双子
『古都』(川端康成) 中京(なかぎょう)の呉服問屋の娘千重子と北山杉の村の娘苗子は双子だった。西陣の織り手・秀男は千重子に思いをよせ、祇園祭りの夜、苗子を千重子と思い「帯を織らせてくれ」と頼む。後に秀男は人違いと知るが、千重子の形代(かたしろ)として苗子に結婚を申しこむ。
『十二夜』(シェイクスピア)第3~4幕 双子の兄セヴァスチャンと妹ヴァイオラは、船の難破によって生き別れとなり、ヴァイオラは身を守るために男装する。オリヴィア姫がヴァイオラを男と思って求愛し、ヴァイオラは困惑する。そこへセヴァスチャンが現れたので、オリヴィア姫は彼をヴァイオラと間違えて、結婚式を挙げてしまう〔*最後に間違いが明らかになり、ヴァイオラは女に戻ってオーシーノウ公爵と結ばれる〕→〔仲介者〕3。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話 メオは瓜二つの兄チェンツォと間違えられ、兄の妻と床をともにする。しかしメオはシーツを2つに分けて、兄の妻に触れないようにする。後にチェンツォは、妻とメオがいっしょに寝たと誤解して、メオの首を切り落とす→〔草〕1。
★1b.名前まで同じの双子。
『隅田川』(川端康成) 行平と友人須山とが買いなじんでいた双生児姉妹の娼婦は、2人とも「たき子」という名前だった。「役所の戸籍係がよく受けつけたものだ」と須山が驚くと、彼女たちは「漢字と仮名、それとも、平仮名と片仮名にしたのかもしれないわ」と言った→〔姉妹〕3。
『間違いの喜劇』(シェイクスピア) 双子の兄弟(*ともにアンティフォラスという名)と彼らの召使の兄弟(*これも双子で、ともにドローミオという名)は、赤ん坊の頃、船の難破のため別れ別れになる。20数年後、兄アンティフォラスと兄ドローミオが住む町に、弟アンティフォラスと弟ドローミオがやって来たため、町の人々は彼らを何度も見間違う。
*瓜二つで名前も同じだが、双子ではない→〔同名の人〕1bの『ふたりのベロニカ』(キェシロフスキ)。
陸地と動植物などの起源譚(北アメリカ・ヒューロン族の神話) 女神が産んだ双子の一方は善良、他方は邪悪だった。邪悪な方は、人間の脅威となる蛇・狼・熊・蚊・ヒキガエルなどを、途方もなく巨大に造った。善良な方は、それら巨大な動物たちと戦って打ち負かし、それぞれの大きさを、人間の手に負える程度に小さくした。双子は、世界の主を決めるために果し合いをする。邪悪な方が負けて、世界の西の果てへ去る。この時から人間も、死ぬと西の果てへ行かねばならなくなった。
『鉄腕アトム』(手塚治)「ZZZ総統の巻」 リヨン大統領は世界平和を願い、地球連邦を創設すべく、各国首脳と協議するが、彼の考えはなかなか受け入れられなかった。リヨン大統領の双子の兄は、陰謀団ZZZの総統となり、弟とは異なる方法で世界に平和をもたらそうとした〔*最初は、リヨン大統領とZZZ総統とは同一人物(*→〔一人二役〕6)、という設定だった〕→〔戦争〕9。
*1人の人間が、善半身と悪半身に分かれる→〔半身〕1の『まっぷたつの子爵』(カルヴィーノ)。
★2.男女の双子。
『アッシャー家の崩壊』(ポオ) 双子の兄ロデリックと妹マデラインが、沼の傍らの古い館に住む。妹マデラインが病死したので、遺骸を棺に納め地下室に安置する。しかし彼女はまだ生きており、1週間後の夜、屍衣姿で現れ、兄ロデリックに倒れかかって死ぬ。兄ロデリックも、恐怖で死ぬ。館は崩れて沼に沈む。
*→〔兄妹婚〕3。
★3a.親が、双子の一人を残し一人を捨てたため、双子が互いを知ることなく別々に育つ。
『仮面の男(鉄仮面)』(デュマ)8~9 ルイ13世と妃アンヌとの間に双子の男児が誕生する。王位継承争いが起きることを恐れたルイ13世は、後から生まれたフィリップを田舎の家に送る。フィリップは家から1歩も出ることなく育つが、15歳の時、彼は自分が王子であることを知り、そのためバスティーユ監獄に入れられる。
『古都』(川端康成) 北山杉の村の家に生まれた双子の女児のうち、1人は京都の呉服問屋の店先に捨てられた。双子は嫌われることがあり、また、双子は育ちにくいといわれたからでもあった。捨てられた女児は、子供のない呉服問屋夫婦に拾われ、千重子と名づけられた。千重子は20歳の時、北山杉の村で育った双子の姉妹・苗子と、偶然めぐり合った。
『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』(河竹黙阿弥)「割下水伝吉内」 夜鷹宿を営む伝吉の家に男女の双子、十三郎・おとせが生まれた。男女の双子は特に忌まわしいものと見なされたので、伝吉は世間体を恥じ、「娘は将来女郎にすれば金になる」と考えておとせを家に残し、十三郎を捨てた→〔兄妹婚〕3。
★3b.両親が離婚する時、双子を分けたため、双子が互いを知ることなく別々に育つ。
『ふたりのロッテ』(ケストナー) 音楽家パルフィーとその妻の間には、幼い双子の女児ルイーゼとロッテがあった。彼らは離婚するに際し、パルフィーがルイーゼを、妻がロッテを育てることにした。そのためルイーゼもロッテも、自分は1人っ子だと思って育った。2人は、9歳の夏に子供たちの休暇村で偶然出会い、自分たちが双子であることを知った。
*子供が1人の場合は、父と母のどちらがその子を引き取るか、大きな問題になる→〔離縁・離婚〕4cの『クレイマー、クレイマー』(ベントン)。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「迷子札」 旗本の奥方が双子を産んだ。世に言う畜生腹なので、そのうちの1人・鶴松を若君とし、もう1人・乙松を出入りの職人・伊之助に与えた。5年後、鶴松が毒殺されたので、旗本家ではひそかに乙松を取り戻し、鶴松に仕立て上げた。伊之助は旗本家を強請(ゆす)り、殺された。乙松失踪、伊之助斬殺という事件を捜査した銭形平次は、旗本屋敷に乗りこんで、真相を明らかにした。
『地下ぐらの娘』(ソビエトの昔話) 子だくさんの家に双子の女児が生まれたので、母親が「1人だけでも、ポドポルニク(=地下ぐらの霊)が連れて行ってくれたらねぇ」と言う。すると女児の1人が消えてしまった。残った1人が17歳の娘になった時、ペチカのそばの地下ぐらが開き、ポドポルニクの所で育った娘が現れて「私たちは双子だ」と教える。そして「私はよその地下ぐらへ嫁に行く」と告げ、それっきり2度と姿を見せなかった。
『二十騎が原』(昔話) 甲州の長者に10人の息子がおり、皆たくましい若者となって、野原で馬に乗り、弓を射て遊んだ。それを見た長者は、「さらにもう10人、息子がいて、この野で一緒に遊ぶならば、どんなに心丈夫で楽しいだろう」と言った。すると妻が「実は、10人の息子は皆双子で生まれました。あまりに多いと思い、遠慮して、別の所で育てております」と打ち明ける。長者は喜んで、その10人を呼びにやり、20騎の若者が野原を駆け回った。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「畸形嚢腫」 双子の一方が母胎内で畸形嚢腫となり、もう一方の身体の中に包みこまれ、1人の女性として生まれる。彼女は成長後、体内の嚢腫が肥大したので、ブラック・ジャックが手術する。しかし、嚢腫の「生きたい」という意志を知ったブラック・ジャックは、合成繊維で幼女の外形を造り、その中へ嚢腫内の臓器を移す。ブラック・ジャックは幼女を女性に示し、「あなたの双子の妹だ」と告げるが、女性は「こんな子、妹じゃない」と言って、去る〔*幼女はピノコと名づけられ、ピノコは自らをブラック・ジャックの妻と称する〕。
*双子の一方が生まれない→〔人面瘡(人面疽)〕2の『人面瘡』(横溝正史)。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 アルクメネの夫アムピトリュオンが出征中に、ゼウスがアムピトリュオンの姿をとって訪れ、アルクメネと交わる。その翌晩に、本物のアムピトリュオンが帰って来る。やがて彼女は双子を産む。1人は、ゼウスの胤で一夜だけ年上のヘラクレス、もう1人は、アムピトリュオンの子のイピクレスである。
『変身物語』(オヴィディウス)巻11 ある日、アポロンとメルクリウス(=ヘルメス)が同時に、美貌の娘キオネを見て恋情を抱いた。アポロンは夜まで待ったが、メルクリウスはすぐに魔法の杖でキオネを眠らせ、思いを遂げた。夜になってからアポロンが来て、キオネと交わった。やがてキオネは、双子の男児を産んだ。1人はメルクリウスの子で、ずる賢い性質であり、もう1人はアポロンの子で、歌と竪琴の名手になった。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章 ゼウスは白鳥の姿となって王女レダと交わり、また、同じ夜にテュンダレオスもレダと交わった。その結果、彼女は4人の子を産んだ。ゼウスからは男子ポリュデウケス(=ポルックス)と女子ヘレネが、テュンダレオスからは男子カストルと女子クリュタイムネストラが生まれたのである〔*ポリュデウケスとカストルは後に天に上げられ、双子座となった〕。
★8.双子の起源。
『日本書紀』巻1・第4段本文 イザナキとイザナミが結婚し、本州・四国・九州をはじめとする8つの大きな洲(しま)を産んだ〔*それゆえ日本を大八洲国(おほやしまのくに)と言う〕。その中の億岐洲(=隠岐島)と佐度洲(=佐渡島)は、双子として産んだ。世の中の人が双子を産むことがあるのは、これにならったのである。
『遠野物語拾遺』240 双児が生まれた時には、父親は屋根の上から近所に聞こえるだけの大声で、「俺あ嬶(かかあ)双児を産んだでぁ」と、3度喚(よ)ばわらなくてはならぬ。そうせぬと、続けざまにまた双児が生まれる、といわれている。
『日本書紀』巻7〔第12代〕景行天皇2年(A.D.72)3月 景行天皇は、播磨稲日大郎姫を皇后とした。皇后は双子を産んだので、天皇は不審に思い、碓(=臼)に向かって叫んだ〔*何を叫んだかは不明〕。それで双子の兄を大碓皇子、弟を小碓尊と名づけた。小碓尊は、後の日本武尊(ヤマトタケルノミコト)である〔*『古事記』中巻では、大碓・小碓を兄弟とするだけで、双子とは記さない〕。
★10.胎内にいる時から争う双子。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第2章 アルゴス王アバスとアグライアとの間に、双子のアクリシオスとプロイトスが生まれた。2人は母親の胎内にある時から、互いに相争っていた。成長するに及んで、彼らは王位を巡って戦い、アクリシオスが勝利を得て、プロイトスをアルゴスから追放した。
『創世記』第25章 双子のエサウとヤコブは、母リベカの胎内にいる時から、互いに押し合っていた。出産の時が来ると、赤くて全身が毛皮の衣のような兄エサウが、先に出て来た。その後で弟ヤコブが出て来たが、ヤコブの手はエサウのかかとをつかんでいた。
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