クワ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/11 21:09 UTC 版)
クワ属 | |||||||||||||||||||||
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![]() ログワ(Morus alba)
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分類 | |||||||||||||||||||||
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英名 | |||||||||||||||||||||
Mulberry | |||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||
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特徴
クワの名の由来は、カイコの「食う葉」が縮まったとも、「蚕葉(こは)」の読みが転訛したともいわれている[1]。山に自生するヤマグワなどの種類があり、別名カイバともよばれている[2]。果実は人気のベリーの仲間で、庭に植えられるマルベリー(英: Mulberry)があるほか、クワの果実は地方により俗にドドメともよばれている[2]。
クワ科クワ属は、北半球の暖帯もしくは温帯地域に10数種が分布する[3]。中国北部から朝鮮半島にかけての原産といわれ、日本へは古代に渡来したと考えられている[1]。日本には、北海道から九州まで全国に分布する[2]。養蚕のために広く栽培されるほか[4]、かつて盛んだった時期の名残で、放置されて野生化したものが土手や畑のわきなどでも見られる[5][2]。
落葉性の高木または低木で、高さは5メートル (m) から大きいものは10メートル以上に達するが[5]、ほとんどは灌木で[3]、栽培するものは低木仕立てが多い[6]。幹の目通り直径は、約50センチメートル (cm) になり[1]、樹皮は灰色を帯びる。葉は有柄で互生し[6]、葉身は薄く、表面はつやのある濃い緑色でざらつく[7][5]。葉縁にはあらい鋸歯がある。葉の形は変化が大きく、切れ込みのない葉や、切れ込みがあるもの葉などさまざまである[6][7]。大きい木では葉の形はハート形に近い楕円形だが、若い木では葉に多くの切れ込みが入る場合が多い[5]。葉には直径25 - 100マイクロメートル (μm) ほどのプラント・オパールが不均一に分布する[8]。
花期は春(4月ごろ)[1][2]。雌雄異株または同株[6]。花弁のない淡黄緑色の小花を穂状に下げて開花する[2]。花序は新枝の下部にあって[6]、雄花は枝の先端から房状に雄花序が垂れ下がり、雌花は枝の基部(下部)の方に集合してつく[5]。雌花の雌しべの花柱は長さ2 - 2.5センチメートル (cm) で、先が浅く2裂する[9]。花柱はヤマグワでは明らかで、果実になっても花柱の残りがついている[6]。
果実は5 - 6月ごろ結実し[1]、緑から黄、赤と変化し、初夏に黒紫色に熟す[2][5]。果実は多くの花が集まった集合果で[9]、キイチゴのような、柔らかい粒が集まった形で、やや長くなる。粒のひとつひとつは、萼が肥厚して種子を包み込んだ偽果である[9]。熟した赤黒い果実は、甘くて生でも食べられる[6]。果実は人間はもとより、野鳥にとっての重要な飼料になる[3]。果実には子嚢菌門チャワンタケ亜門ビョウタケ目キンカクキン科に属するキツネノヤリタケ(Scleromitrula shiraiana)、キツネノワン(Ciboria shiraiana)が寄生することがあり(クワ菌核病)、感染して落下した果実から子実体が生える。
主な種類
クワは変種や、品種が多い[9]。
- ログワ(ロソウ)(Morus lhou)
- ハマグワ (Morus australis f. maritima)
- ヤマグワ(Morus bombycis)
- ナガミグワ(Morus laevigata)
- ケグワ(Morus tiliaefolia)
- オガサワラグワ(Morus boninensis)
- テンジクグワ(Morus serrata)ヒマラヤマルベリー
- レッドマルベリー(Morus rubra)
- カラヤマグワ(Morus alba)ホワイトマルベリー(Morus alba)
- クロミグワ(Morus nigra)ブラックマルベリー
- ブラックマルベリー(Morus mesozygia)アフリカマルベリー
登録品種としてポップベリー、ララベリーがある。
日本全土に自生するヤマグワは、養蚕のために栽培される種であり、多数の栽培品種がある[6]。中国から伝来したマグワとの雑種もあり、種はさまざまである[6]。日本の養蚕では一之瀬(一瀬桑)という品種が普及した。この品種は、明治31年ごろ山梨県西八代郡上野村川浦(現在の同県同郡市川三郷町)で一瀬益吉が、中巨摩郡忍村(現在の中央市)の桑苗業者から購入した桑苗(品種鼠返し)のうちから、本来の鼠返しとは異った性状良好なる個体を発見し、これを原苗としたものである。このほか日本では、ノグワ(野桑)、オガサワラグワ(小笠原桑)、シマグワ(島桑)など、南西日本の分布に由来することから名づけられた種がある[10]。シマグワは別名をリュウキュウグワ(琉球桑)ともいい、台湾の大部分に分布する系統に由来する[10]。伊豆諸島に生育するクワ属もシマグワとして珍重される[9]。
中国には原産で栽培種でもあるマグワ(真桑)やロソウ(魯桑)があるほか、中国北東部・朝鮮北部・モンゴルにかけて分布するモウコグワ(蒙古桑)や、その変種で葉の両面に著しく毛が多いオニグワ(鬼桑)とよばれる種がある[11]。
ヤマグワ
ヤマグワ(山桑、学名:Morus australis, Morus bombycis)は、クワ科クワ属の落葉高木。養蚕に使われるクワに対する、山野に自生するクワという意味でよばれている[12]。中国植物名(漢名)は鶏桑(けいそう)という[4]。学名の一つである Morus bombycis は、カイコの学名である Bombyx に由来する[12]。樹高10メートル、幹径では60センチメートルまで生長する[3]。日本、南千島、樺太、朝鮮半島、中国、ベトナム、ミャンマー、ヒマラヤに分布する[13]。樹皮は灰褐色で、縦方向に不規則な筋が入る[13]。葉は卵形や広卵形であるが不整な裂片を持つものもあり、形はさまざまである[3]。開花期は4月[13]。ほとんどが雌雄異株であるが、ときに雌雄同株[13]。花は小さくて目立たず、花後につく果実は1 cmほどの集合果で「ドドメ」ともよばれており、はじめ赤色であるが夏に熟すと黒紫色になり、食用にされる[3]。完熟果実を食べると唇や舌が紫色に染まり、昔は子供たちのおやつによく食べていた[3]。
養蚕用に栽培されることも多い[13]。日本では一般には養蚕には用いられていない種であるが、栽培桑の生育不良で飼料不足となるときに用いられた[12]。霜害に強く、栽培桑が被害を受けたときに備えて養蚕地帯では霜害が割合的に少ない山地に植えて置き、栽培桑の緊急時の予備とした[3]。しかし、ヤマグワの葉質は栽培桑よりも硬いため、カイコの成長が遅くなり、飼料としては性質は劣る[3]。北海道では、栽培種のクワの生育が困難だったため、開拓初期に各地でさまざまな試行錯誤が行われ、ヤマグワを用いて養蚕が行われた時もあった[14]。
マグワ
マグワ(真桑)は養蚕に使われるクワで、名称はヤマグワに対するものである[12]。別名をトウグワ(唐桑)ともいい、中国から朝鮮にかけての地域が原産である[12]。中国植物名(漢名)は桑(そう)という[4]。紀元前にインドや日本に伝わり、シルクロードを経て12世紀にヨーロッパへと伝えられた[12]。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l 田中孝治 1995, p. 143.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 金田初代 2010, p. 56.
- ^ a b c d e f g h i j k 辻井達一 1995, p. 144.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 貝津好孝 1995, p. 212.
- ^ a b c d e f g h i j k 川原勝征 2015, p. 42.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 馬場篤 1996, p. 52.
- ^ a b 金田初代 2010, p. 57.
- ^ Tsutsui O., Sakamoto R., Obayashi M., Yamakawa S., Handa T., Nishio-Hamane D., Matsuda I (2016). “Light and SEM observation of opal phytoliths in the mulberry leaf”. Flora 218: 44-50. doi:10.1016/j.flora.2015.11.006.
- ^ a b c d e f g h i 田中潔 2011, p. 49.
- ^ a b 辻井達一 1995, p. 145.
- ^ 辻井達一 1995, p. 146.
- ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 143.
- ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 63.
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- ^ “年产20万吨桑杆造纸项目拟落户来宾” (中国語). 新华网. 2011年12月30日閲覧。
- ^ 石田栄一郎「桑原考」
- ^ 足田輝一『植物ことわざ事典』(東京堂出版、1995年)ISBN 4-490-10394-8
- ^ a b 今日の四字熟語No.1183 【桑中之喜】 そうちゅうのき八重樫一、福島みんなのニュース
- ^ 桑中喜語永井荷風、青空文庫
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