情報通信技術 ICTへのアクセスモデル

情報通信技術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/12 05:35 UTC 版)

ICTへのアクセスモデル

マーク・ヴァルシャウアー英語版教授は、ICTへのアクセシビリティを分析するための「アクセスモデル」の枠組みを定義している。彼は著書『Technology and Social Inclusion: Rethinking the Digital Divide』の第2章において、デバイス、コンジット、リテラシーの3つのICTへのアクセスのモデルについて述べている[39]。ICTのアクセスについて記述するうえでデバイスとコンジットは最も一般的であるが、3つ目のアクセスモデルであるリテラシーがなければICTへの有意義なアクセスをするには不十分である[39]。これら3つのモデルを組み合わせることで、2005年にBridges.orgという非営利団体が構想したICT利用の「真のアクセス」基準12個を大まかに取り入れている。12個の基準は以下の通り[40]

  1. テクノロジーへの物理的アクセス
  2. テクノロジーの妥当性
  3. テクノロジー及びその利用のコストの低さ
  4. 人間の能力とトレーニング
  5. 地域に密着したコンテンツ、テクノロジー、サービス
  6. 日常生活への統合
  7. 社会文化的要素
  8. テクノロジーへの信頼
  9. 地域的な経済環境
  10. 巨視的な経済環境
  11. 法的規制の枠組み
  12. 政治的意思と国民の支持

デバイス

ヴァルシャウアー英語版の理論において、最もわかりやすいアクセスモデルはデバイスである[39]。このモデルにおいて、アクセスは単に電話やコンピュータなどのデバイスの所有と定義される[39]。ヴァルシャウアーは、ソフトウェアや通信アクセス、コンピュータ利用に関する知識格差、一部の国における政府規制の役割など、所有にかかる追加コストを考慮することができないなど、多くの欠陥がこのモデルにはあると指摘している[39]。したがって、デバイスを考慮するだけでは情報格差を過小評価してしまうとヴァルシャウアーは主張する。例えば、ピュー研究所はアメリカ人の96%がスマートフォンを持っていると発表している[41]が、アメリカにおけるICTへの包括的なアクセスはその数字よりもはるかに低い可能性が高いと、この分野の学者の多くが主張している。

コンジット

コンジットは供給回線、つまりICTにおいては電話回線やインターネット回線への接続を必要とする。供給にアクセスするためには、営利企業や地方自治体が適切にインフラへ投資することが必要であり、回線が整備された後は利用者からの定期的な支払いが必要になる。このため、通常はコンジットが地理的な位置に基づいて人々を分けている。ピュー研究所の世論調査によると、地方部のアメリカ人は他のアメリカ人よりもブロードバンド環境を持つ可能性が12%低く、そのためデバイスを所有している可能性も低い[42]。さらに、低所得者層がICTにアクセスするにはこれらのコストが法外に高すぎる可能性がある。これらの困難はモバイル技術の転換につながった。すなわち、ブロードバンド接続を購入する人が減り、代わりに図書館などの公共施設で無料で利用できるインターネットアクセスを使ってスマートフォンを使う人が増えた[43]。実際に、スマートフォンは増加しており、アメリカ人の37%はスマートフォンをインターネットにアクセスする主要な手段として使っており[43]、アメリカ人の96%がスマートフォンを所有している[41]

リテラシー

ICTスキルを持つ人の割合(2017年)

1981年、シルヴィア・スクリブナー英語版マイケル・コール英語版は、独自の言語を持つリベリアのヴァイ族英語版を研究した。ヴァイ族の識字者のおよそ半数は正式な学校教育を受けたことがなかったため、スクリブナーとコールは1,000人以上の被験者を対象に、非識字者と識字者の精神的能力を測定、比較することができた[44]。この研究は、彼女らの著書『The Psychology of Literacy[44]』の中でまとめられ、リテラシーの格差が個人レベルで存在しているか研究することができた。ヴァルシャウアー英語版は、ICTアクセスモデルの一部として、この研究をICTリテラシーに応用した。

スクリブナーとコールはヴァイ族のリテラシーから一般化可能な認知的利点を見出すことはできなかった。代わりに、認知課題における個人差は学校教育や生活環境などの他の要因によるものであるということを発見した [44]。その結果、「人間を認知的に二分するような、リテラシーの単一の構成要素は存在しない。(中略)むしろ、リテラシーには程度や種類があり、リテラシーを実践する特定の機能と密接に関連したさまざまな利点がある」[39]ということが示唆された。さらに、リテラシーと社交性の発達は密接にかかわっており、個人レベルでのリテラシーの格差は存在しない。

ヴァルシャウアーはスクリブナーとコールの研究を引き合いに出し、ICTリテラシーとリテラシーの獲得はどちらも狭い認知能力ではなくリソースを必要とするため、同じように機能すると主張する。以下に詳述するリテラシーに関する結論は、情報格差とICTアクセスに関する理論の基礎となっている。

ICTアクセスは1種類ではなく、多くの種類がある。アクセスの意味や価値は社会的文脈によって変化する。アクセスは二項対立ではなく、段階的に存在する。コンピュータやインターネットの利用はその特定の機能以外には自動的に利益をもたらすものではない。ICTの利用は物理的な人工物やコンテンツ、能力、社会的なサポートを含む、社会的実践である。そして、ICTアクセスの習得は、教育だけの問題ではなく、力の問題でもある。[39]

したがって、ヴァルシャウアーは、ICTへのアクセスはデバイスやコンジットのみでは成り立たず、物理的、デジタル的、人的、社会的資源も活用しなければならないと結論付けた[39]。これらのカテゴリーの資源は、それぞれICTの利用と反復的な関係がある。もしICTがうまく活用されれば、これらの資源も促進されるが、うまく活用されなければ、開発不足と排除のサイクルに寄与することになる[44]


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