【テロリズム】(てろりずむ)
Terrorism
暴力による恫喝、粛清、紛争によって政治的主張を通そうとする思想。およびその実践。
日本語では思想のみを指し、具体的な行為や計画は「暴動」「テロ行為」などと略して表記する。
言葉の定義を厳密に解釈するのなら、紛争当事者の全てがテロリストである。
ただし、一般的には以下のような条件のいくつかを満たしたものだけをテロリズムと呼ぶ事が多い。
- 非合法戦闘員が参画している。
- どこまでの成果・被害をもって勝敗が決し戦闘を終結させるかについての指針がない。
- 平和的な交渉、公共に益する福祉活動、生産的な企業活動などを担当する部門を有していない。
- 組織の内部においても流血を伴うようなトラブルがしばしば発生する。
- 暴力の行使について法的な根拠がない。または訴訟、告発、裁判を回避するために暴力を行使する事がある。
- 兵站を支える経済的基盤が無法地帯やテロ支援国家から供給されている。
- 団体としての沿革、予算、人員の規模、掲げている思想の詳細などが公表されていない。
- 人員を調達するために洗脳を行っている形跡がある。
- 犯罪を犯した構成員が適切に処罰されていない。
- どのような人種的、文化的集団の利害を代表しているのか定かでない。あるいは誰の利害も代表していない。
- 紛争に勝利し戦略目標を完遂した後の政治的展望がないか、実現不可能と目されるような展望を持っている。
ちなみに、自爆テロや大量虐殺などはそれ自体ではテロリズムの特徴ではない。
テロリストの行動はしばしば非理性的に見えるが、実際にはマスコミが言うほど衝動的ではない。
紛争を行う根本的な動機を別とすれば、実際のテロリストが行う作戦は理性的である。
任務のために命を捨てるのも、大量の人間を殺害するのも、軍事的には理性的決断の範疇に収まる。
テロリストを理解するのは困難だが、誰にとって理解不能なのかはよくよく吟味する必要がある。
関連:9.11事件 地下鉄サリン事件 ロンドン同時多発テロ よど号事件 シーシェパード 三菱重工爆破事件
テロリズムの背景
人々、特に暴力の行使を命じる事が可能な有力者・権力者がテロリズムに傾倒する理由は主に3つある。
白色テロ
国家体制そのものが行使するテロリズム、通称「白色テロ」は歴史上もっともよく見られるテロリズムである。
これは端的に言えば「選挙で過半数を獲得できないので、投票者数を削減して過半数を獲得する」という方策である。
もちろん有権者を殺戮して回るのは非効率であるから、対立候補を擁立する、集票能力を持った有力者が主な標的となる。
民主政治でない政体であっても、クーデターや反政府テロを抑止するためにしばしば白色テロが実行される。
こうした白色テロの思想は、政府組織が不健全である事を示す何よりの証拠である。これは異論の余地がない。
しかし現実問題として、政府組織を健全に保つためには多大な人的資源、教育機関、そして国民を養う財源が必要である。
それらを高いレベルで維持するのは困難であり、特に紛争問題を抱えた国家にとっては並大抵の事業ではない。
およそどのような国家でも完全に健全な政府を持つ事はできず、結局は程度問題に過ぎないのが実情である。
民族対立、貧困、植民地支配などに由来する深刻な社会問題に対しては、白色テロ以外に選択の余地がない場合も少なくない。
また、政府が健全であるか否かは、民衆や有力者が政府を支持するかどうか、という問題とは全く関係がない。
究極的に言って、政府が支持されたければ国民に便宜を図るしかないからだ。
健全な国は社会保障や医療福祉を与え、発達した産業を維持する。あるいは賄賂や利権誘導を用いるかもしれない。
そして、そのいずれも不満足な国家は止むを得ず「射殺や絞首刑を免れる権利」を条件付きで配り回るようになるのである。
白色テロに最も適する体制は独裁であり、必然的に独裁者はテロリストの代表として後世に悪名を残す事が多い。
ただし、白色テロのほとんどはそうした独裁者の心根の邪悪さによって行われるものではない。
人権に対する罪はさておき、白色テロは必要だから実行され、その決断に適した人物であるから独裁者になるのである。
反政府テロ
これは民兵もしくは非合法戦闘員による武装集合によって行われるテロリズムである。
基本的に白色テロに対する抑止力を存在意義とし、政府との交渉、または新政府の樹立を目的とする。
ほとんどの反政府テロは別の目標から始まるが、紛争という性格上、敵の打倒、つまり政府転覆を目標とせざるを得ない。
こうした反政府テロ組織は、国家政府が白色テロを十分に行わない事によって出現する。
白色テロを必要としない恵まれた少数の国家はさておき、反政府テロを防ぐ最も一般的な手段は弾圧である。
テロリストが収容所・刑務所以外の場所で長期生存する事が不可能な情勢下であれば、反政府テロは起きない。
反政府テロは弾圧から逃れた有力者が再起を図り、反撃に出る事が可能な情勢でのみ発生する。
従って、ほとんどの反政府テロ組織は紛争直後や暴政によって治安が悪化した国家に集中する。
首都近郊に支持基盤が集中する政府に対して、地方自治体が支持基盤となって反政府テロ組織を結成する事例が最も多い。
こうしたテロ組織の活動理念が正当かどうかは個々の事例によるが、国際社会は基本的に反政府テロの正当性を認めない。
それを認めてしまったら、自国内の反政府分子を弾圧する白色テロの政治的正当性が失われるからだ。
逆に、こうした政府とテロリストの対立構造が代理戦争として利用された事例も多い。
反政府テロ組織そのものが他国のスパイによる支援を受けていた事例さえそう珍しいものではない。
例外的に、弾圧された状況からでもテロリズムを否定し、非暴力的な抵抗によって国際世論に訴えかける場合もある。
こうした主張は他国にとってもテロリストに対する物理的・心理的弾圧の効果があり、支援を得られる見込みはある。
とはいえ、そうした方法は何年も、あるいは何十年もかかる迂遠な方法であり、しかも自分達の生存を期し難い。
また、そもそも現政府がクーデターなど明白に許し難い汚点を有していなければ成立しない。
しかも、多くの反政府テロ組織は穏当な外交戦略を行えるほどの人道的正当性を備えていない。
いったん武装してテロリストになってしまった組織は武装を放棄できないし、平和主義を唱える事もほぼ不可能である。
そうなってしまえば、そんな組織の主張など誰も聞き入れず国内外から激しい攻撃に晒される為、武装し続けるしかない。
また、反政府テロ組織はしばしば国境を越えて国際化する。
国内で弾圧を受けた有力者が国外逃亡を図るのは珍しい事ではなく、むしろ国内に留まるより望ましい。
テロリストは必ず兵器を必要とするので、国外逃亡者は兵站や資金を海外から提供する事で自己を正当化する。
もちろん滞在先の国家は反政府テロリストを弾圧するのだが、それでも主戦場付近で経済活動を行うよりは安全である。
犯罪組織・利権団体・市民団体
多くの反政府テロ組織は短命である。
ある組織は事前の準備段階で当局に察知され、あるいは軍や警察との圧倒的戦力差に抗し得ずに壊滅する。
何らかの理由で勝利をつかんでも、それはより大規模な紛争を引き起こし、勝ち続けなければ存続できない状況に至る。
あるいはクーデターなどで新たな政府となり、新たな白色テロを主導し、新たな反政府テロ組織を作る引き金となる。
だが稀に、そうした結末を免れ、政府組織と停戦し(あるいは政府組織に侵食し)、奇妙な共存関係を築くものがある。
そうしたテロ組織の代表例はマフィア、市民運動、新興宗教などに見られる。
それらの組織はテロリストとしての実働戦力こそ弱体であるが、社会に与える影響は極めて多大である。
共通するのは、「政府そのものの転覆は狙っていないし、狙った事もない」という点にある。
それらの組織は自活可能なだけの利権を確保しており、ただその利権の確保と拡大のみを目的とする営利集団である。
ただ、その利権が一般的な良識に鑑みて、弾圧されても仕方ないようなものであるだけだ。
それは例えば麻薬などの禁制品であったり、詐欺的・暴力的な手法であったり、贈収賄であったりする。
また、こうした利権はしばしば他国の反政府テロ組織やスパイ組織と結びつく。
そしてもう一つ共通の特性として、根絶するのが事実上不可能に近いという点が挙げられる。
多くは根絶させられるのを防ぐために広い地域に少しずつ活動基盤を作り、多少の摘発は覚悟の上で活動する。
暴力団が一つ壊滅しても人員の補充は容易である。宗教や詐欺団体を解散させても、誰かが新しい手法を考え出す。
政府側がこうした組織を壊滅させた所で利権は回収できないし、そうした利権の構造を破壊するのもかなり困難である。
これらの特性によって、政府と犯罪集団との間に何らかの癒着関係が成立する余地がある。
テロ組織は捜査実績のための生贄や賄賂などを提供できるし、政府組織はそうしたテロ組織を黙認する事ができる。
こうした癒着関係は組織犯罪が世間の明るみに出れば破綻を免れ得ないため、マスコミと癒着する事も多い。
もちろん隠蔽工作にも暗黙の了解にも実行可能な限度があり、癒着関係はしばしば破綻する。
しかし、白色テロに対して正面から立ち向かうよりはずっと長く存続し、政府組織と長らく共存共栄できるのである。
テロリズムと同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書からテロリズムを検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。

- テロリズムのページへのリンク