破傷風とは? わかりやすく解説

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破傷風

破傷風は、破傷風菌Clostridium tetani )が産生する毒素のひとつである神経毒素破傷風毒 素)により強直性痙攣ひき起こす感染症である。破傷風菌芽胞の形で土壌中に広く常在し、 創傷部位から体内侵入する侵入した芽胞感染部位発芽増殖して破傷風毒素産生す る。破傷風の特徴的な症状である強直性痙攣破傷風毒素主な原因であり、潜伏期間(3 ~21 日)の後に局所(痙笑、開口障害嚥下困難など)から始まり全身呼吸困難後弓反張など)に 移行し重篤患者では呼吸筋麻痺により窒息死することがある近年1 年間に約40 人の患 者致命率:約30%)が報告されているが、これらの患者95%以上が30 才以上の成人であった

疫 学
我が国では破傷風は1950 年には報告患者数1,915 人、死亡者数1,558 人であり、致命率が高い (81.4%)感染症であった1952 年破傷風トキソイドワクチン導入され、さらに1968 年には予防 接種法によるジフテリア百日咳・破傷風混合ワクチンDTP)の定期予防接種開始された。以 後、破傷風の患者死亡者数減少し1991 年以降報告患者数1 年間3050 人にとどま っているが、依然として致命率が高い(2050%)感染症である。19992000 年報告され患 者に関して年齢分布は95.5%(150人)が30 歳上の成人であり、男女内訳男性90 人(57.3%)、 女性67 人(42.7%)であったまた、患者数1999 年には65 人、2000 年には92 人と増加傾向示し ており、今後その動向注意を払う必要がある
新生児破傷風1995 年報告最後にそれ以降報告されていない。しかし、世界新生児主要な死亡原因一つとなっている。

病原体
偏性嫌気性菌である破傷風菌好気的環境下では生育できないので、通常、熱や乾燥対 し高い抵抗性を示す芽胞形態世界中土壌広く分布している。我々の日常生活におい て芽胞との接触を完全に遮断することは不可能であり、誰にでも感染成立する可能性があると いえる
破傷風菌はその芽胞創傷部位より体内侵入し感染する。現在でも転倒などの事故土い じりによる受傷部位からの感染が多い。創傷部位適切に治療することにより、感染可能性低くなる。しかし、破傷風菌芽胞極めて些細な創傷部位からでも侵入する考えられており、 侵入部位特定されていない報告事例19992000年では23.6%)も多い。また、アメリカ合衆国 では注射による薬物依存者に破傷風患者報告され芽胞汚染され薬物、その溶解液注 射器からの感染可能性指摘されている。日本国内でも薬物乱用者増加懸念されている ことから、今後注意が必要である。
新生児破傷風は、衛生管理十分でない施設での出産の際に、破傷風菌芽胞新生児臍帯切断面汚染されることにより発症する

臨床症状
破傷風菌産生する毒素には、神経毒破傷風毒素、別名テタノスパスミン)と溶血毒テタノリジン)の2種類がある。破傷風の主症状である強直性痙攣原因は、主に神経毒である破傷風毒素によると考えられている。
患者通常3 ~21 日潜伏期経て特有の症状呈するが、その段階は次の4 期にわけられる(「改訂感染症マニュアル」、厚生省保健医療結核感染症監修、マイガイア、1999 年)。
第一期潜伏期の後、口を開けにくくなり、歯が噛み合わされた状態になるため、食物摂取が 困難となる。首筋張り寝汗歯ぎしりなどの症状もでる。
第二期次第開口障害強くなる。さらに顔面筋緊張硬直によって前額に「しわ」を生じ口唇は横に拡がって少し開きその間歯牙露出しあたかも苦笑するような痙笑(ひきつり笑 いといわれる表情呈するこのような顔貌を破傷風顔貌称する
第三期生命に最も危険な時期であり、頚部筋肉緊張によって頚部硬直をきたし、次第背筋 にも緊張強直きたして発作的に強直性痙攣がみられ、腱反射亢進バビンスキーなどの病 的反射クローヌスなどがこの時期出現する
第四期全身性の痙攣みられないが、筋の強直腱反射亢進残っている。諸症状次第軽快してゆく。 破傷風では初期第一期症状一般に開口障害)から、全身性痙攣第三期)が始まるまでの 時間をオンセットタイムといい、これが48 時間以内である場合予後不良であることが多い。 新生児破傷風潜伏期間が1~2 週間で、特徴的な症状には吸乳力の低下などがある。発症 する6090%が10 日以内死亡する19992000 年報告があった破傷風症例157例)の中で、臨床材料から分離されたのは 1 例であり、他の156 例は臨床症状から診断された。このように強直性痙攣などの破傷風特有な 症状により臨床的に診断されることが多い。破傷風治療の要である抗破傷風ヒト免疫グロブリンTIG療法は、発症初期実施することが望ましいので、破傷風の治療には早期診断が重要で ある。 破傷風の診断では感染部位特定することは重要であるが、必須ではなく実際に感染部位特定されていない場合少なくない19992000 年では26%)。そこで、外傷有無関わら ず開口障害嚥下困難などが認められ場合には破傷風を疑う必要があるまた、TIG 投与前の患者血清中の破傷風抗体価測定し免疫状態を推測することができる。 それが発症防御レベル(0.01 単位/ml )以上であるなら、破傷風でない可能性がある。しかし、こ こで注意する必要があるのは、TIG投与有無抗体測定方法である。TIG 投与後では、そ れにより受動的に導入され抗体過去接種されたワクチンにより誘導され抗体区別する ことはできないまた、測定方法中和試験ではなくELISA 法凝集法であるなら、必ずしも正 確に中和抗体価をあらわしていない可能性がある。さらに、(ELISA 法測定して発症防御レベ ル上の抗体価保有しながらも実際に発症した例もある。

病原診断

偏性嫌気性菌である破傷風菌栄養型は、検査時に好気環境暴露する容易に死滅する ので、継代などの作業速やかに行う必要がある一方破傷風菌形成する芽胞薬剤 や熱などに対して極めて高い抵抗性を持つことから、検査施設内の汚染防止十分な努力が必 要である。破傷風の検査従事者自分血中破傷風抗体価測定し、0.01 単位/ml 未満場合 には、ワクチン接種により免疫獲得しておくことが望ましい。 臨床症状強直性痙攣)から診断されることが多く検査時にはすでに抗菌薬投与後で検出困難な場合が多いことから、検体患者臨床材料など)から分離試み機会少ない。しかし、分離、さらにその菌株からの毒素検出が行われれば診断がより確実(病原体診断)になるために、細菌学検査として行うことが望ましい。 分離(図1)に用いられる検体には、感染局所清拭切除による組織片を含む組織洗浄 液や膿汁などがある。検査時には必要に応じて乳鉢などで粉砕し使用する

破傷風

分離方法は、2 本の培地脱気済みクックドミート培地チオグリコール酸培地など)に 検体接種した後、1 本のみを加熱80 ℃、5~20 分間)し、他の1 本(芽胞形成しにくい菌株存在するため)とともに培養37℃、2~4 日間)する。破傷風菌確認され少量の増培地分離 培地GAM 平板寒天培地血液寒天培地等)の辺縁近く接種し37℃24 時間嫌気ジャー内 で嫌気培養する多く破傷風菌遊走性があるために、接種部位から離れた所まで到達する。 その到達部位先端では純培養に近い状態で分離することができる。しかし、遊走性の低い破傷風菌もあるので注意が必要である。なお、増培地加熱100 5分間)後氷水中で急 冷し脱気した後に使用するグラム染色後の顕微鏡観察では芽胞染色されないが、菌体だけが染色されるために、太鼓バチ状の桿菌として確認できる培養初期では通常グラム陽性であるが、長期間培養する陰 性化する傾向がある。 その後分離菌株から破傷風毒素検出する必要があり、分離菌株培養した培地用い て破傷風毒素検出試験実施する(図2)。

分離菌株培養(4~6日間)した増培地濾過滅菌 (0.22 μm)し、その濾液0.2~0.4ml/匹)をマウス(a)大腿部皮下注射するまた、別のマウス (b)には、予め約100 単位の破傷風抗体(0.5ml)を静脈内投与する。破傷風抗体通常1 単位抗 体量は1,00010,000 マウス致死量毒素中和する投与30 分後に、さらにマウス(a)接種した濾液同じく接種する。これらのマウス4 日毎日観察する接種濾液中に破傷風毒素存 在する場合は、マウス(a)破傷風毒素特有の体躯硬直屈曲また下肢の強直性痙攣(図2. マウス写真)などを起こし濾液含まれる破傷風毒素量が多ければマウス死亡するマウス(b)は破傷風抗体により破傷風毒素中和されるために発症せず、生存する(図2. 結果例‐1)。しかし、マウス(a )と(b )がともに発症しない場合接種濾液中に破傷風毒素含めマウスに対して致死活性を示す物質存在しない考えられる(図2. 結果例‐ 2)。また、マウス(a)(b)がともに発症した場合接種濾液中に極めて多量破傷風毒素存在するか、もしくはマウスに対して致死活性を示す破傷風毒素以外の物質存在する可能性がある(図2. 結果例‐3)。

破傷風
破傷風
破傷風

治療・予防
治療として、TIG投与や、さらに感染部位充分な洗浄デブリードマン行い抗菌薬投与する対症療法として、抗痙攣剤の投与呼吸血圧管理も重要である。
破傷風毒素対す特異的治療薬であるTIG は、組織結合していない血中遊離毒素特異的に中和することができるが、既に組織結合した毒素中和することができない考えられている。従って、その投与可能な限り早期実施することが望ましい。TIG 療法としては、外傷患者では1,500~3,000単位1 回投与する熱傷患者では熱傷部位から免疫グロブリンを含む体液漏出するために、投与量増量する(「予防接種の手引き」、木村三生夫近代出版2000年)。
破傷風はヒトからヒト伝播することはないが、呼吸血圧管理可能な集中治療室などで実施することが望ましい。また、回復した患者でも十分な免疫誘導されないので、ワクチン接種をして免疫獲得することが望ましい。
現行の予防接種法」では、若齢者を対象定期予防接種として、DTP生後3カ月以上90カ月未満に4回)と沈降ジフテリア・破傷風混合トキソイドDT)(11歳以上13 歳未満1回)の接種推 奨されている。定期予防接種非対象者に対しては、沈降破傷風トキソイド用いた初回接種(4~8週間隔で2回)と追加接種初期接種後6~18カ月1回接種)がすすめられる多く場合こ れらのワクチン接種により、発症防御抗体レベル(0.01単位/ml)を超える抗体価獲得することが 可能である。さらに10年毎に追加接種行えば防御抗体レベル上の血中抗体価維持する ことができると考えられている。しかし、定期予防接種対象者である若齢者ではワクチンの接 種率は70%を上回る反面成人はじめとする非対象者では、事故など特別な理由なけれ ば破傷風トキソイドワクチン接種する機会殆どないので、成人多く十分な破傷風抗体保有していない状況である。近年の破傷風患者高齢化に伴い今後成人への破傷風トキソイドワクチン接種必要性に関する啓発望まれる
また、事故など発症おそれがある患者予防処置としては、予防接種に応じて沈降破 傷風トキソイド接種が行われる。定期予防接種が完全に行われてから10 年以内であるなら、患 者血中抗体価発症防御抗体レベル上回っていると考えられるが、それ以外場合では沈 降破傷風トキソイド接種実施し、さらに、創傷程度によりTIG 250 単位投与考慮する日本国内では1995年最後にそれ以降新生児破傷風報告はないが、致命率極めて高く 治療困難な疾患である。これには清潔な出産管理基本であるが、加えて母親免疫高めておく方法がある。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
破傷風は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、外傷既往臨床症状などから、破傷風が疑われる場合
なお、感染部位外傷部位)からの破傷風菌分離同定、及び分離からの破傷風毒素検出がなされれば病原体診断である旨を報告する


国立感染症研究所細菌第二部 福田 靖 岩城正昭 高橋元秀)



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