国際単位系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/14 04:58 UTC 版)
SI単位
現行のSIは、合わせて7つの物理定数や物質固有の特性値について、これらを定義された値(曖昧さをもたない固定化された値)として扱うことで構築されている。すべてのSI単位は7つの定義された値をもとに定めることが可能である。SI単位としては、7つの定義された値と直接結びつく基本単位、および、これらの積としての組立単位がある。
SI基本単位
7つの定義された物理定数あるいは物質固有の特性値をもとにしたSIにおいては、これらの定義値を固定された値とみなして、7つのSI基本単位が定義されている。すなわち、秒 (s)、メートル (m)、キログラム (kg)、アンペア (A)、ケルビン (K)、モル (mol)、カンデラ (cd)の7つの単位がこれに該当する[16][注 3][17]。 これらに対応する物理量はそれぞれ順に時間、長さ、質量、電流、熱力学温度、物質量、光度である。
2019年5月20日には、この7つの基本単位のうち特にキログラム (kg)、アンペア (A)、ケルビン (K)、モル (mol) の4つについて、国際度量衡総会(CGPM)の定めるところによって、それらの定義が根本的に改訂された。同時に、残りの秒 (s)、メートル (m)、カンデラ (cd) については定義文の表現が改められた[注 4][18]。
量 | 基本単位 | 定義(抜粋[注 5]) | |
---|---|---|---|
名称 | 記号 | ||
時間 | 秒 (second) | s | セシウム周波数 ∆νCs、すなわち、セシウム 133 原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を 9192631770 と定めることによって定義される。 |
長さ | メートル (metre[注 6]) | m | 真空中の光の速さ c を単位 m s−1 で表したときに、その数値を 299792458 と定めることによって定義される。 |
質量 | キログラム (kilogram) | kg | プランク定数 h を単位 J s(kg m2 s−1 に等しい)で表したときに、その数値を 6.62607015×10−34 と定めることによって定義される。 |
電流 | アンペア (ampere) | A | 電気素量 e を単位 C(A s に等しい)で表したときに、その数値を 1.602176634×10−19 と定めることによって定義される。 |
熱力学温度 | ケルビン (kelvin) | K | ボルツマン定数 k を単位 J K−1(kg m2 s−2 K−1 に等しい)で表したときに、その数値を 1.380649×10−23 と定めることによって定義される。 |
物質量 | モル (mole) | mol | 1 モルには、厳密に 6.02214076×1023 の要素粒子が含まれる。この数は、アボガドロ定数 NA を単位 mol−1 で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。
系の物質量(記号は n)は、特定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。 |
光度 | カンデラ (Candela) | cd | 周波数 540×1012 Hz の単色放射の視感効果度 Kcd を単位 lm W−1(cd sr W−1 あるいは cd sr kg−1 m−2 s3 に等しい)で表したときに、その数値を 683 と定めることによって定義される。 |
上表にあるように、ある単位の定義に別の単位の定義が用いられているものもある。例えば、長さ(メートル)の定義においては、光速とともに秒の定義も使用されている。7つの基本単位はSIにおいて骨格となる基本の単位群だが、必ずしもそれらは完全に独立に定義されているものではない[注 7]。
量の次元
基本量 | 量に関する代表的な記号 | 次元の記号 |
---|---|---|
時間 | t | T |
長さ | l, x, r など | L |
質量 | m | M |
電流 | I, i | I |
熱力学温度 | T | Θ |
物質量 | n | N |
光度 | Iv | J |
SI組立単位
組立単位は基本単位のべき乗の積と定義される。このうち特に、積の係数が1である組立単位を「一貫性のある組立単位」と言う[21]。
SIにおいて、一貫性のある組立単位の一部(全部で22個)には、固有の名称とその記号が与えられている。それらは、ラジアン (rad)、ステラジアン (sr)、ヘルツ (Hz)、ニュートン (N)、パスカル (Pa)、ジュール (J)、ワット (W)、クーロン (C)、ボルト (V)、ファラド (F)、オーム (Ω)、ジーメンス (S)、ウェーバ (Wb)、テスラ (T)、ヘンリー (H)、セルシウス度 (°C)、ルーメン (lm)、ルクス (lx)、ベクレル (Bq)、グレイ (Gy)、シーベルト (Sv)、カタール (kat) の22個である。
SI接頭語
SI接頭語は、SI単位の10進の倍量単位・分量単位を作るための接頭語である。前項までの基本単位や組立単位と組み合わせて用いることができる。しかし、接頭語が SI単位と共に使われる場合、接頭語によって、1 以外の係数が導入されるため、結果として生ずる単位は一貫性を持たないものとなる。SI基本単位あるいは組立単位に使用可能なSI接頭語の一覧を以下の表に示す[注 8]。
接頭語 | 記号 | 10n | 十進数表記 | 漢数字表記 | short scale | メートル法への導入年 | 国際単位系における制定年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
クエタ (quetta) | Q | 1030 | 1000000000000000000000000000000 | 百穣 | nonillion | 2022年 | |
ロナ (ronna) | R | 1027 | 1000000000000000000000000000 | 千𥝱 | octillion | 2022年 | |
ヨタ (yotta) | Y | 1024 | 1000000000000000000000000 | 一𥝱 | septillion | 1991年 | |
ゼタ (zetta) | Z | 1021 | 1000000000000000000000 | 十垓 | sextillion | 1991年 | |
エクサ (exa) | E | 1018 | 1000000000000000000 | 百京 | quintillion | 1975年 | |
ペタ (peta) | P | 1015 | 1000000000000000 | 千兆 | quadrillion | 1975年 | |
テラ (tera) | T | 1012 | 1000000000000 | 一兆 | trillion | 1960年 | |
ギガ (giga) | G | 109 | 1000000000 | 十億 | billion | 1960年 | |
メガ (mega) | M | 106 | 1000000 | 百万 | million | 1874年 | 1960年 |
キロ (kilo) | k | 103 | 1000 | 千 | thousand | 1795年 | 1960年 |
ヘクト (hecto) | h | 102 | 100 | 百 | hundred | 1795年 | 1960年 |
デカ (deca) | da | 101 | 10 | 十 | ten | 1795年 | 1960年 |
100 | 1 | 一 | one | ||||
デシ (deci) | d | 10−1 | 0.1 | 一分 | tenth | 1795年 | 1960年 |
センチ (centi) | c | 10−2 | 0.01 | 一厘 | hundredth | 1795年 | 1960年 |
ミリ (milli) | m | 10−3 | 0.001 | 一毛 | thousandth | 1795年 | 1960年 |
マイクロ (micro) | μ | 10−6 | 0.000001 | 一微 | millionth | 1874年 | 1960年 |
ナノ (nano) | n | 10−9 | 0.000000001 | 一塵 | billionth | 1960年 | |
ピコ (pico) | p | 10−12 | 0.000000000001 | 一漠 | trillionth | 1960年 | |
フェムト (femto) | f | 10−15 | 0.000000000000001 | 一須臾 | quadrillionth | 1964年 | |
アト (atto) | a | 10−18 | 0.000000000000000001 | 一刹那 | quintillionth | 1964年 | |
ゼプト (zepto) | z | 10−21 | 0.000000000000000000001 | 一清浄 | sextillionth | 1991年 | |
ヨクト (yocto) | y | 10−24 | 0.000000000000000000000001 | septillionth | 1991年 | ||
ロント (ronto) | r | 10−27 | 0.000000000000000000000000001 | octillionth | 2022年 | ||
クエクト (quecto) | q | 10−30 | 0.000000000000000000000000000001 | nonillionth | 2022年 |
「SI単位」と「一貫性のあるSI単位」の違い
次項に述べるSI併用単位を除いた国際単位系(SI)全体が一貫性のある単位系というわけではない。このことを明確にするために、CIPM(2001年)は、「SI単位」の語と「一貫性のあるSI単位」の語とを区別して、次のように定義した[22]。
つまり、「基本単位+一貫性のある組立単位」の範囲の単位であれば、一貫性のある単位系であるが、これにSI接頭語を付加すると、もはや一貫性は失われるのである[23][24]。
注釈
- ^ 国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、IEC)の前身である。
- ^ 2019年の改定は、2018年11月に開催された国際度量衡総会で合意に達し、2019年5月20日に発効した。この日が選ばれた理由は、5月20日が1875年にメートル条約が締結された日で「世界計量記念日」となっているためである。
- ^ 組み立て単位の定義において基本単位を記載する順序は、SI文書第8版(2006年)と同第9版(2019年)とで異なる。この意図は、対応する物理量の表式によるもので、物理学を基礎としたものである。ただし、一部の組み立て単位についてこの順序は絶対のものではない。
- ^ なお、この改訂案が議決された日は2018年11月16日である。
- ^ より正確な定義文はSI基本単位を参照。
- ^ 国際単位系国際文書における英語の綴りである。meterではない。
- ^ 独立した存在は、7つの単位そのものではなく、それらのもととなる7つの定義値(物理定数あるいは物質固有の特性値)である。
- ^ a b ただし、歴史的経緯による例外として、キログラム (kg)は、一貫性のあるSI単位でありながら、その名称・記号に接頭語のキロ (k)が含まれている。既にSI接頭語が付いており、キログラムにさらにSI接頭語は付けられない。もちろん、グラム (g; キログラムの1000分の1。一貫性を持たない単位)に対してはSI接頭語を付けてもよい。
- ^ units of the SIとも。
- ^ 倍量および分量接頭語
- ^ BIPMによる原表では当初はCODATA2014の数値が掲げられていたが、その後、CODATA2018の数値に差し替えられた。
- ^ 国際単位系国際文書における英語の綴りである。meterではない。
- ^ 日は計量法上は計量単位ではなく、暦の単位と位置づけられている。
- ^ 国際標準化機構(ISO)による ISO 1000 を翻訳した物。ISO 1000 は2009年に ISO 80000-1 に置き換えられ、JIS Z 8203 も2014年に ISO 80000-1 を翻訳した JIS Z 8000-1 に置き換えられた。
出典
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, pp. 122, 129–134.
- ^ 「図解入門 よくわかる最新単位の基本と仕組み」p67 伊藤幸夫・寒川陽美著 秀和システム 2004年8月10日第1版第1刷
- ^ a b 「図解入門 よくわかる最新単位の基本と仕組み」p.23 伊藤幸夫・寒川陽美著 秀和システム 2004年8月10日第1版第1刷
- ^ 佐藤文隆、北野正雄 『新SI単位と電磁気学』、pp.2-3、岩波書店、2018年6月19日、ISBN 978-4-00-061261-6
- ^ a b 佐藤文隆・北野正雄、「新SI単位と電磁気学」、p.148、岩波書店、2018-06-19、ISBN 978-4-00-061261-6
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 91, 第9版への緒言.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 122.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 173.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 175.
- ^ SI Brochure: The International System of Units (SI)
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 93, 本文に関する注釈.
- ^ 国際単位系 (SI) は世界共通のルールです SIパンフレット、産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量標準普及センター 計量標準調査室、2023年3月、最終の第8ページ下段
- ^ Previous editions of the SI Brochure SI Brochure: The International System of Units (SI), BIPM
- ^ “SI文書第9版(2019)日本語版及び関連資料”. 国際単位系(SI)第9 版(2019)日本語版. 国立研究開発法人産業技術総合研究所. p. 98. 2023年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月4日閲覧。
- ^ a b The InternationalSystem of Units (SI) 9th ed. Text in English 2.2 Definition of the SI, p.127
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)要約 日本語版 [リンク切れ]、計量標準総合センター、産総研、経済産業省。表1 SI の七つの基本単位
- ^ 『国際単位系(SI)第9 版(2019)日本語版』国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月。
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, pp. 99–103.
- ^ 国際単位系(SI)国際文書第8版(2006) p.15
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 104, 表3.
- ^ a b 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 105.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 148.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 106しかし、接頭語が SI単位と共に使われる場合、接頭語によって、1 以外の係数が導入されるため、結果として生ずる単位は一貫性を持たないものとなる。
- ^ 国際単位系(SI)国際文書第8版(2006) p.16下欄訳注、* 訳注:第2章で述べる SI基本単位(表1),そのべき乗の積からなる SI組立単位(表2),固有の名称と記号を与えられた SI組立単位(表3),及び SI基本単位とSI組立単位のべき乗の積からなる SI組立単位(表4)のことを本文書では「一貫性のあるSI単位」と呼ぶ.第3章で述べる SI接頭語(表5)を付した単位は,SI単位ではあるが一貫性のある単位ではない.
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 114.
- ^ The International System of Units(SI) 9th edition 2019 Bureau International des Poids et Mesures, 2019-05-20, pp.145-146
- ^ unified atomic mass unit The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
- ^ The International System of Units (SI) 9th ed. Text in English 5.4 Rules and style conventions for expressing values of quantities, pp.149-150
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- ^ The Unicode Standard, Version 14.0 Chapter 22 Symbols p.839 p.865 p.896
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- ^ 単位や学名等の記載方法について JAB NL512:2015 p.3/9、公益財団法人 日本適合性認定協会、2015-10-01(第1版)
- ^ 物理量・数値・単位と分率の表記についての提言 岩本振武、ぶんせきの泉、p.342、ぶんせき、2017年8月
- ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版, p. 119.
- ^ 「図解入門 よくわかる最新単位の基本と仕組み」p24 伊藤幸夫・寒川陽美著 秀和システム 2004年8月10日第1版第1刷
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