船長の義務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/21 05:06 UTC 版)
善管注意義務旧商法では、船長は善管注意義務を負い、船長はその職務を行うにつき注意を怠たらなかったことを証明しなければ船舶所有者、傭船者、荷送人その他の利害関係人に対して損害賠償責任を免れることができないとされ(旧商法705条1項)、また、船長は船舶所有者の指図に従ったときであっても船舶所有者以外の者に対しては前項に定めた責任を免れることができないとされていたが(旧商法705条2項)、この規定は改正商法では削除された。ただし、当該規定が削除されても、傭船者や荷送人は、運送人に対し契約上の債務不履行責任を追及できる(商法575条)。 商法上の書類備置義務船長は属具目録及び運送契約に関する書類を船中に備え置くことを要する(旧商法709条1項・改正710条)。 発航前の検査船長は、発航前に次に掲げる事項を検査しなければならない。ただし、当該発航の前12時間以内に1.に掲げる事項のうち操舵設備に係る事項について発航前の検査をしたとき並びに当該発航の前24時間以内に1.(操舵設備に係る事項を除く。)、4.及び5.に掲げる事項について発航前の検査をしたときは、当該事項については、検査を行わないことができる(船員法8条、同施行規則2条の2)。 船体、機関及び排水設備、操舵設備、係船設備、揚錨設備、救命設備、無線設備その他の設備が整備されていること。 積載物の積付けが船舶の安定性をそこなう状況にないこと。 喫水の状況から判断して船舶の安全性が保たれていること。 燃料、食料、清水、医薬品、船用品その他の航海に必要な物品が積み込まれていること。 水路図誌その他の航海に必要な図誌が整備されていること。 気象通報、水路通報その他の航海に必要な情報が収集されており、それらの情報から判断して航海に支障がないこと。 航海に必要な員数の乗組員が乗り組んでおり、かつ、それらの乗組員の健康状態が良好であること。 前各号に掲げるもののほか、航海を支障なく成就するため必要な準備が整っていること。 航海の成就船長は、航海の準備が終ったときは、遅滞なく発航し、かつ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行しなければならない(船員法9条)。 甲板上の指揮船長は、船舶が港を出入するとき、船舶が狭い水路を通過するときその他船舶に危険のおそれがあるときは、甲板にあって自ら船舶を指揮しなければならない(船員法10条)。 在船義務船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない(船員法11条)。 航海当直の実施以下の船舶以外の船舶の船長は、航海当直の編成及び航海当直を担当する者がとるべき措置について国土交通大臣が告示で定める基準に従って、適切に航海当直を実施するための措置をとらなければならない(船員法施行規則3条の5)。平水区域を航行区域とする船舶 専ら平水区域又は船員法第一条第二項第三号の漁船の範囲を定める政令(昭和三十八年政令第五十四号)別表の海面において従業する漁船 巡視制度旅客船(平水区域を航行区域とするものにあっては、国土交通大臣の指定する航路に就航するものに限る。)の船長は、船舶の火災の予防のための巡視制度を設けなければならない(船員法施行規則3条の6)。 旅客に対する避難の要領等の周知船長は、避難の要領並びに救命胴衣の格納場所及び着用方法について、旅客の見やすい場所に掲示するほか、旅客に対して周知の徹底を図るため必要な措置を講じなければならない(船員法施行規則3条の10)。 船舶に危険がある場合における処置船長は、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない(船員法12条)。 なお、旧船員法第12条では「船長は船舶に急迫した危険があるとき、人命、船舶および積荷の救助に必要な手段をつくし、かつ、旅客、海員、その他船内にあるものを去らせた後でなければ、自己の指揮する船舶を去ってはならない。」とあり、違反した場合は5年以下の懲役という罰則が規定されていた。 1970年に船員法が改正がされて、現船員法第11条・第12条に置き換えられ、自己の指揮する船舶に急迫した危険には必要な手段を尽くす一方で、やむを得ない場合には己の指揮する船舶を去ることを可能とする規定となった。 船舶が衝突した場合における処置船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、この限りでない(船員法13条)。 遭難船舶等の救助船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知ったときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び以下の場合は、この限りでない(船員法14条、同施行規則3条)。遭難者の所在に到着した他の船舶から救助の必要のない旨の通報があったとき。 遭難船舶の船長又は遭難航空機の機長が、遭難信号に応答した船舶中適当と認める船舶に救助を求めた場合において、当該救助を求められた船舶のすべてが救助に赴いていることを知ったとき。 やむを得ない事由で救助に赴くことができないとき、又は特殊の事情によつて救助に赴くことが適当でないか若しくは必要でないと認められるとき(この場合においては、その旨を附近にある船舶に通報し、かつ、他の船舶が救助に赴いていることが明らかでないときは、遭難船舶の位置その他救助のために必要な事項を海上保安機関又は救難機関(日本近海にあっては、海上保安庁)に通報しなければならない)。 異常気象等国土交通省令の定める船舶の船長は、暴風雨、流氷その他の異常な気象、海象若しくは地象又は漂流物若しくは沈没物であって、船舶の航行に危険を及ぼすおそれのあるものに遭遇したときは、国土交通省令の定めるところにより、その旨を附近にある船舶及び海上保安機関その他の関係機関に通報しなければならない(船員法14条の2)。 非常配置表の作成及び操練国土交通省令の定める船舶の船長は、非常の場合における海員の作業に関し、国土交通省令の定めるところにより、非常配置表を定め、これを船員室その他適当な場所に掲示しておかなければならない。国土交通省令の定める船舶の船長は、国土交通省令の定めるところにより、海員及び旅客について、防火操練、救命艇操練その他非常の場合のために必要な操練を実施しなければならない(船員法14条の3)。 航海の安全の確保そのほか、航海当直の実施、船舶の火災の予防、水密の保持その他航海の安全に関し船長の遵守すべき事項は、国土交通省令でこれを定める(船員法14条の4)。 遺留品の処置船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明となったときは、法令に特別の定がある場合を除いて、船内にある遺留品について、国土交通省令の定めるところにより、保管その他の必要な処置をしなければならない(船員法16条)。 在外国民の送還船長は、外国に駐在する日本の領事官が、法令の定めるところにより、日本国民の送還を命じたときは、正当の事由がなければ、これを拒むことができない(船員法17条)。 船員法上の書類備置義務船長は、国土交通省令の定める場合を除いて、以下の書類を船内に備え置かなければならない(船員法18条)。船舶国籍証書又は国土交通省令の定める証書 海員名簿 航海日誌 旅客名簿 積荷に関する書類 航行に関する報告船長は、以下の各号の一に該当する場合には、国土交通省令の定めるところにより、国土交通大臣にその旨を報告しなければならない(船員法19条)。船舶の衝突、乗揚、沈没、滅失、火災、機関の損傷その他の海難が発生したとき。 人命又は船舶の救助に従事したとき。 無線電信によって知ったときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知ったとき。 船内にある者が死亡し、又は行方不明となったとき。 予定の航路を変更したとき。 船舶が抑留され、又は捕獲されたときその他船舶に関し著しい事故があったとき。 航海中の出生及び死亡の届出航海中に出生があったときは、船長は、24時間以内に、第49条第2項に掲げる事項(出生の届出事項)を航海日誌に記載して、署名し、印をおさなければならない(戸籍法第55条)。 第55条(航海中の出生)の規定は、死亡の届出にこれを準用する(戸籍法93条)。
※この「船長の義務」の解説は、「船長」の解説の一部です。
「船長の義務」を含む「船長」の記事については、「船長」の概要を参照ください。
- 船長の義務のページへのリンク