墓
『嵐が丘』(E・ブロンテ)34 ヒースクリフは40歳に達した頃、数日間、食を絶ち、朝、寝室で死んでいるのが発見された。彼は生前の望みどおり、18年前に死んだキャサリンの墓の隣に、埋葬された。その後、何人もの人が、ヒースクリフとキャサリンの幽霊を、荒野・教会の近く・嵐が丘の館などで見た。
『捜神記』巻11-32(通巻294話) 悪王のために引き裂かれた韓憑夫婦が自殺する(*→〔投身自殺〕1)。王は怒って、夫婦の遺体を別々の塚に埋める。幾晩もせぬうちに、双方の塚から梓の木が生え出し、成長して互いに幹を曲げ、根と根・枝と枝が絡み合った。人々は、この木を「相思樹」と名づけた〔*雌雄の鴛鴦が相思樹を寝ぐらにして、朝から晩まで悲しげに鳴いた。この鴛鴦は韓憑夫婦の魂魄だという〕。
『定家』(能) 藤原定家と式子内親王は、人目を忍んで契りを重ねた。内親王の死後、定家の執心は蔦葛となって彼女の墓に這いまつわり、互いに苦しんだ。墓を清める者が蔦葛を取っても、翌日にはもとのごとく這いかかるのだった。
『トリスタン・イズー物語』(ベディエ)19 トリスタンとイゾルデ(イズー)の遺体が、寺院の奥殿の左と右の墓地に埋められる。夜、トリスタンの墓からいばらが萌え出て寺院の上に這い上がり、イゾルデの墓の中に延びて行く。人々が3度、枝を断つが、なおも新芽は延び、マルク王は枝を断ち切ることを禁じる〔*『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)には、この物語はない〕。
『大和物語』第147段 津の国に住む女に、同国のむばら姓の男と和泉国のちぬ姓の男が、求婚する。女は思い悩んで入水し、男2人もその後を追って死ぬ。女の墓を真ん中にして、その左右に男2人の墓が築かれる。
*生前関わりのなかった男女を合葬し、冥界での夫婦とする→〔冥婚〕8の『三国志』魏書・武文世王公伝第20「鄧哀王沖伝」。
『フランダースの犬』(ウィーダ) 少年ネロと老犬パトラッシュが凍死した時、少年の腕が余りにも強く犬を抱きしめており、引き離すことができなかった。町の人々は特別の許可を得て、この二者を1つの墓に納めた。
★2.落武者の墓。
七人塚の伝説 7人の落武者が、峠や村境で行き倒れて死ぬ、あるいは追手に殺されるなどした後、その場所にさまざまな祟りがある。そこで村人は、7人を祀る塚を築き、供養した。
『八つ墓村』(横溝正史)「発端」 尼子義久が毛利元就に降伏した時、これに反対する若武者が近習7人とともに城を脱出し、ある村に身を寄せるが、彼らの持つ軍資金3千両に目のくらんだ村人たちによって、皆惨殺された。その後、村に凶事が頻発し、村人は落武者8人の霊を鎮めるため8つの墓を立てて祀った。
★3.墓の中の人。
『今昔物語集』巻28-44 雨に降られた男が墓穴に泊まる。後から来た旅人が墓穴に鬼がいるかと思って逃げる。残していった荷物などを男は手に入れる。
『サテュリコン』(ペトロニウス)111~112 エペソスの町の淑徳の誉れ高い夫人が、夫の遺骸とともに地下墓室に入り、死のうとする。兵士が夫人を誘惑して2人は関係を持ち、墓室内で幾晩もすごす。
『聊斎志異』巻9-346「愛奴」 徐は道で出会った老人から「甥の家庭教師に」と請われ、大きな屋敷に連れて行かれる。徐は少年を教え、美しい小間使いと夜を共にするなどして何日も過ごすが、外出できないことが不満で職を辞す。門を出てふり返ると、墓穴から出て来たのだった。
★4.墓の中の財宝。
『白髪鬼』(江戸川乱歩) 「わし(子爵大牟田敏清)」は、先祖代々の墓である20畳敷きほどの石室内で蘇生した(*→〔白髪〕2a)。そこは、中国人の海賊が莫大な財宝の隠し場所にしていた所だったので、「わし」は期せずして巨額の富を手にする。「わし」は富豪紳士里見重之と称して、「わし」を陥れた妻と情人に復讐する。
★5.墓をあばく。
『嵐が丘』(E・ブロンテ)29 キャサリンが埋葬された日、ヒースクリフは「もう一度彼女を腕に抱こう」と考え、鋤で墓地を掘る。棺の蓋をこじ開けようとした時、キャサリンが棺の中でなく地面の上にいるのが感ぜられ、ヒースクリフは墓をあばくのをやめる。それから17年後、ヒースクリフは再び墓を掘る。棺の蓋を開けると、キャサリンは生きている時と同じ顔で横たわっていた。
『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13-3 クセルクセスがバビロンのベロスの墓をあばき、オリーヴ油漬けの遺骸を納めた棺を見る。棺中の油は十分に満たされておらず、「墓をあばきて棺に油を満たし得ざりし者には善からぬことあるべし」と記した石板がある。クセルクセスは恐れて油を注ぐが、どうしても一杯にならない。後、クセルクセスはギリシア攻めに失敗し、帰国後、息子の手で殺される。
*吸血鬼の墓をあばいて殺す→〔首〕4aの『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー)。
★6a.墓に咲く花。
『女郎花』(能) 京の女が、夫である小野頼風の心を疑って、放生川に身を投げる。女の死骸を埋めた塚から、女郎花が1本咲き出たので、頼風は「我が妻は女郎花になったのだ」と思う。女郎花は頼風を恨むごとく、彼が近寄ると、なびき退いた。
『野菊の墓』(伊藤左千夫) 村祭り間近の陰暦9月13日、「僕(政夫)」と民子は山畑へ綿採りに行った。民子は野菊の花を見て「わたし、ほんとうに野菊が好き。わたし、野菊の生まれ変わりよ」と言った(*→〔花〕8)。民子は嫁に行ったが、翌々年の6月19日に死んだ。「僕」が民子の墓に参ると、あたりには不思議に野菊が繁っていた。それから1週間、「僕」は毎日墓へ通い、周囲一面に野菊を植えた。
*墓に咲く白百合の花→〔百〕2aの『夢十夜』(夏目漱石)第1夜。
『ケルトの神話』(井村君江)「銀の腕のヌァザとブレス王」 医者ディアン・ケヒトは息子ミァハの医術の才に嫉妬し、剣で斬り殺した。ミァハの死体を埋めた墓からは、365本の薬草が生えた。彼の妹アミッドは薬草を注意深く並べて、薬の調合を試みる。しかし父ディアン・ケヒトが来て、薬草の順序をめちゃめちゃにしてしまった。この時、薬草の順序が乱れていなかったら、人間は不老不死の薬を得たかもしれなかった。
*人の死体から草が生え、たばこになる→〔死体〕2bの『たばこの起こり』(昔話)。
『炎天』(ハーヴィー) 8月の炎暑の日、石屋が、品評会に出す墓碑を作っていた。石屋はそこに、適当に思い浮かんだ名前と生没年月日を刻んだ。そこへ1人の画家が通りかかった。画家は、自分の名前と生年月日、そして今日の日付けが墓碑に刻まれているのを見て、驚いた→〔予言〕4。
『夢』(カフカ) ヨーゼフ・Kは夢を見た。散歩に出て2歩あるくと、墓地に来ていた。芸術家が、墓石に誰かの名前を書いている。彼はKの姿を見て困惑し、書くのを中止する。Kは、墓石の下に大きな穴があるのに気づく。すべてが準備されていたのだ。Kは仰向けのまま、ゆるやかに穴に沈んで行く。芸術家は墓石にKの名前を書き上げる。うっとり眺めていると目がさめた。
『禁じられた遊び』(クレマン) 戦争で父母を失った女児ポーレットは、田舎道をさまよい、1軒の農家に身を寄せる。彼女はミシェル少年と仲良くなり、死んだ子犬・モグラ・トカゲなど、さまざまな小動物の墓を作って遊ぶ。ミシェルは、墓に立てる十字架を墓地から何本も盗んで来て、ポーレットを喜ばせる。しかしポーレットは孤児院に入ることになり、憲兵に連れて行かれる。ミシェルは十字架を川に投げ棄てる。
*墓地近くに住む子供が、葬儀・納棺ごっこをして遊ぶ→〔三度目〕1の『列女伝』巻1「母儀傳」11「鄒孟軻母」。
★9.他人の墓。
『お見立て』(落語) 花魁(おいらん)喜瀬川は客の杢兵衛を嫌い、若い衆の喜助に「花魁は死にました」と言わせる。杢兵衛が「それなら墓参りに行く」と言うので、やむなく喜助は杢兵衛を寺へ案内し、適当な墓石の前へ連れて行く。ところが名前を見ると、どれもこれも他人の墓である。杢兵衛「いったい喜瀬川の墓はどれだ」。喜助「よろしいのをお見立て願います」〔*客が花魁を選ぶことを「見立て」という。それにもとづく落ち〕。
傾城岩の伝説 村の息子が大阪へ働きに出て、高尾女郎と深い仲になる。事情があって息子は1人で村に帰り、そのあとを高雄女郎が追って来る。家族は「息子は死んだ」と嘘をつき、高雄女郎を他人の墓の前へ連れて行って、「息子の墓だ」と言う。高雄女郎はその場に倒れ、泣き死にした。彼女を葬ったあとが、現在の傾城岩である(島根県仁多郡横田町)。
『捜神記』巻16-20(通巻395話) 辛道度は旅の途中、ある邸宅に招き入れられ、秦の閔王の娘で死後23年になる女と、3晩夫婦生活をする。彼は形見に金の枕をもらい、門から出ると、邸宅は消え、墓が1つ立っているだけだった。後、秦王の妃がこのことを知って、辛道度を娘婿同様に思い、フ馬都尉に任じた。
『捜神記』巻16-22(通巻397話) 盧充は狩りに出て1軒の屋敷に招き入れられ、そこの娘と婚礼をあげる。屋敷と見えたのは崔家の墓で、そこに葬られている娘と盧充は結婚したのだったが、2人の間に生まれた男児はりっぱに成長して郡の大守などを歴任し、その子孫も代々高官となった。
『ファラオの娘』(プーニ) ピラミッドを訪れたウィルソン卿は、ファラオの娘の墓の前で阿片を吸って意識を失い(*→〔麻薬〕3)、古代エジプトにタイムスリップする。彼は青年タオールとなって、ファラオの娘アスピチアと恋に落ち、宮殿の人々が2人の結婚を祝福するが、喜びの頂点でタオールは意識を失う。アスピチアは、眠るウィルソン卿(=タオール)に別れを告げて棺の中へ戻って行く。目覚めたウィルソン卿は、ファラオの娘の墓の前にいたことを知る。
『金枝篇』(初版)第2章第2節 魂が身体から離れると病気になり、魂の不在が長引けば人は死ぬ。キー諸島の人々が信じるところでは、祖先たちの魂は、食べ物が与えられないと、怒って人々の魂を捕らえ、病気にさせる。そこで人々は墓に食べ物を供え、祖先たちに、「病人の魂を家へ戻してほしい」と請うのである。
*墓と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から*墓を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
![](http://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dictSchRd.png)
- >> 「*墓」を含む用語の索引
- *墓のページへのリンク