炭酸カルシウム
「炭酸カルシウム」とは、化学式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩を意味する表現。
「炭酸カルシウム」の基本的な意味
「炭酸カルシウム」とは、化学式CaCO3 で表されるカルシウムの炭酸塩で、貝殻やサンゴの骨格、鶏卵の殻、石灰岩や大理石、鍾乳石などの主成分である。炭酸カルシウムの主な原料は石灰石で、建材やセメント、製紙やプラスチック、ゴムや食品、医薬品など幅広い用途を持つ。石灰石の産地は世界的に広く分布し、日本でも産出量が多く自給できる鉱物のひとつである。工業分野では「炭カル」とも称される。また、日本の石灰石は高品位で知られている。炭酸カルシウムの原料である石灰石は、ポルトランドセメントや酸化カルシウムなどの原料、大理石は建築材料としての用途がある。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕・分級して粉にした重質炭酸カルシウムと、石灰石を焼成してできる生石灰(酸化カルシウム)に水を加えたものに炭酸ガスを反応させて生成した軽質炭酸カルシウムがある。重質炭酸カルシウムは、紙やゴムの充填剤などに用いられる。一方、軽質炭酸カルシウムは沈降性炭酸カルシウムとも呼ばれ、顔料や塗料、製紙や歯磨き粉などに使われている。
炭酸カルシウムは農業分野においては、土壌の酸性を中和することを目的に使用される。炭酸カルシウムの純度の高いものは薬品用や工業用に適しているが、農業用では純度が低いものも用いられている。炭酸カルシウムは、通常アルカリ分53~60%を含み、大気中での安定性が大きいことから貯蔵中に変質することが少ないことが特徴である。また、炭酸カルシウムは、凝固点を下げ融雪を促す効果があるため融雪剤としても用いられる。
炭酸カルシウムには、六方晶系で天然に産出するカルサイト結晶、あられ石とも呼ばれる斜方晶系のアラゴナイト結晶、アンモニアやアルカリなどで合成するパテライト結晶がある。なお、石灰石のほとんどはカルサイト結晶で、綺麗に結晶化したものは「方解石」という。
炭酸カルシウムの起源は、地球誕生まで遡る。地球が誕生した頃は、大気の成分は二酸化炭素と窒素であり、酸素は殆ど存在しなかった。しかし、地球には二酸化炭素を溶かすことのできる水(海)が存在し、溶けた二酸化炭素は岩石に含まれるカルシウムイオンと化合することにより海底に堆積。サンゴや貝など石灰質の殻を持つ生物が現れたことで、炭酸カルシウムを含む殻の生成のために二酸化炭素が急速に吸収された。
一方で、光合成をする生物の誕生により地球では酸素の濃度が増加し長い時間をかけて現在の環境へと変化を遂げ、炭酸カルシウムは蓄積されていった。つまり、地球が誕生した時代に存在した大気中の二酸化炭素が、炭酸カルシウムとして地球に吸収されたということである。日本にある石灰石鉱床の殆どは、2~3億年前の古生代石炭紀から二畳紀にかけて出来たものと言われている。石灰岩がある地域では「カルスト」という地形が形成され、鍾乳洞などの景観を持つ景勝地も多い。
「炭酸カルシウム」の語源・由来
炭酸カルシウムは、炭酸イオンとカルシウムイオンから成り立っている。炭酸イオンを含む化合物の総称を炭酸塩という。炭酸イオンの英語表記「carbonate」は、炭酸塩と炭酸イオンの他に、炭酸エステルや炭酸塩化、炭化、飲料などに炭酸を加える操作のことなども指す。炭酸塩は、無機炭素化合物の一種であり、炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムなどがある。カルシウムは、ラテン語で石という意味のcalxから転じた石灰という意味を持つcalcsisが由来する金属元素のひとつである。
「炭酸カルシウム」の使い方・例文
・炭酸カルシウムは、建材やセメント、医薬品や食品など用途が幅広い。・炭酸カルシウムの原料である石灰石は、日本で自給できる数少ない鉱物だ。
・真珠の成分の約95%は炭酸カルシウムで構成されている。
・炭酸カルシウムを充填剤として配合することで、ゴムの耐熱性や加工性などが向上する。
・炭酸カルシウムが入ったお菓子で手軽にカルシウムを摂ることができる。
たんさん‐カルシウム【炭酸カルシウム】
炭酸カルシウム
炭酸カルシウム
炭酸カルシウム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/07 02:11 UTC 版)
炭酸カルシウム | |
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識別情報 | |
CAS登録番号 | 471-34-1 |
ChemSpider | 9708 |
E番号 | E170 (着色料) |
特性 | |
化学式 | CaCO3 |
モル質量 | 100.087 g/mol |
外観 | 白色の粉末 |
密度 | 2.711 g/cm3(カルサイト) 2.93 g/cm3(アラゴナイト) 2.54 g/cm3(ヴァテライト) |
融点 | 825 °C(分解) |
沸点 | 分解 |
水への溶解度 | 0.00015 mol/L (25 °C) 0.013 g/L (25 °C)[2][3] |
溶解度平衡 Ksp | 3.3×10−9[1] |
構造 | |
結晶構造 | 三方晶系(カルサイト) 直方晶系(アラゴナイト) 六方晶系(ヴァテライト) |
分子の形 | 直線形 |
熱化学 | |
標準生成熱 ΔfH |
−1206.92 kJ mol−1(方解石) −1207.13 kJ mol−1(霰石)[4] |
標準モルエントロピー S |
92.9 J mol−1K−1(方解石) 88.7 J mol−1K−1(霰石) |
標準定圧モル比熱, Cp |
81.88 J mol−1K−1(方解石) 81.25 J mol−1K−1(霰石) |
危険性 | |
主な危険性 | 無し |
NFPA 704 | |
Rフレーズ | R36, R37, R38 |
Sフレーズ | S26, S36 |
引火点 | 無し |
関連する物質 | |
関連物質 | |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
炭酸カルシウム(たんさんカルシウム、calcium carbonate)は、組成式 CaCO3 で表されるカルシウムの炭酸塩である。
貝殻やサンゴの骨格、鶏卵の殻、石灰岩、大理石、鍾乳石、白亜(チョーク)、方解石、アラレ石の主成分で、貝殻を焼いて作る顔料は胡粉と呼ばれる。土壌ではイタリアのテラロッサに含まれる。
製法
実験室では、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込むことで合成する(石灰水による二酸化炭素の検出原理)。
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カルサイト構造の模式図 固体結晶には常温常圧で最安定なカルサイト(三方晶系菱面体晶のもの、(方解石として産出)および準安定相であるアラゴナイト(直方晶系、霰石として産出)、不安定なヴァテライト(六方晶、ファーテル石)の構造多形が存在する[15][16]。三方晶系の格子定数は a = 6.36 Å、α = 46.4°であり、斜方晶系では a = 7.92 Å、b = 5.72 Å、c = 4.94 Å である[17]。
屈折率は三方晶系では通常光線に対して 1.6585、異常光線に対して 1.4864 の複屈折を示す。斜方晶系では 1.681(a軸に平行)、1.685(b軸に平行)、1.530(c軸に平行)と3軸不等である。
室温で塩基性の水溶液から炭酸カルシウムを析出させるとカルサイト結晶が生じるが、高温で析出させるとアラゴナイトが析出する。また、中性付近の溶液からだと最初はヴァテライトが析出する。
また、天然に産出する含水塩としてモノハイドロカルサイト CaCO3·H2O およびイカ石 CaCO3·6H2O が知られている。
コンクリーション(ノジュール)
自然界では、主にかつて海だった場所で、炭酸カルシウムを成分とする球状の岩石がしばしば見つかり、コンクリーション(Concretion)あるいはノジュール(Nodule)と呼ばれる。中に化石を含むことが多い。これらは海洋生物が死んで砂や泥に埋まると、その死骸から出た酸が海水中のカルシウムと反応して炭酸カルシウムを形成し、岩石として成長したと推測されている[13]。
ランゲリア係数
水中の炭酸カルシウムの析出傾向(腐食性)を示す数値にランゲリア係数がある[18]。理論的pH(pHs:水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態時のpH)との差を数値化したもので、数値が小さいほど腐食性が強い水であることを示す[18]。
脚注・出典
- ^ Benjamin, Mark M. (2002). Water Chemistry. McGraw-Hill. ISBN 978-0-07-238390-4
- ^ Aylward, Gordon; Findlay, Tristan (2008). SI Chemical Data Book (4th ed.). John Wiley & Sons Australia. ISBN 978-0-470-81638-7
- ^ Rohleder, J.; Kroker, E. (2001). Calcium Carbonate: From the Cretaceous Period Into the 21st Century. Springer Science & Business Media. ISBN 978-3-7643-6425-0
- ^ Wagman, D. D.; Evans, W. H.; Parker, V. B.; Schumm, R. H.; Halow, I.; Bailey, S. M.; Churney, K. L.; Nuttal, R. I.; Churney, K. L.; Nuttal, R. I. (1982). "The NBS tables of chemical thermodynamics properties". Journal of Physical Chemistry Ref. Data 11 Suppl. 2.
- ^ 白石恒二、1914年、日本特許第26117号。
- ^ a b 神戸賢 (2016). “新しい浮皮軽減剤クレント”. 柑橘 68: 16.
- ^ 長谷川博 (1973). “軽質および極微細炭酸カルシウム工業の現状”. 石膏と石灰 122: 33.
- ^ 【フォーカスワイド】世界を変える素材力/石灰石が紙・容器に サウジ政府も関心/TBM、100%バイオ由来材料も『日経ヴェリタス』2018年9月30日(10面)2018年10月26日閲覧。
- ^ 『ファミマとサークルKサンクスが「牛乳一本分のカルシウム入りパン」発売 伊藤忠が材料納品』SankeiBiz』2013年10月10日。2019年4月4日閲覧。
- ^ 千葉亮 (2016). “新規炭酸カルシウムの水産練り製品への応用”. 月刊フードケミカル 32: 53.
- ^ “カルタン錠250/カルタン錠500”. www.info.pmda.go.jp. 2023年9月11日閲覧。
- ^ a b “厚生労働省eJIM | カルシウム | サプリメント・ビタミン・ミネラル | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト”. 厚生労働省eJIM「統合医療」情報発信サイト. 2023年9月11日閲覧。
- ^ a b Generalized conditions of spherical carbonate concretion formation around decaying organic matter in early diagenesisScientific Reports volume 8, Article number: 6308 (2018) 2018年8月16日閲覧。
- ^ 中原昭次、小森田精子、中尾安男、鈴木晋一郎『無機化学序説』化学同人、1985年。 ISBN 978-4759801187。
- ^ Jamieson, J. C. (1953). “Phase equilibrium in the system calcite-aragonite”. J. Chem. Phys. 21: 1385.
- ^ Plummer, L. N. (1982). “The solubilities of calcite, aragonite and vaterite in CO2-H2O solutions between 0 and 90oC, and an evaluation of the aqueous model for the system CaCO3-CO2-H2O”. Geochim. Cosmochim. Acta 46: 1011.
- ^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年。
- ^ a b “ランゲリア指数(腐食性)”. 国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所. 2022年8月24日閲覧。
関連項目
外部リンク
「炭酸カルシウム」の例文・使い方・用例・文例
- カリーチで覆われ、硬い炭酸カルシウムは、土を外皮で覆った
- 炭酸カルシウム、方解石またはチョークに似た、それらを含む、またはそれらで成る
- カルシウム、炭酸カルシウムまたは方解石を含む、作るまたは帯びる
- 自然に発生する炭酸カルシウムを石灰に変えるために使用する窯
- 石灰岩質の洞窟の天井から下がる炭酸カルシウムの円柱
- 石灰岩質の洞窟の床から伸びる炭酸カルシウムの円柱
- アルジェリア産の植物で、かつては、燃やして炭酸カルシウムをとった
- 結晶性の炭酸カルシウムの鉱物形態
- 乳酸が炭酸カルシウムに反応して生成される白色で結晶性の塩
- 炭酸カルシウムは異形仮像で方解石と霰石として現れる
- 炭酸カルシウムで覆われた硬い下層土の表面または層で、乾燥地帯または半乾燥地帯に見られる
- 石灰に富む地下水によって堆積された炭酸カルシウムでなるやわらかく穴のあいた石
- 結晶化した炭酸カルシウムから成る一般的な鉱物
- 鍾乳石と石筍で見つかる炭酸カルシウムの形
- 石灰岩という炭酸カルシウムを主成分とする堆積岩
- 炭酸カルシウムという,不溶性の結晶物
炭酸カルシウムと同じ種類の言葉
固有名詞の分類
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