救済措置とは? わかりやすく解説

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救済措置


救済

(救済措置 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/13 03:06 UTC 版)

救済(きゅうさい、英語: salvation)は、ある対象にとって、好ましくない状態を改善して(脱して)、望ましい状態へと変える(達する)ことを意味する。宗教的な救済は、現世における悲惨な状態が宗教に帰依することで解消または改善されることも意味する。様々な宗教で極めて重要な概念であり、救済を強調する宗教は救済宗教とも呼ばれ、「救済宗教」で通常「救済」という場合は、現世の存在のありようそのものが、及びを越えた存在領域にあって、何らかの形で決定的に改善されることを表すのが一般である。

救済の型の分類

  • 救済される場所による分類:来世救済型 対 現世救済型
  • 救済される対象による分類:個人救済型 対 集団救済型
  • 救済される方法による分類:自力救済型 対 他力救済型

救済の型には、生者や死者や魂などが天国や極楽や理想郷などの「あの世」に行く「来世救済型」と、神や仏や菩薩や救世主や理想郷などが「この世」に現れる「現世救済型」がある。また、個人単位で救済される「個人救済型」と、宗教的共同体や民族や国家や人類全体など集団単位で救済される「集団救済型」がある。また、信仰や苦行や禁欲や悟りや善行による「自力救済型」(≒「因果説型」)と、神や仏や菩薩や救世主などの恩恵や慈悲による「他力救済型」がある。

太陽と月が一つになった「金星神=光明神」のシンボル 「オーリオール(アウレオラ/アウラ)」。
キリスト教で用いられるプロビデンスの目。この「目」は、本来、「太陽」(丸)と「月」(三日月もしくはアーモンド型)のシンボルを合成したものであり、「金星(神)」を意味する。「太陽(神)」+「月(神)」→「金星(神)」。

キリスト教における救済

キリスト教神学においては特に「救済論」(soteriology)の中心概念である。キリスト教は典型的な救済宗教で、キリスト教における救済とは、キリストの十字架による贖いの功績に基づいて与えられる恵みにより、信仰によるの咎と束縛からの解放、そして死後にあって、超越的な存在世界にあっての恩顧を得、永遠のいのちに与ることである。永遠のいのちは、時として、生物的ないのちとは種類を異にする、この世にあって持つことのできる霊的ないのちとも解釈できる。

ローマ・カトリック教会においては、罪は犯したが償える可能性の残っている者は煉獄に送られるとされる。

また、未来において世界が終末を迎えたとき、神が人々を裁くという最後の審判の観念もある。その時混乱の極みにある世界にイエス救世主として再臨し、王座に就くとされる。死者達は墓の中から起き上がり(伝統的に火葬しなかったのはこの時甦る体がないといけない為)、生者と共に裁きを受ける。信仰に忠実だった者は天国へ、罪人は地獄 (キリスト教)へ、世界はイエスが再臨する前に一度終わるが、この時人々は救済され、新しい世の始まる希望がある。

グノーシス主義における救済

グノーシス主義における救済とは、反宇宙的二元論の世界観より明らかなように、であり暗黒の偽のが支配する「この世」を離れ、肉体の束縛を脱し、として、永遠の世界(プレーローマ)に帰還することを意味する。グノーシス主義では悪が肉体を形作るものの、善もまた人の体に光の欠片(魂)を埋めたという神話もある。信者は死ぬとき真の神なる父を自覚し、プレーローマへ帰ろうとするが、悪(アルコーン達)の妨げる重囲を突破しなければならない。この過程は全体から見れば、光の欠片の回収でもある。

仏教における救済

仏教における救済とは、個人が悟りを得て、輪廻から外れ(解脱)、苦しみの多い(本質的に苦である)この世に二度と生まれてこない(転生しない)ことである。

つまり仏教における救済とは、「輪廻転生」という、仏教がバラモン教から引き継いだ、世界の仕組みに関する「概念」(世界観)をそもそもの前提としている。

そして「輪廻転生」は、「転生」という概念を前提としている。そして「転生」は、「霊魂的な「何か」(バラモン教では「アートマン」、仏教では「因果」)の存在」という概念を前提としている。

しかしバラモン教や仏教では、そうした「転生」が輪(環)のように永続する(輪廻する)ことで、「転生」そのものは「救済」ではなく「苦」と化しており、転生の輪(環)=輪廻から外れることを「救済」とするという、さらにひねくれた(発達した)構造となっている。

(通俗的には)悟りを啓いた者を「ブッダ」と呼び(伝統的には「仏陀」は歴史的人物としての釈迦を指す)、人間は誰でも(可能性としては)「ブッダ」になることが出来るとされる。

本来、仏教は、個人が悟りを得ることで輪廻から外れようとする、「個人救済」「自力救済」の営みから始まったものだが、大乗仏教が興ると自分のみならず他者(衆生)も救済しようという方向性が現れた。

また阿弥陀信仰や観音信仰や弥勒信仰や地蔵信仰など、菩薩により救済される「他力救済」もあるが、本来の仏教の「自力救済」の論理からはありえず、西方の異教(ゾロアスター教ミトラ教ネストリウス派キリスト教・マニ教など)に由来する、仏教の皮を被った救世主待望思想の面が強い。

なお、弥勒菩薩は56億7000万年後に降臨するとされると通常言われているが、初期経典の記述からは5億7600万年が正しい。これは現在弥勒が転生し修行中の兜率天での天寿を計算で出したものである。

平安時代には釈迦入滅末法の世が到来するという不安に戦乱も重なり、終末の後の救済を求める人心を反映してか浄土教が浸透していった。

こうした仏教の「他力救済」の面が、日本におけるキリスト教の受容に繋がっていることは否めない。

儒教における救済

儒教は、日本では儒学とも呼ばれ、一種の道徳律や政治論のようにとらえられているが、儒教は形而上的世界観をその道徳や政治の土台に置く、立派な宗教である。

儒教における救済には、個人的な側面と全体的な側面がある。

個人的な側面としては、一族の先祖をまつる祭祀儀礼がある。古代中国の世界観では、人間(の)は天地より授かった魂魄(こんぱく)より成り(魂は精神を支える気、魄は肉体を支える気を指した)、死後、魂(こん)と魄(はく、ぱく)に分かれ、魂は上昇して天に、魄は下降して地に、行く(戻る)とされる(魄は遺体や骨とともに地に留まる・潜るゆえに、魄を保管するために土葬が行われる)。そして魂と魄を祭祀儀礼により再び結び付けるとき、人間は復活・再生する(=救済される)とされる。そしてこの復活・再生のための祭祀儀礼は、子孫でないと行うことができないとされる。儒教においては、子孫がいなければ祭祀儀礼を行うことができず、先祖や自分が復活・再生することができないのである。儒教において、自分を救ってくれるのは、神や仏などの超越的存在ではなく、子孫なのである。故に儒教道徳においては、子が親より先に死ぬことは、祭祀を行う者がいなくなる意味でも、親や先祖に対する不孝なのであり、家(家系)を守り、子孫の血を絶やさぬことが、非常に重視される。儒教の創始者である孔子自身が、母親が祭祀儀礼(葬儀屋)を生業とする、生まれであった。

全体的側面としては、儒教(特に孔子)は、という古代の聖王による、仁義や忠孝を重視した王道・徳治政治を理想としており、儒教の政治的・宗教的目的は、乱れた世を正し、聖王の治をこの世に再現する(聖王の治に回帰する)ことにある。こうして儒教は先祖を祀る祭祀儀礼を中核に道徳を整備し、徳化(教化)により連続的に、儒教道徳を修めた個人を始めとして、家や国や天下(全世界)が形成されることによって、平和(儒教道徳に基づく儒教的秩序による世界統一)が達成され、徳治が行われ、人民が幸福に暮らせるようになることで、全体が救済されるとするのである。また、天下が平和になれば、家系も戦乱などで途絶えることがなく、子孫によって祭祀儀礼が行われることによって、先祖や自分の救済も保障されるという、循環・補完の論理があるわけである。

故に儒教は個人救済型宗教であると同時に集団救済型宗教でもある。

また、他の宗教がそうであるように、儒教にも終末論がある。即ち、為政者(君主・皇帝)が(儒教道徳に基づく)徳を失い暴君となり、暴虐暴政を働くようになると、人民は苦しみ、世は乱れ、怪異や天変地異が起こるようになる。これが儒教における世界の終末である。すると、(古代中国の世界観における超越的至高存在)は徳のある者を新たな為政者候補に選び(天命が革まる)、反乱が起こり、反乱軍は暴君を打倒し滅ぼして、反乱者が新たな為政者(君主・皇帝)となって新王朝を打ち立ることで、世は、平和と秩序を取り戻し、怪異や天変地異も治まり、新たに生まれ変わるのである。これ(終末論)は儒教におけるもう一つの救済論でもある。しかし、この新たな為政者(の子孫)も、やがて堕落し、暴君と為りて、新たな為政者が立つのである。このように儒教における歴史観(世界観)とは、「世界の堕落と再生」が永遠に繰り返される、「循環史観」なのである。

救済事業

救済を行う事業。国際連合パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA)のパレスチナ難民救済事業などがよく知られている。種類としては貧民救済事業、孤児救済事業、失業救済事業、各種被害者救済事業などがある。

おもな例

関連人物

脚注

  1. ^ 大高善兵衛読史随筆赤堀又次郎 著 (中西書房, 1928)

参考文献

  • 『グノーシスの神話』大貫隆 岩波書店 ISBN 400000445X
  • 『終末論と世紀末を知るために』エンカルタ百科事典
  • 宮城洋一郎 『日本仏教救済事業史研究』永田文昌堂、1993年

関連項目


救済措置

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 02:18 UTC 版)

投票権法 (1965年)」の記事における「救済措置」の解説

第4節(a)の下で、範囲入った司法管轄区域は「救済措置」と呼ばれる手続き範囲からの除外求めることができる。除外認められるために、範囲入った司法管轄区域は、救済され資格のある連邦地区裁判所の3人の判事によるパネルから宣言的判決を得る必要がある投票権法法制化された当初範囲入った司法管轄区域は、救済申請先立つ5年間で差別目的あるいは効果出して試験あるいは仕組み用いてない場合救済され資格があった:22, 3334それ故に、1967年救済申請したある司法管轄区域は、少なくとも1962年から試験あるいは仕組み悪用してこなかったことを証明する必要があった。1970年まで、この規定事実上範囲入った司法管轄区域に、法が5年前1965年法制化される前から、試験あるいは仕組み悪用してこなかったことを証明することを求めていた:6。そのために多く司法管轄区域救済されることが不可能だった:27。しかし、第4節(a)は、範囲入った司法管轄区域いかなる方法でも差別や他の目的試験あるいは仕組みを使うことを禁じている。よって当初の法の下で、単純にこの規定を満足すれば、範囲入った司法管轄区域1970年救済され資格があることになる。しかし、1970年1975年に特別条項を拡大するために法を改定する過程で、議会範囲入った司法管轄区域試験あるいは仕組みを使わなかった期間を10年間に延長し、さらに17年間に延ばした:7, 9。これらの延長で、司法管轄区域1965年法制化される前から試験あるいは仕組み悪用してこなかったことを証明することを求め規定が有効であり続けている。 1982年議会第4節(a)改訂し救済2つ方法容易に行えるようにした。先ず、ある州が範囲入っている場合、州が救済され資格が無い場合でも州内地方政府救済されるとした。次に17年要件新し基準置き換えることで救済資格指標緩和した。すなわち範囲入っている司法管轄区域はその救済申請の前10年間で次のことを証明すれば救済されるとした。 その司法管轄区域差別目的あるいは効果試験あるいは仕組み使っていなかった その司法管轄区域人種あるいは言語少数派状態をもとに投票権否定あるいは制限したと、いかなる裁判所判断しなかった その司法管轄区域事前点検要件満足している 連邦政府がその司法管轄区域連邦検査官を送らなかった その司法管轄区域差別的選挙法廃止した その司法管轄区域有権者威嚇排除するための前向きの手段を取っていることと、保護され少数派のために投票機会拡張している さらに、議会司法管轄区域少数派の登録と投票率証拠生むために救済措置を求めるよう要求した。これにはこれらの比率時代とともにどのように変化したか、多数派の登録と投票率との比較で示すことを含んでいる。範囲入っている司法管轄区域救済され資格があると裁判所判断した場合、その司法管轄区域のために宣言的判決を出すことになる。裁判所は、その後10年間その司法管轄区域監視し、仮に投票差別に関わったと判断したときは、範囲に戻るよう命令することができる:2223救済資格基準について1982年改訂は、1984年8月5日に有効となった。この日から2013年までに、38回の救済措置を通じて196司法管轄区域救済された。そのそれぞれに司法長官救済要請同意した:54発効から2009年までに、救済され全ての司法管轄区域バージニア州にあった2009年、「ノースウェスト・オースティン市営ユーティリティ第1地区ホルダー事件に対して最高裁判所意見表明した後、テキサス州市営ユーティリティ管轄区域救済された。その意見は、有権者登録行わない地方政府救済され能力があるというものだった。この裁定後、最高裁判所2013年に「シェルビー郡ホルダー事件」で公式範囲違憲であると裁定するまで、少なくとも20の救済措置が行われた:54別の条項で、範囲入っている司法管轄区域連邦監察官受け入れるべく認証されていた場合に、その認証から救済されることを認めた。第13節では、司法長官が、(1)司法管轄区域少数派有権者年齢人口50%以上が有権者登録され、(2)住民投票差別受けていると考えられるそれなりの理由が無い場合に、その認証停止することができるとしている。代案として、ワシントンD.C.地区裁判所がその認証停止命令するともできる:237, 239

※この「救済措置」の解説は、「投票権法 (1965年)」の解説の一部です。
「救済措置」を含む「投票権法 (1965年)」の記事については、「投票権法 (1965年)」の概要を参照ください。

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