船長の釈放
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 14:50 UTC 版)
「尖閣諸島中国漁船衝突事件」の記事における「船長の釈放」の解説
これらの中国政府の措置を受けて、9月24日、「国内法で粛々と判断する」と発言していた菅首相と前原外相が国連総会出席への外遊で不在の中、那覇地検が勾留延長期限が5日残っている時点で、「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮して、船長を処分保留で釈放する」と発表した。これにより、船長は「不法上陸」扱いとなり、入国管理局が国外退去の手続きをし、翌25日未明に中国のチャーター機で中国へと送還された。船長は帰国した際、Vサインであいさつし、現地報道機関に対し尖閣諸島は中国領であり自身の行為は合法である旨を主張し英雄扱いされた。10月20日には地元福建省泉州市の道徳模範に選ばれたが、その後は当局から尖閣諸島周辺への出漁を禁止され、自宅を監視されているという。 仙谷官房長官は、船長の釈放は検察独自の判断でなされたと述べてこれを容認する姿勢を明らかにした。また柳田稔法相と同日昼すぎに会談していたことに関しては「全く別件だ」と釈放決定との関与を否定し、「日中関係は重要な2国間関係だ。戦略的互恵関係の中身を充実させるよう両国とも努力しなければならない」と中国との関係修復を努める考えを示した。また釈放決定に対し民主党など政権内部からも批判が出ていることについては「承知していない」と述べた。国連総会でアメリカ滞在中の菅首相は、「検察当局が事件の性質などを総合的に考慮し、国内法に基づき粛々と判断した結果だと認識している」と述べた。同じくアメリカ滞在中の前原外相は、「国内法にのっとって対応した検察の判断に従う」と述べた。 検察では当初、船長の起訴は可能という判断であり、勾留延長をするなど起訴に向けて動いていたが、24日午前の閣議の後、仙谷官房長官が柳田法務大臣に船長の釈放を指示し、さらに大林宏検事総長の指示の下、那覇地検による釈放の発表になったという。一方、この決定について前原外務大臣を除いた外務省政務3役(副大臣・政務官)は、事前に釈放の話は全く知らされていなかったという。民主党関係者からは、国連総会出席中で不在の菅と前原に代わって仙谷が泥を被ったのではないかとの見方も出ている。那覇地検は外交関係に配慮したとの趣旨を盛り込むことについて政府の了解を得て、記者会見では「日中関係を考慮すると、身柄を拘束して捜査を続けることは相当ではない」と言及した。政府が当初の方針から釈放に転じた理由として中国新聞は、中国が11月に行われるAPECを欠席することを懸念した菅が船長の帰国を求めたと報じた。また、2020年の産経新聞の前原誠司元外相への取材によると、民主党政権は処分保留による船長釈放を「検察独自の判断」と強調し、政治判断による釈放を否定してきたが、実際には当時首相だった菅直人が、アジア太平洋経済協力会議首脳会議があるとして「胡錦濤が来なくなる」と強い口調で迫り、逮捕した中国人船長の釈放を指示したという。当時の外務省幹部も「菅首相の指示」を認めたが、菅は産経新聞の取材に「記憶にない」と答えた。 船長の釈放を受けて、中国側は改めて日本に、事件についての謝罪と賠償を求める声明を発表。これに対し日本政府は「中国側の要求は何ら根拠がなく、全く受け入れられない」とする外務報道官談話を出した。これに対して中国側は「日本の行為は中国の主権と中国国民の権利を著しく侵犯したもので、中国としては当然謝罪と賠償を求める権利がある」と反論している。その後、首相自ら「尖閣諸島は、わが国固有の領土であり、謝罪・賠償は考えられない。全く応じない」としている。 この間にも中国政府は尖閣周辺海域に船舶を派遣しており、東シナ海ガス田に「海監51」等の10隻以上の調査船を前例のない規模で集結させた。また、24日の自民党外交部会では、既にガス田「白樺」に掘削用ドリルパイプが持ち込まれ、日中の合意違反である中国の単独掘削が開始された見込みであることが明らかになった。さらに、24日から10月6日まで、再び「漁政201」と「漁政203」が魚釣島の接続海域内に進入・徘徊し、魚釣島の周辺を半円状に何度も往復し、海上保安庁の巡視船やヘリコプター、P-3C哨戒機による監視と警告を受けた。これは事件発生以来2度目の「漁政」の接続水域内への進入となる。9月29日には「漁政」が初めて尖閣諸島最東端の大正島の接続水域内にまで進入し、中国メディアは歴史的偉業と報じた。 9月29日は細野豪志が「個人的な理由」で中国を訪問した。これについて菅首相や前原外相は政府は関わっていないと発言していた。しかし毎日新聞11月8日朝刊において、仙谷官房長官が尖閣沖問題で、民間コンサルタントである篠原令に中国との橋渡しを依頼し、その結果、細野と篠原らが戴秉国国務委員らと会談し、「衝突事件のビデオを公開しない」、「仲井眞弘多沖縄県知事の尖閣諸島視察を中止する」という密約を結び、これに仙谷官房長官が同意した事が報じられている。この際、ブリュッセルのASEMでの10月4日の菅首相と温家宝首相との25分間の「交談」がセッティングされたと見られている。なお、2020年の産経新聞の取材で、細野は当時の交渉の状況について、戴秉国との会談が7時間以上に及び、仙谷に電話することもできなかったと証言した。 与党の反応 民主党では、平野博文前官房長官が、勾留延長の途中で釈放決定がなされたことについて、「どういう理由なのか、はっきり説明しないといけない」と述べ、松原仁、金子洋一など5人の議員も釈放に抗議する声明を発表した。別の幹部も「菅も仙谷も、外交なんて全くの門外漢だ。恫喝(どうかつ)され、慌てふためいて釈放しただけ。中国は、日本は脅せば譲る、とまた自信を持って無理難題を言う。他のアジアの国々もがっかりする」と述べた。 2010年9月29日、「国家主権と国益を守るために行動する議員連盟」の準備会合が国会内で開催された。原口一博、岩屋毅を共同座長とすることを決めた。民主・自民両党の有志議員に衆院会派「国益と国民の生活を守る会」の城内実を合わせ約10人が出席。 民主党元代表である小沢一郎は、この事件への対応について「僕がもし、政府の責任者だったら、船長を釈放しませんね」と発言している。また、船長を釈放したのは那覇地検の判断だとする政府説明について、小沢は「検察に政治的判断をさせるのはどうかな」と疑問視する考えを示すとともに「政治主導というなら政治家が責任を持って最後は判断しないと駄目だ」と批判している。 国民新党では、亀井静香代表が「政治が介入したとしか思えない。事実上の指揮権発動だ」と指摘した。亀井亜紀子政調会長も、「釈放には政治的判断が働いたと考えざるを得ない」と述べた。 野党の反応 自由民主党では、谷垣禎一総裁が、「(中国人船長を)直ちに国外退去させた方が良かった。最初の選択が間違っていた」と主張し、那覇地検が釈放理由として日中関係への配慮などを挙げたことについて「捜査機関が言うべきことではない」と述べた。また大島理森副総裁は「政治が司法に介入した」と述べた上で、「日中関係も考慮した」と発言した同地検の鈴木亨次席検事の国会招致を求めた。 公明党では、山口那津男代表が、「日中関係をこじらせることは誰も望んでいない」「釈放は一つの転機になる。法的な主張をぶつけ合うより、政治的な解決をしていく場面に転じた。釈放判断は必ずしも否定するべきではない」と評価した。一方、高木陽介幹事長代理は「国内法、領土を守るという国家として当たり前のことを放棄した」と指摘した。 みんなの党では、渡辺喜美代表が、菅内閣の弱腰外交を糾弾しなければならないと述べた。 日本共産党では、志位和夫委員長が「国民に納得のいく説明を強く求める」との談話を発表した。 社会民主党では、福島瑞穂党首が「地検の判断を尊重するしかない」と述べた。 たちあがれ日本では、平沼赳夫代表が、尖閣諸島に対する中国側の領有権主張を日本が暗に認めたことにもなりかねないとの懸念を表明した。 日本の民間の反応 衝突事件の現場から程近い石垣島では、漁業関係者から「怒りを通り越して気絶しそうだ」「国交を断絶してでも、(船長を)起訴すべきだった」「尖閣諸島周辺はカツオの好漁場だが、漁師は怖くて行けない」などの声があがった。また、釈放された船長が石垣空港から中国へ送還される際、金網越しに罵声を浴びせた住民もいた。 中国政府の反応 2010年9月25日に中国政府が発表した声明文の要旨は以下の通り。 日本が尖閣諸島海域で中国人漁民15人と船長を拘束し、船長を拘置したことに強く抗議する。 魚釣島とその付近の島嶼は中国固有の領土である。 今回の事件に対して、日本に謝罪と賠償を求める。 日中両国は対話を通じて戦略的互恵関係を発展させていくべきであり、この立場は変わらない。
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