無 菌性髄膜炎とは? わかりやすく解説

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無菌性髄膜炎

いわゆる無菌性髄膜炎症候群は、通常の塗抹染色標本および一般細菌培養にて病原体みつからないものがこの範疇にはいるため、多種多様起因病原体がある。一般的な臨床現場においては、無菌性髄膜炎はウイルス性髄膜炎念頭において語られることが多く、これは通常良好な経過をとることを意味する。これはその頻度から言えば正しと言える反面ウイルス以外でも多く病原体がこの病態起こしうること、そして場合によっては重症となり不幸な転帰をとりうることを認識して臨床症状炎症反応髄液所見などを正確に把握して治療に当たることが望まれる

疫 学
無菌性髄膜炎全般について考えれば上述のごとく多く病原体関与している症候群であるので、一定の疫学パターンとらないしかしながら全体の約85%がエンテロウイルスよるものであるために、基本的な流行パターンはこのウイルス属の状況反映する 1)。すなわち、初夏から増加し始め夏から秋にかけて流行見られる罹患年齢幼児及び学童期中心であり、また、抗体保有状況により種々のタイプエンテロウイルス周期的に流行することが報告されている。

病原体
無菌性髄膜炎を起こしうる病原体を表にあげるウイルスが最も多いが、このうちでもエンテロウイルス属全体の約85%を占める。エンテロウイルス属中でも多くウイルス種がこの疾患をおこすが、本邦ではエコーウイルスとコクサッキーB群ウイルスが多い。過去エコー30型、6型、7型、あるいはコクサッキーB5型、B3型、B4型などの流行報告されている 2)。2002年にはエコー13型の流行があったことは記憶に新しいまた、手足口病起因病原体であるエンテロウイルス71特筆すべき病原体である。その他のウイルスとして、ムンプスウイルス単純ヘルペスウイルス2型などがあげられる肺炎マイコプラズマも無菌性髄膜炎の原因一つとして重要であるし、真菌性髄膜炎も無菌性髄膜炎の形をとる。結核ライム病回帰熱ブルセラ症レプトスピラ症なども疾患一部として無菌性髄膜炎を発症するし、その他、広東住血線虫などの寄生虫も無菌性髄膜炎をおこす。不完全に治療され細菌性化膿性髄膜炎もこの疾患形態をとることがあり、注意が必要である。

無菌性髄膜炎

感染経路起因病原体により異なり接触、飛抹、あるいは食物など一般媒介物、あるいは媒介動物介した感染ありうるエンテロウイルス場合には、基本的に患者あるいは無症状病原体保有者からの糞口感染、飛抹感染よる。潜伏期は、エンテロウイルス場合には4 ~6日である。

表.無菌性髄膜炎に関連する病原体疾患

臨床症状
臨床症状起因病原体によって異なるが、エンテロウイルス属による場合をもっとも一般的な例としてあげることができる。通常発熱頭痛悪心・嘔吐発症する発熱3840度で症例により様々であるが、5日程度持続し時に非特異的急性熱性疾患先行する相性となる。頭痛前頭部痛、後眼窩痛であることが多く、また羞明を見ることもある。腹痛下痢もよくみられる訴えである。乳幼児場合には発熱不機嫌易刺激性嗜眠がよくみられ、だっこされるのを嫌うことも経験される咽頭炎症状同時に見られることがあり、また、起因ウイルス種にもよるが発疹みられることがあり、エコーウイルス9型では3050%に発疹みられるまた、粘膜疹、心外膜炎心筋炎結膜炎等を合併することもある。理学所見では、項部硬直、Kernig 徴候などの髄膜刺激徴候みられることがほとんどである。
髄液所見では細胞数増多がみられる範囲通常数十数千/mm 3 と広いが、概ね100500程度が多い。病初期には好中球優位なことが多いが、その後リンパ球優位に逆転する蛋白軽度に上昇することが多いが、糖は通常正常範囲内である。髄液塗抹染色標本では微生物認められず、一般細菌培養でも検出されない一般血液検査生化学検査では異常を認めないことが多い。
その他の病原体による無菌性髄膜炎としては、アルボウイルスよるものでは通常髄膜脳炎の形をとることが多いが、無菌性髄膜炎として良性の経過をとることもある。
結核性真菌性髄膜炎場合には発症比較緩徐であり、微熱性格変化易刺激性食欲不振など非特異的症状があり、徐々に頭蓋内圧上昇による症状出てくる。また、結核クリプトコッカス症やヒストプラスマ症では肺に病変を伴うことがあるし、特にマイコプラズマに伴うものでは、その多く呼吸器病変に引き続いて起こる。
疾患診断は、発熱頭痛嘔吐いわゆる3主徴をみとめ、後部硬直、Kernig 徴候などの 髄膜刺激徴候存在すること、髄液一般検査定型的な所見を得ること、髄液塗抹細菌培 養細菌検出しないことによりなされるが、本疾患症候群であるため、確定診断病原体診 断により起因病原体明らかにすることによってのみなされる

病原診断
随伴症状臨床所見地域での疾患流行状況野外活動歴、ダニ咬傷歴など注意深い病歴聴取により、ウイルス以外の病原体可能性も疑うことが重要である。夏から秋にかけて地域ヘルパンギーナ手足口病発疹性熱性疾患流行があればエンテロウイルスによる可能性考えられるし、海外渡航歴によりアルボウイルス、あるいはウエストナイルウイルス考慮しなければならないかもしれない耳下腺腫脹がみられればムンプス野生動物生息域での水泳などの既往があればレプトスピラダニへの暴露がみられればライム病回帰熱や他のリケッチア症、肺炎認められればマイコプラズマ考える。
また、髄液を十分検索することは鑑別診断糸口になる。一般的に言えばウイルス性以外の無菌性髄膜炎では好中球優位になることは少なく、また髄液中の糖の減少があれば、不完全に治療され細菌性化膿性髄膜炎白血病中枢神経浸潤脳腫瘍マイコプラズマ結核真菌を疑う根拠となる。むろんウイルス性細菌性合併することもあり、少しでも疑いがあれば、反復して髄液検査を行うことが重要である。通常の臨床では、塗抹培養髄液細菌抗原検出により細菌性除外することが最も重要であり、髄液CRP 、乳酸、TNF‐α有用とされる家族歴臨床所見から必要と考えられれば、他の病原体検出するための特殊な検査を行うべきである。ウイルス性疑われれば、髄液血液、便、咽頭拭い液によりウイルス学検索試みる。ウイルス分離することと、その分離されウイルス対す中和抗体が、患者急性期回復期血清上昇していることを確認することが確定診断につながる。近年は、エンテロウイルス対すPCR 法により迅速診断することも可能である。

治療・予防
脱水のために輸液療法必要になることが多くまた、いつも細菌感染症の可能性念頭に置く必要があるため、通常入院治療が必要であるが、多く場合にはウイルス性であるため、対症療法中心となる診断のために行われる髄液採取により、頭蓋内圧減少を介して症状軽減されるのはよく経験されることである。ウイルス以外の病原体よるものでは、病原体特異的な治療が行われる必要がある予後起因病原体依存するエンテロウイルスによる無菌性髄膜炎の場合には予後良好であり、完全に回復するが、生後数カ月以内乳児場合には、精神発達遅滞危険因子となると報告されているため、その後経過観察が必要である。結核リケッチアなどの場合でも、特異的な治療早期行われれば予後良好なことが多い。しかしながら回復週間後に神経学評価行っておくことは必要であり、特にムンプス原因場合には、聴力評価が重要である。
ムンプスよるものワクチンにより予防可能であり、昆虫あるいは動物媒介のものはそれらに 対す対策が必要である。エンテロウイルスよるもの基本的に糞口感染であり、また患者症 状軽快後も数ヶ月は便中にウイルス排泄するために、流行期には一般的なうがい、手洗いの他、患者との濃厚な接触をさける以外には手だてはない。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
無菌性髄膜炎は5類感染症定点把握疾患定められており、全国500カ所の基幹定点から毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2 つ基準全て満たすもの
(1)以下の臨床症状呈するもの
   ・発熱頭痛嘔吐主な特徴とする
   ・項部硬直、Kernig 徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状
 (いずれも新生児乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
(2)以下の検査所見有すること
  ・髄液細胞数の増加(単優位であることが多い)かつ、髄液蛋白量、糖量が正常であるもの
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの
備考原因となる病原体病原体診断血清学診断によって判明した場合には、病原体名称について併せて報告すること。

学校保健法における取り扱い
疾患は、学校において予防すべき伝染病中には明確に規定はされていない。本疾患急性期には入院を含む加療が必要となることが多く登校開始時期については、患者本人の状態によって判断すべきである考えられる


文 献
1)Cherry JD and Shields WD. Aseptic meningitis and viral meningitis. In Textbook of Pediatirc infectious diseases 4th Ed., Saunders, Philaderphia, 457‐467,1998.
2)国立予防衛生研究所厚生省結核感染症課.無菌性髄膜炎.病原微生物検出情報18(6):127128,1997.
3)国立予防衛生研究所厚生省結核感染症課.エコー30型による無菌性髄膜炎の流行. 病原微生物検出情報4 (10):4445,1983.
4)国立感染症研究所厚生労働省結核感染症課.無菌性髄膜炎関連エンテロウイルス動向 1999~2002. 病原微生物検出情報 23(8):193194, 2002.

国立感染症研究所感染症情報センター 谷口清州





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