76. ^ 大野・柴田編 (1977)、263-264頁。
  77. ^ 大石・上村編 (1975)、32頁。
  78. ^ 一音を一語を〜遠藤熊吉と西成瀬のことば教育〜 西成瀬地域センター
  79. ^ 毎日新聞東京本社地方部特捜班編著 『東北「方言」ものがたり』 無明舎出版、1998年。ISBN 978-4-89544-180-3
  80. ^ 小林・篠崎・大西編(1996)、4-7頁。
  81. ^ 秋田県教委編 (2000)、136-141頁。
  82. ^ 秋田県教委編 (2000)、607-608頁。







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