有害図書規制の進展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 19:38 UTC 版)
以下では、有害図書法制に関する歴史と、特筆すべき有害図書指定の事例について取り上げる。ここに挙げられている有害図書の例は全体のごく一部であり、この他にも各都道府県(長野県の場合は一部の市町村)によって多数の書籍が有害図書に指定されている。なお、指定対象となった書籍のタイトルなどは、各地方自治体の青少年担当課のウェブサイトなどで確認できる。 1950年、『チャタレイ夫人の恋人』(小山書店)をわいせつ文書として押収(チャタレー事件)。 1950年、岡山県議会、「図書による青少年の保護育成に関する条例(青少年保護育成条例)」可決(初の有害図書排除条例)。 1951年、和歌山県、青少年保護育成条例を制定。 1951年、わいせつ出版物の取締り強化、行きすぎ事件続出で出版界代表が陳情。 1952年、香川県、青少年保護育成条例を制定。 1955年、神奈川県、青少年保護育成条例公布、有害図書の販売を規制。各県で条例制定の傾向強まる。 1955年、この頃をピークとして「悪書追放運動」が起こった。「日本子どもを守る会」「母の会連合会」「PTA」による「悪書追放運動」。同運動は、手塚治虫の『鉄腕アトム』を含む漫画を校庭に集めて「焚書」にするといった「魔女狩り」が行われる。 さらに図書選定制度や青少年保護育成法案を提唱、実質的な検閲を要求するまでにいたる。出版社側は連名でこれに反発する。この悪書追放運動は、その後も止むことなく、1950年代の後半まで続いた。 1955年(昭和30年)の悪書追放運動の直接的な所産としては、北海道(1955年)、福岡県(1956年)、大阪府(1956年)に青少年保護育成条例が制定され、有害図書が規制された。 1960年(昭和35年)、宮城県が青少年保護育成条例を制定。その際に青少年条例制定に反対して来た宮城県児童福祉審議会委員長の中川善之助(東北大学法学部教授)が「現に(青少年条例を)制定した県の統計でも、その後少年犯罪はちっとも減っていないではないか」と言い、審議会に辞表を提出した。 1964年(昭和39年)、東京都が青少年健全育成条例を制定し、都における不健全図書指定制度が開始。 1976年(昭和51年) - 1980年(昭和55年)、自販機本による有害図書類の販売を制限する条項の導入のために、これまで青少年保護条例のなかった都道府県でも条例の制定が相次ぎ、1980年には43都道府県で青少年条例が制定された。 1984年(昭和59年)、自民党の三塚博政務調査会副会長が2月14日の衆議院予算委員会で、少女向けの雑誌に対し「このような雑誌を小中学生の少女達が読んでいるのは極めて憂慮すべき問題」と発言(いわゆる「三塚発言」)。具体的に、主婦の友社『ギャルズライフ』、飛鳥新社『ポップティーン』、近代映画社『エルティーン』、学習研究社『キッス』、平和出版『キャロットギャルズ』の5誌を取り上げた(図書規制法を参照)。これにより翌日の2月15日には早くも『キッス』『キャロットギャルズ』が廃刊を発表。また『ギャルズライフ』と『ポップティーン』は「内容を過激な性表現を抑えた平穏なものへ軌道修正する」と発表した。 1989年(平成元年)、東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発生、宮崎勤が逮捕され、大量のアダルトビデオを所持していたとされる報道がなされたが、宮崎が大量のアダルトビデオを所持していたとされる件に関して漫画家のとり・みきが『月刊ニュータイプ1989年11月号』において、取材記者の手により雑誌の位置を動かすなどの演出があった事を指摘している。犯人の宮崎は実際は、ホラービデオとロリコンビデオを多量に所持していた。この事件の発生により、このようなものが人間に悪影響を及ぼす(「メディア効果論」参照)という風潮が高まる。 1990年(平成2年)、前述の風潮の煽りを受け、朝日新聞が漫画本が子供に悪影響を与えるという旨の社説を掲載した。まだ事件の余波も残っていた時期でもあり、和歌山県田辺市の主婦らが中心となり「コミック本から子どもを守る会」が結成され、署名運動を展開。これに各地のPTAや「親の会」が賛同、対象年齢が小学生と低めだった週刊少年ジャンプを特に非難した。黒人差別をなくす会による手塚治虫批判も同時期である。1980年代半ばから展開された性的描写の含む漫画への批判がこの運動に合流、出版社側は出版問題懇話会を設置し性的描写の自主規制に乗り出す。 1991年(平成3年)、東京都議会が「有害図書類の規制に関する決議」を採択、東京都青少年の健全な育成に関する条例の強化に乗り出す。 1997年(平成9年)、1993年(平成5年)に出版されていた『完全自殺マニュアル』が、自殺を誘発するとして群馬県などで有害図書指定された。 2000年(平成12年)、浦和駅、東海村、大阪府で発生した一連の爆弾事件で犯人が1998年(平成10年)より刊行されていた『危ない28号』を参考に爆発物を製造したと供述した結果、全国18都道府県で有害図書指定された。 2005年(平成17年)、三重県で『図解アリエナイ理科ノ教科書』が甚だしく粗暴性を助長する等青少年の福祉を阻害するおそれがあるとして有害図書指定された。 2006年(平成18年)、神奈川県で『ふたりエッチ』と『ユリア100式』が過激な性描写があるとして有害図書指定。また、茨城県では『多重人格探偵サイコ』が残虐な描写があるとして有害図書に指定された。同年、メディアを著しく規制した強引な検閲が認可された現代日本を描く『図書館戦争』が発刊され、多くの人が図書検閲に対する考えを見直すこととなった。また、2013年には実写映画化された。 2007年(平成19年)、秋田県と福島県で『黒鷺死体宅配便』が猟奇的な描写があるとして有害図書に指定された。 2010年(平成22年)、福島県と長崎県で『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編(漫画版)』が残虐な描写があるとして有害図書に指定される。さらに福岡県でも『実話誌』5誌が暴力団を過度に美化しているとして有害図書に指定された。また、東京都では青少年の健全な育成に関する条例が改正され、不健全図書の指定に関する新基準が追加された。 2013年(平成25年)、長崎県で『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』が過激な性描写があるとして有害図書に指定された。 2014年(平成26年)、福島県で『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』第9巻を過激な性描写があるとして有害図書に指定される。さらに、東京都では妹ぱらだいす!2(漫画版)に対し、2010年の条例改正で定められた不健全図書の新基準が初めて適用された。 2017年(平成29年)3月、東京都で『キミに眠る俺の罪』が不健全図書に指定され、不健全図書の新基準が適用される二番目の事例となるとともに、旧基準と新基準が同時に適用される初めての事例となった。同年10月にも、『監禁された優等生姉妹』が旧基準・新基準の同時適用で不健全指定されている。
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