オリーブ・オイル
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オリーブ・オイル(英語: olive oil)、または
概要

オリーブの果実中に重量パーセントで10 - 40パーセントを占める不乾性油である[3]。オリーブオイルは菜種油やごま油など多くの植物油とは異なり、種実(種子)ではなく果実全体から搾油することを特徴とする[4]。
オリーブは地中海沿岸諸国を代表する作物で独自の文化と経済を築き上げた[5]。オリーブ栽培を地中海に広めたのは通商や航海術に長けていたフェニキア人とされる[5]。オリーブオイルは灯火用油[6](ランプの燃料[2])や化粧品[6]、食材などの基本的用途[6]、さらには医療的、宗教的、呪術的ニーズのために用いられてきた[6]。
1960年代のギリシャや南イタリアの食事は地中海式食事(地中海食)と呼ばれ、その特徴の一つに日常的なオリーブオイルの利用が挙げられる[7]。地中海式食事(地中海食)でオリーブはブドウと双璧をなす食品素材となっており、米国のKeys博士ら世界7か国共同の疫学的研究で、クレタ島など地中海地域では他の欧米諸国に比べて心臓疾患や糖尿病の罹患者が少ないことが報告され注目された[7]。
日本語や中国語ではオリーブ・オイルを
製法と品質等級
製法


オリーブの実の収穫期は、北半球では10月から12月頃、南半球では4月から6月頃である[9]。収穫から搾油まで早いほど品質劣化が少なく、通常24時間以内に搾油される[9]。
オリーブの緑色の実は熟すにつれて黒紫色に変化するが、未熟な実が多いほど辛みや苦味が強いスパイシーなオイル、熟した実が多いほどマイルドになる[4]。
オリーブの実からの搾油には様々な手法があり、伝統的には実を石臼などでペースト状にしてから高圧でプレスする方法がとられるが、現代では遠心分離機で水分と油分、搾りかすに分離する方法が主流である[4]。
品質等級

果汁から遠心分離などの機械的処理のみで得られた油をヴァージン・オリーブ・オイルと呼び、その中でも風味官能検査で味や香りに欠陥がひとつもなく、酸度が 0.8% 以下のものを特にエクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルと呼ぶ。また、品質の悪いヴァージン・オリーブ・オイルを精製(脱酸・脱臭・脱色等)したもので、酸度が 0.3% 以下のものを精製オリーブ・オイルといい、この精製オイルと中程度の品質のヴァージン・オイルをブレンドし、酸度 1.0% 以下にしたものをオリーブ・オイルと呼ぶ。ただし、これらの品質等級規格は国際オリーブ理事会(en:International Olive Council,IOC)[注釈 1]の定めたもので、IOC に加盟していない国もある。
日本では2023年(令和5年)3月22日に公正取引委員会及び消費者庁の認定を受けて「エキストラバージンオリーブオイルの表示に関する公正競争規約」が告示され、国際オリーブオイル協会の国際規格(IOC規格)に準拠することとなった[12]。これにより日本でピュア・オリーブ・オイルと呼んでいたものも、以上の区分に従い、単にオリーブ・オイルと表示されるようになった[13]。
果実に含まれる油を無駄なく回収するため、果汁を絞った絞りかすから再度遠心分離機や石油系有機溶剤を使って抽出したオイルを粗製オリーブ・ポマース・オイルと呼ぶ。オリーブ・ポマース・オイルは上記のオリーブ・オイルとは成分が異なるため、IOC[14]の規定により「オリーブ・オイル」と表示してはいけないと定められており、食用ではなく工業用として扱われている。ただし、オリーブ・ポマース・オイルを精製し、酸度を 0.3% 以下にした精製オリーブ・ポマース・オイルは、その国の基準(日本であれば JAS法[15])をクリアしていれば、食用としての販売は可能である(その代わり、容器には「ポマース」と明確に表記しなければならない)。オリーブ・ポマース・オイルは精製オリーブ・ポマース・オイルにヴァージン・オリーブ・オイルをブレンドしたもので、格安のオリーブ・オイルとして出回っているものの多くはこのオリーブ・ポマース・オイルである。
オリーブの種子から溶剤抽出によって得られた油をオリーブ核油と呼んでいる。
品質等級 | 酸度(%) | 等級規格 | 精度 (mg/kg) |
エクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイル | ≦ 0.8 | ヴァージン・オリーブ・オイルのうち風味官能検査で味や香りに欠陥がひとつもないもの | ≦ 250 |
ヴァージン・オリーブ・オイル | ≦ 2.0 | ヴァージン・オリーブ・オイルのうち風味官能検査で味や香りに若干の欠陥があるもの | ≦ 250 |
オーディナリー・ヴァージン・オリーブ・オイル | ≦ 3.3 | ヴァージン・オリーブ・オイルのうち風味官能検査で味や香りに複数の欠陥があるもの(日本では非食用) | ≦ 300 |
ランパンテ・ヴァージン・オリーブ・オイル | > 3.3 | ヴァージン・オリーブ・オイルのうち酸度が高く食用には不向きで、精製が必要なもの(非食用) | ≦ 300 |
精製オリーブ・オイル | ≦ 0.3 | ヴァージン・オリーブ・オイルを精製したもの | ≦ 350 |
(ピュア)オリーブ・オイル | ≦ 1.0 | 精製オリーブ・オイルとヴァージン・オリーブ・オイルをブレンドしたもの | ≦ 350 |
精製オリーブ・ポマース・オイル | ≦ 0.3 | 精製オリーブ・オイルの絞りかす(ポマース)からさらに抽出したもの | > 350 |
オリーブ・ポマース・オイル | ≦ 1.0 | 精製オリーブ・ポマース・オイルにヴァージン・オリーブ・オイルをブレンドしたもの | > 350 |
生産
世界の生産

オリーブオイルの主な生産国は、スペイン、チュニジア、イタリア、ギリシャ、トルコ、モロッコ、シリア、アルジェリア、ポルトガルなどである[13]。
国 | 2000 | % | 2005 | % | 2009 | % | 2014 | % |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() |
962.400 | 38,2 % | 819.428 | 32,1 % | 1.199.200 | 41,2 % | 1.775.800 | 54,3 % |
![]() |
507.400 | 20,1 % | 671.315 | 26,3 % | 587.700 | 20,2 % | 461.000 | 14,1 % |
![]() |
408.375 | 16,2 % | 386.385 | 15,1 % | 332.600 | 11,4 % | 131.900 | 4,0 % |
![]() |
185.000 | 7,3 % | 115.000 | 4,5 % | 143.600 | 4,9 % | 190.000 | 5,8 % |
![]() |
165.354 | 6,6 % | 123.143 | 4,8 % | 168.163 | 5,8 % | 165.000 | 5,0 % |
![]() |
115.000 | 4,6 % | 210.000 | 8,2 % | 150.000 | 5,2 % | 70.000 | 2,1 % |
![]() |
40.000 | 1,6 % | 50.000 | 2,0 % | 95.300 | 3,3 % | 120.000 | 3,7 % |
![]() |
30.488 | 1,2 % | 34.694 | 1,4 % | 56.000 | 1,9 % | 44.000 | 1,3 % |
![]() |
27.202 | 1,1 % | 17.458 | 0,7 % | 16.760 | 0,6 % | 30.000 | 0,9 % |
![]() |
25.974 | 1,0 % | 31.817 | 1,2 % | 53.300 | 1,8 % | 91.600 | 2,8 % |
![]() |
10.500 | 0,4 % | 20.000 | 0,8 % | 22.700 | 0,8 % | 30.000 | 0,9 % |
![]() |
6.000 | 0,2 % | 7.900 | 0,3 % | 15.000 | 0,5 % | 15.000 | 0,5 % |
![]() |
5.300 | 0,2 % | 6.800 | 0,3 % | 19.700 | 0,7 % | 20.500 | 0,6 % |
![]() |
500 | 0,02 % | 5.000 | 0,2 % | 15.000 | 0,5 % | 18.000 | 0,6 % |
世界の合計 | 2.518.629 | 100,0 % | 2.552.182 | 100,0 % | 2.911.115 | 100 % | 3.270.500 | 100 % |
Fuentes: FAO |
日本のオリーブ・オイル
1908年(明治41年)、魚の油漬け加工に必要なオリーブ・オイルの自給をはかるため[16]、農商務省がアメリカ合衆国から導入した苗木を三重県、鹿児島県と香川県に試験的に植えた。香川県の小豆島に植えたオリーブだけが順調に育ち、大正時代の初めには搾油が出来るほどの実が収穫された[17]。
小豆島で栽培されているものは、主に「ミッション」「マンザニロ」「ネバディロ・ブランコ」「ルッカ」の4種類[18]。
このほか熊本県(荒尾市)がオリーブ/オリーブ・オイルの生産と特産品化に熱心に取り組んでおり、香川県に次いで、熊本県が全国2位の生産量となっている[19]。
保管
オリーブ・オイルは紫外線により劣化するが、紫外線は太陽光線のみならず電球や蛍光灯の光にも含まれているため、冷暗所で保存する。手に取りやすい食卓や台所に置く場合は黒い瓶やアルミホイルで覆った瓶により遮光すると同様の効果がある[20]。
用途

主な用途
食用(食用油)のほか、化粧用、美容や医療の用途でも使用されている[21]。
料理の例
![]() |
この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2025年8月)
|
- フムス
- オイルソース
- アヒージョ
- カッサテッレ(cassatelle) 生地にオリーブ油を混ぜ、リコッタチーズ[ホエーからつくるイタリアのフレッシュチーズ]を詰めたシチリア島の揚げ菓子[22]
- メロマカロナ(melomakarona)
成分・栄養価
健康とオリーブ・オイル
- オレオカンタールは、特にエクストラ・ヴァージン・オイルに含まれている天然成分である。オレオカンタールは、風邪薬の中に入っている抗炎症剤であるイブプロフェンに似た抗炎症作用を示す。オレオカンタールは、炎症作用を有するプロスタグランジンをアラキドン酸から合成するシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害するのである。このことは、オリーブ・オイルからこの物質を長期間、少量摂取することが、地中海料理が心臓病の発生の予防に貢献しているかもしれないことを示唆しているものである[23][24]。
一覧表
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 3,699 kJ (884 kcal) |
0 g
|
|
糖類 | 0 g |
食物繊維 | 0 g |
100 g
|
|
飽和脂肪酸 | 13.808 g |
一価不飽和 | 72.961 g |
多価不飽和 | 10.523 g |
0 g
|
|
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(0%)
0 µg
(0%)
0 µg
0 µg
|
チアミン (B1) |
(0%)
0 mg |
リボフラビン (B2) |
(0%)
0 mg |
ナイアシン (B3) |
(0%)
0 mg |
パントテン酸 (B5) |
(0%)
0 mg |
ビタミンB6 |
(0%)
0 mg |
葉酸 (B9) |
(0%)
0 µg |
ビタミンB12 |
(0%)
0 µg |
コリン |
(0%)
0.3 mg |
ビタミンC |
(0%)
0 mg |
ビタミンD |
(0%)
0 IU |
ビタミンE |
(96%)
14.35 mg |
ビタミンK |
(57%)
60.2 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%)
2 mg |
カリウム |
(0%)
1 mg |
カルシウム |
(0%)
1 mg |
マグネシウム |
(0%)
0 mg |
リン |
(0%)
0 mg |
鉄分 |
(4%)
0.56 mg |
亜鉛 |
(0%)
0 mg |
マンガン |
(0%)
0 mg |
セレン |
(0%)
0 µg |
他の成分 | |
水分 | 0 g |
|
|
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース |
項目 | 分量 (g) |
---|---|
脂肪 | 100 |
飽和脂肪酸 | 13.808 |
16:0(パルミチン酸) | 11.29 |
18:0(ステアリン酸) | 1.953 |
一価不飽和脂肪酸 | 72.961 |
16:1(パルミトレイン酸) | 1.255 |
18:1(オレイン酸) | 71.269 |
多価不飽和脂肪酸 | 10.523 |
18:2(リノール酸) | 9.762 |
脚注
注釈
出典
- ^ “オリブ油”. 国立医薬品食品衛生研究所. 2025年8月28日閲覧。
- ^ a b “オリーブオイルテキスト Vol.3”. 高島市農業政策課. 2025年8月28日閲覧。
- ^ 平木 照男、川本 和明「オリーブ油の組成決定(1)」『香川大学経済論叢』第38巻第3号、香川大学、1965年、1-20頁。
- ^ a b c “オリーブオイルテキスト Vol.1”. 高島市農業政策課. 2025年8月28日閲覧。
- ^ a b “オリーブ”. 公益財団法人中央果実協会. 2025年8月28日閲覧。
- ^ a b c d 髙田 晋史「多様な主体の参加による伝統的農業システムの保全-イタリア中部ウンブリア州の事例から-」『農村計画学会誌』第43巻第1号、農村計画学会、2024年、36-40頁。
- ^ a b 吉田 滋樹「バイオミディア 効くの、効かないの? 地中海式食事の成分」『生物工学会誌』第92巻第9号、日本生物工学会、2014年9月25日、515-。
- ^ 加藤碵一. “温故知新:宮澤賢治作品における「鉱物性色彩語」考”. 産総研 地質調査総合センター. 2025年8月28日閲覧。
- ^ a b “オリーブオイルテキスト Vol.2”. 高島市農業政策課. 2025年8月28日閲覧。
- ^ “国際オリーブ理事会、香川のオイル評価を国内初認定”. 日本経済新聞. (2018年12月7日) 2020年3月6日閲覧。
{{cite news}}
:|accessdate=
、|date=
の日付が不正です。 (説明)⚠ - ^ 香川県庁 (2017年12月12日). “IOC(国際オリーブ理事会)によるオリーブオイル官能評価研修について【香川県庁】”. フーズチャネル. 2020年3月6日閲覧。
- ^ “オリーブオイル公正取引協議会設立、エキストラバージンオリーブオイルの表示可能に。国際規格に準拠。”. 食品新聞. 2025年8月28日閲覧。
- ^ a b c d “オリーブオイルの輸入”. 横浜税関. 2025年8月28日閲覧。
- ^ International Olive Council
- ^ “食用植物油脂の日本農林規格”. 農林水産省. 2020年3月9日閲覧。
- ^ 小豆島情報サイト
- ^ 小豆島オリーブ公園
- ^ たまらなく小豆島 オリーブ探検隊 (小豆島町商工会)
- ^ 豊かな香り 鮮度抜群!オリーブオイル ~熊本 荒尾~ NHK「ロクいち!福岡」2017年11月08日
- ^ “これが正解!オリーブオイル新調理術”. ためしてガッテン. NHK (2005年3月2日). 2007年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年12月17日閲覧。
- ^ 柴崎 博行、八木 ひろみ、中 久美子「オリーフオイルの肌の物理性に対する効果-一老人性乾燥肌に対する有効性の検証-」『香川県産業技術センター研究報告』第8号、香川県産業技術センター、2008年6月、86-88頁。
- ^ 『オリーブの歴史』原書房、2016年4月27日、15頁。
- ^ 石浦博士のオドロキ生命科学東京大学教養学部進学情報センター
- ^ オリーブ油の苦み成分に鎮痛薬に似た薬理作用、米研究チームが発見北陸大学
- ^ USDA National Nutrient Database
参考文献
ファブリーツィアー・ランツァ著、伊藤綺訳、『「食」の図書館 オリーブの歴史』原書房、2016/4/27、ISBN 978-4-562-05317-9
関連項目
- 植物油の一覧
- ごま油
- 椿油
- アレッポ石鹸
- ナブルスのオリーブ石鹸
- 速水もこみち
- ベリッシモ・フランチェスコ
- Amurca ‐ オリーブ油の沈殿物(アク)。苦味があり、除草剤や防虫剤などに用いられた。
外部リンク
- オリーブ(オレイフ) - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- オリーヴ油のページへのリンク