矢作川

日本の川

矢作川

調和のとれた流域圏の軸となる美河

矢作川は、その源を長野県の中央アルプス南端の大川入山（標高1,908m）に発し、愛知・岐阜県境の山岳地帯を流れて、巴川を合流して三河平野に出て、岡崎市で乙川を合流し、河口から12km付近で矢作古川と分派して三河湾に注いでいる流域面積1,830km2、幹川流路延長117kmの河川です。

豊田市中心部を流れる矢作川

河川概要

水系名 矢作川水系 河川名 矢作川 幹川流路延長 117km 流域面積 1,830km2 流域内人口 69万人 流域関係都県 愛知県、岐阜県、長野県

○拡大図

1．矢作川の歴史

"矢作川は、1605年に徳川家康の命により、下流部の台地を開削し、今の矢作古川から川を付け替え、現在の川筋が概ねできました。また、矢作川は砂河川であるため、堤防の洗掘を防止するため、堤防法面となじみの良い、伝統工法の柳枝工護岸が多く施工されています。"

矢作川の治水と砂河川の歴史

矢作川流域は、6市12町7村からなり、流域内には約69万人（平成7年）の人々が生活しており、治水対策や明治用水の整備等により、自動車産業を中心として発展した豊田市、また繊維、科学、機械工業、「日本のデンマーク」と呼ばれるほどの優良農村等を中心として発達した岡崎市や安城市、西尾市、碧南市を中心とする西三河地帯一帯の主要地区を包含し、社会・経済・文化の基盤を成しています。 矢作川の治水の歴史 かつて矢作川は、15世紀中頃までは、自然の流れのままに幾筋もの流れがありました。また、流域は風化したもろい花崗岩から形成され、多量の土砂が流れ込み、天井川となっていたために、中・下流でたびたび氾濫し、流れを変えていたと言われています。 記録では、1399年に、今の岡崎市に六名堤が築かれたのが治水事業の始まりで、1452年～1455年の間に、西郷弾正左衛門が岡崎城の築城にあわせ堤防を築き、流れを固定させました。その後、徳川家康が1605年に米津清エ門に命じ、下流部の台地を開削し、今の矢作古川から川を付け替え、現在の矢作川の川筋が概ね出来上がりました。 このような歴史の中で、西三河は、矢作川の恩恵を受け、大いに発展してきました。 柳技工（施工後、10ヶ月経過した状況） また、矢作川の特徴として、矢作川は、流域の地質の大半が花崗岩質のため、典型的な砂河川となっています。高度成長期に入ると、矢作川でもコンクリートの骨材として砂利採取が盛んに行われていました。これに伴い河床低下が続き、護岸の補強が必要となり、河床低下に柔軟に対応できる、粗朶沈床や柳枝工などの伝統工法が積極的に活用されてきました。現在では、水辺の多様性や親しみやすい景観を育むことにも一役買っています。

2．地域の中の矢作川

"矢作川は、周辺住民が散策などに利用するなど、憩いの空間として親しまれており、桜の名所、鮎釣り、花火大会、川まつりなど、季節の風物詩ともいうべき利用が多いのも特徴です。"

憩いと恵みを与える矢作川 矢作川の上流部は、滝や深い渓谷の美しい自然環境に恵まれ、小戸名渓谷、香嵐渓などの景勝地が多く、愛知高原国定公園に指定され、大自然のなかのリゾートエリアとして広く親しまれている奥矢作湖や、紅葉の名勝地として有名な達原渓谷、喉の形に似た珍しい滝がみられる喉の滝などがあり、新緑や紅葉の季節には多くの観光客が訪れています。また、マスやアユ・アマゴ釣りなどの他、川口やなや広瀬やなにおいて伝統のやな漁を知るなど、楽しむことができます。また、カヌーなどのスポーツやオートキャンプなども盛んに行われています。 アースワーク 矢作川の中下流部には砂州が発達しており、「アースワーク」と呼ばれる砂の造形が行われているなど、砂と広い河原を利用した特有の河川利用があります。その他、中流部では、桜まつり、散策、水遊び、デイキャンプ、スポーツ、レクリエーション、江戸時代に流域の中心的な役割を果たした岡崎城跡や、米津の川まつりなど、歴史にちなんだ資源も多く点在し、今も多くの人々に親しまれています。 西尾市西尾緑地 三河湾に面した下流・海岸部は三河湾国定公園に指定され、海水浴や潮干狩り、海釣りでにぎわっています。また、大提灯まつりなどの歴史的な行事、温泉などの資源も点在しています。 河口部の干潟は野鳥の宝庫となっており、野鳥の観察会等が開かれています。その他、河口部には、ウインドサーフィン、ジェットスキー、プレジャーボート、ウルトラライト・プレーンモーター・パラグライダー（有人軽量飛行機）等、休日ともなれば市外からも多くの若者が集まってきます。また、河口部は川から海へと広がりを見せる地域で、朝・夕の美しい風景は訪れる人の心をなごませるものがあります。 安城市を中心とする一帯は、かつて、「日本のデンマーク」と呼ばれた 矢作川と産業とのつながりから見ると、明治時代に完成した明治用水、枝下用水により碧海台地において農地開発が進み、昭和の初めには安城を中心とする一帯が「日本のデンマーク」と呼ばれるほどの優良農村を支えてきました。昭和に入ると、豊田自動織機から興したトヨタ自動車が生産工場を豊田市に建設しました。その後、昭和46年に矢作ダムが完成し、安定的な取水が可能となり、現在では矢作川が位置する西三河地域は全国でも屈指の製造業で知られ、臨海部は衣浦臨海工業地帯として発展しています。

3．矢作川の自然環境

"矢作川は砂河川であり多くの砂州が発達し、瀬や淵が連続して見られるとともに、柳枝工などの伝統工法を積極的に活用し多様な自然環境が保全・形成されています。魚類では、スジシマドジョウ、アカザ等が確認されており、鳥類では、オオタカ等が確認されています。また、高度成長期に白濁していた水質は「矢作川沿岸水質保全対策協議会」等の水質保全の活動により近年は改善されてきました。"

自然環境豊かな豊川 国立公園・県立公園分布図 矢作川流域の自然環境は、中上流域や、巴川の上流一帯は、花崗岩地帯を流れる渓谷と自然林の美しい自然景観に恵まれ、愛知高原国定公園、段戸高原県立自然公園に指定され、東海自然遊歩道も整備されています。また、乙川、根羽川の最上流部一帯も本宮山県立自然公園、天竜奥三河国定公園に指定されている自然環境豊かな流域です。 中流域では明治用水頭首工付近の水源公園に約1000本の桜が植えられ、一帯は桜の名所となっています。下流における矢作川は、概ね東西方向に流れることから、夕日や朝日が水面に映え、三河湾や美濃三河高原などの山並みとあいまって、美しい景観を見ることが出来ます。 矢作川の動植物については、上流部の渓谷や渓流にはアマゴやアブラハヤなどが生息しています。中流部では砂州が発達し、瀬や淵が連続して見られ、アユの産卵場が分布し、水際の植生帯やワンドにはスジシマドジョウ、アカザ、メダカなど多様な魚類が生息しています。陸域にはヤナギ林やマダケ林が生息し、クロコムラサキなどのチョウ類も多く見ることができます。また、絶滅危惧種に指定されているオオタカも確認されています。下流部は河岸に干潟が見られ、シジミ漁が行われていますが、カモ類やシギ、チドリ類などの休息や採餌場となっています。また、コアジサシやミサゴが魚を捕る姿も見ることができます。 濁流流出防止のための沈砂池 水質の観点から見ると、高度成長期の頃、矢作川の水は白濁し、水質汚濁が著しかったため、農業団体・漁業団体・自治体が集まって、濁水の防止や監視を図ることを目的に、昭和44年に「矢作川沿岸水質保全対策協議会（通称：矢水協）」が発足しました。矢水協では、排水基準を設けることを国や県に陳情したのを始め、監視や水質調査などを行っています。また、流域内の開発行為に対し、事前に矢水協の同意を得ることを条件としたことを「矢作川方式」と呼んでいます。こういった取り組みなどにより、矢作川の水質は改善されてきました。

4．矢作川の主な災害

発生年 発生原因 被災市町村 被害状況 S7,7,1～2 前線+低気圧 足助町 岡崎市等 被災家屋約2,300戸 S34,9,26～27 台風15号 岡崎市 西尾市 豊橋市等 被災家屋約23,000戸 田畑被災面積約1,000ha S47,7,12～13 台風7号 小原村 藤岡町等 被災家屋約21,000棟 浸水面積約3,000ha H12,9,11～12 台風14号 （東海（恵南）豪雨） 豊田市 岡崎市 足助町等 被災家屋約2,800棟 浸水面積約1,800ha

（注：この情報は2008年2月現在のものです）