アムピトリーテーとは? わかりやすく解説

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アムピトリーテー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/14 02:04 UTC 版)

アムピトリーテー
Ἀμφιτρίτη
海の女神 海の女王
マリウス・ジャン・アントナン・メルシエの作品『アンフィトリテ』。1889年-1900年
ウォルターズ美術館所蔵
住処
シンボル イルカ, 三叉戟
配偶神 ポセイドーン
ネーレウス, ドーリス
兄弟 ガラテイア, テティス, プサマテー
子供 トリートーン, ロデー, ベンテシキューメー
ローマ神話 サラーキア
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ネプトゥーヌスとアンピトリーテーのモザイク画。315年~325年頃。ルーブル美術館所蔵。

アムピトリーテー古希: Ἀμφιτρίτη, Amphitrītē)は、ギリシア神話海神ポセイドーンの妃で海の女王である[1]。名前の意味は「大地を取り巻く第三のもの」、即ち海をあらわす。聖獣はイルカで、象徴はヴェール王笏

ローマ神話海水の女神サラーキアと同一視される。

アンピトリーテー[2]、アンフィトリーテーアムフィトリーテー[3]長母音を省略してアムピトリテ[4]アンピトリテアンフィトリテ[5]アムフィトリテとも表記される。

概要

アムピトリーテーは、ネーレウスオーケアノスの娘ドーリスとの間にもうけた50人の娘ネーレーイデスの1人で[6][7]、ポセイドーンとの間に、トリートーン[8][9]ロデー[9]ベンテシキューメーを生んだ[10]。子供のうち、トリートーンは上半身が人間、下半身がイルカ(または魚)の姿をした海神である。ロデーは太陽神ヘーリオスの妻となった。ベンテシキューメーはエウモルポスを育てたといわれる。アムピトリーテーの三人の子供というのは、彼女自身の三面相を示すもので、トリートーンは幸運の新月、ロデーは刈入れのころの満月、ベンテシキューメーは危険な旧月を現している[11]

神話

ホメーロスとヘーシオドス

アムピトリーテーは海の女性的化身である[12]ホメーロスの『オデュッセイア』によると、青黒い瞳をしており、大波を起こすとされ[13]、海の巨大な怪魚や海獣を数知れず飼っているとされている[14]。しかしホメーロスにおいては十分な擬人化が進んでおらず、単に海を指すと思われる個所もある[15]ヘーシオドスの『神統記』では、アムピトリーテーは同じネーレーイデスのキューモドケー、キューマトレーゲーとともに、荒れ狂う風を鎮めることができ[16]、またポセイドーンとの間にトリートーンを生んだと詠われている[8]。『ホメーロス風讃歌』の「アポローン讃歌」によると、レートーデーロス島アルテミスアポローンを出産したとき、ディオーネーレアーテミスをはじめとする多くの女神たちとともに立ち会った[17]

ポセイドーンとの結婚

テーセウスに指輪と王冠を授けるアムピトリーテー。両者の間にアテーナーが描かれている。
前490~500年頃のキュリクス。陶工はエウフロニオス、画家はオネシモス。ルーブル美術館所蔵。

後世の神話ではアムピトリーテーとポセイドーンの結婚の物語が語られている。それによればアムピトリーテーは姉妹たちとともにナクソス島で踊っているときにポセイドーンによってさらわれた[18]

エラトステネースによると、アムピトリーテーははじめポセイドーンを嫌って海の西端のアトラースのもとに逃げ、彼女の姉妹たちによって匿われた。ポセイドーンがイルカにアムピトリーテーを探させると、1頭のイルカが大西洋の島にアムピトリーテーがいるのを発見し、説得してポセイドーンのところに連れて行った。その結果ポセイドーンはアムピトリーテーと結婚することができ、この功績によってイルカは天に配置され、いるか座となった[19]

オッピアーノスもエラトステネースとほぼ同じ神話を述べている。それによるとアムピトリーテーが隠れたのはオーケアノスの宮殿であった。そしてポセイドーンはイルカから隠れ場所を教わると、すぐさま拒絶するアムピトリーテーを奪い、結婚したという[20]

ポセイドーンはもともと大地の神だったが[21]、アムピトリーテーとの結婚によって海も司るようになったともいわれる[22]。アムピトリーテーは、気のおけない妻で、夫の度々の不実を辛抱強く我慢した[23]

テーセウス伝説

アムピトリーテーはテーセウス伝説にも登場する。アテーナイの英雄テーセウスがミーノータウロス生贄としてクレーテー島に連れてこられたとき、ミーノース王は彼がポセイドーンの子であることを信じなかった。ミーノースは自分の指輪をはずして海に投げ入れ、本当にポセイドーンの子ならば指輪を取ってくることができるだろう、と言った。そこでテーセウスが海に潜ると、イルカが彼をポセイドーンの王宮に運んだ。やって来たテーセウスに、アムピトリーテーはミーノースの指輪と、真紅の外套、花冠を授けた[24][注釈 1]

ギャラリー

ジャン=ユーグ・タラヴァルの1780年の絵画『アンフィトリテの勝利』。マサチューセッツ州アマーストミード美術館英語版所蔵。

脚注

注釈

  1. ^ パウサニアース(1巻17・3)によると、ミーノースの指輪と黄金の冠を授けたことになっている。

出典

  1. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』29頁。
  2. ^ 呉茂一『ギリシア神話』新潮社、1969年。ISBN 9784103071013 207頁。
  3. ^ 松田壮六『ホメーロス辞典』国書刊行会、1994年。 ISBN 9784336035684 23頁。
  4. ^ マイケル・グラント;ジョン・ヘイゼル 著、西田実 ほか訳『ギリシア・ローマ神話事典』大修館書店、1988年。 ISBN 9784469012217https://dl.ndl.go.jp/pid/13154590 70頁。
  5. ^ 水谷智洋、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『ポセイドン』 - コトバンク
  6. ^ 『神統記』243行
  7. ^ アポロドーロス、1巻2・7。
  8. ^ a b 『神統記』930行-933行
  9. ^ a b アポロドーロス、1巻4・6。
  10. ^ アポロドーロス、3巻15・4。
  11. ^ ロバート・グレーヴスギリシア神話 上巻』紀伊国屋書店、1973年、16章1。
  12. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』150頁。
  13. ^ 『オデュッセイア』12巻60。
  14. ^ 『オデュッセイア』5巻422、12巻97。
  15. ^ 『オデュッセイア』3巻91。
  16. ^ 『神統記』252行-254行
  17. ^ 『ホメーロス風讃歌』第3歌「アポローン讃歌」94。
  18. ^ 『オデュッセイア』3巻91に対する古註(カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』p.232)。
  19. ^ エラトステネス、31話。
  20. ^ オッピアノス『漁夫訓』1巻386行-393行。
  21. ^ 『ギリシア・ローマ神話事典』523頁。
  22. ^ 『ギリシアの神話 神々の時代』p.224、231、232。
  23. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』151頁。
  24. ^ バッキュリデース、第17歌。

参考文献

関連項目

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