ギリシア悲劇とは? わかりやすく解説

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ギリシャ‐ひげき【ギリシャ悲劇】

読み方:ぎりしゃひげき

アテネ中心に5世紀ごろ栄えた演劇運命逆らいまた、流される人間主題とした荘重沈痛な悲劇で、仮面をつけた俳優コロス合唱団)によって演じられる。アイスキュロス・ソフォクレス・エウリピデスを三大悲劇詩人という。


ギリシア悲劇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/17 16:21 UTC 版)

ギリシア悲劇(ギリシアひげき、古希: τραγῳδία古代ギリシア語ラテン翻字: tragōͅdía、トラゴー(イ)ディア)は、古代ギリシアで、アテナイディオニューシア祭において上演されていた悲劇またそれに範を取った劇をいう。ヨーロッパにおいては古典古代およびルネサンス以降、詩文芸の範例とみなされる。

概要

ギリシア悲劇を意味する「トラゴー(イ)ディア」(古希: τραγῳδία古代ギリシア語ラテン翻字: tragōͅdía)は、「山羊」(ディオニューソスの象徴の1つ)を意味する「トラゴス」(古希: τράγος古代ギリシア語ラテン翻字: trágos)と、「歌(頌歌)」を意味する「オー(イ)デー」(古希: ᾠδή古代ギリシア語ラテン翻字: ōͅdḗ)の合成語であり、「山羊の歌」の意味。英語の「tragedy」等も、この語に由来する。

アリストテレスによれば、ギリシア悲劇はディオニューソスに捧げるディテュランボス(酒神讃歌)のコロス(合唱隊)と、その音頭取りのやり取りが発展して成立したものだという[1]

アテナイにおける悲劇の上演は競演の形を取り、競作に参加する悲劇詩人は、三つの悲劇(三部作、トリロギア)と一つのサテュロス劇をひとまとめにして上演する必要があった。現在まで三つの悲劇がこの形で残っているのは、アイスキュロスオレステイア三部作のみである。 いずれにしても、題材はギリシア神話やそれに類するものから取られる。聴衆は参加した悲劇詩人のうちで誰のものが最も優れていたかを投票し、優勝者を決めていた。

人物・作品

起源

紀元前6世紀の人物テスピスが悲劇の創始者であると言われる(また、自ら俳優として舞台に立った最初の人物とも言われる)。彼の作品で現存しているものはない。

三大悲劇詩人

最も有名な悲劇詩人は、三大悲劇詩人として知られているアテナイのアイスキュロスソポクレスエウリピデスである。プラトンも最初は悲劇詩人を目指していた。古代ギリシア喜劇詩人アリストパネスは、その作品「」の中で三大詩人の批評をやって見せている。

現存作品

ギリシア悲劇のほとんどは散逸しており、現存するのは

等のみである。

分類

この現存作品32篇(+1篇)を、内容ごとに分類すると、以下のようになる。

演劇形態

悲劇は仮面をつけた俳優と舞踊合唱隊(コロス)の掛け合いによって進行する。コロスの登場する舞台をオルケストラといい、劇場は円形のオルケストラを底とする、すり鉢状の形を取った。現存する最も整ったギリシアの劇場の遺構はエピダウロスに見られる。当初、劇はコロスのみで進行していたが、前述のテスピスが俳優を導入し、その後アイスキュロスが2人に増やした。これによってドラマチックな演出が可能となり、舞台芸能として大きく進歩したと言われる。さらに、エウリピデスがもう1人増やして3人となった[2]

形式として前口上「プロロゴス(prologos)」、コロスの入場歌「パロドス(parodos)」、歌舞に挿まれる演劇「エペイソディオン(epeisodia)」、コロスの歌舞「スタシモン(stasimon)」、劇の終結「エクソドス(exodus)」、コロスと俳優の嘆きの歌「コンモス(kommos)」という場面転換があるが、厳密には分けられない作品もある。コロスの歌の部分には旋舞歌「ストロペー」、対旋舞歌「アンティストロペー」が一対となる詩節が幾度か交わされ、結びの歌「エポードス」を添えるのが一般的な形式となる。[3]

但し、ここで言うところの俳優とは台詞のある役を演ずる者のことである。実際には「黙役(だんまり役)」と言う台詞の無い役を演ずる俳優がそれ以外に登場することがある[4][5]。また、当時既に子役俳優も存在したが、やはり「黙役」である[6]。子供の役であっても台詞がある場合には大人の俳優がそれを演じる。

学問

古代における悲劇論では、アリストテレスの『詩学』が、根本文献である。

近代でギリシア悲劇の成立について記した文献に、フリードリヒ・ニーチェの初期代表作『音楽の精髄からの悲劇の誕生 (悲劇の誕生)』があるが、ニーチェ自身の思想表明が多大で、文献学研究的には、発刊当時も今日もほぼ支持されていない。

イギリスの古典学者、ジェーン・エレン・ハリスンの主著に『古代芸術と祭式』がある。

日本語訳

参考文献

脚注

  1. ^ 詩学』第4章
  2. ^ 参考:ディオゲネス・ラエルティオスギリシア哲学者列伝』3.56
  3. ^ エウリピデス悲劇全集 訳:丹下和彦京都大学学術出版会 『凡例』 
  4. ^ 『オイディプス王』のアンティゴネー役とイズメーネー役や、『縛られたプロメテウス』の暴力役、『エレクトラ(ソポクレスの)』のピュラデス役、そして『コロノスのオイディプス』の1095行〜1555行のイズメーネー役がそれに当たる。
  5. ^ テーバイ攻めの七将の1005行〜1078行について、イズメーネーに台詞が無いことを踏まえて「黙役」を絡めれば辻褄が合いそうに思えるが、舞台上で、しかも上演中にイズメーネー役の俳優が布告使に早変わりした上に、イズメーネー役の「黙役」俳優と咄嗟に入れ替わらなければならず、どだい無理がある。
  6. ^ 例えば『トロイアの女』のアステュアナクス役がそれに当たる。
  7. ^ 表紙及び背表紙には明記されてないが上巻である。奥付にはその旨明記されている。本来は中巻、下巻も刊行される予定だったが、中巻印刷中に版元が倒産し、その後の混乱で原稿が行方知れずとなったため、結果として上巻のみの刊行となった。
  8. ^ レーソス、アルケースティス、メーデイア、ヒッポリュトス、ヘーラクレースの子供達、ヘカベー、アンドロマケー収載
  9. ^ アイスキュロス4曲(波斯人、アガメムノーン、コイフォロイ、エウメニデス)、ソポクレス4曲(アンティゴネー、オイディポス王、コローノスのオイディポス、エーレクトラ)収載。
  10. ^ エウリピデス6曲(アルケースチス、ヒッポリュトス、メーデイヤ、アウリスのイフィゲネイヤ、タウロイのイフィゲネイヤ、バクカイ)収載。
  11. ^ 正式には「近代社 世界戯曲全集刊行部」による
  12. ^ アイスキュロス5曲(波斯人、アガメムノーン、コエーポロイ、エウメニデス、縳られたプロメーテウス)、ソポクレス4曲(アンチゴネー、オイヂプース王、コロノスのオイヂプース、エーレクトラ)、エウリピデス6曲(アルケーチス、ヒッポリュトス、メーデイア、アウリスのイーフィゲネイア、タウロスのイーフィゲネイア、バクカイ)収載。
  13. ^ “朱版”“黒版”共に
  14. ^ アイスキュロス3曲(アガメムノン、供養する女たち、慈しみの女神たち)、ソポクレス4曲(アンティゴネ、オイディプス王、コロノスのオイディプス、ピロクテテス)、エウリピデス3曲(メデイア、トロイアの女、バッコスの信女)収載。
  15. ^ アイスキュロス2曲(アガメムノン、縛られたプロメーテウス)、ソポクレス3曲(オイディプス王、アンチゴネ、エレクトラ)、エウリピデス3曲(アウリスのイーピゲネイア、メーデイア、エレクトラ)収載。

関連項目


ギリシア悲劇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 06:15 UTC 版)

デウス・エクス・マキナ」の記事における「ギリシア悲劇」の解説

ソポクレスピロクテテス』 - オデュッセウス説得拒むピロクテーテースに対して、神となったヘーラクレース現れアカイア勢へ助力命じる。 エウリピデスオレステス』 - 母を殺したオレステス狂いエレクトラともども死刑宣告されるオレステスらはその原因であるとみなしたメネラーオス妻と娘殺そうとするが、アポロン計らい和解するエウリピデスタウリケのイピゲネイア』 - 逃亡したオレステスイピゲネイア追っ手出そうとしたタウリケ領主女神アテナ現れ追っ手とどめる

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