2004年前後の動向
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「聖域なき構造改革」も参照 2004年、小泉純一郎首相(当時)が混合診療解禁を指示し、これを受けた規制改革会議では混合診療の緩和が提言され、賛否分かれての大きな議論となった。その結果、混合診療は全面解禁せず、保険収載された新薬の適応外投与が追加される等、特定療養費の範囲を拡大することで政治上の合意がなされた。それを受け、2005年の厚生労働白書においては、特定療養費制度を廃止し、保険導入のための評価を行う「保険導入検討医療(仮称)」および保険導入を前提としない「患者選択同意医療(仮称)」に再編成する案として述べられており、これは後の保険外併用療養費制度となった。 2004年前後の議論 混合診療を解禁すると、所得による医療格差が生じないか? 混合診療解禁側の論 規制改革・民間開放推進会議は、「いわゆる『混合診療』を避けるため、例えば本来1回の入院・手術で済むところを保険診療部分と保険外診療部分とに分けて行う等、あえて診療行為の分断等を行うことにより、患者の身体的・経済的負担を増大させる」「『混合診療』が解禁されれば、患者がこれまで全額自己負担しなければならなかった高額な高度・先端的医療が、一定の公的医療保険による手当ての下で受けられるようになるため、『金持ち優遇』どころか、むしろ逆に、受診機会の裾野を拡大し、国民間の所得格差に基づく不公平感は是正される」「医療保険は、国民の支払う保険料と公的負担を財源として給付されるものであり、どの範囲の医療を保険の対象とするかの問題は、保険に関する政策の在り方として混合診療の問題とは別にそれ自体独立して決定すべきである。したがって、国民が負担能力に関係なく適切な医療を受けられる『社会保障として必要十分な医療』は保険診療として従来どおり確保しつつ、いわゆる『混合診療』を解禁することは十分可能であり、『混合診療』の解禁が国民皆保険制度の崩壊につながるとの批判は的外れである。」としている。 混合診療禁止側の論 日本医師会は、「政府サイドから発表される昨今の医療制度改革案は、総じて医療費あるいは医療保険給付費の圧縮に焦点が当てられている感が否めない」として不信感を抱いており、現在公的医療保険の対象となっている診療が保険外となる可能性を指摘している。 全国保険医団体連合会は「混合診療を推進する人たちの本当の狙いは、決して患者さんの選択肢を広げることではなく、本来公的医療保険で扱うべき医療の範囲を縮小し、その分を自由診療に移し変えようというもの」「保険給付の範囲がどんどん縮小され、公的保険では必要な医療まで受けられなくなる危険性があります。これでは、患者さんの選択肢を広げるどころか、逆に『今よりも選択の幅が狭まる』ことになります。」「相次ぐ医療改悪で、ただでさえ日本の患者負担は先進国一高くなっており受診抑制が広がっています。」としている。 患者団体(混合診療禁止)側の論 日本患者・家族団体協議会(JPC、現一般社団法人日本難病・疾病団体協議会)は2004年12月、「この混合診療の解禁は、『新たな医療技術や治療法、薬などの保険適用を遅らせ、既に保険が適用されているものまで保険から外される』内容です」「私たちは医療を受ける当事者として、混合診療解禁と特定療養費拡大に反対する声明を小泉首相や経済財政諮問会議などに送付した。 患者団体(CU制度導入)側の論 NPO法人がんと共に生きる会は、厚生労働省などが懸念する有効な治療法が「保険適用外におかれ続ける」ことは「当会の懸念でもございます。」としつつも、緊急避難的な解禁で「科学的根拠のある未承認薬を試すことができる機会」が増えるとしている。また、「一定収入以下の人に対しては、救済措置を講じること」を求めている。 混合診療を解禁すると、有効性や安全性等に問題のある医療行為がはびこるのではないか? 混合診療解禁側の論 規制改革推進会議は、「自由診療が容認されている現状において、混合診療に限って患者負担の増大や有効性、安全性を問題にすることは理解に苦しむ。」「厚生労働省からは、『医療については、医師法、医療法、薬事法等により国民の健康の保持、安全の確保等の観点から必要な措置が講じられているところであり、保険外診療であるからといって患者の健康・安全の観点からの審査を必要としないという趣旨ではない』として、保険外診療においても一定の安全性の確保はされているとの趣旨の回答(平成15年4月2日付)を得ている。この回答に基づくと、一定の安全性が確保されている保険外診療と安全性が確認されている保険診療を併用した場合に、何故に「安全性に欠ける」との結論が導かれるのか理解に苦しむ」「厚生労働省の主張する(混合診療を解禁した場合)『有効性や安全性の担保されていない療法が蔓延する』との点については、逆に『誰がそのような療法を行うのか』という点が問題であり、そのような裏づけのない危険かつ有害な治療を行う医師の取締りこそが、保険診療・保険外診療(自由診療)・混合診療のいずれかを問わず、本来求められる」としている。 混合診療禁止側の論 日本医師会は「製造や輸入の承認や健康保険適用の判断基準を明確にして、審議や結果をオープンにすることが必要です。そのうえで保険適用されなかった薬は、有効性や安全性等の問題が指摘されたものと考えられます。このような薬の使用を混合診療として保険外で認めれば、結果的に使用を促進し、重大な健康被害等が全国に拡大するおそれがあります。」としている。 神奈川県保険医協会は、混合診療を解禁すれば、患者と医師の情報の非対称性の高いため、真贋の判断が難しい患者が混乱をきたし、まがいものやまじないの類が医療現場へ侵入しやすくなるとしている。 患者団体(CU制度導入)側の論 NPO法人がんと共に生きる会は「科学的根拠のない医療行為が行われることには、当会も反対しております。」とし、「アメリカでの厳しい臨床試験に合格した有効性については科学的根拠のあるもの」だけに限定した緊急避難的解禁を求めている。 混合診療を解禁するのではなく、現在、保険対象となっていない医療を保険適用させるべきでは? 混合診療解禁側の論 規制改革推進会議は、「現行の特定療養費制度による対応で十分とする見解があるが、同制度の下で医療技術及び医療機関ごとに個別に承認し、保険診療と併用した場合にその基礎的部分(初・再診料、入院医療等)に保険給付する方法では、手続も煩瑣で時間がかかり、患者の多様なニーズへの迅速な対応や医療現場の創意工夫、医療技術の向上を促すには不十分」特定療養費制度における高度先進医療の「承認手続きの簡素化」は「極めて不十分」であり「その抜本的見直し(審議の迅速化、透明性の確保、利用者志向への転換等)が行われない限り是認し難い。」としている。 混合診療禁止(保険適用拡大)側の論 日本医師会は「当該技術等の有効性や安全性に関する科学的根拠が確立されているにもかかわらず、保険適用がなされていないということは、不合理以外のなにものでもない」「新たな診断・治療技術や医薬品等の保険適用に関して、これを迅速化するルールを速やかに設定し、審議過程や保険適用の基準を明確にすることが必要」としている。 患者団体(CU制度導入)側の論 NPO法人がんと共に生きる会は、「当会は、基本的には、国民皆保険制度を支持しております。」「厚生労働省および日本医師会は、科学的根拠のある薬は、承認され保険収載され、国民皆が通常の保険診療で受けられるようにするのが『王道』だと仰います。当会もその考えに全く異論はございません。科学的根拠のあるがん治療薬は、いち早く承認し、保険収載することを、以下のように、これまで何度も厚生労働大臣等に要請して参りました。」と原則的には「日本の皆保険制度を支持」しつつ、「タイム・ラグが解消されるまでの『緊急避難的』措置」としての「部分的」解禁を求めている。 保険財政を改善するためにも、混合診療を解禁すべきでは? 混合診療解禁側の論 内閣府総合規制改革会議の資料には「医療のムダの排除、透明化により、保険財政を効率化」と書かれており、混合診療解禁により保険外診療が増大する一方で保険診療を削減できる図が描かれている。東京医科歯科大学客員教授の亀田隆明は「公的負担(保険料、税金)の増大を極力回避して、自己負担の増大で医療財源の問題解決を抜本的に講じるのであれば、やはり混合診療を原則自由化し、自己負担分に民間保険を拡充するという選択肢は避けられない」としている。 混合診療禁止側の論 全国保険医団体連合会は、保険財政の悪化は「国が老人医療への国庫支出割合を45%から35%へ引き下げたこと」「それにともなう健康保険組合からの老人医療への拠出金割合が33%から40%へと増加したこと」「リストラと賃金据え置きにより保険料収入が大幅に減少したこと」であり「財政悪化の主な原因は、老人医療費などが支出急増ではなく、保険料収入の大幅減少である」として「財政の収支改善のためにも、拠出金割合を適正なレベルに戻すことと、老人医療への国庫負担率を元に戻すことが求められます」と主張している。同連合会は「無駄な大型公共事業を見直し、過去最高益を更新し続けている大企業に応分の負担を求めれば、財源は十分に生み出せます」「公共事業が社会保障を上まわっている国は、日本以外にはありません」「本当に改革しなければならないことは、まさにこの逆立ちした財政支出の構造ではないでしょうか」とも主張している。神奈川県保険医協会は「基本は未承認の抗がん剤や、検査・治療」は「金額的にも医療費への影響度は0.01%もありません」とし「公費から医療費助成制度の創設で対応が財政的にも十分可能です」としている。 日本医師会は「患者負担の増大は、受診者の経済力格差による医療の差別化を派生させる」「混合診療の全面解禁によって、公的医療保険の給付範囲が縮小する懸念がある」「財政当局が、そのほうが公的医療費支出を抑制できると考えるためである」としている。 本音は国民の利益のためではなく医療利権にあるのでは? 混合診療禁止側の論 神奈川県保険医協会は混合診療解禁を求める規制改革・民間開放推進会議の事務局に「セコム、第一生命、三井住友海上、東京海上火災など保険会社」が名を連ねていること、「宮内議長が会長を務めるオリックスは医療のあらゆる分野に進出」していること等を指摘し、特定療養費の拡大で不十分とするのは「自費料金の目安の提示や、取り扱い医療機関の限定など厚労省の監督下の解禁では、民間医療保険の商品開発に制約がかかることや、その他の事業がやりにくい」からだとしている。
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