少女向け家庭小説作家としてとは? わかりやすく解説

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少女向け家庭小説作家として

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 02:59 UTC 版)

ルイーザ・メイ・オルコット」の記事における「少女向け家庭小説作家として」の解説

家庭小説とは、中産階級家庭崇拝ベースとする感傷的な物語ジャンルである。オルコットは、大人楽しめる少女向け家庭小説作家として、アメリカでも特に敬愛される作家のひとりだった。『若草物語第1部・第2部(1冊にまとめて出版されている)は、オルコット作品の中で最も有名であり、アメリカ家庭小説頂点であると評価されている。女性生き方追求取り上げられリアリスティックありながらユーモラス温かみのある作風特徴となっている。高潔温かい家庭像を示し現実オルコット家を元に生まれたアメリカで最良家庭具現する作品」として愛された。 出版以来長期わたって一般人気集め、現在では往時ほど読まれていないとはいえ、数種類の版が出版されており、日本でも翻訳・出版され続けている。一流作品としての地位保ち19世紀小説児童文学分野においても高く評価されている。 当時は「ムチ体罰)を惜しむと子供を駄目にする」と考えられていたにもかかわらずマーチ夫人体罰受けたエイミー退学させたり、女性が外で働くことの重要性語られたり、ジョーは「小さな淑女」の鋳型にはまることを拒んで生き生き作家業励みシリーズが進むにつれ、ジョーある程度社会規範に従うことになるが)、メグと夫の家事育児分担描かれるなど、オルコット因習から逸脱した革新的な思想への関心社会批判を、物語の中やんわりと、かつ明確に差し込みまた、新しい家族在り方提示し女性が働くこと、家事育児分担などにより、「真に理想的な家族の愛の絆がもたらされる」という信念力強く示した当時生活様式社会道徳社会構造対す作者視点現代性が、現在の読者からも共感されそれぞれの特殊なエピソード普遍的なものへと昇華され現代読者にも楽しめる作品となっている。 また当時は、悪人悪人らしく、善人善人らしく描かれるのだったが、オルコット人間心理への鋭い洞察により、人間性複雑さ認識しており、登場人物たちを、根は善良ありながらも、思わず悪いことをしてしまったり欠点葛藤を持つものとして、リアリティのある性格描写魅力的に描いた日常の中の悲劇的かつ喜劇的な状況大事件ではないが、困難や窮地と、それに前向きに対処する(父不在の)一家の姿を描いた年相応であり、詳細に描き分けられ姉妹読者共感呼んだ当時アメリカでは福音主義運動の一環として、『アンクル・トムの小屋』の作者ハリエット・ビーチャー・ストウや『広い、広い世界英語版)』のスーザン・ウォーナー(英語版)により、子供宗教道徳教え日曜学校物語Sunday School fiction)と呼ばれるフィクション書かれ広く普及していた。一般出版社による児童文学も、日曜学校物語より内容は豊かであるとはいえ基本的な姿勢変わらず道徳教訓重要な要素であったまた、南北戦争中から後にかけて、アメリカ児童向け出版社おおむねボストンまたはニューヨークアメリカジェントリー英語版)層による集団であり、伝統的なジェントリー価値観重んじられていた。産業革命以降旧来のジェントリー層は没落しつつあり、アメリカ社会価値観多様化進んでおり、ジェントリー層の出版人児童向け作家たちは、アメリカ家国以来社会秩序根本になってきた、誠実、名誉、意思堅固節制慎み正義といった、伝統的社会基盤となるジェントリー層の伝統的価値観次世代教え高潔な人格育むことを大きな使命考えていたのである。彼らの多く牧師人道主義的社会改革者で、オルコットもこの集団一員であり、使命観を共有していた。 オルコット多く短編教訓物語で、「勤勉と愛が希望もたらす」というパターン繰り返している。長編の『若草物語』では、このパターン広く拡大され変奏され、豊かで複雑な物語となっているが、物語安定した教訓的な形式からはみ出ることはない。オルコット家庭小説では、物質的貧しさの中でこそ心の豊かさ育まれ物質的豊かさ幸せ妨げるという、物質主義批判価値観による設定で、健全性明るさトーン基調にある。また、当時家庭婦人向けの「子育ての手引書」が大流行しており、ルイザ叔父にあたる医師ウィリアム・A・オルコット英語版はこうした育児書の人気ある著者であり、オルコット家は育児書の著者である育児専門家たちと交流があった。オルコットはこうした大人向け育児書を念頭において子供向け訓話物語書いていたことが知られており、教師経験もあったことから、「教師」として姿勢をもって子供向けの本を書いた自分作品を、「若い人のための道徳お粥」と形容した。 オルコットは、父ブロンソン教えである自己否定道徳重要性小説書いた。それは、当時女性求められ規範同様のものであったオルコットブロンソン薫陶受けて育ち、父の意に適う娘、エマーソンソロー教え受けた従順道徳的な娘であり、そうあろうとし、そうした女性でありたかった。『若草物語』のジョーのように、反抗しながら、なかなか自己否定道徳内面化できない心の過程面白作品生んだが、最後にヒロイン従順であり、道徳内面化踏み越え道徳束縛破って自己解放に向かうといった発想はなく、あくまで道徳獲得への努力について書いた最終的に社会規範に従うとはいえジョー言動には、生き生きとしたリアリティがあり、物語道徳的教訓的な建前作者本音交錯し教訓性とリアリズム、古い価値観新し価値観がせめぎ合っており、このバランス危うさ中に作者垣間見えるとも言える建前とその裏醸し出すジレンマ動揺自己矛盾ダイナミズム作品面白さとなっており、サイトウ エツコは、オルコットは「自分深層潜んでいた揺らぎを、すべてそこ(家庭小説)に注ぎ込むことになった」「彼女の残した不思議な二重構造を持つ痛々しいまでにトランセンデンタル(超越主義的)なLittle Womanは、規範的レベル深層心理的なレベルメッセージ食い違い内緒しながら、『女の子物語』として不朽の名作となり、世界中で読み継がれることになった」と述べている。 当時大衆小説は、重苦しいお説教なされることが常であったが、『若草物語』のそれは簡潔で、ストーリー沿った自然なもので、当時読者にとっては押しつけがましくなかった。『若草物語』は、ユーモア豊かさ独創性リアリティのある表現で、「アメリカ児童文学転換期を記す作品」であるといえるオルコットは、自分自身人生下敷きに、健全でありながら現実味があり、当時読者共感しやすい家庭像を描いたが、かなり先駆的な試みであった。ただし、少女向け小説におけるリアリティのある描写は、先行する『広い、広い世界』にも見られ、ほぼ同時期のアデライン・ダットン・トレイン・ホイットニー(英語版)によるニューイングランド舞台にした少女向け物語群や、エリザベス・スチュアート・フェルプス(英語版)の「トロッティ物語シリーズ」にも、詳細な家庭生活描写ユーモアがあるため、当時の、女性向け小説ヒロインの型や表現変化潮流の中で生まれた作品であると言える池本恵子は、「オルコットの『若草物語』は、同時代家庭小説とは作品持ち味完成度異なっていても、五〇年代からの伝統汲んだリアリズムユーモアのある家庭小説、という当時一つ文学的潮流の中から生み出されているのであるひとことで『若草物語』を形容するなら、この物語は、十九世紀人気があったセンチメンタルな婦人向け家庭小説をより易しくし、これにさらに、ロマン主義的な児童文学要素加えて、より低年齢層向けたもの、と言えるだろう」と評している。 オルコットは「短い単語で済むときには決し長い単語でを使ってならない」と考えており、平明分かりやすい文体用いた。『若草物語第1部・第2部には、反道徳的ではない程度俗語罵り言葉取り入れてリアルな会話体により、日常感が醸し出されている。 『若草物語第1部・第2部について、ジェイン・S・ギャビンは、「この作品は、これから適齢期に向かう少女たちが自己の欠点悩みをいかに克服するかがそこに具体的に示されているという意味で、19世紀の若い読者にとっては社交場たしなみの手引書だった」と述べている。人気受けてシリーズ続編書かれ健全な家庭小説需要応え続け子供向け雑誌「セント・ニコラス・マガジン(英語版)」でも執筆した。これらの家庭小説には多かれ少なかれ自伝的な要素があり、登場する若者たち性格描写にも優れており、『若草物語第1部・第2部作風引き継ぐものであったが、オルコット家庭小説で、同等レベル達す作品は出なかった。 『昔気質の一少女』では、上昇志向を持つ家庭愚かさを、別の健全な家庭対比させ、反家庭小説ともいえる物語描いた。『ジャックとジル』では、一つ家族ではなくニューイングランド一つ全体における家庭生活描かれた。 オルコットは、様々な文学的テーマ技法惹かれ実際複雑な作家であったにもかかわらず家族の生活を支えるために家庭小説書き続けた考えられており、マデレイン・B・スターンは、「彼女は自分自身成功犠牲者となったそのような選択の当然の結果として、『子供の友』としての名声また、ただ一つ名作著者としての名声しか得られなかったのである」と述べている。一方アメリカ文学者の平石貴樹は、道徳オルコットにとって個人的に切実なテーマでもあり、そのため彼女は、道徳というテーマでならいくらでも書け作家であったと、家庭小説書き続けた内的要因指摘している。

※この「少女向け家庭小説作家として」の解説は、「ルイーザ・メイ・オルコット」の解説の一部です。
「少女向け家庭小説作家として」を含む「ルイーザ・メイ・オルコット」の記事については、「ルイーザ・メイ・オルコット」の概要を参照ください。

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