ラッサ熱とは? わかりやすく解説

ラッサ熱

ラッサ熱は西アフリカ一帯みられる急性ウイルス感染症であり、いわゆるウイルス性出血熱4疾患一つである。“ラッサ”とは1969年最初患者発生したの名に由来するラッサウイルスLassa virus)はアレナウイルス科属し自然宿主西アフリカ一帯生息する野ネズミ一種であるマストミス(Mastomys natalensis)である。当初集団発生としては主に院内感染がみられたが、1970年代7274 年頃)にウイルス分離され性状分かり伝播経路判明してからは、ナイジェリア除き院内感染激減した米国厚生省CDC西アフリカ西端シエラレオネ調査研究基地を置き、1976年以来20年間にわたって調査した結果致死率感染者の1~2%であることも疫学的に判明した。本症の非流行地への輸入例は現在まで23みられる
18 例目としては、わが国シエラレオネから帰国した人に1987 年3 月ラッサ熱が発症したが、幸い回復した19例目は米国で、1989 年1 月ナイジェリアからの帰国者において死亡6 時前に診断確定された。2000 年にはシエラレオネから英、ドイツオランダに各1 例、ナイジェリアからドイツに1 例の計4 例の輸入例があった。


ウイルス性出血熱とは?〕
ウイルス性出血熱定義される疾患4種あり、ラッサ熱、マールブルグ病エボラ出血熱クリミア・コンゴ出血熱である。ウイルス性出血熱特徴ウイルスヒト感染し皮膚内臓出血生ずところにある。

さらに、(1)その病因ウイルスはかなり限られた地域―すなわちアフリカサハラ砂漠以南―に存在する(ただし、クリミア・コンゴ出血熱アフリカ以外にも広く分布する)、(2)臨床的に突発的な発熱頭痛咽頭痛主症状とし、重症インフルエンザ様症状呈するが、重症化すると出血吐血下血)によりしばしば死に至る、(3)感染者患者血液体液排泄物によりヒトからヒト感染伝播する。したがって院内感染家族感染生じ、しばしば予期せぬ事態発生する、などの特徴があるが、(3)が最も重要であり、これにより他の出血性ウイルス性疾患区別される表1)。

ラッサ熱

疫 学

ラッサ熱は、ウイルス保有するマストミスが生息するナイジェリアからシエラレオネギニアに至るアフリカ一帯、および中央アフリカ共和国などで局地的流行状態にあり、それらの地域ラッサウイルス有するマストミス、患者感染者抗体陽性者)がみられる(図1)。年間2030 万人程の感染者があると推定されている。

ラッサ熱

1. ラッサ熱の分布区域

シエラレオネ15調査では抗体保有率は8 ~52%で、純農村村落高く外部との交流の多い地域では低い。また、都市ではみられない抗体保有率は年齢と共に上昇し50歳代ピークに達する。マストミスのウイルス保有率も村落により異なり、0~80%である。マストミスの生息状態、ヒトでの感染率からみて、ラッサ熱は西アフリカ一帯日常生活密着した風土病ともいえる疾患である。シエラレオネ以外の国ではCDC実施したような詳細な調査はなく、実態不明である。ナイジェリアでは1989年1992年院内感染多数感染者死亡者発生している。ウイルス保有するマストミスの尿や唾液中には多量ウイルス排出されるが、マストミスは病気はならずヒトへの感染はそれらとの接触(手、足の目に見えない傷)や咬まれることなどによる。ヒトからヒトへは血液体液など(粘膜接触を含む)で感染拡大がおこる。院内感染基本的医療材料、すなわち手袋ガウンマスクゴーグル長靴などの不足による ことが多い。また、注射器の不足によ り汚染注射器繰り返し使用すること も、エボラ出血熱同様に感染拡大主要原因となっている。1975 年までに ウイルスの性状解析がほぼ終わり感 染経路明らかにされてからは、ナイ ジェリア以外では院内感染はほとんど 起きてはいない。
血液体液による接触感染以外の感染例空気感染など)はみられてはいない(CDCフィールドおよび4,400人の患者調査による)。すなわち、医療機関構造がいかに貧しくても、接触感染を防ぐ手段があれば伝播起こらない

病原体

ラッサウイルス1 本鎖RNAエンベロープ持ちアレナウイルス科属する。このウイルスアフリカにしか存在しないが、ヒト病気起こすアレナウイルス科ウイルスには他に、マチュポ(ボリビア出血熱)、フニンアルゼンチン出血熱)、グアナリト(ベネズエラ出血熱)、サビアブラジル出血熱)の4種知られており、いずれも南米存在する。その他世界中存在するものとしてLCMlymphocytic choriomeningitis virus)が知られている。いずれも野ネズミ自然界宿主であるが、前4 者はレベル4属しウイルス増殖させるためには最高度安全実験施設いわゆるP4実験室)が必要となる。患者退院指標血液、尿からウイルス分離されないこととされている。

臨床症状表2
潜伏期間は7~18日発症突発的であるが、進行徐々である。発熱全身倦怠感初発症状とし、朝夕3941 高熱を示す。続いて3~4日目大関節痛、腰部痛があらわれる。頭痛、咳、咽頭痛大部分患者みられる。さらに後胸骨痛、心窩部痛、嘔吐下痢腹部痛がよくみられる重症化すると、顔面頚部の浮腫消化管粘膜出血脳症胸膜炎、心のう 炎、腹水時にショックみられる。いったん軽快し、2~3 カ月後に再燃し、心のう炎や腹水生ずることもまれにある(1987年日本輸入された例はこの再燃であった)。再燃については何らかの免疫学的機序考えられている。また、重症例の約1/4にみられる種々の程度不可逆性知覚神経性ろうが最近注目されている妊婦重症化はよくみられ、胎内死亡、流早産をおこす。
流行地でのヒトからヒトへの感染はよくみられるが、非流行地へ入ったラッサ熱が二次感染起こした例はない。検査所見上、脱水によるBUNの上昇を除けば生化学検査酵素ASTALTCPKなど)などの値に特徴的な所見はない。

  ラッサ熱

ラッサ熱

病原診断

基本的に培養細胞用いて咽頭ぬぐい液、血液、尿などからウイルス分離することである。迅速診断法としては、PCR 法によりウイルスの遺伝子断片検出する急性期には抗原検出も可能であるが、診断感度は劣る。抗体測定にはELISA免疫蛍光法用いられる発熱追跡するIgM 抗体30%程度にしか出現せず、初めからIgG 抗体出てくることが多い。


治療・予防
感染予防ワクチンはない。治療にはリバビリンribavirin静注)が著効を示す。発症6日以内投与開始すると、本来7080%の致死率を数%に激減させうる。患者との濃厚接触がある場合、あるいは実験中の病原体感染材料への曝露がある場合には、経口投与による発症予防効果期待できる
流行地では、患者どのような接触をしたかにより周辺調査仕方異なる。表3接触状況周辺者調査仕方について示す。このウイルス空気感染しないので、基本的な感染防御策universal precautions )で十分対応しうる。

感染症法における取り扱い
ラッサ熱は1 類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
 (材料血液血清、尿、咽頭スワブ及び剖検材料
 ・病原体検出
  例、ウイルスの分離など
 ・抗原検出
  例、ELISA 法など
 ・病原体遺伝子検出
  例、PCR 法など
 ・血清抗体検出
  例、IgMIgG免疫蛍光法による検出など
疑似症診断
 臨床的特徴合致し、以下の疾患鑑別診断なされたもの
鑑別診断)他のウイルス性出血熱チフス赤痢マラリアデング熱黄熱
備 考
当該疾患を疑う症状所見はないが、病原体抗原検出されず、遺伝子抗体のみが検出されたものについては、法による報告要しないが、確認のため保健所相談することが必要である。

学校保健法における取扱い
ラッサ熱は学校において予防すべき伝染病第1 種定められており、治癒するまで出席停止となる。

国立感染症研究所副所長 倉田 毅

  





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