タールベルク:12のエチュード
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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タールベルク:12のエチュード | Zwölf Etüden Op.26 | 初版出版地/出版社: Breitkopf 献呈先: J. Epstein |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例![]() |
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1 | 嬰へ短調 fis-moll | No Data | No Image |
2 | ト短調 g-moll | No Data | No Image |
3 | 嬰ハ長調 Cis-dur | No Data | No Image |
4 | ホ長調 E-dur | No Data | No Image |
5 | ロ短調 h-moll | No Data | No Image |
6 | 変ロ短調 b-moll | No Data | No Image |
7 | ロ長調 H-dur | No Data | No Image |
8 | ハ長調 C-dur | No Data | No Image |
9 | ニ長調 D-dur | No Data | No Image |
10 | 変ホ長調 Es-dur | No Data | No Image |
11 | 変イ長調 As-dur | No Data | No Image |
12 | ヘ長調 F-dur | No Data | No Image |
作品解説
本練習曲は、六曲ずつの二巻からなり、第一巻が37年に、第二巻が翌38年に出版された。今回演奏されるこの作品26がタールベルクにとって唯一のエチュード集である。今日ではオペラなどの主題によるパラフレーズ作曲家というイメージが付きまとうタールベルクだが、彼もまた30年代の「エチュード・ブーム」の波に突き動かされて優れたエチュード集を書いた。エチュードの慣例に従って、各曲は限られたリズムモチーフで構成している。いずれのモチーフも指の敏捷さ、大きな跳躍、手の伸張、交差など特定の技術的目標を達成するために書かれており、それを過激なテンポで演奏するよう指示されている。たとえメトロノームの指定速度が遅くとも、一拍が細かい音符に分かれているために指示通りのテンポで弾くことは決して容易ではない。しかし、同時代を生きたパリ音楽院教授マルモンテルが伝えるところによれば、ショパン同様、巧みにペダルを操り音響をコントロールできたタールベルクの演奏には、粗っぽさや力まかせの打鍵からくる音の濁りが一切なく、極めて端正で透き通るような印象を与えたという。
作曲家解説の箇所で既に述べたが、この練習曲にも中音域に旋律を置きそれを分散和音でとりまくというタールベルクに典型的な書法が見られる。参考までに第2巻第4番の冒頭を挙げておこう。
オペラの旋律を多く作曲に用いたタールベルクだけあって、旋律の彫琢には余念がない。
ドビュッシー:12のエチュード(練習曲)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ドビュッシー:12のエチュード(練習曲) | 12 Etudes | 作曲年: 1913-15年 出版年: 1916年 初版出版地/出版社: Durand |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例![]() |
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1 | 5本の指のために(チェルニー氏による) "Pour les cinq doigts, d'apres M.Czerny" | 3分00秒 | No Image |
2 | 3度音程のために "Pour les tierces" | 4分00秒 | No Image |
3 | 4度音程のために "Pour les quartes" | 5分00秒 | No Image |
4 | 6度音程のために "Pour les sixtes" | 4分30秒 | No Image |
5 | 8度音程のために "Pour les octaves" | 3分30秒 | No Image |
6 | 8本の指のために "Pour les huit doigts" | 1分40秒 | No Image |
7 | 半音階のために "Pour les degres chromatiques" | 2分30秒 | No Image |
8 | 装飾音のために "Pour les agrements" | 4分30秒 | No Image |
9 | 反復する音符のために "Pour les notes repetees" | 3分30秒 | No Image |
10 | 対比的な響きのために "Pour les sonorites opposees" | 4分30秒 | No Image |
11 | 組み合わされたアルペッジョのために "Pour les arpeges composes" | 4分30秒 | No Image |
12 | 和音のために "Pour les accords" | 4分30秒 | No Image |
作品解説
1915年、これまで健康の不調と第一次大戦への苦悩などからしばらく作曲ができていなかったドビュッシーだが、ショパンの楽譜を校訂する仕事をきっかけに、創作力をとりもどした。ここで作曲されたのが《12の練習曲》であり、これはショパンに献呈されている。
この練習曲では、ただ技巧を追求するための作品として作曲されているわけではない。彼はこの作品を通じて、彼自身の音楽性のあり方を再検討したのであろう。
練習曲でありながら、運指法が指示されていないことも特徴の一つであるが、ドビュッシーはこれを意図的におこなっている。つまり、演奏者の腕や手の構造には違いがあるため、各人に合った運指法を各自で追求していくこともまた、課題の一つになっているのである。
6曲ずつの2巻に分けられている。
1.5本の指のための(チェルニー氏による) 」"Pour les cinq doigts, d'apres M.Czerny"
チェルニーの練習でなじみのいくつかのモティーフを模し、チェルニーへのオマージュとなっている。
2.3度音程のための / "Pour les tierces"
3度の音程は、《小組曲》の〈行列〉、《スコットランド行進曲》の冒頭、《ベルがマスク組曲》の〈月の光〉の開始、など、多くの楽曲の中で使用されている。
3.4度音程のための / "Pour les quartes"
4度もドビュッシーが好んだ音程である。変容しつつ流れていく4度のアラベスクの中で、ドビュッシーは「まだお聴きになったことがないものを、あなたは発見なさるでしょう」と書いている。
4.6度音程のための / "Pour les sixtes"
ドビュッシーは六度音程を「サロンにとりのこされた気どった令嬢」と形容している。
変ニ長調にはじまり、転調を重ね、変ニ長調に終わる。フレーズ構造は複雑で、多様なヘミオラが用いられている。
5.8度音程のための / "Pour les octaves"
〈陽気に、そして昂揚し、自由にリズムを強調して〉。3分形式の形をとっている。
スケルツォ的な練習曲。
6.8本の指のための / "Pour les huit doigts"
「この練習曲では、両手の位置がよくわかるので、親指をつかうのは具合が悪い。親指をつかう演奏は、曲芸のようになるだろう」とドビュッシーが注をつけている。
7.半音階のための / "Pour les degres chromatiques"
32部音符が半音階的に進行する。右手を中心とした半音階の練習曲。
8.装飾音のための / "Pour les agrements"
下行の分散和音の前打音の練習曲。ドビュッシー自身「イタリアふうバルカローレ(舟歌)のかたちによっている」とのべている。全曲中で特に高く評価されている曲の一つ。
9.反復する音符のための / "Pour les notes repetees"
同音連打の練習曲。
10.対比的な響きのための / "Pour les sonorites opposees"
テンポ、音域、ディナーミクなど、あらゆる要素が対比的に配置されており、非常に微妙なニュアンスをもった作品。
11.組み合わされたアルペッジョのための / "Pour les arpeges composes"
この作品には曲想表示がない。
12.和音のための / "Pour les accords"
和音とオクターブの跳躍進行で構成される。明確なリズムで演奏することが要求されている。3つの部分からなっており、レントの穏やかで、表情にとんだ中間部分をもつ。
※関連コーナー
金子一朗 ドビュッシー探究 ⇒こちら
スクリャービン(スクリアビン):12のエチュード(練習曲)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):12のエチュード(練習曲) | 12 Etudes Op.8 | 作曲年: 1894年 出版年: 1985年 初版出版地/出版社: Belaïev |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例![]() |
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1 | 嬰ハ長調 Cis dur | 2分00秒 | No Image |
2 | 嬰ヘ短調 fis moll | 2分00秒 | No Image |
3 | ロ短調 h moll | 2分30秒 | No Image |
4 | ロ長調 H dur | 2分00秒 | No Image |
5 | ホ長調 E dur | 2分30秒 | No Image |
6 | イ長調 A dur | 2分00秒 | No Image |
7 | 変ロ短 b moll | 2分00秒 | No Image |
8 | 変イ長調 As dur | 3分30秒 | No Image |
9 | 嬰ト短調 gis moll | 5分00秒 | No Image |
10 | 変ニ長調 Des dur | 2分00秒 | No Image |
11 | 変ロ短調 b moll | 4分30秒 | No Image |
12 | 嬰ニ短調「悲愴」 dis moll 'Pathetic' | 2分30秒 | No Image |
作品解説
スクリャービンが22歳の時に書き始められ、翌年に完成した。この練習曲集は、ペテルブルグ音楽院の後援者であり音楽出版業者でもあるべリャーエフが出版をすすめた。この練習曲集の作曲にあたり、スクリャービンがショパンの練習曲集を意識して12曲で1つのまとまりをなすように構成したことが、べリャーエフにあてた手紙からわかっている。なお、ベリャーエフは、この作品を出版した後のスクリャービンの演奏旅行も企画している。実際にスクリャービンは、1895年にはドイツ、スイス、イタリア、ベルギーへ、1896年にはパリ、ブリュッセル、ベルリン、アムステルダム、ハーグ、ローマへ旅している。
第1曲目は、3連符を多用する練習曲。3連符は重音の連打と単音の組み合わせからできている。主として、右手の3連符の3つ目の音がメロディーを構成する。
第2曲目は、スクリャービンに特有のポリ・リズムの練習曲。5連符を基調としている。スクリャービンは、この曲のような3対5の数比を特に好んで用いた。テヌートやスタッカート、スラーなど、多様なタッチが求められる。30小節足らずで、演奏時間も約1分と短い曲ではあるが、曲が進むにつれ左手の音域が広がっていくなど、推進力の変化がみられる。なお、幅広い音域を扱う左手の分散和音は、右手を痛めたピアニストというスクリャービンならではの音形と見ることもできる。
第3曲目は、オクターヴと単音を交互に弾くトレモロのような練習曲。両手でこの形を弾く部分では、オクターヴと単音の位置がずれている。また、いずれかの手のみがこの形を弾く部分では、ポリ・リズムを構成する。8分の6拍子のこの曲では、4分の3拍子としてのリズムやアーティキュレーションももち合わせ、複雑な構成を見せている。なお、スクリャービンはこの曲の冒頭に「テンペストーゾ」という指示を書いたものの、実際にはこの語が充分に曲の性格を示していないと感じ、気に入らなかったという。
第4曲目は、スクリャービンに特有のポリ・リズムの練習曲。5連符を基調としている。第2曲目と同様に、3対5の数比がみられる。しかし、その曲想は第2番とは異なり、こちらはアラベスクのような趣を持つ。
第5曲目は、オクターヴ、2音間のスラー、跳躍がキーワードとなる練習曲。後半からは、基本音価が8分音符の3連符となる。スクリャービンは当初、この曲のテンポをアレグロとしていたが、気に入らず、「ブリオーゾ」と改めた。しかし、それでもこの曲の性格を充分に示していないとして、満足することはなかったという。
第6曲目は、6度の重音の練習曲。冒頭でコン・グラツィアと指示されているように、スクリャービンの練習曲の中では穏やかな性格の曲となっている。
第7曲目は、拍の区切りとずらして3連音符を弾くクロス・フレーズの練習曲。終始一貫して「pp-p」のディナーミクの中で急速に弾くことが求められる。なお、生涯、好んで用い続けたポリ・リズムとは異なり、このクロス・フレーズは晩年の作品になるにつれ、影をひそめていく。
第8曲目は、メロディーに内声としての和音がつけられた練習曲。再現部では、ポリ・リズムとなる。左手の弾くバス・ラインは、対旋律の役割も担う。そして、ポコ・ピウ・ヴィーヴォとなる中間部で、右手が8分音符と3連符の組み合わせが印象的なメロディーを奏でる。そこには、和音を主体とした左手が添えられる。この曲は、初恋の人と言われるナターリア・セケリーナに寄せられていることから、「ナターリアのレント」と呼ばれており、叙情的な美しさが大変好まれている。
第9曲目は、16分音符、8分音符、3連音符など、多様な音価によって、両手のオクターヴにポリ・リズムをもたらす。ディナーミクの頂点は「ff 」で、「pppp 」で曲を閉じるため、非常に幅広いディナーミクを表現することになる。中間部は、コラール風となっており、左右の拍のずれがある種の浮遊感を生み出している。作品8の中では最も規模の大きな練習曲となっている。
第10曲目は、右手は重音を、左手は跳躍音程を弾く練習曲。右手の重音は長3度の響きをもち、4度音程で記譜されているところでも、響きは長3度となっている。また、3部形式で書かれた他の練習曲とは異なり、2部形式で書かれている。
第11曲目は、メロディーと内声、バスの3層のテクスチュアで構成されている。内声の和音は両手を交差させて弾くため、同じく変ロ短調で書かれたシマノフスキの作品4-3の練習曲にどこか通じるものが感じられる。なお、シマノフスキの作品は20世紀の幕開けである1900年代と、スクリャービンよりも後に作曲されている。
第12曲目は、オクターヴと跳躍音程の織り交ぜ、和音の連打等、複雑な見かけをしている練習曲。ショパンの作品10-12(革命)の練習曲との類似が指摘されている。再現部では、オクターヴのメロディーに両手の和音の連打が伴われる。なお、この曲は、スクリャービン自身が大変好んで演奏したと言われている。
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