面
『教訓抄』巻1 北斉の蘭陵王は非常な美貌であったため、兵士たちは戦場にあっても、王の顔ばかり見たがり、十分な戦闘ができなかった。そこで蘭陵王は恐ろしい形相の仮面をつけ、美貌を隠して戦場に出て、敵軍を打ち破った〔*その時、戦勝を祝い、兵たちが面をかぶって舞ったのが、舞楽『蘭陵王』の起源である〕。
『鉢かづき』(御伽草子) 臨終の母が13歳の姫君に、肩が隠れるほどの鉢をかぶせ、鉢は頭から離れない。姫君は家を追われ、山蔭三位中将邸の湯殿で働き、山蔭家の四男宰相殿と契りをかわす。4人兄弟の嫁くらべが行われる日に鉢が落ち、それまで鉢に隠されていた姫君の美貌が明らかになる〔*頭部にくっついて取れないという点で→〔頭〕1dの『徒然草』第53段・〔面〕3の『磯崎』と類縁の発想〕。
『オペラ座の怪人』(ルルー) エリックは生来の醜貌ゆえ両親からも恐れられ、家出をして諸国を放浪した後に、オペラ座の地下に住んで、醜い顔を仮面で隠す。彼は歌姫クリスチーヌ・ダーエを愛し、彼女を誘拐する。クリスチーヌはエリックを憐れみ、額への接吻を受け入れる。エリックはクリスチーヌへの愛ゆえに病み、死んで行く〔*ロン・チャニー主演の映画『オペラ座の怪人』では、群集がエリックを殴殺する〕。
『仮面ライダー』(石ノ森章太郎) 悪の組織ショッカーが、本郷猛の肉体に人工の筋肉・骨・心臓を組み込んで、サイボーグにしてしまう(*→〔ロボット〕6)。本郷の心に強い怒りや悲しみが湧き上がると、改造手術の傷あとが全身に浮き出てくる。顔にも醜い傷あとがあらわれるので、彼は昆虫の頭部を思わせる仮面をつけて顔を隠し、オートバイを走らせて、ショッカー一味と戦う。
『他人の顔』(安部公房) 実験中に液体空気が爆発し、「ぼく」の顔はケロイド瘢痕におおわれる。以来、妻との夫婦関係も絶える。「ぼく」は合成樹脂の仮面を作り、他人の顔を手に入れ、妻を誘惑する→〔妻〕6e。
★1c.醜い顔を面で隠していることを利用して、別人とすりかわる。
『犬神家の一族』(横溝正史) 青沼静馬は、戦地で顔に無残な傷を負った。彼は醜い顔を仮面で隠し、犬神佐清(すけきよ)になりすまして、犬神家の財産を得ようとたくらむ。静馬は指紋を押す時だけ、本物の佐清とすりかわった。本物の佐清が静馬の仮面をつけ、犬神家の人々の前で指紋を押したのである〔*佐清は、母松子が殺人を犯す現場を静馬に見られたため弱みを握られ、静馬の指示に従わざるをえなかった〕。
『仮面の男(鉄仮面)』(デュマ)34 ルイ14世の双子の兄弟フィリップは、ルイに成り代わり王となろうとして、捕らえられる。ルイは、自分と同じ顔を持つ男が2度とこの世に戻って来ないように、フィリップに鉄仮面をかぶせて、サント・マルグリット島に幽閉する。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「赤い紐」 荒物屋市五郎の1人娘お雪は、お針友達のお春とお勢から侮辱されて自殺した。市五郎はお春とお勢を恨み、翌年の神田祭の前夜、手古舞(てこまい)姿のお春を花笠の赤い紐で絞め殺し、お勢をその犯人に仕立て上げる。祭の当日、市五郎はひょっとこの面をつけて踊り狂い、見物たちを笑わせる。彼を真犯人とにらんだ銭形平次が近づいて、面をはぎ取る。市五郎の顔は涙に濡れていた。
★2b.ひょっとこの面を取っても、自分の本当の顔が現れるとは限らない。
『ひょっとこ』(芥川龍之介) 日本橋の絵具屋の主人平吉は、酒を飲むと気が大きくなって、馬鹿踊りをし、博打をし、女を買う。普段は、つまらぬ嘘ばかりついて暮らしている。酔った自分と、しらふの自分と、どっちが本当か、平吉自身にもわからない。平吉は45歳の春、花見の船の中で、ひょっとこの面をつけて踊っている最中に、脳溢血で倒れる。彼の最後の言葉は、「面を取ってくれ」というものであった。
『火男の話』(昔話) 山の女から爺がもらった童(わらし)が、死んでしまった(*→〔へそ〕2)。童は爺の夢に現れ、「おれの顔に似た面を作って、竃(かまど)の前の柱にかけろ。そうすれば家は栄える」と教える。童の名前は「ひょうとく」と言った。それで、村々では今でも、ひょうとく(火男=ひょっとこ)の面を木や土で作って、かけておくそうだ(岩手県江刺郡)。
★3.肉づきの面。
『磯崎』(御伽草子) 磯崎某の妻が夫の新しい愛人を憎み、鬼の面をかぶり、杖をふるって、愛人を打ち殺す。その後、妻が面を取ろうとしても顔から離れず、持った杖も、手にくっついたままになる。妻は、息子の稚児学生に諭されて悪心を止め、しばらく黙坐すると、やがて面も杖も取れた〔*頭部にくっついて取れないという点で→〔頭〕1dの『徒然草』第53段・〔面〕1aの『鉢かづき』と類縁の発想〕。
*蛙が顔にくっついて取れない→〔蛙〕8の『親不孝なむすこ』(グリム)KHM145。
『鬼婆』(新藤兼人) 南北朝時代。男が戦場へ駆り出されて死に、男の母と嫁が、芒(すすき)の原に暮らしていた。嫁が愛人をつくったので、母が鬼の面をかぶって嫁を脅す。しかし2度・3度と脅すうち、面が顔について取れなくなる。嫁が木槌で面を叩き割ると、中から現れた母の顔は血にまみれ、鬼さながらだった。嫁は悲鳴をあげて逃げ去る。母は「わしは鬼じゃない。人間じゃ」と叫んで追いかけ、深い穴に落ちて死んでしまった。
『脱殻(ぬけがら)』(狂言) 酔って道の真中で眠る太郎冠者に、主人が鬼の面をかぶせる。目覚めた太郎冠者は清水に映る顔を見て、「鬼になってしまった」と嘆き、清水に身を投げる。その時、面が落ちたので、太郎冠者は「鬼の脱殻がある」と、主人に告げる。
★4.人肉の面。
『百面相役者』(江戸川乱歩) 田舎の芝居小屋の百面相役者が、男・女・老人・若人・貴族・賤民、あらゆる者に変装するのを見て、「僕」は感心する。すると友人Rが、「あの役者は墓をあばいて死者たちの顔の皮をはぎ、それで作ったさまざまな人肉の面を顔につけているのだ」と教えたので、「僕」は驚く〔*しかしそれは、Rが面白半分にデタラメを言ったのだった〕。
★5.愚かな動物が、面をつけた役者を見て、「上手に化けるものだ」と感心する。
『たのきゅう』(昔話) 爺に化けたうわばみが、旅役者たのきゅうの名前を「狸」と聞き違え、「狸なら上手に化けるだろう。化けてみせてくれ」と言う。たのきゅうは芝居で使う面をいくつか持っていたので、女の面をかぶって芸をする。うわばみは感心し、いろいろと話をし始める(高知県高岡郡東津野村)→〔物語〕2c。
★6.凶相の面。
『修禅寺物語』(岡本綺堂) 伊豆の面作師(おもてつくりし)夜叉王は、修善寺の里に幽閉された源頼家から、似顔の面の製作を依頼される。しかし夜叉王の打つ面には死相があらわれ、幾度打ち直しても生きた面ができないので、夜叉王は頼家に面を渡さなかった。短気な頼家が強引に面を受け取って帰ったその夜、北条の刺客が頼家を暗殺した。
★7.仮面の女が自分の妻であると気づかずに、口説いてしまう。
『こうもり』(J.シュトラウス2世) 銀行家アイゼンシュタインは舞踏会へ行き、そこに現れた仮面の貴婦人を妻ロザリンデと気づかず口説いて、時計を取り上げられる。翌日ロザリンデはアイゼンシュタインに、「あなたの浮気の証拠だ」と言って、時計を見せる〔*実はこれは、友人ファルケ博士がアイゼンシュタインに仕掛けた悪戯だった(*→〔舞踏会〕4)。ファルケ博士がロザリンデに、仮面をつけて舞踏会に行くよう頼んだのである〕。
*仮面の女が自分の恋人であると気づかずに、口説いてしまう→〔裸〕2の『裸で御免なさい』(アレグレ)。
『タイガーマスク』(梶原一騎/辻なおき) 覆面レスラー・タイガーマスクが、素顔の伊達直人に戻って、大阪の町の裏通りを歩いていた。トラックにひかれそうな男の子を助けようとして、伊達直人はトラックにはねられ、路面にたたきつけられる。彼は、自分がタイガーマスクであることを知られないように、上着のポケットから覆面を取り出し、川へ投げ棄てて息絶える。
*『タイガーマスク』は、伊達直人が少年の命を救い、トラックにはねられるところで物語が終わるが、同じ梶原一騎原作の『愛と誠』では、太賀誠が早乙女愛の命を救い、額に傷を負うところから物語が始まる→〔額〕4b。
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