過激主義への批判と反論
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「アゾフ連隊」の記事における「過激主義への批判と反論」の解説
2015年6月22日、日本の『産経新聞』は、アゾフは外国人排斥を主張しているわけではないと主張した。 クライストチャーチモスク銃乱射事件や米国カルフォルニア州の極右団体の事件など2020年3月時点までに関与を疑われた事件は複数あり、複数のメディアからも白人至上主義との関わり合いを疑う報道が出ているが、2022年4月29日時点では、それらの白人至上主義者の犯罪に対してアゾフが具体的に関与し、それを支援したことを立証出来た事件は一件もない。 2018年10月、米国バージニア州シャーロッツビルでの2017年8月の集会を含むいくつかの集会で暴力を振るったして、カリフォルニア州の白人至上主義の右翼団体のメンバーとアゾフ大隊のメンバーとの関連が報じられた。宣誓供述書によれば、事件の容疑者とされたRobert RundoとRundoが設立したアメリカの極右RiseAbove Movement(RAM)の3人のメンバーらは暴力を振るうように扇動し、共謀した罪で起訴された。2018年10月、この事件を担当した、この時点で10か月の経験を持つスコット・ビアワースFBI特別捜査官は、「アゾフがRAMの軍事訓練を施し、彼らの過激化を助けた」と申し立てた。根拠として、Rundoが経営しているRight Brand ClothingのInstagramページに、東ヨーロッパのファシスト、ネオナチシーンの第一人者であるオレーナ・セメンヤカ(es:Olena Semenyaka)と、2018年夏にドイツで開かれたネオナチ組織が主宰するフェスティバルに参加し講演した時に面会したとみられる写真を挙げた。セメヤカは、当時、他のウクライナの極右政党とアゾフ大隊の創始者ビレツキーが退役後に共同で設立した、極右政党ナショナル・コー(国家軍団)の国際部門の責任者を努めており、ビアワース氏のこの申し立てにおいて、「現在、ウクライナ国家親衛隊の一員であるアゾフ大隊は、ネオナチの象徴主義とイデオロギーで知られており、米国を拠点とする白人至上主義組織の訓練と過激化に参加している。」とした。 しかし、Bierwirthは、アゾフ連隊がRAMのメンバーに軍事的訓練を提供したという彼の主張を裏付ける、更なる証拠を提示されないまま、2019年6月、米国地方裁判所の裁判官は、Rundoとその仲間に対する連邦告発を却下する判決を下した。 2019年10月、同年3月にニュージーランドのクライストチャーチで発生した銃乱射事件を受け、アメリカ民主党の新人議員マックス・ローズ(英語版)下院議員は、犯人が白人至上主義者に一般的で、「黒い太陽」のシンボルに似た意匠をジャケットに描いており、アゾフ大隊も連隊編入以前は黒い太陽と似た白い太陽の意匠を使用していた事や、犯人が極右やネオナチに傾倒していた事や、以前にウクライナに渡航していた事などを根拠に、アゾフ連隊を外国のテロ組織リストに掲載することを要求し、自身を含む39人の署名入りの公開書簡をアメリカ合衆国国務長官マイク・ポンペオに送った。 これらに対し、『フォーリン・ポリシー』のマイケル・コルボーンは、ローズ議員は、国家親衛隊に属する後のアゾフ連隊については一切認識しておらず、以前の義勇兵的イメージのまま「アゾフ大隊」と呼ぶテクニカルな問題もあったが、犯人のマニフェストで、ウクライナのアゾフ大隊で訓練したと認めたことと、カリフォルニア州ポーウェイとエルパソでの極右テロ攻撃がアゾフ大隊に関連が関連があった、という完全に誤った情報が含まれていたと主張した。マイケル・コルボーンは、この二つの主張は真実ではなく、犯人のマニフェストにはアゾフ大隊に関する言及はなく、ウクライナは欧州各地を旅行した際に一度通過したのみであり、カリフォルニア州ポーウェイとエルパソでの極右テロ攻撃はクライストチャーチの事件の犯人に触発されたため、ローズの論理の飛躍に過ぎず意味がないと主張している。 また、ローズ下院議員の公開書簡に関して、ウクライナの内務大臣アルセン・アバコフは、アメリカ当局者との会談でアゾフ連隊を擁護し、この手紙を「恥ずべき情報キャンペーン」と呼び、ウクライナは「これらの汚く陰湿な方法に対抗する」と主張した。また、ヴァシリー・ボドナー副外相は「アゾフ連隊はウクライナの擁護者であり、テロ組織ではない」と語った。また、ウクライナの政権与党「国民の僕」の議員を中心に、ローズの手紙に署名したアメリカの国会議員の数に合わせた39名のウクライナの国会議員の署名入りの抗議の手紙がアメリカ議会の外交委員会委員長に送られた。この中で、議員達は「アゾフ連隊への『テロ組織』または『海外の暴力的な白人超常主義過激派グループ』と言う非難は、私たちの魂に重くのしかかり、ウクライナの軍人、退役軍人、ボランティアの心に痛々しいほどに響き渡ります」と主張した。 2020年2月11日、The Sofan Center代表のAli Sofanと、マイク・ポンペオ米国務長官に公開書簡を送ったマックス・ローズ議員は『ニューヨーク・タイムズ』にアゾフ連隊に批判的な論説記事を出した。 また、アントン・シュホツホフ(英語版)は、ローズとソーファンの主張に対して、アトランティック・カウンシルの2020年2月24日付の記事で、アゾフを国際テロ組織に指定すべきでない理由と題する論説を発表した。シュホツホフは、書簡の著者達は、アメリカの右翼テロリストとウクライナ内務省内の軍事組織との間の継続的なつながりの明確な証拠を見出せておらず、アゾフに「連邦法に基づく外国のテロ組織」というレッテルを貼ることは重大な間違いであり、ロシアの戦略の擁護であると主張した。シュホツホフは、2014年当時のウクライナでは分離独立派の活動に対する戦力不足から義勇軍の参加が必要だった事、主要部分が極右によって形成されたアゾフ大隊でさえ極右以外の多様なイデオロギーの戦闘員が含まれていた事、アゾフには設立当初からユダヤ人部隊等も存在した事、国家親衛隊に正式編入された際にウクライナ政府とアゾフ自体が組織を非政治化しようとしてきた事などを根拠に、現在のアゾフ連隊がテロ組織として認定されるはロシア側の戦略に利する事だとした。 日本の公安調査庁は『国際テロリズム要覧2021』において、極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながりの項目でアゾフ大隊について言及した。公安調査庁は白人至上主義の過激派の動向を分析したThe Sofan Center(TSC)の報告書を元に、『2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,「ウクライナの愛国者」を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる』と記述していた(後に誤解を招く記述だったとして削除された)。 また、国家公安調査庁がアゾフ大隊の記述をした際に参考文献として挙げていたレポートを書いたThe Sofan Groupの代表アリ・ソーファン(Ali Sofan)は、2020年の『ニューヨーク・タイムズ』の記事までは、他国や米国の白人至上主義者の犯罪者との関わりを強く主張していたが、2021年1月7日付の『TIME』誌の記事でアゾフ連隊について、過去6年間に50か国から17,000人以上の外国人戦闘員がウクライナにやってきたと推定したが、その大多数は極右イデオロギーとの明らかなつながりを持っていないとした。 ロシアのウクライナ侵攻開始後の2022年4月8日、日本の公安調査庁は「近時、一部において、公安調査庁が『アゾフ連隊』をネオナチ組織と認めている旨の事実と異なる情報が拡散されている状況が見受けられるが、このような誤った情報が拡散されていることは誠に遺憾」とし、「これは『国際テロリズム要覧2021』の『ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した』等の記載を根拠にするようですが、そもそも、『国際テロリズム要覧』は、内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたものであって、公安調査庁の独自の評価を加えたものではなく、当該記載についても、公安調査庁が「アゾフ大隊」をネオナチ組織と認めたものではありません。ついては、上記のような事実と異なる情報が拡散されることを防ぐため、当庁HP上の「国際テロリズム要覧2021」から上記の記載を削除することとした」と発表した。 2022年3月15日、UnHerd(英語版)の記者アリス・ルシノス(英語版)は、ウクライナがナチスに支配されているという主張は嘘であるとしアゾフ大隊の必要性を認めながらも、ネオナチ等に所属する組織が国家的支援を受けて独自の戦車と砲兵隊を所有しているウクライナの現状は異常だと主張した。ルシノスは、過去の西側メディアがシリア内戦において同国のアサド政権による「反政府勢力は全てテロリストだ」とのプロパガンダに加担することを恐れ、批判を躊躇した事でシリアの反政府勢力が過激化してしまった事を例にとり、ウクライナにおいてもアゾフの様な極右組織が放置されるのは政治的・軍事的に危険であり、ロシアのプロパガンダに加担する事を恐れて極右勢力への批判を躊躇うべきではないと主張した。 2015年3月10日の『USAトゥデイ』の記事によれば、記者のインタビューに対して、アゾフ連隊の新兵訓練係のアレックス軍曹を名乗る人物が自分をナチスだと認め、彼の苦楽を共にした戦友のうち、たかだか半分以下しかナチスでないと笑いながら答えた。名誉毀損防止同盟は、アレックスと名乗ったこの人物はネオナチが流用することもある古代北欧のシンボル「ミョルニル」を描いたワッペンをつけていたとしている。一方で、アレックスは大戦中のドイツのようにウクライナの強力なリーダーシップを支持しているが、ユダヤ人に対するナチスの大量虐殺に反対していると述べ、また少数派は平和で特権を要求しない限り容認されるべきであり、裕福なオリガルヒの財産は奪われ国有化されるべきであると述べた。アゾフ連隊のスポークスマンであるアンドリー・ディアチェンコはアレックスの発言を受け、メンバーの僅か10%から20%がナチスであると述べ、「アレックスがナチスであることは知っているが、それは彼の個人的なイデオロギーであり、アゾフの公式イデオロギーとは無関係である。」「彼は優れた訓練軍曹であり、戦術と武器のスキルの優れたインストラクターだ。」と述べた。また、副司令官であるオレグ・オドノロジェンコは「アレックスはグループの代弁者ではなく旅団の立場と解釈されるような発言をする権利はない。規律を欠く行為には厳罰を科す。」と述べた。 2019年11月15日、DailyBeastの記事によれば、ウクライナの極右研究の第一人者とされるヴャチェスラフ・リハチェフ(Vyacheslav Likhachev)は米国民主党のローズ議員の公開書簡に関して、「多くのアゾフ兵士がネオナチのイデオロギーを共有しているが、米国の国会議員はウクライナ国内軍の連隊全体をブラックリストに載せることは出来ない。それはウクライナの州をテロリズムで非難するのと同じだ。」と述べたとされる。 2022年3月17日、ドイツのDeutsche Wirtschafts Nachrichten(DWN)は、『ワシントンポスト』紙のリタ・カッツの引用として、西側諸国からの何千人ものネオナチがロシアと戦うためにウクライナに送られるとし、アゾフ連隊の公式テレグラムには、米国、英国、ドイツ、フランス、スペイン、オランダ、スウェーデン、ポーランド、その他の西側諸国からの部隊への参加を希望する人々からのメッセージが溢れており、彼らの多くは「攻撃的なファンタジーを実現」したいと思っているとした。また、リタ・カッツは過去10年間のシリアがテロ攻撃を計画するためのプラットフォームであったことがフランスのパリやベルギーでのテロを引き起こしたとした上で、今のウクライナにおいて過激派が新しい武器と戦闘・経験を持って帰国したり、インターネットを介して同胞に影響を与えたりすることが出来るとしている。
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