漁夫の利
「漁夫の利」とは、古代中国の権謀術の書物である戦国策に由来する故事成語で「とあるものをめぐって両者が争っている間に第三者が横取りして利益を得ること」を意味する表現。例えばお菓子の残りをめぐって兄と弟が喧嘩をしている最中に妹がこっそりとお菓子を手に入れる様は「漁夫の利」となる。
魚(朝鮮)を巡って日本と清が釣りで競争を繰り広げているすぐ近くでロシアが虎視眈々と漁夫の利を狙っている様子を描いた日清戦争に関する面白いイラストが、小学生の歴史の教科書に掲載されていることで有名。
「漁夫の利」の語源・由来
「漁夫の利」は、中国の戦国時代の史書である「戦国策」の中に登場する故事に由来する。この「戦国策」というのは、前漢時代に活躍した劉向(りゅうきょう)という学者であり政治家が、戦国時代の国策や逸話、遊説の言説などを国別に詳しくまとめたもの。「漁夫の利」は、「戦国策」の中の「燕策」に収められている。「戦国策」の中に出てくる故事とは、以下のとおり。紀元前四世紀、中国の戦国時代に趙(ちょう)という国と燕(えん)という国があった。この時代、秦、斉、趙、楚、韓、魏、燕の7国が強国として君臨していた。この中でも秦が徐々に領土を広げていき、周囲の国からひどく恐れられるようになったのである。趙は秦に対抗するために、軍事力を強化するとともにより弱い燕を攻めて領土を拡大しようとした。そして、趙が燕に攻め込むと聞きつけ、燕の国は戦を阻止するために蘇代(そだい)という議論が上手な人物を趙の恵文王の所に送り込むことに決めた。
蘇代は趙の恵文王に、こう説いた。「こちらに伺う途中、わたしは易水という川を渡った。その時、ハマグリが殻を開けて気持ちよさそうに日向ぼっこを楽しんでいるのを見つけた。そこにシギが飛んできてハマグリの肉を食べようとしたのだが、ハマグリは殻を閉じてシギの嘴を強く挟みこんでそのままぴたりと口を閉じたのである。シギが『いつまでもそのような態度でいると、やがてお前は干上がって死んでしまうだろう』と挑発した所、ハマグリは『このような状態のままでいると、そういうシギこそ食べ物が無くて飢え死にしてしまうだろう』とやり返したのである。ハマグリに挟まれてシギは逃げられなくなったが、ハマグリも殻を開けばシギに食べられてしまう。両者が一歩も譲らない争いをしていた所、漁師がそこを通りかかってシギとハマグリが争っているのを見つけた。シギもハマグリもお互い争いに夢中になっていて、漁師の存在に全く気づいていない。そのため、漁師は苦労することもなくシギとハマグリを生け捕りにして、ワクワクしながら持ち帰ってしまった。」
「今、趙は燕を討とうとしているが、燕と趙が長く争い続ければそれぞれの民衆がひどく疲弊してしまう。すると、このハマグリとシギの話のように強大な秦が乗り出して来て漁夫の利をかっさらってしまうだろう。」蘇代がハマグリを燕の国、シギを趙の国、漁師を秦の国に例えて説得したことで、趙の恵文王は「なるほど」と言って燕を攻めるのをやめた。この故事にちなんで、全く骨を折らずに第三者が利益を得ることを「漁夫の利」と言うようになった。
「漁夫の利」と同じように、「戦国策」のシギとハマグリの物語が由来で生まれた言葉として「鷸蚌の争い」がある。「鷸」はシギ、「蚌」はハマグリのことで、「第三者に利益を横取りされて共倒れになるような争い」という意味。また、「漁夫の利」は「戦国策」の中にある例え話を用いて戦争を思いとどまらせる話だが、同じ「戦国策」が元となってできた故事成語として「蛇足」「隗より始めよ」「虎の威を借る狐」「一挙両得」などもある。
「漁夫の利」の使い方・例文
「漁夫の利」とは、両者が争っている隙をついて第三者が何の苦労もせずに利益を得るといった状況の際に用いられる表現。無益な争いを皮肉るような言葉で、ビジネスはもちろん日常会話など色々なシーンで使われる。そもそも「漁夫の利」とは、争っている二人、利益をいとも簡単に手にする一人という構図で成り立っている。つまり、利益をそのまま得るのではなく二人が争いをしている間に横取りすることから、「ずる賢い」「うまくやったものだ」という侮蔑のニュアンスが強く含まれるのが特徴。また、「漁夫の利」は「漁夫の利を得る」「漁夫の利を狙う」「漁夫の利を取られる」「漁夫の利を占める」などの表現で使われることが多い。・昨日、わたしの両親が昼食にお好み焼きかラーメンかどちらを食べるかで長時間喧嘩していたが、どちらも一歩も譲ることなく結局、パスタを食べることになった。わたしはパスタをとても食べたい気分だったので、まさに漁夫の利を得たという感じだ。
・先日、デパートで開催されていたバーゲンセールに足を運んだのだが、二人の女性が一つの商品を巡って激しい取り合いをしていた。両者ともかなりの熱が入ってしまい商品そっちのけで喧嘩に夢中になっていた。その間に、別の女性が商品を奪ってレジへ行ってしまった。これは、漁夫の利といって過言ではない。
・今回の選挙では、与党の有力候補と報道されていた候補者二人がお互いにひどく罵り合ったせいで国民からの信頼を失ってしまった。その結果、全くノーマークだった新人が漁夫の利を得て当選したのには驚きだ。
・高校の体育大会で長距離走を行った際、優勝候補とされる2人が激しくトップ争いを繰り広げていた。ただお互いに強く意識しすぎるあまり、自分たちのペースを崩してしまったせいで息切れがして失速した。その結果、優勝候補では全くなかった自分が優勝したのはまさに漁夫の利だった。
・高校サッカーの決勝大会で、つい熱くなってしまったせいで相手チームの2人のメンバーの間でトラブルが勃発した。その隙に、ライバル校がうまくゴールを決めたのは漁夫の利だった。
・高校生の時、才色兼備で男性からかなりモテる同級生がいた。好意を持っている男性二人がどちらが最初に告白するか言い争いをしていたが、その間に別のクラスメートが彼女に告白して了解をもらったのでまさに漁夫の利を得たということだ。
・テレビでスピードスケートの試合を見ていたのだが、トップ争いをしていた二人がともにぶつかり合ってコースアウトしてしまった。その隙をついて、3番手につけていた選手が優勝をしたのでまさに漁夫の利だった。
・小学生時代、わたしの兄と姉はいつも3時のおやつの時間になると、どちらが何を食べるかで激しく喧嘩をしていた。その度に、一番年下である自分が一番に食べさせてもらえたのでまさに漁夫の利を得ていた。
・IT業界において2つのライバル会社が互いに競い合って強く牽制しているうちに、わたしが勤めている会社がその間隙を縫ってマーケットのほとんどを席巻していったので、まさに漁夫の利である。
・この度の選挙では、対立候補であった有力候補の二人が互いに足を引っ張りあってくれたおかげで、漁夫の利でわたしのような無名の新人が当選することができた。
・わたしと弟が冷蔵庫に残った最後の一つのアイスをどちらが食べるか喧嘩しているうちに、さっと母親が食べてしまった。まさに漁夫の利を取られたという感じだ。
・大学時代、同じサークルに驚くほどにかっこいい男性がいて夢中になり、わたしと友人が彼を巡って長きにわたって醜い争いを繰り広げていた。その最中に、サークルに入部したての後輩に先に告白されてしまい、漁夫の利で彼を取られてしまった。
・むきになってライバル会社とこのまま激しい争いを続けてしまうと、その隙に第三の会社が漁夫の利を狙ってくることも起こり得るだろう。
漁夫(ぎょふ)の利(り)
漁夫の利
漁夫の利
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 08:57 UTC 版)
「wikt:漁夫の利」も参照 ふたつの勢力がひとつの事柄について争っている間に、第三者が利益を得てしまうこと。「鷸蚌(いつぼう)の争い」ともいう。中国の戦国時代、趙は燕を攻めようとしていた。それを察知した燕の蘇代は趙に向かい、趙の王である恵文王に次のような話をした。「蚌(はまぐり)が殻を開けて日向ぼっこをしていると、鷸(しぎ)がやってきてその身を啄もうとしました。蚌は咄嗟に殻を閉じて、鷸の嘴を挟みました。鷸は『このまま今日も明日も雨が降らなければ、死んだ蚌があるだろう』と言い、蚌は『今日も明日もこのままならば、死んだ鷸があるだろう』と言う。そうして争っている間に、両者とも漁夫(漁師)に捕まってしまいました。趙と燕(鷸と蛤)が争っては、強国の秦(漁夫)に両方とも滅ぼされる機会を作るだけです」これを聞いた恵文王は燕を攻めるのを止めた、という故事が元となっている。
※この「漁夫の利」の解説は、「故事」の解説の一部です。
「漁夫の利」を含む「故事」の記事については、「故事」の概要を参照ください。
漁夫の利
出典:『Wiktionary』 (2021/08/11 10:01 UTC 版)
成句
漁夫の利 (ゆれ:「漁父の利」、この場合、しばしば「ギョフ」に替え「ギョホ」と読む)
類義語
出典
「戦国策・燕策」
- 【白文】
- 【訓読文】
- 【現代語訳】
- 趙は、今にも燕に攻め込もうとした。蘇代は趙の惠王に説いて言った、「今私が来るときに、易水で見たことです。どぶ貝が身を曝していたところ、鴫がやってきて、つついて食べようとしました。どぶ貝は貝をとじて、鴫の嘴をはさみました。鴫は貝に『今日も明日も雨が降らなければ、干からびて死んでしまうぞ』と言い、貝もそれに応え『今日も明日もものが食べられなければ、死んでしまうぞ』と言って、お互い離そうとしませんでした。そこに漁師がやってきて、ともに捕らえられてしまいました。今、趙は燕に攻め込もうとしています。長期に交戦することとなれば、両国は大いに疲弊することでしょう。ここで強国である秦が漁父となるを私は恐れるのです。惠王さまにも、そこを熟慮願いたいものです」、惠王は「なるほど」といって、すぐに派兵を止めた。
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「漁夫の利」の例文・使い方・用例・文例
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