オルペウス教讃歌
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『オルペウス教讃歌』(羅: Orphei Hymni[2]、英: Orphic Hymns)は、古代ギリシアのオルペウス教の文書。オルペウスの作とされる神々の讃歌集。実際の作者は不明。2世紀から3世紀ごろ成立[4][7]。
内容
ギリシア神話の神々を讃美する、87篇[3](88篇とも[4])の短い詩からなる[3]。最初はヘカテー、最後はタナトス。ディオニューソス・パネース・ニュクスなどオルペウス教で重視される神々が多い[3]。ミセー・ヒプタといった小アジアの神々も含まれる[3]。メーリノエーは本書がほぼ唯一の情報源となっている[8]。
オルペウスの名は序文にしか見えない[3]。序文によれば、本書はオルペウスがムーサイオスのために作った。
讃歌は、神々を呼び出す儀式で朗唱する祈祷文だったと考えられる[3]。似た讃歌が古代の呪術パピルスにも見られる[3]。讃歌の大半には、焼香に用いるお香の種類が書き添えられている[4]。
背景
本書は内容から、2世紀末から3世紀初頭ごろ、小アジアで一人の人間が作ったと推定される[3]。
ただし、オルペウスの詩(オルペウスに仮託される詩)はそれ以前から流布していた[9]。アリストテレース[10][11]、パウサニアース[12][13][14]、パロス島大理石碑文[13]、デルヴェニ・パピルス[15]が詩の流布を伝えており、エウセビオスらギリシア教父や新プラトン主義者が散佚した詩を引用している[7][16]。本書以外にも『オルペウス教のアルゴナウティカ』などの詩が伝存する[1]。
本書は写本を通じて、ホメーロスの讃歌やカリマコス・プロクロスの讃歌と一緒に伝存した[3][4]。
ルネサンス期には、フィチーノが「古代神学」の観点から、本書含むオルペウス詩の翻訳を試みている[7]。ピコ・デラ・ミランドラは『900の提題』のうち31提題で本書を論じている[5][17]。
脚注
- ^ a b ベルフィオール 2020, p. 258.
- ^ a b 北嶋 1997, p. 27.
- ^ a b c d e f g h i j k ジャンメール 1991, p. 656ff.
- ^ a b c d e f g ソレル 2003, p. 17f;左vii.
- ^ a b 中村 2023, p. 2.
- ^ 松原 2010, p. 370.
- ^ a b c 伊藤 2021, p. 7f.
- ^ Athanassakis, Apostolos N.; Wolkow, Benjamin M. (2013). The Orphic Hymns. Johns Hopkins University Press. ISBN 978-1421408828. p. 195
- ^ 桜井 2010, p. 61.
- ^ アリストテレース『魂について』410b28
- ^ 國方 2025, p. 132f.
- ^ パウサニアース『ギリシア案内記』1.14.3
- ^ a b 三浦 1996, p. 26.
- ^ 北嶋 1996, p. 20.
- ^ 齊藤 2014, p. 16f.
- ^ 水地 2014, p. 17.
- ^ 伊藤 2021, p. 29.
参考文献
- アンリ・ジャンメール 著、小林真紀子;福田素子;松村一男;前田寿彦 訳『ディオニューソス バッコス崇拝の歴史』言叢社、1991年。 ISBN 978-4905913405。
- レナル・ソレル 著、脇本由佳 訳『オルフェウス教』白水社〈文庫クセジュ〉、2003年。 ISBN 978-4560058633。
- ジャン=クロード・ベルフィオール 著、金光仁三郎 監訳『ラルース ギリシア・ローマ神話大事典』大修館書店、2020年。 ISBN 9784469012897。
- 伊藤博明「マルシリオ・フィチーノにおける音と音楽(2)」『人文科学年報』第51号、専修大学人文科学研究所、2021年。 NAID 120007034864 。
- 北嶋美雪「オルペウス教 : プラトンの宗教思想解明の手掛かりとしての(1)」『研究年報』第42号、学習院大学文学部、1996年 。 CRID 1050564287965323648
- 北嶋美雪「オルペウス教 : プラトンの宗教思想解明の手掛かりとしての(2)」『研究年報』第43号、学習院大学文学部、1997年 。 CRID 1050282812988614912
- 國方栄二『プラトンのプラトニック・ラブ』京都大学学術出版会、2025年。 ISBN 9784814005888。
- 齊藤安潔「古典期オルペウス教の概要(2)」『西洋古典研究会論集』第23号、西洋古典研究会事務局、2014年。 NAID 40020177007 。
- 桜井万里子 著「エレウシスの秘儀とオルフェウスの秘儀」、深沢克己;桜井万里子 編『友愛と秘密のヨーロッパ社会文化史 古代秘儀宗教からフリーメイソン団まで』東京大学出版会、2010年。 ISBN 9784130261388。
- 中村亮二「オルフェウスの死」『表現学』第9号、大正大学表現学部表現文化学科、2023年 。 CRID 1050577851219987328
- 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。 ISBN 9784876989256。
- 三浦要 訳「オルペウス」『ソクラテス以前哲学者断片集 第I分冊』岩波書店、1996年。 ISBN 9784000920919。
- 水地宗明 著「新プラトン主義のアウトライン」、水地宗明; 山口義久; 堀江聡 編『新プラトン主義を学ぶ人のために』世界思想社〈学ぶ人のために〉、2014年。 ISBN 9784790716242。
関連項目
- ホメーロス風讃歌
- オルペウス教のアルゴナウティカ
- オルペウス教の黄金板
外部リンク
- 富田章夫 (2016年). “オルペウスの諸神讃歌(1/2)”. Barbaroi!. 2025年6月11日閲覧。
- オルペウス教讃歌のページへのリンク