エリクトニオス
エリクトニオス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/12 09:26 UTC 版)


エリクトニオス(古希: Ἐριχθόνιος, Erichthonios)は、ギリシア神話の人物である。有名な人物が2人知られており、
がいる。以下に説明する。
アテーナイの王
この人物はアテーナイの神話的な王である。父は鍛冶神ヘーパイストスで、母は女神アテーナーとも[1]、大地(ガイア)とも[2][3][4]、あるいはアテーナイ王クラナオスの娘アッティスであるとも言われる[1]。水のニュンペーのプラークテシアーとの間にパンディーオーンをもうけた[1]。初代アテーナイ王ケクロプスと同じく上半身が人間で下半身が蛇だったといわれる。
誕生
神話によるとアテーナーはヘーパイストスの工房に武器を鍛えてもらおうとやって来たが、その頃ヘーパイストスは妻のアプロディーテーにすっかり相手にされなくなっていたので、女神に欲情して迫ったが、アテーナーは拒んで逃げた。ヘーパイストスは不自由な足でアテーナーを追いかけた末に、女神の足に射精した。女神が精液を羊毛でふき取って大地に捨てると、大地は身ごもって1人の赤子エリクトニオスを生んだ[1]。
別の話によると、ヘーパイストスは母ヘーラーが醜い自分を天から地上に投げ捨てたことをうらんでいたので、神々の椅子を作ったときヘーラーの椅子に罠をしかけておいた。そのためヘーラーが椅子に座るとヘーラーは縛り上げられて、天から宙吊りにされてしまった。ヘーパイストスはオリュンポスに連れてこられ、母を解放するかわりにどんな物でも得ることを要求し、認められた。それを見たポセイドーンはアテーナーと敵対していたので、ヘーパイストスにアテーナーを妻とするよう助言した。そこでヘーパイストスはアテーナーを得て、女神の部屋を訪れたが、アテーナーが拒んだので格闘になり、ヘーパイストスの精液は大地に落ち、そこからエリクトニオスが生まれたという[5]。
ケクロプスの娘たち
アテーナーはこの子供を不死にしようと考え、1匹(あるいは2匹[6])の大蛇とともに箱の中に入れ、アテーナイ王ケクロプスの娘たち(パンドロソス、ヘルセー、アグラウロス)に預けた。ところがヘルセーとアグラウロスは「中を見ないように」という女神の言いつけを破って箱を開き、大蛇によって殺された。あるいはアテーナーの怒りによって[1]、またあるいはエリクトニオスを見たことによって気が狂い、アクロポリスから身を投げて死んだ[7]。悲劇詩人エウリーピデースは『イオーン』の中で、エレクテウスの子孫はエリクトニオスの故事にちなんで、黄金の蛇を護符として赤子に持たせたと述べている[8]。
功績
その後、エリクトニオスはアテーナーによって育てられ、アムピクテュオーンを追放して自ら王となり[1][4]、アクロポリスにアテーナーの木像を置いて、パンアテーナイア祭を創始した[1]。
また馬を最初に軛につないだとされ[9]、戦車の扱いはヘーリオスを思わせる巧みさであり、これに感嘆したゼウスによってぎょしゃ座とされたという[10]。スキタイの王インドスが発見した銀をアテーナイにもたらしたとも伝えられている[11]。
系図
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デーイオーン |
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エレクテウス |
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ピロメーラー |
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プロクネー |
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テーレウス |
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ケパロス |
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プロクリス |
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オーレイテュイア |
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ボレアース |
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ケクロプス |
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クスートス |
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クレウーサ |
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オルネウス |
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メーティオーン |
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クトニアー |
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ブーテース |
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クレオパトラー |
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カライス |
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ゼーテース |
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パンディーオーン |
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アカイオス |
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イオーン |
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ペテオース |
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エウパラモス |
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プレークシッポス |
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パンディーオーン |
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パラース |
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リュコス |
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ニーソス |
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メネステウス |
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ペルディクス |
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ダイダロス |
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キオネー |
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ポセイドーン |
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アイトラー |
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アイゲウス |
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メーデイア |
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スキュラ |
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エウリュノメー |
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タロース |
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イーカロス |
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エウモルポス |
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アンティオペー |
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テーセウス |
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パイドラー |
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ベレロポーン |
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ヒッポリュトス |
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アカマース |
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デーモポーン |
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ギャラリー
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ピーテル・パウル・ルーベンス『ケクロプスの娘たちによって発見されたエリクトニオス』1616年頃 リヒテンシュタイン美術館所蔵
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ヤーコブ・ヨルダーンス『ケクロプスの娘たちによって発見されたエリクトニオス』1617年 アントワープ王立美術館所蔵
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ピーテル・パウル・ルーベンスのサークル『幼いエリクトニオスを発見したケクロプスの娘たち』1640年 個人蔵
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ヤーコブ・ヨルダーンス『エリクトニオスを発見したケクロプスの娘たち』1640年 美術史美術館所蔵
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ウィレム・ファン・エルプ『ケクロプスの娘たちによって発見された幼いエリクトニオス』1650年頃 個人蔵
トロイアの王
この人物はトロイアの王で、ダルダノスとテウクロスの娘バテイアの子、イーロスと兄弟。河神(ポタモス)シモエイスの娘アステュオケーとの間に、トロイアの名祖であるトロースをもうけた[12]。一説にはガニュメーデースの父[13]。
『イーリアス』によると、エリクトニオスは大変裕福で、3000頭の牝馬を持っていたが、北風神ボレアースが牡馬の姿となって交わり、12頭の優れた馬が生まれた。この馬たちは田畑を荒らすことなく穀物の上を飛び跳ねたり、また海上を自由に走ることが出来たという[14]。
系図
脚注
- ^ a b c d e f g アポロドーロス、3巻14・6。
- ^ エウリーピデース『イオーン』20行。
- ^ エウリーピデース『イオーン』267行-270行。
- ^ a b パウサニアス、1巻2・6。
- ^ ヒュギーヌス、166話。
- ^ エウリーピデース『イオーン』21行-22行。
- ^ パウサニアス、1巻18・2。
- ^ エウリーピデース『イオーン』24行-25行。
- ^ アイリアーノス、3巻38話。
- ^ “伝エラトステネス『星座論』(5) しし座・ぎょしゃ座”. 2022年8月31日閲覧。
- ^ ヒュギーヌス、274話。
- ^ アポロドーロス、3巻12・2。
- ^ ヒュギーヌス、271話。
- ^ 『イーリアス』20巻219行-229行。
参考文献
- アイリアノス『ギリシア奇談集』松平千秋・中務哲郎訳、岩波文庫(1989年)
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア悲劇全集7 エウリーピデースIII』、岩波書店(1991年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ホメロス『イリアス(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- カール・ケレーニイ『ギリシア神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)
研究案内
- B.Powell, Erichthonius and tha Three Daugthers of Cecrops, Cornell Studies of Classical Philology, 1906.
関連項目
エリクトニオス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 22:00 UTC 版)
アテーナーにはエリクトニオスの出生にまつわる伝承が伝えられる。アポロドーロスの伝承では、アテーナーが武器を作るためにヘーパイストスを訪れた際、欲情したヘーパイストスに襲われた。アテーナーは逃げ出したが追いついたヘーパイストスはアテーナーの脚に精液を撒いた。アテーナーは怒り精液を毛(羊毛)で拭うと地に投げ捨てた。この精液が落ちた土からエリクトニオスが生まれた。アテーナーはエリクトニオスを隠し育て、のちに箱に詰めアテーナイ王ケクロプスの娘パンドロソスへと預けた。この時、箱を開けることを禁じられたが、パンドロソスの姉妹は好奇心に負け箱を開け、赤子を巻いている大蛇を見てしまう。彼女たちは大蛇によって滅ぼされたとも、アテーナーの怒りによって狂いアクロポリスから墜死したとも伝えらえる。その後エリクトニオスはアテーナーによってエレクテイオンで育てられ、のちにアテーナイの王となった。 ヒュギーヌスの伝承では、ポセイダーオーンによって唆されたヘーパイストスがアテーネーを妻にしようと寝室へと忍び込んだが、アテーネーは武器をもって抵抗し純潔を守った。このときヘーパイストスは精液を大地へと漏らし、そこから下半身が蛇の形をしたエリクトニオスが生まれた。アテーネーはこの子を育てようと小さな籠に入れ、ケクロプスの3人の娘たちに託した。娘たちが籠を開けたときカラスがその秘密を漏らしたために、娘たちはアテーネーによって狂い海へと身投げした。
※この「エリクトニオス」の解説は、「アテーナー」の解説の一部です。
「エリクトニオス」を含む「アテーナー」の記事については、「アテーナー」の概要を参照ください。
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