代表取締役社長による関連店舗での税務事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 00:52 UTC 版)
「ユーフォーテーブル」の記事における「代表取締役社長による関連店舗での税務事件」の解説
脱税報道と告発・在宅起訴 2019年3月末、社の脱税疑惑が週刊誌のウェブサイトで報じられ、その後の調査で、代表取締役社長の近藤光が東京や大阪のカフェ店舗の売上金から3割ほどを定期的に抜き、帳簿から売上金を減額するなどの改ざんを行っていたことが発覚。2015年と2017年、2018年分の所得計約4億4600万円を隠し、法人税約1億1000万円と消費税約2900万円を脱税したとされる。抜かれた売上金は近藤の自宅金庫に保管されていたという。そのことから、2020年6月3日、東京国税局が法人税法違反などの疑いで同社と近藤を東京地検に告発した。脱税は主に近藤本人が直接売上資金を回収していた東京・大阪のカフェ店舗で行われており、その他の地域店舗、およびアニメーション制作関連の資金には手を付けてはいなかった。また、同社は有限会社であり、取締役や会計監査役、決算公告が義務付けられていなかった。 ufotableは告発が行われた同日に声明を発表。ファンや関係者への謝罪と共に、同社としては国税当局の指導に従って告発の時点で既に修正申告を行い、正しい税額の全額を納付したと発表した。 2021年7月9日、東京地検特捜部は上記の法人税法違反などの罪で近藤光を在宅起訴とし、法人としての同社を起訴した。 近藤によるワンマン経営の実態 ufotableは2000年の設立以降、2020年現在まで代表取締役社長で創設者の近藤によるワンマン経営で成り立っていた。近藤は同社唯一のプロデューサーとして、アニメ制作の予算管理を一手に引き受けていただけでなく、同社唯一の経営者として物販関連や東京・大阪のカフェ店舗に関しては売上金を近藤自らが回収に回っていたという。回収した売上金は全て近藤の自宅金庫に保管されていた。 店舗運営や物販も含めた経営方針は全て近藤の意向で決定されていた。近藤の推し進める店舗や物販関連の経営方針に関しては社内でも疑問視するスタッフが多かったが、同社唯一の経営者兼プロデューサーの近藤の決定に反対意見を出せるスタッフはいなかったという。 会社の経理は本社スタジオと徳島スタジオにおけるアニメーション制作費や関連店舗の売上金を含め、全てを近藤の妻が一人で担当していた。しかし、近藤の妻は税理士や会計士の資格を取得していなかった。更に、会計作業を行うことに消極的だった妻に対し、近藤は帳簿の改竄を執拗に指示していた。同社は有限会社であり、取締役や会計監査役、決算公告が義務付けられていなかった。また、当初、各関連店舗ではPOSレジにて売上金額を確認できる状態であったが、近藤が全店舗でロックをかけたため店舗従業員が売上金の確認をとれない状態になっていた。これに関して近藤は従業員たちに「情報漏洩防止のため」と話していた。これは実際に当時のアルバイトがカフェに関する情報漏洩をSNSでしていたことも影響している。そのため、代表の近藤以外は各店舗の売上金を確認できなかった。 第1回公判 2021年9月17日、東京地方裁判所で開かれた初公判にて近藤は起訴内容を認め謝罪。カフェの売上金から脱税をしていたことを認めた。検察は冒頭陳述で「将来の経営悪化に備えてできる限り資金を手元に残しておくために、被告が東京・大阪のカフェ店舗の売上金から一部を抜いていた」と主張した。 第2回公判 同年11月1日、第2回公判で検察は近藤に対しに懲役1年8か月、法人である会社に対し罰金4000万円を求刑した。近藤は最終意見陳述で社員を含む関係者全員に対し謝罪の言葉を述べている。 本人尋問で近藤は「弊社で利益が出ていたのはカフェ事業のほか、Blu-ray Discや自社商品等のグッズ販売であり、現在までアニメ制作が黒字で続いているのはこの2つの収益があったため。アニメーション制作費のみでは赤字になる」「作品がヒットせず集客の見込みが立たなくなった場合、スタッフの給与が払えなくなる」という理由から資金を残すためにカフェの売上金から脱税に手を染めたと話した。 また、「クライアントから提示される制作費が安価のため、その制作費だけでクライアントから求められたクオリティの作品を作ると赤字になる。それではスタッフを養えない。クライアントから求められるクオリティだけが上がる中、なんで毎回赤字になる額で作品制作を引き受けているのかと考えていて苦しかった」とアニメ業界全体の実情を語り、「弊社はたまたま出資した作品のヒットが続いていたが、そうでなければ既に倒産している」と話した。一方で脱税した資金には手を付けておらず、制作費などの費用や給与は全て適正な資金から支払われていると主張した。 判決 2021年12月10日14時、東京地裁・田中昭行裁判官は近藤に対し懲役1年8か月執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。東京地裁は近藤の供述した「将来の経営悪化に備えてできる限り資金を手元に残しておきたかった」という主張に関して、調査の結果、社の運用などに使用していた資金は近藤自身の報酬からであり、脱税した資金に手を付けていなかったことが認められる。しかし、2012年度以降の同社の利益が2021年現在まで大幅な黒字経営であった点から脱税を続けていたことは悪質と判断。さらに、会計担当の妻は帳簿の改竄等に消極的であったことに対し、執拗に改竄を指示していた点も指摘され、「経営悪化という将来の不安を踏まえても、経営者として強い非難を免れない」とし、有罪判決が言い渡された。一方、脱税した金額分をufotableがすでに全額納付していたため執行猶予が付けられ、同社に対する罰金も3000万円に減額された。 判決直後の14時24分、同社は公式HPにて謝罪文を掲載。ファンや関係者に対し謝罪し、法令を遵守し、経営の適正化に一層努めることを記載した。 判決後の変化 事件後、ufotableでは希望者全員を正社員雇用することになり、2021年12月時点で正社員は200名を超える形になった。また、事件前より「あれだけのクオリティを作っているのに給与が満足に払えないのでは拙い」という判断から所属スタッフは月給制となっていたが、今回の事件を契機にスタッフに対しボーナスを2倍程度支給した。スタッフ全員を正社員雇用にしたことに対し近藤は「全員を正社員とすると経営が厳しくなるのは分かっている。しかし、スタッフは全員、良いアニメを作りたいと思って残ってくれている。その環境を変えないように今後について検討していく」と話した。 また、働き方改革への対応のために社会保険労務士を顧問とし、経理面では国税局OBの税理士を顧問に迎え、帳簿記載から確定申告までの全てを依頼する形に変更した。事件の発端となった関連店舗の売上金の回収方法については、各店舗の店長が直接口座に入金するやり方に変更し、経理面に関して近藤と妻は今後一切関与しないことになった。 一方で、今後、近藤本人が主張していた経営への懸念に対してどう対応していくのかという田中昭行裁判官の問いに対し近藤は、「オファーは多くいただいているが、最初から制作費が赤字と分かっている仕事は請けることを止めた」と話し、「アニメ業界の制作費のベースが変わらないのなら、自分たちで何かやっていくしかない。現在はこちらからビジネスを提案する形で仕事にならないか模索中です」と語った。 制作作品への影響 ufotable元請作品の企画・販売を務める株式会社アニプレックスは告発が行われた2020年6月3日に声明を発表。同社の担当するufotable制作作品の扱いについては、ufotableが修正申告を行い全額納税済であること等を鑑み、対応は行わないことを表明した。そのため、告発後もufotable制作作品は作品の放送・公開及びグッズ販売等の自粛・延期・制限などは行われず、通常通りの形態での展開となる。2020年8月15日、告発後としては初めて公開されたufotable制作の劇場作品『劇場版 Fate/stay night[Heaven's Feel] III.spring song』は、動員数112万7233人、最終興行収入約20億円を突破し、同シリーズ歴代最高の興行収入・動員数を記録。令和2年邦画興行収入第9位という結果を残した。本作に続いて同年10月16日に公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は日本公開映画歴代興行収入・動員数第1位となる成果を残したほか、2020年年間興行収入世界1位も記録した。TV作品では10月10日・17日にフジテレビ系列『土曜プレミアム』枠にてufotable制作作品であるTVアニメ『鬼滅の刃』の過去に放送した話数をピックアップした特別総集編が全国ネットのゴールデン・プライムタイムにて放送。10日の平均世帯視聴率は16.7%、17日は15.4%となり高い注目を集めるなど、作品・グッズ展開に関して事件による影響は受けていない。 一方で、脱税事件の当事者である代表取締役社長・プロデューサーの近藤光の作品内クレジット表記に関しては、10月10日地上波放送の『鬼滅の刃 総集編 兄妹の絆』及び、10月16日公開の劇場作品『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』以降は「企画」「プロデューサー」などの一部表記から名前を削除する対応がとられている。 イベントへの影響 2019年3月末に報道された脱税疑惑の時点で、徳島県知事の飯泉嘉門は、徳島県がマチ★アソビに協力事業者の一員として関わっていることから「公金を出すイベントに関わる人物に脱税の容疑がかけられたのは当然好ましくない。しっかり対応していただきたい。」とコメントし、4月15日時点でufotableとはイベントに関するやり取りはしているが近藤とは連絡がつかないこと、今後に関しては運営体制を変えてイベントを開催していく可能性から、県としては実行委の対応を見て今後における協力の可非を判断する旨を発表した。2019年4月中旬に近藤は実行委員会の会長を辞任した。後任の会長はNPO法人阿波文化サロン代表の富永純子。 なお、この報道の直後に開催予定であったVol.22は、ufotableがプロデュースを辞退して施設提供やポップ制作などの運営協力という形での参加に変更されるも日程は予定通りの開催となった。この回のプロデュースはVol.1より参加し、ufotable元請作品の音響制作も務めるスタジオマウスが担当。次回開催の予告はされなかったが、来場者や宿泊業者、飲食店などから継続してほしいという声があることを踏まえ、飯泉嘉門知事は「今後への影響はなく、秋以降の開催も前向きに考えている」と発言。2019年7月23日にマチ★アソビvol.23が通常通りの日程で開催されることが正式に発表され、同年9月に開催された。vol.23からはufotableの企画・プロデュースの辞退により、プロデュースを行う委託事業者を公募することになり、Vol.22に引き続きスタジオマウスが今後のプロデュースを担当。ufotableはこの回以降は施設提供などの協力企業・イベント出展企業としての参加となる。
※この「代表取締役社長による関連店舗での税務事件」の解説は、「ユーフォーテーブル」の解説の一部です。
「代表取締役社長による関連店舗での税務事件」を含む「ユーフォーテーブル」の記事については、「ユーフォーテーブル」の概要を参照ください。
- 代表取締役社長による関連店舗での税務事件のページへのリンク