船長の遺書
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/10 06:39 UTC 版)
船長の三鬼登喜造は妻子に宛てて遺書を書き残しており、おもに妻のつねと二人の子供の家族の今後の生活、子どもたちの将来を心配する内容である。特に長男のキクオには「大きくなっても漁師にはなるな」と重ねて書き記しており、どことも知れぬ海上で死を待つ身となった三鬼の無念さが伺える。 サテ ワタクシコトハシアワセノワルイコトデス ワタシノタメニアナタラニクロウヲサセマシテマコトニスミマセン アナタモコレカラハクローデス コドモラフタリヲタヨリニシテヒトニタノミマス イサクノジーサンヤバーサンニヨロシクユウテクダサイ ワタシモアト十二、三年イキタカッタ フタリノコドモタノミマス キクオガオキクナリテモカナラズリョウシダケハサセヌヨウタノミマス オワセノヒトラニタノミ ガッコウダケイレテモライナサレ キクオガオキウナリマシタラショウバイノコトハトラキチサンニマカセナサレ イツマデカイテモオナジコト ワタシノスナハソウメンニモチデシタナ ミキトキゾウノツマ オツネサマカツエ オマエノガッコウノソツギョウシキヲミズニ トッタンハカエレナクナリマシタ ナサケナイ オマエハコレカラカシコクナリテ カウコウモシタリ ハハニタシニナリテヤッテクダサレ タノミマス カシコクタノミマス ハハノイフコトヲキイテクレ トッタン キクオ トッタンノイフコトヲキキナサイ オキクナリテモ リョウシハデキマセン カシコクタノミマス ハハノイフコトヨクキキナサレ 以下に現代書きに再構成したものを記載する(一部にみられる方言や誤記、脱字などは修正している)。 「さて、私の事は仕合せの悪いことです。私のためにあなた等に苦労をさせまして、真にすみません。あなたもこれからは苦労です。子供等二人を頼りにして人に頼みます。イサクの爺さんや婆さんに宜しく言うてください。私もあと12、3年生きたかった。二人の子供頼みます。キクオが大きくなりても必ず漁師にだけはさせぬよう頼みます。尾鷲の人等に頼み、学校だけ入れてもらいなされ。キクオが大きうなりましたら、商売のことはトラキチさんに任せなされ。いつまで書いても同じこと。私のすなは、そうめんと餅でしたな。三鬼登喜造の妻、おつね様。カツエ、お前の学校の卒業式を見ずにトッタンは帰れなくなりました。情けない。お前はこれから賢くなりて孝行もしたり、母に足しになりてやってくだされ。頼みます。賢く頼みます。母の言うことを聞いてくれ。トッタン。 キクオ、トッタンの言うことを聞きなさい。大きくなりても漁師はできません。賢く頼みます。母の言うことをよく聞きなされ」
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