日本における法整備支援の位置づけ
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「法整備支援」の記事における「日本における法整備支援の位置づけ」の解説
日本の法整備支援は、 民法などの法典作成の支援 法律の執行・運用のための体制整備に対する支援 裁判官など法律専門家の人材育成に対する支援 を3つの基本的柱としており、また、押しつけではなく、相手国の主体性を重視することにも特色があるとされている。 日本の政府開発援助(ODA)というと、道路、橋、発電所など、インフラストラクチャーの整備支援が連想されがちであるが、近年では、人材育成や法・制度構築や教育などを支援する、ソフト面での支援にも注力されるようになってきた。法整備支援は、その代表格の1つとして注目を集めるようになっている。 日本による本格的な法整備支援は、1994年のベトナムに対するものが最初である。支援対象国はその後広がり続け、現在ではベトナム、カンボジア、ラオス、インドネシア、中国、モンゴル、中央アジア諸国、ネパールなどに支援を行っている。 法整備支援をはじめ、ソフト面での支援が注目されるようになった背景には、民主主義、法の支配、汚職撲滅など、いわゆる「良い統治(good governance)」の実現が、経済発展や貧困削減のために不可欠であると考えられるようになったことが挙げられる。日本政府も、平成15年8月29日の閣議決定で定めた政府開発援助(ODA)大綱で、「良い統治」を基本理念として掲げ、開発途上国の発展の基礎になるものとして、法・制度構築や経済社会基盤の整備に協力することを、ODAの最も重要な考え方とした。さらに平成20年の海外経済協力会議では、法整備支援について、途上国での法の支配の定着、持続的成長のための環境整備、日本との経済連携強化等の点で大きな意義を有すると位置づけ、日本国外経済協力の重要分野の一つとして、戦略的に進めることを明言した。平成21年4月の時点では、重点支援国として、中国、モンゴル、カンボジア、インドネシア、ラオス、ベトナム、ウズベキスタンの7か国が選定された。 また、第1次安倍内閣では、北東アジアから、東南アジアを経て、インド、中東、中央アジア、中・東欧にかけての「弧」上にある国との間で、日本がリーダーシップをとってこれら価値を共有し、「弧」地域全体の繁栄に貢献する、その結果として経済や安全保障などで日本も国益を享受するという「自由と繁栄の弧」を外交の基本方針としていたが、その提唱者とされる麻生太郎の著書「とてつもない日本」(新潮新書)では、その具体的施策の例として法整備支援が挙げられている。 一方、民主党政権となった後も、平成23年11月18日に採択された日・ASEAN共同宣言とそれに基づく日・ASEAN行動計画において、「法の支配、裁判システム及び法的インフラを強化するため、法律及び裁判部門における人材強化への協力を続ける」とされた(行動計画1.5.5)ほか、違法薬物、マネーロンダリング、テロなどの国際的な犯罪撲滅に共同して取り組む一環としての刑事分野における人材育成への協力、知的財産分野での人材育成への協力も盛り込まれている(行動計画1.3、2.18)。さらに、平成23年12月24日に閣議決定された「日本再生の基本戦略」でも、日本の国際的プレゼンスを高めるべく、当面重点的に取り組む施策として、「インクルーシブな成長の基礎となる法制度整備支援の推進」が挙げられ、「開発途上国における法の支配の確立と社会経済の基盤整備を図り、成長を確実なものとするために、法制度整備支援を推進する。」とされている。この点、NHKの西川龍一解説委員も、法整備支援について、「厳しい経済状況が続く中で、ODA予算の増額は難しい中、わずかな予算でも効果的な国際貢献策につながるというメリットがある」「アジアでの存在感を高めるためにも、カンボジアなどでの経験を生かして、現地の人たちに実のある国際貢献を続けて欲しいと思います。」と解説している。 第2次安倍内閣で平成25年5月に決定された法制度整備支援に関する基本方針(改訂版)では、重点支援国として、ミャンマー、バングラデシュも追加されたほか、アフリカ諸国の支援需要をくみ取っていく方針も明記された。また、日本は、パレスチナ紛争の解決や中東諸国の民主化推進などの観点から、アジア圏でのイスラム教の国であるインドネシアやマレーシアとも連携しつつ、パレスチナを含めた中東諸国に対し、農業、保健などの分野で支援活動を展開している が、そのような中、法分野のうち刑事分野では、パレスチナを含めた中東諸国・地域への法整備支援が若干は行われている。 また、少子高齢化に伴って国内市場の縮小が不可避の中、海外で稼ぎ、国内の活力や雇用につなげていくことの重要性が高まっている が、法整備支援は、開発途上国での投資環境整備という意味合いも強く持っている ため、経済界からの期待も強い。法整備支援事業を行う財団国際民商事法センターは、その役員や会員企業に住友商事、トヨタ、キヤノンなどの大手企業が名を連ねている。また、日本経団連が発行する「経済Trend 2010年1月号」では、日本経済がアジアの成長を取り込んでいくため、官民連携の体制で、アジアにおけるソフト・ハード両面でのインフラ整備を行っていくことの重要性が強調されているが、ソフトインフラ整備の代表格として、法整備支援が挙げられている。日系企業のアジア進出は、中国に限らず、東南アジア諸国で拡大を続け、これに伴って日本の四大法律事務所もアジアでの業務展開を急速に拡大しており、ビジネス環境整備としての法整備支援の重要性はさらに増していくものと考えられる。この点につき、アジアで日系企業への法的アドバイスを行っている日本の弁護士も、「法整備支援の意味は、今後、日本の人口が減少し、経済が小さくなる中で、日本企業が海外において活動しやすい状況を作る意味でも、また、投資の受け皿としての制度を形成していく意味でも、益々、重要になるものと信じている。」など、法整備支援への期待を述べている。実際にも、こういった弁護士と法務省、外務省が連携してアジア法の調査を行い、調査結果を法整備支援に活用するとともに、弁護士、日系企業などへ広く知見を還元する試みもなされている。 さらに、法整備支援を通じ、支援対象国の法律に関する情報が大量に日本へ流入するようになり、日本の研究者及び法律実務家などがアジア各国の法制度を深く学ぶことを可能にさせるという効果ももたらしている。 歴史的に見ると、日本は、明治維新の時代にフランス法系、ついでドイツ法系の諸法律を継受し、第二次世界大戦後にアメリカ法の影響を受けるという法制史をたどっている。そのため、日本は、アジアで初めて欧米型の近代法を整備した国であり、かつ、大陸法系と英米法系の各専門家が存在し、どちらの法体系の国に対しても支援が可能であるという独自性の強い立ち位置にある。アジア各国が法整備支援を日本に求める歴史的背景がここにあるともいわれている。 ただ、現在の法整備支援は、その前線で活躍する人材の不足が大きな問題となっているほか、他の支援国との協調・連携に不十分な点があったなどの問題が指摘されている。また、法整備支援は、成果が短期的にはあらわれにくい分野であるため、その評価手法や国民への説明責任をどのように果たすべきかも課題として指摘されている。加えて、法整備支援の実施には、日本の法律や制度に関する情報について、英語など外国語への翻訳の整備が不可欠であるが、日本の法令や判決などの英訳は、知的財産などを除き、欧米諸国及び韓国と比べて、著しく遅れている領域であるとされている。なお、人材不足という課題について、JICAは、法整備支援に携わる人材の育成・発掘のため、能力強化研修を実施するようになっている。
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