クレーン‐せん【クレーン船】
読み方:くれーんせん
⇒起重機船
クレーン船
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/18 23:36 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動クレーン船(クレーンせん、浮きクレーン、フローティング・クレーン、英語 floating crane, crane vessel)、または起重機船(きじゅうきせん)とは、重量物を吊り上げて移動させる用途に特化した船舶である。移動式クレーンおよび海上起重機の一種で、船にクレーンを搭載した形体が一般的である。最大級のクレーン船はパイプライン建設など沖合での工事、海上橋梁の建設などに使われている。大きいものは半潜水型で造られているが、単胴船型のものも用いられている。また、クレーンが旋回型のものと、旋回できないものがある。なお、港に配備されていることのあるガントリークレーンとは異なる。
歴史

クレーン船は14世紀初頭に現れ、中世ヨーロッパでは、ほとんどの港や入り江に、必要に応じて配備されていた[1]。1898年に進水したアメリカ海軍のキアサージ級戦艦「キアサージ」 (USS Kearsarge) は、1920年に吊能力250トンのクレーンを据え付けることにより、クレーン船に改造された。後にこれは「クレーン船1号」(Crane Ship No.1) と改名された。この船は戦艦の造船する際の砲塔や装甲の据え付けを多数行った。また、1939年に沈没したサーゴ級潜水艦「スコーラス」 (USS Squalus, SS-192) を引き揚げたことがよく知られている。
1949年、J・レイ・マクダーモット (J. Ray McDermott) がデリックバージ4号 (Derrick Barge Four, クレーン船4号) を建造。これは旋回可能な吊能力150トンのクレーンを装備していた。この種の船の登場によって、沖合工事産業の方向がそれまでと一変した。かつては陸上でパーツごとに作成して運んでいた石油プラットフォームなどを、モジュールごとに作成し、海上で組み立てできるようになった。メキシコ湾など浅瀬での事業では、バージで充分であった。
1963年、ヘーレマ (Heerema) はノルウェーのタンカー Sunnaas を300トンの吊能力を持つクレーン船に造り変えた。これは沖合工事として、半潜水型ではない最初のものとされている。後に Global Adventurer(グローバルアドベンチャー)に改名された。この種のクレーン船は北海などでの事業に適している。
1978年、オランダのヘーレマ社の設計、三井造船の造船で2隻の半潜水型のクレーン船が造船された。Hermod と DCVボールダーの2隻であり、それぞれ2000トンと3000トンのクレーンを備えていた。2隻合わせて5000トンの吊能力を持ち、また、後にどちらも更に大きな吊能力に増強された。半潜水型のクレーン船は海のうねりに対して強く、冬の北海のような環境でも使うことができる。また、瞬間的安定性が非常に高く、それによって単胴船の物と比べて非常に大きい吊能力を得ることができる。大きな吊能力の物が出てきたことで、石油プラットフォームの建設にかかる期間が3〜4ヶ月だった物が数週間にまで短縮された。この成功に触発され、半潜水型のクレーン船が多く作られた。1985年にアメリカ合衆国マクダーモット社の DB-102 が就航した。これにはそれぞれ6000トンの吊能力を持つクレーンが2つ搭載されていた。1986年にはイタリアの Micoperi 社が7000トンのクレーン2機を積んだ M7000 を造船した。
しかしながら、1980年代半ばに沖合建設の経済的好機が過ぎると、建造は下火になった。1988年にヘーレマ社とマクダーモット社の合弁事業 HeerMac が開始された。1990年には Micoperi は破産し、それにSaipem が融資を行った。M7000 は引き継がれ、後に サイペム7000 に改名された。1970年代の巨大コンテナリフトの産業から始まった巨大クレーン船の業界だったが、1980年代半ばに終焉を迎えるまでにこの分野で活躍したのは数社だけしかなかった。ヘーレマは1997年に合弁事業解消後にマクダーモット社の DB-102 を引き継いでいる[2]。船は Thialf と改名され、2000年に7100トンのクレーンが2基に増強され、これは現在世界最大の吊能力のクレーン船である。また史上最大のつり上げ記録は サイペム7000での 12,150トン(サブラタ港造成)である。
巨大クレーン船の一覧
最大のクレーン船 | |||
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船名 | 企業 | 吊能力 (T) | 型 |
Thialf | ヘーレマ | 14,200[3] (2 * 7100 トン) | 半潜水型 |
サイペム 7000 | サイペム | 14.000 (2 * 7000 トン) | 半潜水型 |
HYUNDAI-10000 | HYUNDAI(現代重工) | 10,000 ( 5,000トン X 2) | |
Svanen | Ballast Nedam | 8.700 [4] | 双胴船型 |
Hermod | ヘーレマ | 8.165 (1 * 4536, 1 * 3629) | 半潜水型 |
Balder | ヘーレマ | 6.350 (1 * 3629, 1 * 2722) | 半潜水型 |
Borealis | Nordic Heavy Lift | 5.000 [5] | 単胴船型 |
Oleg Strashnov | Seaway Heavy Lifting | 5.000 | 単胴船型 |
DB 50 | J・レイ・マクダーモット | 3.992 | 単胴船型 |
Rambiz | Scaldis | 3.300 [6] | 双胴船型 |
Asian Hercules II | Smit | 3.200 [7] | 単胴船型 |
DB 101 | J・レイ・マクダーモット | 3.175 | 半潜水型 |
DB 30 | J・レイ・マクダーモット | 2.800 | 単胴船型 |
Sapura 3000 | Sapura/Acergy | 2.700 [8] | 単胴船型 |
Stanislav Yudin | Seaway Heavy Lifting | 2.500 | 単胴船型 |
Saipem 3000 | Saipem | 2.177 | 単胴船型 |
日本の主なクレーン船
船名 | 企業 | 吊能力 |
---|---|---|
海翔 | 寄神建設 | 4,100t |
洋翔 | 寄神建設 | 4,000t |
第50吉田号 | 吉田組 | 3,700t |
武蔵 | 深田サルベージ建設 | 3,700t |
新寄隆 | 寄神建設 | 3,000t |
第28吉田号 | 吉田組 | 3,000t |
富士 | 深田サルベージ建設 | 3,000t |
駿河 | 深田サルベージ建設 | 2,200t |
金剛 | 深田サルベージ建設 | 2,050t |
さんこう | 日興産業 | 300t |
参考文献
- ^ Michael Matheus: "Mittelalterliche Hafenkräne," in: Uta Lindgren (ed.): Europäische Technik im Mittelalter. 800-1400, Berlin 2001 (4th ed.), p.346 ISBN 3-7861-1748-9
- ^ J. Ray McDermott ends HeereMac joint venture
- ^ American Bureau of Shipping Record, Thialf
- ^ GustoMSC
- ^ Huisman Special Equipment
- ^ AsianH1.indd
- ^ Scaldis Salvage & Marine Contractors NV
- ^ Acergy - Sapura 3000
関連項目
外部リンク
- ヘーレマ社(英語)
- J・レイ・マクダーモット社(英語)
- Micoperi社(英語)
- サイペム社沖合開発(英語)
- Seaway Heavy Lifting(英語)
- 寄神建設(日本語)
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クレーン船
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 18:21 UTC 版)
半潜水式クレーンヴェゼル SSCVスレイプニルを間近から見上げる。手前の白く見える施設は居住棟で、そこから突き出ているのはヘリコプター甲板。2基の起重機は居住棟の反対側に設置されている。 総トン数82,000の石油タンカー(手前|IMO: 9832248) と、その奥に控えたSSCVスレイプニル。ブームを高く掲げた10,000トン起重機がタンデムで聳え立っている。この角度では居住棟は起重機に隠れてほとんど見えない。 いずれもオランダのロッテルダム港にて2020年撮影。 沖合での建設工事における半潜水式の利点は、石油産業に続いてすぐに認識され、半潜水式の起重機船(きじゅうきせん、クレーン船)の導入が急がれた。オランダ資本のマリコン「ヘーレマ・マリンコントラクターズ(英語版)(HMC)」が、1978年に世界で最初の大水深海域建設船 (英:deepwater construction vessel、頭字語:DCV) として「DCVボールダー(英語版)(DCV Balder)」(IMO: 7710226) と、世界で最初の半潜水式クレーンヴェゼル/半潜水式起重機船/半潜水式クレーン船(英:Semi-submersible crane vessel、頭字語:SSCV)として前者の姉妹船「SSCVハーモッド(英語版)(SSCV Hermod )」(IMO: 7710214) を導入している(2隻とも造船したのは日本の三井造船)。これら2隻は、2つの低い位置の船体(ポンツーン)と、それぞれのポンツーンに3つの柱と、上部の船体で構成されている。また、同じ年には、J・レイ・マクダーモットの会社(J. Ray McDermott & Co., Inc.. アメリカ資本の多国籍企業である現マクダーモット・インターナショナル(英語版)の中核的前身)も、DCVボールダーの約半分の規模の半潜水式起重機船「DB 101」(IMO: 7709069) を導入している(同船の運用は今では廃止もしくは中止されている)。 半潜水式起重機船は1980年代後半に巨大化し、マクダーモット・インターナショナルは14,200トン吊起重機船「SSCVティアルフ(英語版)(SSCV Thialf )」(7,100トン起重機タンデム。IMO: 8757740)を1985年に完成させた。同船は1997年以降、ヘーレマ・マリンコントラクターズが所有・運用している。サイペム(英語版)(イタリアの多国籍油田サービス会社)はパイプレイ船(英語版)でもある14,000トン吊起重機船「サイペム7000(英語版)(Saipem 7000)」(7,000トン起重機タンデム。IMO: 8501567)を1987年に完成させ、現在も同社が所有・運用している。2019年にはヘーレマ・マリンコントラクターズが20,000トン吊起重機船「SSCVスレイプニル(英語版)(SSCV Sleipnir)」(IMO: 9781425|■右に画像あり)を建造し(2015年発注、2019年進水・竣工。造船はシンガポールの企業セムコープ・マリン(英語版)による。最大吊り上げ荷重 (maximum lifting load):20,000トン〈10,000トン起重機タンデム〉)、運用し始めた。それ以来、現在(2020年時点)は同船が世界最大の半潜水式クレーンヴェゼルである。SSCVスレイプニルは、クレーン船としては初めて低硫黄油 (MGO) と液化天然ガス (LNG) によるデュアルフューエルエンジン (dual fuel engine) を搭載し、世界的な環境規制の強化にも対応している。また、この船には収容人数400の居住棟(白く塗装されている施設)があり、ヘリコプター甲板とスイミングプールが附属している。4対8本の脚を備えている当船の名は、北欧神話の主神オーディンが騎乗する八本脚の神馬「スレイプニル」にちなんでいる。 歴代大きさランキング:クレーンヴェゼル(クレーンを搭載したヴェゼル、起重機を搭載した乗り物) cf. en:Crane vessel#Heavy lift vessels. 歴代大きさランキング:半潜水式クレーンヴェゼル(2020年時点|数は一つ目が完成年、2つ目は最大吊り上げ荷重) 第1位:SSCV Sleipnir(2019年|20,000t) 第2位:SSCV Thialf(1985年|14,200t) 第3位:Saipem 7000(1987年|14,000t) 第4位:SSCV Hermod(1978年|8,100t) 第5位:DCV Balder(1978年|6,300t) 第6位:DB 101(1978年|3,200t) - 唯一、今では稼働していない。 移動中に半潜水式起重機船は、バラスト水を排水しており、下部船体の一部のみが水中にある。吊り上げ作業を行う時は、バラスト水を注水して船体を沈み込ませ、下部船体を深く潜水させる。これにより、波やうねりの影響が軽減される。また、柱を遠く離して配置することにより、高い安定性が得られる。この安定性によって非常に重い貨物を吊り上げることができる。 フローティング・ドライドック 左:1560年にヴェネツィア共和国で刊行された木版画右:アメリカ海軍のFD「デューイ」(USS Dewey) に入渠している装甲巡洋艦ペンシルベニア (1903-1931) を題材とした1906-1907年頃の手彩色絵葉書 左:4基のFDを写した空中写真。手前に大きな3基、右上のほうに小さな1基があり、手前のFDには中型船が2隻、小さなFDには小型船が入渠している。ポーランドはグディニャの港にて2007年撮影。右:黒海に面したセヴァストポリの港にて2008年撮影。
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