93式空対艦誘導弾 主要構造(制式要綱に基づく)

93式空対艦誘導弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 06:16 UTC 版)

主要構造(制式要綱に基づく)

名称[6]
誘導部 誘導装置 赤外線画像誘導方式でIRCCM(赤外線妨害排除)機能及び目標識別機能を有する
慣性装置 ストラップダウンディジタル方式でセンサー部とコンピュータ部により構成される
電波高度計 送受信機・アンテナで構成され、高度測定及び警報信号発生機能を有する
オートパイロット電子装置 慣性装置からの信号を受け演算補償を行い操舵信号をサーボ装置に提供し、信管安全解除及び信管自爆制御を行う
電池 熱電池式でミサイル内部機器への電源提供を行う
誘導部胴体 フレーム,外板,搭載品取付け台等の構造部分と搭載品間の配線から構成される
弾頭部 信管 着発延期型で、S&A(セーフティアンドアーミング)機構と自爆機能を有する
弾頭 PBX系炸薬を使用した徹甲りゅう弾で焼夷材を含む
推進装置部 ジェットエンジン 誘導弾を加速した後,速度を維持して巡航飛しょうさせる
推進装置胴体 空気取り入れ口カバーを分離し、エンジンの抽気圧を利用した燃料供給を実施する
制御部 サーボ装置 電気サーボで4軸の操舵翼を駆動する
制御部胴体 4個のサーボ装置及び配線を搭載する
主翼 軸対称直交十字形に配列され、金属翼とステルス翼がある
操舵翼
上方配線 各部を結ぶ配線で、誘導弾胴体上部に装着されている
上方トンネル 上方配線を保護する
その他要素品 クールボトル 誘導装置へ冷却ガス(アルゴンガス)を供給する

評価

本誘導弾は長いスタンドオフレンジと赤外線画像誘導による誘導精度の高さ、またパッシブセンサによる被探知性の低さによる高い残存性などから、運用側である航空自衛隊からは高い評価を得ており、後に専用標的として水上自走標的(JSQ-20)が技術研究本部(当時)で開発されたほど重要視された[9]。また、同様に対艦攻撃を主任務とする海上自衛隊からも高く評価されており、広域エリア防空艦などに守られた相手艦隊への対艦攻撃にはF-2とASM-2の投入を渇望し、統合作戦の訓練時にはF-2とのTime on Targetに拘っていたという。

なお、後継装備であるXASM-3が開発途上で当初計画されていた赤外線画像シーカーの搭載を止めたのも、同様のシーカーを持つASM-2の調達理由が無くなることとなり、ASM-2の調達が継続出来なくなることを懸念したからとの話がある(当初はアクティブ/パッシブ・レーダー誘導のXASM-3はアクティブ・レーダー誘導のASM-1の後継装備として赤外線画像誘導のASM-2と併用配備するとされたが、後にXASM-3はASM-1/2双方の後継装備とされた)。

このように高性能を誇ったASM-2も制式化されてからほぼ30年が過ぎており、その間に対象国の広域エリア防空システムも大幅な進歩を遂げていることから、前述のように後継装備として超音速対艦誘導弾であるXASM-3が開発されたが[4]、その後もスタンドオフレンジの延伸とステルス性による生残性の向上、またAIなどを搭載して相手の防空システムを積極的に回避する等の機能を備えた新世代の対艦誘導弾の早期開発・配備が望まれている。

改良及び派生型

93式空対艦誘導弾(B)(ASM-2B)

平成13年度(2001年度)に航空自衛隊第4補給処より、既存技術の適用を図ることによりASM-2の運用の柔軟性向上と取得経費低減を目的として「ASM-2の技術改善」(仕様書番号:4補LPS-X02556)が調達要求され、三菱重工業と契約が締結された。契約内容は主にASM-2の誘導部と部隊用点検器材の改修であり、誘導部の改修対象は以下の通りである。

構成及び数量
品名 数量 備考
誘導装置 1 改修
慣性装置 1 新造
3 GPS受信機 1 新造
4 高度計 1 改修無し
5 オートパイロット電子装置 1 新造
6 電池 1 改修無し
7 誘導部胴体 1 改修

誘導部の改修内容は以下である。

  1. 慣性装置の機能を慣性装置及びオートパイロット電子装置に再配分。
  2. 慣性装置のセンサ方式を機械式ジャイロから光学式ジャイロへ変更。
  3. 民生用GPS受信器を追加。
  4. オートパイロット電子装置の演算補償計測機能に関し、アナログ方式からデジタル方式へ変更。

将来発展性として、オートパイロット電子装置の能力の向上が可能であることが規定されている。さらに上記の機器を搭載するため、CFT器材の搭載ポッドも改修の対象となっている。

ASM-2BのCFTポッド

上記の納入機器を用いたに各種試験に基づき、航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して空幕技1第12号(平成15.1.31)「93式空対艦誘導弾(B)の技術要求事項について(通知)」が通知され、これにより従来の93式空対艦誘導弾の仕様書(CP-Y-0067)が改定された。これが93式空対艦誘導弾(B)である。従来の93式空対艦誘導弾と93式空対艦誘導弾(B)の違いを以下に示す。

93式空対艦誘導弾(B)と従来型との違い
誘導部構成品 93式空対艦誘導弾 93式空対艦誘導弾(B)
慣性装置 機械式ジャイロ 光学式ジャイロ
GPS受信機 無し 有り
オートパイロット電子装置 アナログ方式 デジタル方式

93式空対空誘導弾(B)ではGPS受信器の新規装備により慣性装置へGPS併用航法機能を獲得したことによって、自己位置情報のアップデートが可能となり、航法精度を大幅に向上させた。また、機械式ジャイロから光学式ジャイロへ変更したことにより、ジャイロの低価格化とメンテナンス性を向上させている。さらに、オートパイロット電子装置をデジタル式へ変更したことにより、ソフトウェア更新によるアップデートが容易となった。このソフトウェアの更新が後に改善弾となる。なお、GPS誘導装置は官給品であり、民生品ではなく軍用GPS装置(米国からFMS調達品)となっている。

93式空対艦誘導弾(B)(ASM-2B)改善弾

平成20年度(2008年度)に「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」が航空幕僚監部技術部内で通知され、これを基に航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して「93式空対艦誘導弾(B)に対する技術要求事項(空幕技第141号23.6.28)」が通知され、93式空対艦誘導弾の仕様書(CP-Y-0067)が改定されてCP-Y-0067Lとなった。これが93式空対艦誘導弾(B)改善弾である。

改修の対象は慣性装置とオートパイロット電子装置のソフトウェアの更新であり、IRCCM(赤外線妨害排除機能)の向上も図られている。なお。納入品にはソフトウェアが入った外部記憶媒体とTCTO(期限付き技術指図書)案が含まれているため、既存のASM-2Bは部隊側でTCTOに基づいて改善弾への改修作業(ソフトウェア更新)が実施されたと思われる。

この改善によって、部隊用点検器材(改善型より耐久型ラップトップPCと思われる機器、誘導部支持架台等が新たに追加されている)により、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報等)を入力できるようになり、さらに飛しょう、誘導、起爆の3項目のミッションプロファイルについて新たな機能が追加されている。なお、改善弾の実射試験時には複雑な飛しょう経路を上空から確認し易くするためか、誘導弾の尾部にスモーク発生装置が装備されているのが目撃されている。[10]

巡航ミサイル型標的

ASM-2のシーカーと弾頭の代わりにMDI(Miss Distance Indicator 射撃評価装置)を搭載したもの。XAAM-4及びAAM-4(B)の低空目標・小型目標対処能力を確認するための実射試験に超低高度用標的として使用された。外観の特徴は他の標的と同様に赤色系の蛍光色が塗装されており、MDI用の送受信アンテナとデータ送信用のテレメーターアンテナが新たに追加されている。また、スモーク発生装置を備えていた模様。ただ標的としては高価なためか、最近は川崎重工製の空対空用小型標的機(巡航ミサイル模擬)が専ら調達されている。


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 技術研究本部50年史 P196-198
  2. ^ a b c d e f g h 「F-1の誘導兵器とFCS」,川前久和,世界の傑作機No117 三菱F-1,P42-47,文林堂,2006年
  3. ^ 図解 戦闘機の戦い方,毒島刀也,遊タイム出版,2014年,P186,ISBN 978-4860103491
  4. ^ a b c d 新空対艦誘導弾“ASM-3”,宮脇俊幸,「軍事研究」,2013年6月号,P38-50,株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー
  5. ^ 政策評価書(本文)(事前の事業評価)事業名 新空対艦誘導弾(XASM-3)平成14年
  6. ^ a b 制式要綱 93式空対艦誘導弾
  7. ^ 誘導武器の開発・調達の現状 平成23年5月 防衛省経理装備局システム装備課
  8. ^ 平成23年版 日本の防衛 資料18 誘導弾の性能諸元、平成23年度 防衛白書
  9. ^ 防衛庁技術研究本部 編『技術研究本部50年史 2 技術開発官(航空機担当)』防衛省、2002年11月、117-120頁。 
  10. ^ ASM-2B改善弾の実射試験時の様子”. Twitter. 2021年1月19日閲覧。


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