イオーン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/04 03:31 UTC 版)
イオーン(ギリシア語:Ἴων、Iōn)は、ギリシア神話の人物。エレクテウスの娘クレウーサとクスートスの子[1]、あるいはクレウーサの私生児[2]。アカイオス、ディオメーデーと兄弟[1]。アカイオスがアカイア人の名祖とされるのに対してイオーンはイオニア人の名祖とされ[1]、また4人の息子ゲレオーン、アイギコレース、アルガデース、ホプレースはそれぞれアテーナイの4部族の名祖とされる[3][注釈 1]。日本語では長音を省略してイオンとも呼称される。
神話
エウリーピデースの悲劇『イオーン』では、次のような神話が語られる[5]。クレウーサはアポローンとの間に設けた息子のイオーンを、父の怒りを買うことを恐れて捨てた。アポローンはヘルメースに、イオーンをゆりかごからつれてくるよう依頼した。イオーンはデルポイの神託所の巫女によって守り育てられた。後に、クレウーサを娶ったクスートスは「神託所を出て最初に出会った人物が息子である」との神託を受け、その人物こそイオーンであった。彼はその神託を、イオーンが自分の実の息子であると解釈したが、アポローンは彼を養子として与えようとしていたのであった。クレウーサは未だクスートスとの間に子供をもうけておらず、イオーンを夫の庶子だと思い込んで嫉妬し、彼の殺害を企てた。同じ頃、イオーンはクレウーサに害を与えようとしていた。最終的に、巫女が保管していたゆりかごから、クレウーサは彼が自分の息子であり、クスートスはただ彼を養子に迎えただけだということに気がつく。
他の伝承によれば、イオーンはアカイア地方の都市・ヘリケー(現代のエリキ、英語版)を発見したとされる。この伝承において、イオーンはアポローンの子ではなく、セリーノス王の統治する地に暮らしていたクスートスの息子とされる。彼はセリーノスの娘でヘリケーという名の王女と結婚し、セリーノスの死後王位についた[5]。さらに妻の名からとってヘリケーの街を建て、王国の首都とした。後に彼はエレウシスを侵攻していたアテナイ人に将として招かれ[5]、エレウシス近郊での戦闘中に死亡した。
イオーンはまた、ヘブライ語聖書で言及されるヤワン(Javan)と同一視される場合もある[6]。初期のギリシア語では、イオーンの名前は*Ἰάϝων (Iáwōn) であったと考えられ、のちにディガンマが欠落してἸάων (Iáōn) [7]、あるいは叙事詩などに見られる複数形のIáonesに変化したとされる[8][9]。加えて、アレクサンドリアのディオニュシウスは、アルカディアにイアーオーン (Iaon) と呼ばれる川があると伝えている。このイアーオーン川は、ヘーシオドスのカリマコス讃歌でも言及されている。
系図
エリクトニオス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイオロス | パンディーオーン | ゼウクシッペー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
デーイオーン | エレクテウス | ピロメーラー | プロクネー | テーレウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ケパロス | プロクリス | オーレイテュイア | ボレアース | ケクロプス | クスートス | クレウーサ | オルネウス | メーティオーン | クトニアー | ブーテース | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
クレオパトラー | カライス | ゼーテース | パンディーオーン | アカイオス | イオーン | ペテオース | エウパラモス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
プレークシッポス | パンディーオーン | パラース | リュコス | ニーソス | メネステウス | ペルディクス | ダイダロス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キオネー | ポセイドーン | アイトラー | アイゲウス | メーデイア | スキュラ | エウリュノメー | タロース | イーカロス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エウモルポス | アンティオペー | テーセウス | パイドラー | ベレロポーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヒッポリュトス | アカマース | デーモポーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
注釈
脚注
- ^ a b c アポロドーロス、1巻7・3.
- ^ ヘーシオドス『名婦列伝』断片10(a).
- ^ ヘロドトス、5巻66.
- ^ 高津、p.48b
- ^ a b c 高津、p.49a
- ^ Bromiley, Geoffrey William (General Editor) (1994). The International Standard Bible Encyclopedia: Volume Two: Fully Revised: E-J: Javan. Grand Rapids, Michigan: Wm. B. Eerdmans Publishing. pp. 971. ISBN 0-8028-3782-4.
- ^ Woodhouse’s English-Greek Dictionary, 1910, p. 1014
- ^ ヘーシオドス『名婦列伝』断片10(a).23. "Ἰάονά τε κλυ]τόπωλ[ο]ν"
- ^ 『イーリアス』第13歌、685行 "Ἔνθα δὲ Βοιωτοὶ καὶ Ἰάονες ἑλκεχίτωνες"(John Pairman Brown, Israel and Hellas (1995), p.82)
参考文献
- イオーンのページへのリンク