ほうどう‐きょうてい〔ホウダウケフテイ〕【報道協定】
報道協定(ほうどうきょうてい)
ある事件の取材や報道をめぐって、テレビ・新聞・雑誌などの報道機関が取材方法や報道内容について自主的に規制すること。報道によって生命の安全に危険がある場合などに協定が結ばれる。
犯罪事件の報道では、警察などの捜査機関が発表する情報を記者クラブに加盟する報道機関の取材記者が受け取り、独自の取材内容を加えて報道する。国民の「知る権利」を実現するため、報道の自由として国などの公共機関から情報を得ること制度的に認められている。
一方、身代金目的の誘拐事件などでは、犯人は確実に身代金を手に入れたいとの思惑から、捜査機関やマスコミなどの介入を避けたいという思惑がある。そのため、犯人の要求に沿って、警察の存在を隠したり、マスコミの報道内容を抑制したりといった配慮が必要になる。マスコミが真実を報道することは、必ずしも被害者の生命を守るとは限らないからだ。
宮城県の病院から生後間もない赤ちゃんを連れ去った上、現金6150万円を要求した身代金目的略取の疑いで、宮城県警は3人の容疑者を逮捕した。この事件をめぐっては当初、場当たり的な犯行で新生児が放置される危険性があることから大々的に報道されたが、犯行の目的が身代金にあると断定され、宮城県警の要請を受けて7日午後から報道協定が結ばれていた。
(2006.01.10掲載)
報道協定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/11 23:54 UTC 版)
報道協定(ほうどうきょうてい)とは、日本の警察が新聞・テレビなどのマスメディアに対して報道を一切控えるように求めることによって、マスメディア間で結ばれる協定のこと。主に身代金目的の誘拐事件やハイジャックなどの立てこもり事件など、人質事件が発生した場合において用いられる。
注釈
- ^ テレビドラマ「アンフェア」では児童誘拐事件における報道協定において、登場人物であるマスメディアの人間が犯人が通じている共犯者である可能性が指摘され、捜査情報漏洩が懸念された。
- ^ 17日付の夕刊が発行される前にも、日本放送協会 (NHK) は13時のニュースで事件を報道できるだけの体制にしていたが、捜査当局から「人命に関することだから、発表するまでは慎重に」と要請されたことを受け入れ、報道を控えていた[4]。当時の警視庁捜査一課長・野田庸三は、新聞各紙にも同様の要請を行い、同日14時には事件の「発表保留」を申し入れたが、それ以前に本社に原稿を入れていた報道機関が何社かあり、結果的に各紙の夕刊で事件が報道されてしまった[5]。
- ^ 3月31日に被害者が姿を消してから1、2時間後、家人が「誘拐されたのでは」と近くの交番(警視庁下谷北警察署)に届け出たが、同署は隣接署に「迷子」の手配電報を打っただけで、捜査本部の設置は4月5日である[9]。その後、同月7日には犯人によって身代金を奪われ、同日に捜査本部は同事件を営利誘拐事件と断定した[9]。
- ^ 捜査当局側が報道機関側に対し、「誘拐事件で、人質にとられたこどもの生命がもっとも危険なのは、金を渡した直後と、犯人が追いつめられたときで、こんどの場合は身のしろ金を渡してから10日以上も経過しているから、公表しても(被害者の)生命には影響がないものと確信している。これ以上事態を伏せておくことは、捜査の現状よりみて犯人逮捕をますます困難にするし、吉展ちゃんを発見するためにも、報道機関の協力を求めるほかにはない」と説明し、報道機関側がそれを了承したことによる[11]。捜査当局側は17日からの報道開始を希望していたが、報道側は報道開始に慎重な姿勢を見せ、報道開始は19日にずれ込んだ[12]。
- ^ 警視庁は同月25日、「犯人の声」(編集済み)を公表し、ラジオ・テレビでそれが報道されたが、『読売新聞』がそれに先駆け、そのテープの存在を「公表予定日」より2日早く記事にしたことが、在京社会部長会で「協定違反」として問題視されている[12]。
- ^ 同日には、『毎日新聞』が夕刊最終版で「沼津郵便局に捜査員が張り込んでいるが、犯人らしい男はまだ現れていない」と報じていたが、在京社会部長会は「毎日の最終版は部数が少なく、犯人が必ずしも読むとは限らない」として、それ以降は犯人逮捕まで自主的に報道を控えることを決めた[16]。
- ^ 「仮協定」とは、警察当局が「取材・報道を自粛する各社間協定を要請」した瞬間、自動的に発効し、取材・報道を規制・禁止する体制に突入する(効力は「本協定」締結まで)というもので、それ以降速やかに「本協定」に入るか否かを決める[22]。
- ^ 1970年2月(富山の幼稚園女児誘拐殺人事件)から、1997年(平成9年)2月までに、現行方針に則って協定が締結された事件は計74件[27]。
- ^ 1970年以来、報道協定が締結された事件は同事件を含めて66件あったが、被害者の安否判明や犯人逮捕に至っていない段階で報道協定が解除された事例は同事件が初だった[29]。
出典
- ^ 結城かほる「熊本女児遺棄:不明時、ツイッターに書き込み続く」『毎日新聞』毎日新聞社、2011年3月5日。オリジナルの2011年3月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ デジタル編集部・岩下勉「遺族、苦しみ続けた9年 熊本・3歳女児殺害 「心に導かれ」命の大切さ伝える」『熊本日日新聞』熊本日日新聞社、2020年3月4日。オリジナルの2020年3月6日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b 丸山昇 1992, p. 444.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 446–447.
- ^ 丸山昇 1992, p. 447.
- ^ a b 丸山昇 1992, p. 445.
- ^ 丸山昇 1992, p. 437.
- ^ 丸山昇 1992, p. 425.
- ^ a b c d e 丸山昇 1992, p. 454.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 454–455.
- ^ 丸山昇 1992, p. 462.
- ^ a b c 丸山昇 1992, p. 457.
- ^ 丸山昇 1992, p. 456.
- ^ 丸山昇 1992, p. 455.
- ^ a b 丸山昇 1992, p. 463.
- ^ a b 丸山昇 1992, p. 464.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 464–465.
- ^ 丸山昇 1992, p. 465.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 468–469.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 469–470.
- ^ 丸山昇 1992, p. 473.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 475–476.
- ^ 丸山昇 1992, pp. 474–475.
- ^ a b 丸山昇 1992, p. 477.
- ^ “「誘拐報道協定」解説”. 日本新聞協会 (2000年12月7日). 2021年10月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月8日閲覧。
- ^ “誘拐報道の取り扱い方針、付記(警察庁の了解事項を含む)”. 日本新聞協会 (1970年2月5日). 2021年10月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月8日閲覧。
- ^ a b c 『毎日新聞』1997年5月8日東京朝刊第12版メディア面25頁「故梶原一騎氏の娘誘拐殺人事件 報道倫理未熟 台湾の“悲劇” 民主化で競争激化 スクープ前後に殺害」(台北で小林猛夫)「日本の報道協定 国際化にどう対応」(西川光昭)(毎日新聞東京本社) - 『毎日新聞』縮刷版 1997年(平成9年)5月号241頁
- ^ 『読売新聞』1970年2月25日東京朝刊第14版第一社会面15頁「富山 幼女誘かい殺される 遊びに出て一昼夜 工場跡地に死体 自転車で運んだ男追う ボール箱につめ 学童が目撃1」(読売新聞東京本社)
- ^ a b 『読売新聞』1980年3月28日東京朝刊第14版第二社会面22頁「誘かい報道は人命最優先 「週刊新潮」が掲載 自粛協定に新たな問題」(読売新聞東京本社) - 『読売新聞』縮刷版 1980年(昭和55年)3月号1060頁
- ^ a b 『中日新聞』1980年3月28日朝刊第12版第二社会面22頁「○○さん誘かい事件 週刊誌が報道強行 長びいた自粛協定に盲点」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 1980年(昭和55年)3月号910頁
- ^ 『読売新聞』1980年3月29日東京朝刊第13版5頁「デスク討論 誘かい事件と報道協定 あくまで人命を優先 ○○さん事件、前例にすまい」(読売新聞社) - 『読売新聞』縮刷版 1980年(昭和55年)3月号1091頁
- ^ a b c 『山梨日日新聞』1980年8月20日朝刊第2版一面1頁「追跡 誘かい犯人 司ちゃん事件から (3) 報道より人命を 自粛して無事救出祈る」(山梨日日新聞社)
- ^ 『山梨日日新聞』1980年8月16日朝刊第3版一面1頁「園児を誘かい、殺す 13日ぶり犯人逮捕 遺体は敷島で発見 1000万円要求 32回も脅迫電話 野球に誘い連れ去る」(山梨日日新聞社)
- ^ 『朝日新聞』1980年12月26日東京夕刊一面1頁「女子大生誘かいされる 名古屋 24日ぶり公開捜査 電話で3千万要求 6日から連絡なし 30回近く脅迫続ける」(朝日新聞東京本社)
- ^ 岩瀬達哉 2021, p. 188.
- ^ a b 岩瀬達哉 2021, p. 220.
- ^ 『北海道新聞』1995年7月31日朝刊第16版一面1頁「石狩町の高1女子不明 道警、誘拐で捜査 「1億円出せ」自宅に電話 29日夜、中年男の声 講習帰り 通学路に自転車」(北海道新聞社) - 縮刷版1909頁。
- ^ 『北海道新聞』1995年8月1日朝刊第16版一面1頁「不明女子高生を保護 誘拐容疑で44歳逮捕 岩内から古平へ 検問突破し逃走 X容疑者 借金苦の犯行か」(北海道新聞社) - 縮刷版1頁。
- ^ 「赤ちゃん無事保護、男女2人を取り調べ 仙台の誘拐事件」『asahi.com』朝日新聞社、2006年1月8日。オリジナルの2006年1月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ “【平成ドキュメント】函館空港ハイジャック事件 16時間の攻防 突入の裏側【HTBニュース】”. YouTube. 2023年6月11日閲覧。
- ^ 「かつて報道は加害者追ったが、人権尊重から被害者取材に変化」『NEWSポストセブン』小学館、2020年2月12日。2021年5月20日閲覧。オリジナルの2021年5月20日時点におけるアーカイブ。 - 『女性セブン』2020年2月20日号掲載記事。
- ^ この節の出典。亀井, 淳『皇太子妃報道の読み方』(第1刷)岩波書店〈岩波ブックレット〉、1993年5月、50-56頁。ISBN 4-00-003240-2。
報道協定
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「富山・長野連続女性誘拐殺人事件」の記事における「報道協定」の解説
長野事件の発覚直後、長野県警は事件が公開されることにより、(当時安否不明だった)被害者Bの生命に危険がおよぶことを防ぐため、日本新聞協会に加盟している報道機関164社と報道協定を締結。これを受け、協定を締結した新聞・放送各社は事件そのものの報道や、被害者Bの関係先(自宅や勤務先)・友人宅および、犯人が立ち回ったと見られる場所などについての取材を自粛してきた。 しかし、本事件は犯人側からの連絡が途絶えて以降、捜査は難航し、報道協定がいたずらに長期化する状態が続いた。そのような状況の中、報道側は「生死の判断材料がない」として協定解除に消極的だったが、『週刊新潮』(新潮社)の記者を名乗る記者が、同月22日ごろから県警本部や一部の新聞社を対象に、「協定期間が長すぎるのではないか」と取材を開始した。一方、警察庁と日本雑誌協会の間では、かねてから「誘かい事件等の取材、報道の取り扱い」が慣行化しており、22日に同誌記者の取材を受けた長野県警広報官の伊藤義久は、「当然、報道協定に準ずるだろう」と思い、事件について受け答えしたが、同誌側は同月23日ごろ、「協定に加わっていないので報道したい」という意向を表明。これに対し、長野県警は協定に準じて報道を自粛するよう要請したほか、翌24日および25日には県警本部と警察庁の名義で報道自粛を申し入れたが、拒否された。 結局、『週刊新潮』は1980年4月3日号(3月27日発売)で、被害者Bの実名や写真を含め、本事件の詳細を報道。これを受け、報道各社は緊急支局長会・記者クラブ総会を開き、長野県警本部と協議し、『週刊新潮』が東京都内で販売された26日15時前後から、24時間にわたって動向を観察。犯人側の動きがなかったため、長野県警は「事件が詳細に報道され、報道協定を継続するメリットが失われた。また、発生から相当長期間が経過し、ここで協定を解除しても、被害者の身に新たな危険がおよぶことは考えがたい」として、同月27日15時に事件を公開捜査に切り替え、報道協定も解除した。報道協定が締結された身代金目的誘拐事件は、1970年(昭和45年)以降、本事件で66件目だったが、犯人逮捕や被害者の発見に至らない段階で報道協定が解除された事例は、本事件が初だった。 『週刊新潮』編集部は、報道協定継続中に本事件の報道に踏み切った理由について、「発生から3週間が経過し、報道協定が事件解決の役に立たなくなった」と説明したが、警察庁長官の山本鎮彦は『週刊新潮』の報道に遺憾の意を示し、同庁は電話で『週刊新潮』に抗議した。被害者の安否が判明していない中で、週刊誌が報道を行ったことは様々な課題を残した。日本新聞協会は同月10日の編集委員会で、今後は報道協定が長期化した場合、協定を継続すべきか否かについて協議することを確認した。また同月中旬、警察庁は日本雑誌協会に対し、誘拐報道について理解と協力を要望するとともに、それまでの慣行を明文化し、警察庁との合意事項とするよう申し入れ、雑誌協会側もそれを受諾。同年7月、雑誌協会が警察庁との間で「誘かい事件等に関する取材及び報道の取り扱い方針」について合意したことで、同協会加盟社も新聞協会加盟社と同じく、誘拐事件発生時に警察から要請があった場合は報道を自制することとなった。同年8月に発生した司ちゃん誘拐殺人事件は、雑誌が報道協定に加わった史上初の事例となっている。
※この「報道協定」の解説は、「富山・長野連続女性誘拐殺人事件」の解説の一部です。
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