舟歌
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
カセッラ(カゼッラ):舟歌 | Barcarola Op.15 | 作曲年: 1910年 出版年: 1917年 初版出版地/出版社: Ricordi |
アルベニス:舟歌 | Barcarola Op.23 | |
リャプノフ:舟歌 嬰ト短調 | Barcarolle in G sharp minor Op.46 | 作曲年: 1911年 出版年: 1911年 初版出版地/出版社: Zimmermann |
マルトゥッチ:舟歌 | Barcarola Op.64-3 | 出版年: 1885?年 初版出版地/出版社: Milan |
マルティヌー:舟歌 | Barcarolle | 作曲年: 1949年 |
ラフ:舟歌 | Barcarolle Op.143 | 作曲年: 1867年 出版年: 1869年 |
ディエメ:舟歌 | Barcarolle Op.2 | 出版年: 1860年 |
リャードフ:舟歌 嬰ヘ長調 | Barcarole Op.44 | 作曲年: 1898年 出版年: 1898年 初版出版地/出版社: Belaïev |
ヴォルフ, エドゥアール:舟歌 | Barcarolle Op.159 | |
エステン (オースティン):舟歌 | Gondellied Op.56 | |
ゲーゼ(ガーゼ/ガーデ):舟歌 | Barkarole | 出版年: 1852年 初版出版地/出版社: Hjemmet |
伊左治 直:舟歌 | Barcarolle | 作曲年: 1996年 初版出版地/出版社: 全音楽譜出版社 |
トーメ:舟歌 | Barcarolle Op.64 | |
ノヴァーク:舟歌 | Barcaroly Op.10 | 作曲年: 1896年 出版年: 1896年 初版出版地/出版社: Simrock |
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 | Barcarolle Fis-Dur Op.60 CT6 | 作曲年: 1845-46年 出版年: 1846年 初版出版地/出版社: Leipzig, Paris and London 献呈先: Baronne de Stockhausen |
作品解説
「舟歌(バルカロール)」はヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来するといわれている。8分の6拍子で軽快な動きを伴うが、どこか感傷やもの悲しさを含んでいるのが多くの「舟歌」の共通点である。しかし、これをジャンルとしてその伝統を辿ることはほとんど不可能である。おそらく流行の始まりは19世紀のオペラにこの種の歌が好んで用いられたことにある。ピアノのための作品としては、メンデルスゾーンが『無言歌集』所収のものを含めて3曲を残したほか、ショパンのものが最大規模かつ最高の佳作である。また、フォーレは13曲を書いていることから、ジャンルとして「舟歌」に取り組んだものと考えられる。しかしそれ以降は再び散発的な作品に留まっている。「舟歌」はジャンルと言うよりは、19世紀中盤から20世紀にかけて長く流行した性格小品のひとつというべきだろう。
ショパン《舟歌》は、いっけんすると、ロンド風に冒頭主題が繰り返し現われ、合間にさまざまなエピソードが挿入されているように聞こえる。そのため、ヴェネツィアの街を小舟で巡る――たとえば繰り返し回帰する主題は、「大水路」の風景に相当する、といった――風景描写的な解釈も可能であろう。しかし《舟歌》は実は、ショパンの中でも整った形式を持ち、優れて精緻な主題労作が施されている。
各セクションは、次のように区分できる。
小節番号 | セクション | 調 |
1-3 | 序奏 | Fis: 主調 |
4-16 | 第1主題 | Fis: 主調 |
17-23 | 間句 | |
24-34 | 第1主題(確保) | |
35-39 | 間句 | Fis-A 主調から同主短調のiii度長調へ |
40-50 | 第2主題前半 | A:/fis: |
51-61 | 第2主題前半(確保) | |
62-71 | 第2主題後半 | A: |
72-77 | 間句 | Cis: 属調 |
78-83 | 挿入句 | |
84-92 | 第1主題(再現) | Fis: 主調 |
93-102 | 第2主題後半(再現) | |
103-110 | 第2主題前半(再現) | |
111-116 | 終結句 |
つまり、複数主題の提示、ブリランテなパッセージワークによる中間部、主題の再現という、ショパンがもっとも多用する三部形式の一種である。しかしこの作品では、中間部がひじょうに縮小されている上、美しい旋律に依存するような単純な反復ではなく、巧みな主題が配置がなされている。
第1主題と第2主題前半は、絶え間ない8分の6拍子のオスティナート・リズムに攪乱されるが、音楽内容はきわめて対照的である。調は同主短調に移る。また、第1主題が下行形旋律であるのに対し、第2主題前半は上行形である。第2主題後半は調以外には前半とそれほど明確な繋がりはない。この主題が持つ華やかさは、ここではまだ音量によって抑えこまれている。
中間部では、わずか5小節ながら、8分の6拍子の刻みが一瞬やんで、拍節リズムに収まらない自由な時間の流れになる。しかしこの部分は単に、異なる時間の流れを意識させるに留まり、ショパンの中間部特有の旋律美を聴かせるには至らない。
再現部は、第1主題の変奏から始まり、一瞬の休符をクライマックスとして完全終止し、主調のまま第2主題後半へ突入する。続く第2主題前半の再現は、後楽節のみを用い、ときおり同主短調の響きを覗かせつつ、壮大な物語を終わりへと導いていく。ここはすでにコーダの領域であり、第2主題後半の壮麗な回音型動機で最高潮を形成し、前半後楽節の多層的で下行形の動機によってそれを収束させている。こうした動機の使い方は実に見事という他はない。
このようにみると、ショパンの《舟歌》はフォーレのそれとは異なり、抒情的な音楽というよりはむしろ、《スケルツォ》や《バラード》と同種の疑似ソナタ形式による物語的な音楽である。しかしそれが硬直した図式に陥らないのは「つなぎ」の巧さにある。序奏の3小節や第35-39小節の間句、各セクションの始まりを告げる重音トリルなどは、全体の動機労作とほとんど関係ないからこそ、わずか数小節で聴き手の耳を捉え、音楽の雰囲気をがらりと変化させてしまう。全体は自然に流れ、あたかも羅列的に、あるいは抒情的に聞こえるのである。この作品こそ、物語性と抒情性とを見事に融合させたショパン晩年期の最高傑作のひとつと呼ぶにふさわしい曲である。
舟歌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/08 11:31 UTC 版)
舟歌(ふなうた)は、ピアノのための性格的小品のひとつ。ヴェネツィアのゴンドラの舟歌を模したもので[1]、バルカロール(フランス語: Barcarolle)、バルカローラ(イタリア語: Barcarola)、あるいはバルカローレ(Barcarole)とも呼ばれる。
解説
もともと船頭が舟を漕ぐのに都合の良い調子で口ずさむ歌であったと考えられ、このような民謡や労働歌としての舟歌にロシアの『ヴォルガの舟歌』、日本の『最上川舟唄』などがある。
早い例としてメンデルスゾーンの『無言歌集』における「ヴェネツィアのゴンドラの歌」(Venezianisches Gondellied)があるように、クラシック音楽における性格的小品としてのルーツはヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来するといわれている[1]。その後ショパン、アントン・ルビンシテイン、フォーレ、チャイコフスキー、プッチーニ(「マランゴーナの舟歌」)、ラフマニノフらが作品を残している。とくにフォーレは生涯を通じて13曲の舟歌を作曲しているのが注目される。フォーレの作品は舟歌を1つのジャンルとして創作に取り組んだものと考えられるが、後に続く者はなく、再び散発的な作品にとどまっており、ジャンルとしては確立せず、19世紀から20世紀にかけて長く流行した性格的小品というにとどまった[1]。またオッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』の中の『ホフマンの舟歌』も有名である。
舟歌はおおむね6/8、9/8といった複合拍子をとり、低音部で比較的単純なリズムが繰り返されて波間をたゆたうような印象を与え、その上にメロディーが歌われる。舟歌のメロディーは多くの場合、軽やかではあるが、どこか感傷やもの悲しさを漂わせているのが通例である[1]。チャイコフスキーのもの(ピアノ曲集『四季』より)は珍しく4/4をとっている。形式的には中間部を挟んで同じメロディーが繰り返される3部形式が多い。
その中でショパンによる作品(1846年)は、フォーレの作品とは異なり、抒情的な音楽というより、ショパンのバラードやスケルツォと同種の疑似ソナタ形式のような整った形式をもち、精緻な主題労作が施された音楽であり、舟歌の名を持つ音楽として最大規模かつ最高の佳作であろう[1]。
脚注
- ^ a b c d e 朝山 奈津子 (2008年). “解説 (2)”. ピティナ・ピアノ曲事典. 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ). 2023年6月8日閲覧。
関連項目
「舟歌」の例文・使い方・用例・文例
舟歌と同じ種類の言葉
- >> 「舟歌」を含む用語の索引
- 舟歌のページへのリンク