伝書鳩
「伝書鳩」とは、鳩(ハト)を用いた通信文の受け渡しのこと、または、その通信手段として訓練された鳩のことである。ハトの優れた帰巣本能を利用した通信方法である。
現代では「人に言われた内容をそのまま他の人に伝えるだけの人」「情報を運ぶだけで考えることをしない人」を指す比喩的な(多分に皮肉の込められた)意味で「伝書鳩」と表現されることも多い。
「伝書鳩」の基本的な意味
多くの動物には、自分の巣に戻るために活用される鋭敏な能力(帰巣本能)が備わっている。鳩は特に帰巣本能が優れていると言われており、1000km以上も距離のある場所から巣に戻ることができるといわれている。鳩は飛べるため、陸の起伏や地質によって移動を制限されない。しかも、鳩は飛翔能力にも長けており、最高時速100kmを超える速度で飛べるとされる。さしもの鳩の帰還率も100パーセントというわけにはいかない(迷って戻れなくなることもあれば、他の猛禽などに襲われたり、その他の不測の事態に見舞われて飛行不能になったりすることがある)。とはいえ鳩の入手しやすさ等も含めて総合的に考えると、鳩は最も手頃で優れた動物であったといえる。
伝書鳩は通常は200km以内の範囲で通信手段として用いられていたという。
伝書鳩の使い方
伝書鳩を使って通信を行う基本的な考え方は、「巣から離れた場所に鳩を連れて行き通信文を持たせ、本能に従い記憶された巣に戻るという習性を利用して届ける」というものである。鳩の脚に手紙を入れた小さな筒を付けて放つのが一般的である。時には軽量の物資を運ぶこともあり、その場合は背中に背負わせた。通常の伝書鳩は片道のみ利用されるが、それよりも特別に訓練された「往復鳩」は巣に戻るだけでなく放たれた場所とを行ったり来たりすることが可能である。さらに往復鳩よりも訓練された「移動鳩」は、戻るべき巣である鳩舎が移動していてもそこへ戻ることができるとされる。特殊な訓練を受けた往復鳩や移動鳩は、戦争中の重要な通信手段としても用いられた。電話などのなかった時代には情報伝達に大いに役立てられた伝書鳩であるが、通信手段の発達とともに通信文や軽量物資の運搬に利用されることは減り、現在はほとんど鳩レースのために訓練されている。
鳩レースでは、愛鳩家が自分の飼育している鳩を持ち寄り戻ってくる速さを競う。事前に放鳩地からそれぞれの鳩舎までの距離を正確に測り登録するがその距離は同一ではないため、鳩が戻ってくるのに要した時間で割り分速を出して比較する。通常レース鳩には所有者の名前と連絡先が書かれた足輪と登録番号が書かれた協会配布の足輪が着けられており、何らかの事情で保護された場合の対策がなされている。
伝書鳩という言葉はビジネスにおいても使用されることがあり、社外や社内の人に言われた内容をそのまま伝える役割のことを指す。情報を届けるという重大な役割ではあるが、決定権を与えられるわけではなくやり取りにのみ関与するため人に対して使用する場合ネガティブなニュアンスを含む。
「伝書鳩」の語源・由来
「伝書鳩」とは、その名の通り書類や手紙、書簡などを先方に送る際に鳩を用いたことに由来する。その歴史は古く、紀元前約3000年のエジプトで漁船が漁況を知らせるために利用していたといわれる。「伝書鳩」を含む熟語・言い回し
伝書鳩行為とは
「伝書鳩行為」とは、YouTubeなどの配信サイトにおいて閲覧している配信者の様子をコメントで関係のない他の配信者に報告または宣伝する行為のこと。省略し「鳩行為」ともいわれる。一般的に荒らしと認識される場合が多く、マナー違反を注意するネットスラングとして使用される。例えば、配信中の内容を急に他人の話題や宣伝でさえぎってしまったり、「Aさんはこっちの方がいいと言っていたよ」など配信者の意向とは異なる情報を持ちだしたりすることを指す。なかには荒らしに該当しないケースもあるが、基本的にはすべきではない行為という認識が強く、概要欄や配信冒頭で禁止事項として案内している配信者も多い。いくつかのパターンを例として注意喚起されているが、悪意なく無意識に行われている場合も多く伝書鳩行為をゼロにするのは難しいとされる。「伝書鳩」に関連する用語の解説
伝書鳩協会とは
「伝書鳩協会」とは日本鳩界の発展を目的に1954年に設立された団体で、正式名称は「一般社団法人日本伝書鳩協会」。鳩レースや品評会が開催されている。「伝書鳩」の使い方・例文
「伝書鳩」は、通信手段やレース鳩について表現する際下記のように使用される。・伝書鳩は電話のない時代重要な通信手段として利用されていた。
・鳩は帰巣本能と飛翔能力が優れており、伝書鳩として利用された。
・あの鳩たちは今伝書鳩として訓練をしている。
・伝書鳩により貴重な情報が届けられた。
・レース鳩は古くは伝書鳩ともいわれた。
・レース鳩より以前の伝書鳩から人間とは深い関係がある。
ビジネスシーンにおいては、下記のように使用される。
・言われたことをそのまま伝えるだけの伝書鳩は卒業したい。
・彼は伝書鳩ばかり頼まれて意見を求められることはない。
・伝書鳩としてきちんと情報を相手に伝えよう。
「伝書鳩」の英訳
「伝書鳩」は英語で「carrier pigeon」または「messenger pigeon」と表す。「配達員」を指す「carrier」や「使者」を指す「messenger」と、「鳩」を指す「pigeon」から成り立つ。伝書鳩
伝書鳩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/30 19:27 UTC 版)
伝書鳩(でんしょばと、英語:homing pigeon、carrier pigeon)または伝書バトとは、鳩の仲間であるカワラバトの帰巣本能を利用し遠隔地にメッセージを送る通信手段として使用するため、方向感覚に優れ、長距離の飛行に耐えるように品種改良された飼い鳩のことをいう[1]。第2次世界大戦直後までは軍事上の通信に多用されたため軍用鳩とも呼ばれていたが、その後の有線および無線による通信技術の発達などにより次第に実用上の役割を失っていった[2][1]。新聞社による写真フィルムの運搬や、家畜の人工授精のための精液の輸送などに最後まで利用されたが、共に1960年代半ばには廃止されている[3][4]。現在では主に愛好家による競技用のレース鳩(英語:racing pigeon)として飼育されている[2]。
注釈
出典
- ^ a b 竹下信雄. "伝書鳩". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年8月30日閲覧。
- ^ a b "伝書バト(伝書鳩)". 平凡社 世界大百科事典 第2版. コトバンクより2023年8月30日閲覧。
- ^ 黒岩 2000, p. 150-153.
- ^ 黒岩 2000, p. 168-173.
- ^ a b c d フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 5』講談社、2004年。ISBN 4-06-352710-7。
- ^ 『傳書鳩の飼い方』東京農業大学傳書鳩研究会編(実用百科選書)金園社,1956年5月,全国書誌番号:56008508
- ^ a b 高槻泰郎. “近世日本における相場情報の伝達〜米飛脚・旗振り通信〜(郵政資料館研究紀要第2号(2011))”. 2021年1月4日閲覧。
- ^ 黒岩 2000, p. 151-152.
- ^ 2010 伝書鳩による実験 - ウェイバックマシン(2013年9月26日アーカイブ分)
- ^ ハトの方向感覚狂う? - ウェイバックマシン(2008年6月15日アーカイブ分)
- ^ “知らなかった……鳩ってゆうパックで送れるらしいです:まじで!”. ねとらぼ (2013年4月19日). 2021年8月16日閲覧。
- ^ “生きた動物をゆうパックで送れますか?”. 日本郵便. 2022年11月27日閲覧。
- ^ “迷い鳩”. 社団法人日本伝書鳩協会. 2022年11月27日閲覧。
- ^ 黒岩 2000, pp. 30–31.
- ^ 黒岩 2000, pp. 28–29.
- ^ 黒岩 2000, pp. 49–52.
「伝書鳩」の例文・使い方・用例・文例
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