オルペウス教の黄金板
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/14 09:38 UTC 版)


オルペウス教の黄金板(オルペウスきょうのおうごんばん、英: gold tablets[4][7], gold plates[4])は、古代ギリシアのオルペウス教の考古資料。20世紀初頭以降、地中海一帯の墳墓で出土した黄金製の小さな板[4][8][9]。魂の救済に関する銘文が刻まれている。
解説
縦3-4cm、横4-8cm、長方形や木の葉の形をしている[8]。骸骨の胸元や手元に副葬品として添えられていた[8][2][4]。折りたたまれてネックレスに収められていた場合もある[8]。
出土地はギリシア(テッサリア[9]、マケドニア[9]、クレタ島エレウテルナ[6])、南イタリア[9](ペテリア[6]、ヒッポニオン[3]、トゥリオイ[6])、ローマ[6]、シチリア[9]、北アフリカ[2]に及ぶ。年代は前5世紀(古典期)から後3世紀(古代末期)に及ぶ[9]。
「デルヴェニ・パピルス」や「オルビア出土の骨板」と並ぶ、オルペウス教の貴重な考古資料となっている[3]。ただし、黄金板の銘文にオルペウスの名前は登場しない[3][9]。そのため、20世紀にはオルペウス教との関係に否定説もあったが、21世紀には肯定説が優勢になっている[3]。
銘文
冥界に旅立つ魂のための、旅のガイドブック[8]・護符[8]・パスポート[5]のような内容が書かれている。具体的な内容はそれぞれ異なるが、主に以下の内容が書かれている。
- 冥界の道案内[2]。冥界には、忘却の泉(レテ)と記憶の泉(ムネモシュネ)がある[2]。前者の水を飲まず、後者の水を飲むこと[2]。
- 冥界の番人やペルセポネに会ったら言うべき言葉[2]。私(人間の魂)はゲーとウラノスの子である[2](オルペウス教神話では、人間の魂はティタンとザグレウスから生じた不死の存在とされる)。
- ペルセポネの赦免を受けられれば、輪廻転生から脱却し、神性に回帰できる[2][10]。
日本語訳に、三浦 1996[6][2]、北嶋 1997[4]、齊藤 2012[1]、齊藤 2014[8]がある。
脚注
- ^ a b 齊藤 2012, p. 110.
- ^ a b c d e f g h i j ソレル 2003, p. 108-119.
- ^ a b c d e 桜井 2010, p. 57-59.
- ^ a b c d e f 北嶋 1997, p. 11-17.
- ^ a b パーカー 2024, p. 286.
- ^ a b c d e f 三浦 1996, p. 30-33.
- ^ Graf, Fritz (2017-10-26) (英語), Gold Tablets, Oxford University Press, doi:10.1093/acrefore/9780199381135.013.8124, ISBN 978-0-19-938113-5 2025年6月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g 齊藤 2014, p. 2.
- ^ a b c d e f g 齊藤 2013, p. 22f.
- ^ ソレル 2003, p. 左viii.
参考文献
- レナル・ソレル 著、脇本由佳 訳『オルフェウス教』白水社〈文庫クセジュ〉、2003年。 ISBN 978-4560058633。
- ロバート・パーカー 著、栗原麻子 監訳『古代ギリシアの宗教』名古屋大学出版会、2024年。 ISBN 978-4815811648。
- 北嶋美雪「オルペウス教 : プラトンの宗教思想解明の手掛かりとしての(2)」『研究年報』第43号、学習院大学文学部、1997年 。 CRID 1050282812988614912
- 齊藤安潔『プラトン宗教思想研究 哲学的神学の誕生』名古屋大学 博士論文、2012年。 NAID 500001222664 。
- 齊藤安潔「古典期オルペウス教の概要(1)」『西洋古典研究会論集』第22号、西洋古典研究会事務局、2013年。 NAID 40019759808 。
- 齊藤安潔「古典期オルペウス教の概要(2)」『西洋古典研究会論集』第23号、西洋古典研究会事務局、2014年。 NAID 40020177007 。
- 桜井万里子 著「エレウシスの秘儀とオルフェウスの秘儀」、深沢克己;桜井万里子 編『友愛と秘密のヨーロッパ社会文化史 古代秘儀宗教からフリーメイソン団まで』東京大学出版会、2010年。 ISBN 9784130261388。
- 三浦要 訳「オルペウス」『ソクラテス以前哲学者断片集 第I分冊』岩波書店、1996年。 ISBN 9784000920919。
- オルペウス教の黄金板のページへのリンク