狂気
『アーサーの死』(マロリー)第11~12巻 騎士ラーンスロットは、愛人のアーサー王妃グィネヴィアに「宮廷から出て行け」と言われ(*→〔寝言〕2b)、狂気に陥る。彼は錯乱状態で諸方を駆け巡り、出会った騎士たちや猪などと闘う。2年後、エレーン姫やブルーセン婦人たちがラーンスロットを見つけ、彼を聖杯の前に寝かせる。聖職者が聖杯の覆いを取ると、ラーンスロットの病は癒され、彼は正気にもどる。
『アンドロマク』(ラシーヌ) オレストは、熱愛するエルミオーヌの言葉に従ってピリュス王を殺すが、思いがけずエルミオーヌの呪詛と自刃にあい、気が狂う。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 ヘラクレスは、女神ヘラのために狂気に陥り、妻メガラとの間にもうけた3人の息子と、双子の弟イピクレスの2人の子を、火中に投じて殺した。そのためヘラクレスは、自らに追放の判決を下した。
★2.自らの身を守るため、あるいは本心を隠すため、狂人のふりをする。
『仮名手本忠臣蔵』7段目「一力茶屋」 大星由良之助は敵討ちの本心を隠すため、祇園一力茶屋で色狂い・傾城狂いの日々を送る。
『今昔物語集』巻12-33 多武峰の増賀は尊い聖人だとの評判が高く、冷泉院が御持僧としようとした。増賀は、様々に気違いじみたことを言って逃げ去った。
『今昔物語集』巻19-18 彼はまた、三条大皇大后宮のもとで、ことさらに性的な話をしたり、下痢をするなどのふるまいをした。
『サムエル記』上・第21章 サウル王に命をねらわれるダビデは、ガトの王アキシュの所へ身を寄せる。しかし正体を知られ、捕らわれたので、ダビデはよだれを流して狂人のふりをする。アキシュはダビデを本物の狂人と思って、追い払う。ダビデはアドラムの洞窟に難を避ける。
『史記』「殷本紀」第3 紂王の暴虐を恐れた箕子は、狂気をよそおい奴隷となるが、捕えられる。
『水滸伝』百二十回本第39回 罪を得て江州へ流された宋江は、ある日潯陽楼で酒を飲み、酔って壁に謀叛の詩を書きつけ、逮捕される。宋江は狂人のふりをし、糞尿にまみれ、「俺は玉皇大帝の婿殿だ」と支離滅裂なことをわめいて、役人たちをごまかそうとする。しかし、謀叛の詩の内容と筆跡が正常人のものなので、宋江の演技は見破られる。
『日本書紀』巻26斉明天皇3年9月 有間皇子は狂気をよそおい、牟婁の温泉へ行って病を治すふりをした。
『ハムレット』(シェイクスピア)第2~3幕 ハムレットは、父デンマーク王が叔父クローディアスに暗殺されたことを知り、復讐を決意する。彼は本心を隠すために狂気をよそおう。恋人オフィーリアに対しても、「尼寺へ行け。なぜ男に連れそって罪深い人間を産みたがる?」と言って突き放す。ハムレットは、母ガートルードがクローディアスと結婚したことを非難し、クローディアスと誤認してオフィーリアの父ポローニアスを殺す。
『リア王』(シェイクスピア)第3幕 エドガーは、父グロスター伯から追放され、乞食のトムと名のって狂気をよそおう。
*兵役を逃れるために、狂人のふりをする→〔兵役〕3bの『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13-12・『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章。
*刑務所の強制労働を逃れるために、狂人のふりをする→〔手術〕2aの『カッコーの巣の上で』(フォアマン)。
★3.神罰による狂気。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章 ディオニュソス神は、彼を敬わぬ人々の心を狂わせた。ディオニュソス神がテバイに来た時、彼を信仰する女たちは家を捨て、山中に乱舞した。ペンテウス王がこれを防ごうとしたが、狂乱したその母によって、野獣と見なされ四肢を引き裂かれた。
『日本永代蔵』巻4-4「茶の十徳も一度に皆」 敦賀に住む小橋の利助は、朝市に出て茶を売り歩き、その利益を元手に、葉茶の店を手広く営んだ。やがて利助は欲心を起こし、茶の出し殻を混ぜて売るようになった。いったんは利を得て家が栄えたが、天の咎めで利助は発狂し、「茶殻茶殻」と口走って自らの悪事を触れまわった。
『日本霊異記』上-23 親不孝の瞻保が、母に貸した稲の返済を厳しく迫る。母が泣いて天に訴えると、たちまち瞻保は乱心し、大切な証文類を焼き捨て、山の中を走り狂った〔*『今昔物語集』巻20-31に類話〕。
★4.狂気に陥る女。
『ジェーン・エア』(C.ブロンテ) ロチェスターの妻バーサは精神病であり、邸内の屋根裏部屋に幽閉される。バーサの存在を知らぬ家庭教師ジェーン・エアは、不気味な笑い声や謎の放火事件に怯える→〔夫〕6a。
『舞姫』(森鴎外) ベルリン、ヰクトリア座の踊り子エリスは、某省の官費留学生である「余(太田豊太郎)」と同棲し、身ごもる。エリスは「余」とともに日本へ渡ろうと心を決めるが、「余」は保身のためにエリスを捨てて日本へ帰る。それを知ったエリスはパラノイア(偏執病)を発症し、医者は「治癒の見込みなし」と診断する。
*→〔不倫〕1の『死の棘』(島尾敏雄)のミホは、夫の不倫を知って分裂病の症状を現し、精神病院に入る。
『雪国』(川端康成) 西洋舞踊研究家・島村は雪国を訪れて、芸者・駒子とその妹分・葉子を知る。葉子は、「駒ちゃんは私が気違いになると言うんです」と島村に言って、泣く。冬の夜、繭倉(まゆぐら)で映画を上映しているうちに火事になり、2階から葉子が落ちて失神する。駒子は葉子の身体を抱いて、「この子、気が違うわ」と叫ぶ。そういう声が物狂わしい駒子に、島村は近づこうとしてよろめく→〔天の川〕2。
『ランメルモールのルチア』(ドニゼッティ) ルチアは、兄の城主エンリーコの策謀で恋人エドガルドとの仲を裂かれ、別の男と政略結婚させられる。彼女は悲しみと苦悩で発狂し、新床で花婿を刺し殺す。
*→〔過去〕1の『欲望という名の電車』(ウィリアムズ)・〔兄妹〕6の『うつせみ』(樋口一葉)・〔下宿〕2の『好色五人女』巻1「姿姫路清十郎物語」。
『人間失格』(太宰治)「第三の手記」 東京の高等学校に進学した「自分(大庭葉蔵)」は、何人もの女と関係を持ち、心中しようとして自分だけ助かる、催眠剤を致死量以上飲みながら自殺に失敗する、酒を我慢するためにモルヒネを注射する、などの愚行を重ねる。「自分」は脳病院に入れられ、人間失格の廃人となったことを自覚する。後、「自分」は郷里の東北で、老女中の世話を受けて療養生活をする。
『夜明け前』(島崎藤村) 馬籠宿の本陣の当主・青山半蔵は、平田派の国学に心酔し、徳川幕府が大政を奉還して王政復古の世が来ることに、大きな期待を抱く。しかし明治の世は、半蔵の願う神武創業の古代ではなく、西洋を模範とする文明開化の近代であった。東京へ出た半蔵は、憂国の和歌を記した扇子を、帝の行幸の馬車に投げる(*→〔扇〕2)。新時代の激動で青山家は衰退し、半蔵はしだいに狂気におちいってゆく。彼は菩提寺を無用のものと考え、放火して捕らわれ、座敷牢に入れられる。明治19年(1886)11月、半蔵は56歳で死んだ。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス) ラ・マンチャの某村に50歳になろうとする独身の郷士が住んでいた。彼は騎士道物語の読みすぎで頭がおかしくなり、自らも騎士になろうと、「ドン・キホーテ」と名乗って3度、冒険の旅に出る(*→〔旅〕7)。3度目の旅を終え帰館したドン・キホーテは、病臥してようやく正気に戻る。臨終の床に集まった友人知人たちに遺言を述べ、彼は従容として死んでゆく。
『ガス燈』(キューカー) ポーラの新婚家庭に、怪事が頻発する。屋根裏から物音が聞こえ、部屋のガス燈が急に暗くなる。夫の時計がなくなり、ポーラのバッグの中に入っている。ポーラは「自分は病気で、幻聴・幻覚・盗癖などの症状があるのだ」と思う。これはすべて夫が仕組んだことで、彼はポーラを精神異常者に仕立て上げ、彼女が叔母から受け継いだ高価な宝石を手に入れようとしたのだった。
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