猫
『長靴をはいた猫』(ペロー) 貧しい粉ひきが死に、遺産として、長男が粉ひき場、次男がろば、末子が猫を得る。猫は末子を「カラバ侯爵」と名づけ、王様に贈物を献上して、カラバ侯爵が大金持ちであるように思わせる。猫は、人食い鬼を退治して(*→〔変身〕4)その城と広大な領地を乗っ取り、末子(=カラバ侯爵)を住まわせる。王様は城を訪れて感心し、末子を王女の婿にする。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第4話 乞食が死ぬ時に、長男に篩(ふるい)を、次男ガリューゾに猫を遺す。ガリューゾは猫の計略のおかげで王様の娘と結婚し、大金持ちになる。しかし、死んだふりをした猫にむかって、ガリューゾが忘恩の言葉を吐いたため、猫は彼を見捨てて去った。
*→〔売買〕1の『ウィッティントンと猫』(イギリス昔話)。
*貧しい飼い主のために身売りする猫→〔身売り〕5の佐渡おけさの伝説。
*飼い主の犯罪をあばく猫→〔動物教導〕2の『黒猫』(ポオ)。
★1b.綱をつけて飼う猫。
『源氏物語』「若菜」上 3月。六条院の庭で蹴鞠(けまり)が行なわれ、柏木も参加した。女三の宮の部屋で小さな唐猫が飼われていたが、まだ人になついていないため、綱をつけてあった。唐猫は、大きな猫に追いかけられて外へ逃げ、綱が引っ張られて御簾(みす)がまくれ上がる。部屋の中が丸見えになったので、几帳の向こうにたたずむ女三の宮の姿を、柏木ははっきりと見た。
*「猫の綱を解け」との法令→〔猫と鼠〕4の『猫の草子』(御伽草子)。
★1c.猫を恐れる人。
『今昔物語集』巻28-31 大蔵の大夫(たいふ)藤原清廉(きよかど)は、前世が鼠だったのであろうか、ひどく猫をこわがった。そのため彼には「猫恐(ねこおぢ)の大夫」というあだ名がついた。清廉が租税を滞納した時、大和守は清廉を逃げ場のない部屋に招き入れ、大きな猫5匹を放った。清廉は震え上がり、ただちに納税の手続きをして、帰って行った。
『ハリーとトント』(マザースキー) ハリーは妻に先立たれ、子供たちは独立して、72歳の今、愛猫トントとマンハッタンのアパートに住んでいる。アパートが取り壊され、ハリーはトントを連れて、郊外に住む長男、シカゴの長女、ロサンゼルスの次男のもとを順次訪れるが、彼らと同居することは無理だった。ハリーはサンタモニカに腰を落ち着け、週に3回、高校生を教える。トントは11歳の高齢で、病気になって死んでしまった。人間ならば77歳にあたるだろう。
★3.猫の教え。
豪徳寺の招き猫の伝説 井伊直孝主従が豪徳寺前を通りかかった時、門前の猫が彼らを招いた。不思議に思った直孝らは寺内に入り、住職が茶の用意をしていると、にわかに空が曇り豪雨となった。猫のおかげで雨に濡れずにすんだと直孝らは喜び、この寺を井伊家の菩提寺とした(東京都世田谷区)。
『更級日記』 菅原孝標女が15歳の5月頃、ある夜、猫がどこからか入りこんで来たので、飼っていると、その猫は姉の夢に現れ、「自分は、前年病死した侍従大納言(=藤原行成)の娘が転生したものだ」と告げた。しかし翌年4月、火事でその猫は焼死した。
『広異記』35「三生」 6歳の家つき奴隷が、ある日、急に目を見はって奥様の顔を見つめ、「私は、奥様が子供の頃に飼っておられた野良猫です」と言い出した。「野良猫の私は死後、乞食の子に生まれ変わり、飢えと寒さに苦しんで20歳で死んだ後、このお屋敷の奴隷の子として生まれました」と彼は語った。
★5.猫女房。
『イソップ寓話集』(岩波文庫・旧版)76「牝猫とアフロディーテ」 牝猫がアフロディーテに祈って美女に変身し、ある若者と結婚する。アフロディーテは、牝猫が身体とともに性質も変えたかどうか試すため、新婚夫婦の部屋に鼠を放つ。新妻は場所柄を忘れ、鼠を追いかける。アフロディーテは立腹し、新妻をもとの牝猫に戻す(岩波文庫・新版50では「鼬とアプロディテ」)。
★6a.もの言う猫。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ54 婆が庭先で白魚の干物を並べていると、日向ぼっこをしている老猫が「それをおれに食わしや」と言う。婆は「何を言うぞ」とたしなめ、もう一言何か言わぬか待っていたが、猫は眠ったらしく、婆が猫の言葉を聞いたのはそれぎりであった。
『耳袋』巻之4「猫物を言ふ事」 寺の猫が鳩を狙うが逃げられて「残念なり」と言う。驚く和尚に、猫は「10年余も生きれば猫は物を言い、さらに14~15年も過ぎれば神変を得る。ただし狐と交わって生まれた猫は、それほどの年功がなくとも物を言う」と教えて、去る。
『耳袋』巻之6「猫の怪異の事」 飼い猫が雀を狙い損ねて「残念なり」とつぶやく。主人が猫を押さえ「畜類の身として物言ふ事怪しき」と咎めると、猫は「物言ひし事なきものを」と言って逃げ去る。
『トバモリー』(サキ) アピン氏が、ウィルフリッド卿の飼い猫トバモリーに、人間の言葉を教える。トバモリーは、ウィルフリッド邸の客たちと自由に会話をする。しかし彼らが秘密にしておきたいことまでも、トバモリーはしゃべるので、皆は「トバモリーを殺そう」と話し合う。トバモリーは姿をくらまし、近所の猫と喧嘩して噛み殺される。アピン氏は、次に動物園の象に言葉を教える。象は暴れ出し、アピン氏を殺してしまう。アピン氏は象に、ドイツ語の不規則動詞を教え込もうとしたのだった。
『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第60回~第7輯巻之3第66回 下野国庚申山の妖猫が、山の奥を究めようと登り来た郷士赤岩一角を喰い殺し、一角になり代わって下山する。一角の息子角太郎(後の犬村大角)は、これをまことの父と思って仕えるが、犬飼現八が訪れて、にせ一角の正体を暴く。角太郎と現八は、協力して妖猫を倒す。
『耳袋』巻之2「猫の人に化けし事」 年を経た妖猫が、ある男の老母を喰い殺し、老母になり代わる。ある時、猫の姿を顕したので息子が切り殺すと、死体は母の姿になった。
★8a.死ぬ姿を見せない猫。
『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30・通巻686話 保延の頃(1135~41)。宰相中将の乳母が飼っていた猫は、体高1尺、つないだ綱を切ってしまうほど力が強かったので、放し飼いにしていた。10歳をこえると、夜、背中が光るようになった。乳母は猫に「死ぬ姿を見せるな」と、言い聞かせていた。猫は17歳の年に、行方知れずになった。
『現代民話考』(松谷みよ子)10「狼・山犬 猫」第2章の3 弟の秀夫はメスの大きな三毛猫を大事にしていた。秀夫が兵隊に行ったあと、三毛猫は毎日秀夫の布団の上に寝て帰りを待っていたが、ある日突然、姿が見えなくなった。戦争が終わってから、秀夫がサイパン島で戦死したことを知った。昭和19年(1944)7月19日、秀夫は21歳だった。後で思うと、秀夫が死んだ日の頃に、猫がいなくなったのだ(宮城県柴田郡村田町)。
★9.猫の名前。
『浮世床』初編・巻之中 「子猫に強い名をつけよう」と言って、皆がいろいろ智恵を出す。「虎」としようとの提案があるが、虎よりも龍の方が上だから「龍」、龍も雲がなければだめなので「雲」、雲は風に吹き飛ばされるから「風」、障子をしめれば風は吹きこまないので「障子」、障子は鼠には齧られるから「鼠」、となって結局、鼠は猫にはかなわないゆえ「猫」と名づければいい、との結論になる。
『応諧録』(明・劉元卿)「猫号」 ある人が、よく鼠をつかまえる飼猫に「虎猫」という名前をつけ、自慢していた。すると客たちが「もっと良い名前を」と言って、次々に提案した。「龍は虎よりも強いから『龍猫』」、「雲に乗らねば龍は昇天できないから『雲猫』」、「風は雲を吹き散らすから『風猫』」、「塀は風を防ぐから『塀猫』」、「鼠は塀に穴を開けて崩すから『鼠猫』」。
*鼠の嫁入りの物語→〔円環構造〕1bの『パンチャタントラ』第4巻第8話。
『猫の事務所』(宮沢賢治) 猫の歴史と地理を調べる第6事務所に、黒猫の事務長と、白猫・虎猫・三毛猫・かま猫の4人の書記が勤めている。第4書記のかま猫は皆から嫌われ、ある日とうとう仕事を取り上げられてしまい、書類のない机を前に、しくしく泣き続ける。突然、獅子が現れて「お前たちは何をしているか」と叱り、解散を命ずる。事務所は廃止になる〔*→〔デウス・エクス・マキナ〕の1種〕。
『牝猫』(コレット) 24歳のアランは19歳のカミーユと結婚したが、アランは以前から飼っていた牝猫の「サア」を、妻よりも愛していた。カミーユは嫉妬し、「サア」を10階の窓から突き落とす。さいわい、3階の日除けが衝撃をやわらげ、「サア」は無事だった。しかしアランとカミーユは、結婚3ヵ月半で別れることになった。
『猫と庄造と二人のおんな』(谷崎潤一郎) 30歳近い庄造は、10年来の飼い猫リリーを溺愛し、前妻・品子も、今の妻・福子も、リリーに嫉妬を覚えるほどだった。ある時、品子から「寂しいのでリリーを譲ってほしい」との手紙が来て、庄造・福子夫婦は、リリーを品子に渡す。品子は庄造に未練があり、リリーを餌に庄造との復縁をたくらんでいるのだ。庄造には復縁の意志はなく、ただリリー恋しさに、品子の留守をねらって逢いに行く。しかしリリーは庄造に無愛想な一瞥を与えるだけで、眠そうに眼を閉じてしまった。
*猫の尾と星の尾→〔尾〕6の『一千一秒物語』(稲垣足穂)「黒猫のしっぽを切った話」。
*チェシャ猫→〔残像・残存〕5の『不思議の国のアリス』(キャロル)。
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