【機体命名法】(きたいめいめいほう)
国家や軍隊など一定の範囲において統一された、航空機に対する命名の仕方。
情報秘匿その他諸々の事情で例外ができることも多々ある。(F-117他多数)
旧日本陸軍の命名法
- 制式名
採用された年(日本紀元)に機種名を組み合わせ、その後ろに機体改修を示す 一型 がつく。
武装変更などの小改修があった場合は、その後ろに 甲 乙 と追加される。
- 略号符
任務にかかわらず、機体を表す"キ"の後に通し番号をつける。
したがって、"キ21"(九七式重爆撃機)、"キ43"(一式戦闘機「隼」)のようになる。
- 愛称
戦闘機は鳥(隼や飛燕など)、爆撃機は龍(呑龍、飛龍など)というように、一応の法則はあるが、本来国民に親しまれるようつけられたものであり、公式なものではあるが正式名ではない。
(現在の自衛隊において、装備品に公募によってつけられている愛称と、ほぼ同じ存在と考えてよい)
旧日本海軍の命名法
- 制式名
陸軍機と同様に採用された年(日本紀元)に機種名を組み合わせた。
なお、昭和18年8月以降は、次のような基準により命名された。
甲戦(対戦闘機)→風(烈風・陣風など)
乙戦(局地戦闘機)→雷もしくは電(雷電・震電など)
丙戦(夜間戦闘機)→光(月光など)
偵察機→雲(彩雲・瑞雲など)
攻撃機→山(天山・深山など)
爆撃機→星(彗星・流星など)
輸送機→空(蒼空など)
練習機→草木(白菊など)
哨戒機→海洋(東海、大洋など)
特殊攻撃機→花(桜花など)
機体改修等については、当初は制式名の後に大改修を示す「一号」 、機種名の後に小改修を示す「一型」といった数字をつけた。
これは昭和17年4月以降、「一二型」、「四三型」といった10の位で機体改修、1の位で発動機改修、更に武装などの小改修があった場合は甲・乙・丙…と付ける方式に改められた。
- 略号符
任務を示す記号、当該任務の機体における通し番号、設計会社、改修回数の順に表記する。
- 【任務】
艦上戦闘機→A
艦上攻撃機→B
艦上又は陸上偵察機→C
艦上爆撃機→D
水上偵察機→E
観測機→F
陸上攻撃機→G
飛行艇→H
局地戦闘機(陸上戦闘機)→J
練習機→K
輸送機→L
特殊機→M又はMX
水上戦闘機→N
陸上爆撃機→P
哨戒機→Q
陸上又は局地偵察機→R
夜間戦闘機→S
- 【設計会社】
愛知航空機(愛知時計電機)→A
日立航空機(東京瓦斯電気)→G
第一一航空廠(広島海軍工廠)→H
石川島航空工業→I
日本小型飛行機→J
川西航空機→K
三菱重工業(三菱航空機)→M
中島飛行機→N
日本飛行機→P
第二一航空廠(佐世保海軍工廠)→S
昭和飛行機→Si
九州飛行機(渡辺鉄工所)→W
海軍航空廠(横須賀海軍工廠)→Y
海軍航空技術廠→Y
第一海軍技術廠→Y
美濃津→Z
- 【任務】
初期型を1とし、改修を受けるたびに数字が増えてゆく。(表記は改修回数+1となる)
武装など細かな改修を受けた場合には、後ろにa・b・c…という記号が付けられる。
以上の法則に従うと、零戦二一型を示す"A6M2b"は「艦上戦闘機としては通算6番目、三菱航空機設計の機体で、2度の機体改修を受けた型に、若干の小改修を含む」ということになる。
なお、別用途機種へ転用、改修されたものは武装改修記号の手前、改修数の末尾へ転用された機種記号がつけられる。
(例:水上戦闘機・強風『N1K1』から局地戦闘機に改修された紫電一一型『N1K1-J』)
例外としては、零戦五二型は機体改修3度目に当る機体であり、本来なら四二型となるところを四二が“死に”に繋がるとして敬遠され、五二型とされた経緯がある。
また零戦三二型、二二型ともに略号はA6M3となるが、これはそれぞれ二一型(A6M2b)より機体改修、発動機改修が行われている為、改修数としては二一型から数えると共に+1回となるためである。
ドイツ空軍の命名法
航空機会社を示す記号の後に固有の数字を書く。
"Fw190"や"Ju87"のようになる。
- 【設計会社】
アラド→Ar
バッヘム→Ba
ブルーム・ウント・フォス→Bv
バイエリッシュ航空機→Bf
ドルニエ→Do
フィーゼラー→Fi
ゴーダ→Go
フォッケウルフ→Fw
ユンカース→Ju
ハインケル→He
ホルテン→Ho
ヘンシェル→Hs
メッサーシュミット→Me
タンク(人名)→Ta
アメリカ海軍の機体命名法
アメリカ海軍航空隊は1962年に統一命名法を採用するまで、陸軍航空隊(空軍)と異なった命名法を採用していた。
【任務】、【番号】、【設計会社】、【派生】の順に書く。
- 【任務】
攻撃機→A(Attacker)
戦闘爆撃機→BF(Fighter-Bomber)
戦闘機→F(Fighter)
輸送ヘリコプター→HC(Transport helicopter)
観測ヘリコプター→HO(Observation helicopter)
汎用ヘリコプター→HU(Utility helicopter)
汎用機→J
練習機→N
観測機→O(Observation)
哨戒機→P(Patrol)
哨戒爆撃機→PB
輸送機→R
偵察爆撃機→SB(Scout Bomber)
雷撃機→TB(Torpedo Bomber)
早期警戒機→W(early Warning)
- 【番号】
基本的に任務ごとに通し番号が振られていたが、それぞれの設計会社が独自に設定していたため、任務と番号が一致していても設計会社が違うと全く違う機体であった。
"F4F"(ワイルドキャット)と"F4U"(コルセア)が代表的である。
また、この番号が1の場合は表記しない。
- 【設計会社】
ブリュースター→A
ボーイング→B
カーチス→C
ダグラス→D
グラマン→F
マクダネル→H
ロッキード→O
シコルスキー→S
ボート→U
コンソリデーテッド→Y
- 【派生】
改修が行われた場合は、設計会社の後にダッシュを付けて数字を記載することで、細かい形式を表す。
また、小規模な改修の場合は、その数字の後に"A"、"B"、"C"などのアルファベットを書く。
この方式に従うと、たとえば"TBF"はグラマン製(F)の雷撃機(TB)であり、"F4H"はマクダネル(H)製の戦闘機(F)であることが分かる。
アメリカ軍が1962年に採用した統一命名法
陸軍航空隊(空軍)が使用していた旧命名法に改良を加えたもので、海軍機と空軍機の両方に適用されているのが大きな特徴。
通し番号は1から割り振りされたため、旧命名法とこの新命名法の両方の表記を持つ機も多く存在する。
【状態】(Status)、【従任務】(Modified mission)、【主任務】(Basic mission)、【飛行形態】(Vehicle type)、【固有番号】、そして【改修・派生型】を示す記号を表記する。
- 【状態】
実験機→X(eXperimental)
試作機→Y(prototYpe)
(一般の機体には表記なし)
- 【従任務】
標的操縦機→D(Drone control)
救難機→H
標的機→Q
空中給油機→K(Kerosene)
多用途機→M(Multi-mission)
天候観測機→W(Weather observation)
要人機→V(VIP)
(従任務は付かないことが多い)
- 【主任務】
攻撃機→A(Attacker)
爆撃機→B(Bomber)
輸送機→C(Cargo transport)
電子戦機・早期警戒機→E(Electonic installation)
戦闘機→F(Fighter)
戦闘攻撃機→F/A(Fighter/Attacker)+戦闘機と共通の通し番号
観測機→O(Observation)
哨戒機→P(Patrol)
偵察機→R(Reconnaissance)
対潜機→S(anti Submarine)
汎用機→U(Utility)
(複数の主任務がある場合は、より重要なものを後に表記)
- 【飛行形態】
滑空機→G(Glider)
垂直離着陸機→V(Vtol)
回転翼機→H(Helicopter)
軽航空機→Z(Zeppelin)
(固定翼機には表記なし)
- 【固有番号】
主任務("F"や"C"など)ごとに、1から順に通し番号が振られるが、欠番もある。
- 【改修派生型】
Aを初期型とし、改修を受けるたびに"B"、"C"、"D"…と順に付けられることが多いが、特殊な改修を受けた場合は特別に付けられることもある。
この方式に従うと、たとえば"YAH-64"という名称の場合は、状態"Y"、主任務"A"、飛行形態"H"なので、攻撃ヘリコプターの試作機ということが分かる。
http://www.aerospaceweb.org/question/history/q0012.shtml
ソ連軍の命名法
航空機設計局を表す記号の後に通し番号、あるいは固有の数字を書く。
例外もあるが、数字が奇数のものは戦闘機、偶数のものは攻撃機・爆撃機である。
- 【設計局】
アントノフ→An
ポリカルポフ→I
イリューシン→Il
カモフ→Ka
ラボーチキン→La
ミル→Mi
ミコヤン・グレビッチ→MiG
ペトリャコフ→Pe
スホーイ→Su
ツポレフ→Tu
ヤコブレフ→Yak
ボーイング社の旅客機における機体命名法
ボーイング社は以前、「モデル***」というナンバーを与えていたが、B707の大成功を機に、同社のジェット旅客機で「B7*7」と呼ばれるモデル・ナンバーをつけるようになった。
B767以降に開発された旅客機の特徴として「B7*7-200」を基本型とし、胴体延長型を「B7*7-300」、胴体短縮型を「B7*7-100」と付ける傾向が見られる。
長距離型に「LR」、航続距離延長型には「ER」を付ける。
- B707
ボーイング社が初めて開発したジェット旅客機で、モデル367-80を原型とする。 - B717
元々はB707をベースとした空中給油機KC-135の呼称であったが、(生産機のほとんどが軍に納入されたため)一般的に知られていなかったので、マクダネル・ダグラス社が短・中距離向けに開発した双発ジェット旅客機「MD-95」を改称した。 - B727
B707の次に開発した三発中距離旅客機 - B737
B727の次に開発した双発の短中距離用旅客機。
特にB737-600・B737-700・B737-800・B737-900の4機種はエアバスA318・A319・A320・A321のライバル格に位置付けられる。 - B747
四発の超大型ジェット旅客機。
エアバスA340・A380のライバル格に位置付けられる。 - B757
B727の後継機として開発された中型双発ジェット旅客機。 - B767
B727の後継機として開発された中型双発ジェット旅客機。
エアバスA300・A310のライバル格に位置付けられる。 - B777
B767-300とB747-400の中間に当たる座席数を持った機体として開発された大型双発ジェット旅客機。
エアバスA330のライバル格に位置付けられる。 - B787
B767の後継機として開発中の中型双発ジェット旅客機。
エアバスA350のライバル格に位置付けられる。 - B797
現在使用されていない。
アルファベットをつけたモデル・ナンバー
(※ボーイング社の旅客機では、開発時にはアルファベットを付した名称をつけ、正式にローンチする際、数字を付した機種名をもって正式名称としている)
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