少女マンガにおける男装
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/25 21:24 UTC 版)
1953年の手塚治虫『リボンの騎士』は日本における少女向けストーリーマンガの第一号であると同時に、男装キャラクターサファイアを生んだ。暖色系の服・リボン・まつげ・細い眉などで女性性を表象されていたが、男性性が強調される場面では男と対等に戦っていた。しかし当時は男性的であるとされていた知性までは備えておらず、宝塚の男役と同じようにその男性性は内面までは達していなかった。サファイヤも結局はドレスを着て王妃になり、女性性が完成される。 1972年より発表された『ベルサイユのばら』には、男性に対しては女性性が、女性に対しては男性性が強調される、中性的なキャラクターオスカルが登場する。軍服や武器といった男性性のシンボルを身に着け、他の女性キャラクターとのカラー絵では寒色系の髪の色が設定されていた。その一方で頬や唇の赤色などの女性性の表象記号もみられた。知性においても男性に引けをとらず、格闘では不利になることもあるが、逆に身軽さを利用して勝つこともあり、女性であることが不利になるとは限らなかった。身体的性差によって規定されたジェンダーコード(男は勇ましい、女は優しい、など)が普遍ではないとみなされていた。『ベルばら』を執筆した同じ作者の作品で『クローディーヌ…!』の主人公クローディーヌは幼い頃に父親の少年との不倫を目撃したショックで男性として振る舞うようになり、小間使いの少女を誘惑(自身ではそんなつもりは毛頭ない)したことで彼女は田舎に戻される等の相手の立場を無視した恋に暴走してしまう。やがて肉体は女性でも自身を男性として愛してくれる女性と同棲に至る。しかし、その恋人が自身の兄に乗り換えたことで致命的な傷を心に負い、友人でもある精神科医に自身は男性だと訴えた際に彼から"ああ。そうだね、君は不完全な肉体を持った男性だ"と告げられ、彼女なりに"僕は男性だけれど不完全な肉体(=女性の肉体)を持って生まれてしまったのか。"と納得しつつ拳銃で自殺を遂げるという悲劇的結末を自ら選んでしまう。 1979年の『ヴァレンチーノシリーズ』では、男装キャラクターが女性と恋に落ちるという一歩踏み込んだ描写が見られた。 1980年代に描かれた『不思議の国の千一夜』『パロスの剣』では男装キャラクターが女性への恋愛を通して完全に男性になる、もしくは男性性を確立するといった段階に至る。性差そのものが希薄化していた80年代の状況に即しているといえる。『9番目のムサシ』の主人公である篠塚高(No.9)は、衣服を着用している時は"絶壁"に見える描写ではなく本当に胸が"真っ平ら"であることから、ナベシャツ等の補正下着で肉体を物理的に抑圧して男性体に見せかける歪んだ行為を幼い頃から行い、それが当たり前の行為になってしまっている歪められた存在である。生来の性別は女性でも精神的には"男性寄りの無性体(セクスレス)"という不完全な女性であり、任務を遂行するには女性である必要すら無いと自身の女性性を完全否定していたが、生涯にただ一度の内縁の夫に限定して精神が"女性化"することで「完全体の女性」に変身し女性としての至福を得た。 1996年に発表された『少女革命ウテナ』では、旧来的な男性性の敗北とジェンダーカテゴリーからの解放が描かれている。 2012年に発売された種村有菜の『風男塾物語』では、男装アイドルとしてタレント活動を行っている風男塾(上記男装タレントの活動を参照)を題材とした作品であるが、当時風男塾は「自分たちは男性」という設定で活動を行っていたため、作品内ではメンバー全員が男性として描かれている。
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