スワヒリ語 文法

スワヒリ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/21 02:05 UTC 版)

文法

名詞クラス

バントゥー諸語全体の特徴でもあるが、名詞はいくつかの部類に分類され、部類ごとに特定の接頭辞が付く。その部類を名詞クラスと称する。さらにどの部類の名詞を形容するかによって形容詞が変化し、どの部類の名詞を主語あるいは目的語にするかによって動詞が変化する。このため、文脈上明らかな場合は 主語や目的語を省略できる。

Meinhof systemに則って単数と複数を別々に数えるなら、祖語には22クラスあったとされ、ほとんどのバントゥー諸語が少なくともそのうち10クラスを有している。スワヒリ語には16クラスあり、うち6クラスが単数名詞、5クラスが複数名詞、1クラスが抽象名詞、1クラスが動詞の不定詞(名詞的な扱い)、3クラスが場所を主として示す。

クラス 接頭辞 単数 意味 複数 意味
1, 2 m-/mu-, wa- mtu watu 人(複数)
3, 4 m-/mu-, mi- mti miti 木(複数)
5, 6 Ø/ji-, ma- jicho macho 目(複数)
7, 8 ki-, vi- kisu ナイフ visu ナイフ(複数)
9, 10 Ø/n-, Ø/n- ndoto ndoto 夢(複数)
11 u- ua  
14 u- utoto 子供であること

単数がm-、複数がwa-で始まる名詞は「生物」、とくに「人」を示す(例:mtu(人)・watu(複数)、mdudu(虫)・wadudu(複数))。 単数がm-、複数がmi-で始まる名詞は「植物」を示すことが多い(例:mti(木)・miti(複数))。動詞の不定詞はku-で始められる(例:kusoma(読む))。それ以外のクラスは区分が複雑である。単数がki-、複数がvi-で始まる名詞は、しばしば工具などの「人工物」を示す。このki-/vi-交替は、語根がki-で始まる外来語にまで適用される(例:kitabu(本、アラビア語kitābに由来)→vitabu(複数))。このクラスは「言語」も示し(例:Kiswahili(スワヒリ語))、指小辞としても使われる。かつてのバントゥー語では別々だったクラスが合流したものである。u-で始まる名詞はたいてい抽象名詞を示し、複数はない(例:utoto(子供であること?))。n-m-または接頭辞なしで始まり、単複同形のクラスもある。単数がji-または接頭辞なし、複数がma-で始まるクラスは、しばしば指大辞として使用される。

照応

名詞だけ見る限り所属クラスが不明確な場合でも一致を確かめれば分かる。形容詞や数詞は通常、名詞の接頭辞をとる。動詞は別の接頭辞の体系をとる。(下記参照)

単数     複数
 
mtoto mmoja anasoma watoto wawili wanasoma
子供 1 読んでいる 子供(複数) 2 読んでいる(複数)
(一人の)子供が読書している 二人の子供が読書している
 
kitabu kimoja kinatosha vitabu viwili vinatosha
1 十分だ 本(複数) 2 十分だ(複数)
一冊の本で十分だ 二冊の本で十分だ
 
ndizi moja inatosha ndizi mbili zinatosha
バナナ 1 十分だ バナナ(複数) 2 十分だ(複数)
一本のバナナで十分だ 二本のバナナで十分だ

同一の名詞語根に異なる名詞クラスの接頭辞を付加することで派生語を作れる。

例1:「人」クラスmtoto (watoto)(子供)・抽象名詞クラスutoto(子供であること)・縮小語クラスkitoto (vitoto)(幼児)・増大語クラスtoto (matoto)(年長の子供)
例2:「植物」クラスmti (miti)(木)・「人工物」クラスkiti (viti)(椅子)・増大語クラスjiti (majiti)(大木)・kijiti (vijiti)(棒)・ujiti (njiti)(細く高い木)

スワヒリ語の名詞クラスのシステムは文法性の一種とされるが、ヨーロッパの言語に見られる文法性とは異なる点がある。ヨーロッパの言語の文法性がほぼ恣意的であるのに対し、スワヒリ語における名詞のクラス分類は多分に意味的な関連性に基づいているのだ。しかし、名詞クラスを「人」や「木」といった単純なカテゴリーと捉えることはできない。意味が拡張され、拡張された意味に似た単語意味がまた拡張され、ということが行われた結果、名詞クラスは意味で繋がった網となっている。今でもその繋がりは広く理解されているが、非スワヒリ語話者には分かりづらいものがある。

スワヒリ語では普通の人の名詞クラスは「人」だが、盲人などの障害者は「もの」で表現されていた。この障害者差別的な語法に反対し、近年多くの障害者や人権団体などが障害者を「人」クラスで表す語法を広めている。

有名なスワヒリ語にはJamboがあるが、「物事」の意味で、"Hujambo.", "Hamjambo." のように人称接頭辞をつけることで、挨拶の言葉となる。

動詞複合体

スワヒリ語の動詞が動詞そのまま(動詞語幹そのまま)で使われるのは命令形のみであり、通常は主語と対応した接頭辞、時制標識、目的語を示す接頭辞など様々な接頭辞が複合的に付加される。さらに動詞の意味を拡張する接尾辞も追加されることもある。こうした複合体を動詞複合体という。

なお目的語の接頭辞は目的語と照応したものが使われる。


注釈

  1. ^ Kijapani = 日本語、Kiingereza = 英語、など
  2. ^ 日本語では母音の連続は、早い発音では二重母音に、ゆっくりとした丁寧な発音ではヒアートゥスになる傾向がある。

出典

  1. ^ http://wikisource.org/wiki/Baba_yetu
  2. ^ a b 「アラビア語の世界 歴史と現在」p478 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  3. ^ Nurse & Thomas Spear (1985) The Swahili
  4. ^ 田辺裕島田周平柴田匡平、1998、『世界地理大百科事典2 アフリカ』、朝倉書店  p197 ISBN 4254166621
  5. ^ Kharusi, N. S. (2012). The ethnic label Zinjibari: Politics and language choice implications among Swahili speakers in Oman. Ethnicities 12(3) 335–353, http://etn.sagepub.com/content/12/3/335
  6. ^ Adriaan Hendrik Johan Prins (1961) The Swahili-speaking Peoples of Zanzibar and the East African Coast. (Ethnologue)
  7. ^ E.A. Alpers, Ivory and Slaves in East Central Africa, London, 1975, pp. 98–99 ; T. Vernet, "Les cités-Etats swahili et la puissance omanaise (1650–1720), Journal des Africanistes, 72(2), 2002, pp. 102–105.
  8. ^ Lemelle, Sidney J. "'Ni wapi Tunakwenda': Hip Hop Culture and the Children of Arusha." In The Vinyl Ain't Final: Hip Hop and the Globalization of Black Popular Culture, ed. by Dipannita Basu and Sidney J. Lemelle, 230-54. London; Ann Arbor, Michigan. Pluto Pres
  9. ^ 「新書アフリカ史」第8版(宮本正興・松田素二編)、2003年2月20日(講談社現代新書)pp244-247
  10. ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」pp388-392 梶茂樹+砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
  11. ^ Taathira za Kiarabu katika Kiswahili pamoja na kamusi thulathiya (Kiswahili-Kiarabu-Kiingereza) / I. Bosha ; edited by A.S. Nchimbi Dar es Salaam : Dar es Salaam University Press 1993
  12. ^ 『アフリカを知る事典』、平凡社、ISBN 4-582-12623-5 1989年2月6日、初版第1刷、p.232
  13. ^ 「現代アフリカの民族関係」所収「民族の共存・交流のかたち 一九七〇年代、コンゴ(旧ザイール)東部における多言語併用の動態から」赤坂賢 2001年、ISBN 4-7503-1420-X、pp.248-249
  14. ^ 『民主主義がアフリカ経済を殺す: 最底辺の10億人の国で起きている真実』p92-93、甘糟智子訳、日経BP社、2010年1月18日
  15. ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」pp407-409 梶茂樹+砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
  16. ^ 「事典世界のことば141」p496 梶茂樹・中島由美・林徹編 大修館書店 2009年4月20日初版第1刷
  17. ^ 「ケニアを知るための55章」pp228-229 松田素二津田みわ編著 明石書店 2012年7月1日初版第1刷
  18. ^ 「言語的多様性とアイデンティティ、エスニシティ、そしてナショナリティ ケニアの言語動態」品川大輔(「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」所収 pp335-336 梶茂樹+砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
  19. ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」pp352-354 梶茂樹+砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
  20. ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」p240 梶茂樹+砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷
  21. ^ http://www.sfs.osaka-u.ac.jp/jpn/edu_fl_swa.html 大阪大学外国語学部スワヒリ語専攻
  22. ^ 「アフリカ学入門 ポップカルチャーから政治経済まで」p311 舩田クラーセンさやか編 明石書店 2010年7月10日初版第1刷






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